獣とはすべての表現の縛りを乗り越えられる唯一の存在――悠木碧さんがシナリオを手掛ける漫画『キメラプロジェクト:ゼロ』第1巻発売記念インタビュー
声優・悠木碧さんが企画・原案・キャラクターデザインを担当し、「仲間」と共にアニメ化を目指すプロジェクト『YUKI×AOI キメラプロジェクト』。人の言葉が擬“獣”化したキメリオたちの姿を描いた4コマ漫画の連載や楽曲配信といった施策の数々が展開中です。
2021年1月にはプロジェクト初となる本格漫画『キメラプロジェクト:ゼロ』が「月刊アクション」にて連載!悠木さんが手掛ける人間とキメリオの“闇甘ファンタジー”を、ひつじロボ先生が獣の魅力満載なイラストで彩っています。
今回は『キメラプロジェクト:ゼロ』のコミック第1巻発売を記念して、悠木さんにインタビューを実施! 役者としての考え方に変化があったという『YUKI×AOI キメラプロジェクト』のこれまでから、自身がシナリオを手掛ける『キメラプロジェクト:ゼロ』について、クリエイターとしての悠木さんにお話を伺いました。
アニメを作るまでの道のりを楽しんでもらいたい
――『YUKI×AOI キメラプロジェクト』誕生までの経緯を教えてください。
悠木碧さん(以下、悠木):オタクのひとつの夢として、ずっと前から「アニメを作りたい」という思いがあったんです。じゃあどうやって実現しようかと考えたときに、“自分が声優である”こと、そして仕事で得たものは絶対に活かすべきだと思って。その結果、言葉に触れる仕事だから言葉を大事に思ってもらえる作品を作りたいという思いに至り、そこからいろいろな人が協力してくれて。
――目標は「アニメを作りたい」なんですね。
悠木:アニメを作ることが最終目的なんですけど、そこに至るまでの道のりを含めてお客さんに楽しんでもらいたいと思っています。
最初はSNSで経過報告を出来たら良いよねと始まり、そこからSNSの状況を見ながら協力してくれるイラストレーターさんであったり、ほかのスタッフさんを探して。そんな中で曜日キメリオたちが誕生したんですけど、実は曜日キメリオたちは最初はSNSを宣伝するためだけのキャラクターで。
――え? 物語のメインではなかったんですね。
悠木:実はすでにアニメにしたい脚本はあって。いろいろなところに持ち込んだりしているんですけど、徐々に曜日キメリオたちに人気が出てきて。そこで「この子たちの漫画を絶対にやったほうが良い」と思ったので曜日キメリオたちを膨らませていくことにしました。
――では曜日キメリオたちは、悠木さんが作りたい作品の一部ということなんですか?
悠木:そうなんです。この子たちのお話は一部分でしかなく、この子たちが起こしたことをきっかけに本編が待っているんですよ。でも今描いている『キメラプロジェクト:ゼロ』の中にも主軸のストーリーがあって。今はそこを少しずつ追いかけている状況です。
▼ミュージックビデオ「リリシニウム・ビブリオラ」
――これからがあるなんて驚きました。プロジェクト発表から様々な施策が展開中ですが、これまでを振り返っていかがですか?
悠木:長いし、なにかをビジネスにするのがこんなに大変だったんだと……! 私たち声優はビジネスになっているものを、さらにビジネスにするために呼ばれているんですよ。そこから1から企画を立ち上げて、どう集客しつつ協力者を集めるのか。商品価値を見出してくれる大人を探すのが本当に大変で! そのくらい0から自分でやっているんですよ。
――今ではかなり大きい企画になっていますよね。
悠木:今こうして漫画になっているのは本当に奇跡で。「一緒に夢見ようぜ」と言ってくれる大人がいないと形になっていなかったので、すごく感動しています。最初に楽曲が出来た時も感動しましたし、4コマ漫画が始まった時、絵が完成した時、ファンアートが来た時。どれも嬉しくって。「子供が立った!」みたいな感覚です(笑)。
――自分の子供のような存在なんですね。
悠木:可愛くてしょうがないですし、社会が自分の子供を愛してくれていて。ここまでハードでしたけど、やっぱり嬉しいです。自分が作ったものを人に見てもらえるのがここまで感動するのかと。今までも同じようなことはあったはずなんですけど、『キメラプロジェクト』を通してより嬉しくなりました。
同時に、今まで参加させてもらった作品にも同じように頑張ってきた人がいたんだと思って。どんな作品も誰かに愛されていないと絶対に表には出てこないので、そう思うと軽々しく声をあてられないなと。もちろん軽々しくあてていないですけど、より感謝するようになりました。
――ご自分で協力者を探したとのことですが、ひつじロボ先生はもともとファンアートを描かれていた方なんですよね?
