【内海賢二 彼が生きた時代:連載第1回】谷山紀章さんインタビュー|声優を名乗る以上は、ボスがそうであったように誰かに目標にしてもらえるような存在になれたら
声を追求し続けた内海賢二という憧れ
ーー現在まで変わらず「賢プロダクション」に所属されていますが、事務所の雰囲気などはいかがでしたか?
谷山:もう25年になりますか。当時は養成所がなかったので、オーディションで見つけてもらったことになるんですけど。
あの頃でも実力のある中堅の事務所ってイメージでした。声優に詳しくなくても、役の名前だったら誰でも知っているような実績のある方が多く所属していましたから。なにより、内海賢二さんと野村道子さんという二枚看板の存在は大きかったですね。所属が決まったときも、両親には「ラオウとしずかちゃんのところだよ」って説明しましたから。
ーー当時、内海賢二さんはどんな印象の方だったのでしょうか?
谷山:僕が賢プロに入った頃のボスってまだ58歳ぐらいだったんですけど、ベンツに乗ってたし、剥げてたし、なんか凄く怖い親父だと思ってましたね……。バリバリに現役でオーラも半端なかったですから。
ただ、ボスはボスで俺のことを目つきの悪い奴が入ってきたと思ってたみたいですけど。あんまり思い出したくないんですけど、あの頃の僕って所謂 黒歴史ってやつでして。オールバックに髭を生やしているというスタイルだったんですよ。宣伝写真もその姿で斜めに構えて写ってたりして。21歳の若造がなにをやっているんだと(笑)。
賢プロってそういう事務所だと思ってたんですよ。ボスがそうだったし、いかにも強面な先輩方が何人もいたし。だから僕もそういう若い衆みたいな感じでいかなきゃいけないんだと勝手に思い込んじゃってたんです。くれぐれも、実際はそんなことないですからね。優しい事務所だったんですけどね。
ーーその頃と比べて、現在の「賢プロダクション」の変わったと思うところはありますか?
谷山:めちゃくちゃ変わりましたね。所属している人が増えたし、外部の人からも「賢プロは若手も上手い人が多いよね」とか言われることが多くなりました。そういうのはやっぱり嬉しいですよね。
それこそアーティスト活動や、アイドル活動っていうのが、賢プロの中にも徐々に増えてきてます。歌ったり踊ったりが当たり前の時代になってきていますから、賢プロも変わっていかなきゃならないってことなんでしょうね。昔から知っている身としては不思議な感じです。そういうのって本当に珍しかったですから。
ーー変化の激しい業界ですが、谷山さんはどんな声優でありたいと思っていますか?
谷山:多種多様な技術が求められる時代が来ていますけど、僕は声優と歌のふたつだけでやっていこうと決めているんです。台詞にもっと深い意味をのせられるようになって、歌ももっと上手くなって、替えのきかない唯一無二の存在になれたらなと。
これは真面目な話ですけど、声優っていうのは職人でなきゃいけないと思ってるんですよ。求められている絶対的なスキルは、絵の中の人物にどれだけ命を吹き込めるかってことだけですから。言葉にどれだけの情報をのせられるか、それを追求し続けなければいけないなと。
だから声優としての本職以外のことはバイト感覚みたいなものだと思ってるんです。肩書として声優を名乗っている以上は、言葉だけで「おぉ!?」って思わせ続けることを追求しなければいけないですよね。
うちのボスがまさにそういう人でしたから。世俗的な表現ですけど、金になる声を追求し続けた史上一番の声優だったと思うんです。いろんな人の憧れを集めて、その期待に答え続けてきたわけですから。忖度抜きにしても、内海賢二という男は偉大な存在なんです。
僕も声優を名乗る以上は、ボスがそうであったように誰かに目標にしてもらえるような存在になれたらなと思っています。
[取材/武田結花 編集/石橋悠 構成/原直輝]
連載バックナンバー
映画『その声のあなたへ』作品情報
ストーリー
アニメイトタイムズで働く若手ライターの結花は、取材中に声優・内海賢二の存在を知る。彼に興味を持った結花は、取材企画を立ち上げて彼の声優仲間らへ取材を始める。この取材を通して彼女は、内海賢二という声優の人柄だけでなく、かつての声優業界、声優という仕事が今のような人気職業になるまでの歴史を知っていく。
スタッフ&キャスト
配給:ナカチカ、ティ・ジョイ
監督・脚本:榊原有佑
制作:and pictures
企画:株式会社CURIOUSCOPE
逢田梨香子、伊藤昌弘、内海賢太郎、勝杏里、かないみか、神谷明、柴田秀勝、杉山里穂、谷山紀章、戸田恵子、浪川大輔、野沢雅子、野村道子、羽佐間道夫、水樹奈々、三間雅文、山寺宏一、和氣あず未 (五十音順)
公式HP:sonokoe.com
公式Twitter:@SonoKoe_0930