悠木:そうなんです。私よりもキメリオの良さを理解して描いてくれるので「この人は絶対に誘わないと!」と思って。ほかにも絵であったり、動画やフィギュアを作ってくださる方とか、いろいろな方がいらっしゃったんです。でもひつじロボ先生は獣がすごくお好きな方で、イラストのお仕事もされていて。私自身、「運命の出会いだ」と勝手に思ってしまって(笑)。そこから唐突にオファーをしたんですけど、快く引き受けていただきました。とにかくお仕事が丁寧な方で、出会えていなかったら漫画化はなかったと思います。
――今作は悠木さんご自身がシナリオを手掛けられているんですよね。
悠木:そうなんです。私のメモアプリには、誤字ったものを含めてすべての脚本が入っています(笑)。
――お忙しいのにすごいことですよね。
悠木:仕事の移動の時間とか間の時間を使って、喫茶店とかで書いています。それを編集さんに見てもらうんですけど、「ここは良かったです」とか「ここはもう少し伸ばせますね」と言ってもらったり、場合によっては「こうすれば宣伝を広めやすいですよ」みたいに、別の観点からアドバイスをいただいたり。ほかにも誤字をチェックしたりもして。
――そんなところまで!?
悠木:チェックが回ってくるので。それ以外にも「特典はどの店舗に何個卸しますか?」「どの種類にしますか?」「どれを手描きにしますか?」とか。グッズの色味であったり種類のチェックとか、もう全部やっています。
――なにからなにまでですね。
悠木:「リリシニウム研究所」というファンボックスの運営もやっているんですけど、そちらの投稿内容のチェックもしています。週1で会議があるんですけど、投稿したいものの内容を揉んだりして。
――PRも担当されているんですね。
悠木:そうなんです。でも逆に、「皆これをやっていたんだ」と思いました。自分が今まで参加した作品でも誰かが担っていたことですけど、それを知らずにいたことに衝撃を受けて。
――PRまで担当される原作者というのもすごいことですよ。
悠木:中々いないかもしれませんね(笑)。でも、私は生まれてこの方、役者しかやったことがなかったので、この機会に普段ならほかの人がする仕事を体験したくて。コンテンツ作りを本業としている人からしたら私はほんの少ししか見えていないですが、一瞬でも体験させてもらえてありがたいです。あと、いろいろな数値とかデータを見るんですけど、結構ショックなこともあれば「やったぁ!!」ということもあって。本当に新体験ばかりです。
――役者業もかなりお忙しいと思いますが、お時間的に大変じゃないですか?
悠木:どうして回っているんでしょう?(笑)
――(笑)
悠木:自分でもよくわかりません(笑)。
スタッフ:悠木さんは判断スピードが早くて。レスポンスも早くて出来る人なんですよ。
悠木:考えることを早く終わらせないと不安なところがあって。
――リーダーとして優秀なんですね。
悠木:でもいろいろなことをやっていく中で「それだと失敗しますよ」と教えてもらうこともあって。アニメ制作で私が担当するのはアフレコとかイベント出演ですけど、それって大きい機械を動かすためのネジで。まだ機械自体の設計図を書くところはやったことがなかったので、めちゃくちゃ面白いですし勉強になります。それでいてすごい大変ですが……(笑)。
――まさにオタクの夢を叶えていますよね。
悠木:自分にとって抜群に好みのキャラクターに抜群に好みな芝居と声をあてられて。そして自分でも芝居が出来て。こんなに幸せなオタクっている?と(笑)。しかも出版社さんから漫画を出させてもらうなんて……!
――順風満帆ですよね。
悠木:仲間が増えていくにつれてどんどん皆の意見が増えて。そうしてちゃんと製品として固まってきた上で第1巻が完成したので、本当に幸せなオタクです。
でも逆に、後になってもっと内容を詰められたなと思うこともあって。3年経つと私の腕も上がっているので、最初のほうにあった絵を見るとそろそろホームページの立ち絵を変えたいと思ったりします(笑)。当時はipadの明るさ調整がわからず、画面が暗い状態で描いていて、色がちょっと濃いんですよ(笑)。
――(笑)。ビジネスとして成立させるためにいろいろな工夫もあったかと思います。ファンのウケや需要を計算した部分もあったのでは?
悠木:世の中には需要に応えた作品がたくさんあるので、それをいまさら私がやってもな、と思って。私が純粋に良いと思ったことを発信していることが『キメラプロジェクト』の良さであり、ほかと比べられない魅力であって。
なのでビジネス的に差別化を図るという意味でも私の個性を出すべきだと思ったので、もう好きなことしか詰めないようにしました。だから変な話、『キメプロ』が好きな人とはめちゃめちゃ良いお酒を飲めると思って(笑)。
――(笑)
悠木:たまにエゴサをするんですけど、「『キメプロ』の闇感がすごく良い」とつぶやいている人がいて。その人には内心「いつか酒を飲もうね」と思ったりしています(笑)。
――獣は人気のジャンルですし、濃いファンも多いでしょうね。
悠木:私自身、可愛いだけではなく、神聖な生き物ならではのわがままな感じとかも好みで。とにかく獣の良さに気付いてほしいので、逆に「この感じでどう?」と聞いてみたいんです。
あとビジネス的なお話ですと、POP UPイベントとか書店さんでポスターや冊子を飾ってもらったりという宣伝方法を全く知らなかったので、それを1から教えてもらって。手に取ってもらいやすくしたり、より好きになってもらうタイミングを増やすというように、作品の内容以外の部分も大事なんだと勉強になりました。
――体験しないとわからないことですよね。
悠木:だから私たちはDVDの発売イベントに出ていたんだと(笑)。そういうイベントであったりの積み重ねがほかの作品との差別化に繋がったりするんだと思いました。