秋アニメ『アキバ冥途戦争』しぃぽん役・黒沢ともよさん&店長役・高垣彩陽さん&増井壮一監督インタビュー│しぃぽん&店長が大活躍した第4話を振り返る「とんとことんは店長にとって守りたい居場所なんだろうなと」【連載第5回】
CygamesとP.A.WORKSのタッグで贈る新作オリジナルTVアニメ『アキバ冥途戦争』が2022年10月6日(水)より放送中です。
第4話「実録!豚の調教師だブー!!」では、ケダモノランドグループからメイド教育のスペシャリストである調教師・佐野みのりがとんとことんに派遣され、店舗の体制が揺らぐ場面が描かれました。店長・御徒町不在の、染まりかけたとんとことんを助けたのは、ギャルメイドのしぃぽん。そして、店長・御徒町と力を合わせ、とんとことんはいつもの日常を取り戻します。また、その中で、しぃぽん、なごみが「メイドの楽しさ」を再確認する……といったお話でした。
インタビュー連載第5回は、しぃぽん役・黒沢ともよさん、店長役・高垣彩陽さん、増井壮一監督にお話を伺いました。黒沢さん、高垣さんは増井監督と『アキバ冥途戦争』について対話するのは、この日がほぼ初めてだったそう。和やかな雰囲気ではじまったインタビューでしたが、“アニメ作品の向き合い方”にまつわる真面目なお話も飛び出しました。アフレコ後のスタジオで、とことん話し合ってもらった実録をお楽しみくださいブー。
しぃぽんのおかげでとんとことん復活!
──第4話は、とんとことんメンバーが佐野さんに調教されていく中、しぃぽんが脱走を試みました。店長と御徒町さんは追い出され、そしてしぃぽんと逆襲するという……いろいろな意味で衝撃的な内容でしたね。
しぃぽん役・黒沢ともよさん(以下、黒沢):店長と御徒町さんはゴミを漁って生活し……。
店長役・高垣彩陽さん(以下、高垣):その一方で、とんとことんメンバーは木彫りも作っているし(笑)。すごい回だった……。
黒沢:というか、今回のインタビューはまさかの監督とご一緒で!
高垣:実は増井監督とはお話する機会が全然なかったんですよね。
黒沢:私もです。
増井壮一監督(以下、増井):特にコロナ禍になってからはキャスト陣と喋る機会がなかったしね。
高垣:はい。だから今日お話できて嬉しいです。
黒沢:嬉しい。
──第4話は増井監督が絵コンテを切られていました。増井監督は絵コンテをたびたび切られていますが、第4話は特に思い入れがあったと伺っています。
増井:第4話って密室劇ってわけではないんですけど、ずっとビルから出ないじゃないですか。しぃぽんは逃げようとするけど、出られないし。店長は追い出されてるし(笑)。それは他の話と違って面白いなと。
──唯一、外の空気を吸う場面は屋上ですもんね。ある種、洗脳に近い状態でしたね。
増井:そう。みんなで屋上で木彫りをつくって、時にはとんとことんメンバーを突き落として。あれで絆を深めるっていう。
──絆……。
高垣:怖い回ですよね(笑)。
増井:その怖いところに向かいたかったんですよね。言ってしまえば、昭和の悪習を否定するようなお話。よく新人社員を合宿で教育して無理やりしつける教育ってあったじゃないですか。昭和時代の社員研修。あれを描きたくて。
でも、しぃぽんだけは唯一染まらないんです。嵐子は何を考えてるか分からないですけどね。
──監督の中で、しぃぽんは「周りになびかないキャラ」というイメージだったのでしょうか。
増井:そうですね。しぃぽんってとんとことんの中でいちばんニュートラルな人なんですよね。芯が強いのか、そもそも芯がないのかが分からない。自由なんです。だからそういうものになびかない人なんだろうなと思っています。
──しぃぽんを演じられる黒沢さん自身もなびかない印象があります。
黒沢:どうですかね(笑)。ただ、自分の中でしぃぽんのモデルがいるんですよ。演劇仲間なんですけど、しぃぽんに似ているんです。
しぃぽんって、なんだかんだ言っても染まってるところはあると思うんです。「そういうもんっしょ」ってメイドの世界で抗争をしているわけですから。でも「佐野には染まらない」ってところがポイントで。
私の友達も演劇界特有の雰囲気はあるのに、違うと思ったことに対しては「みんなは好きにすればいいけど、私は違うと思う」ってきっぱり。芯が強いのとはまた違って、自分の中のニュートラルをブレさせられるのは「違う」という感じ。
高垣:自分がどう感じるかというところで、しぃぽんは物事を決めていくんだなって印象が4話はありましたね。自分の軸を持ってて、それに正直。
黒沢:そう、自分が正義ってわけではない。
増井:うん、たしかに自分に正直なのかもしれない。違和感を受け入れない人なのかなと。
黒沢:ああ、そうかも……。
いちばん可哀想なのは佐野さん(笑)
──第4話のアフレコで印象に残っていることはありますか?
黒沢:なごみが飛ばされるシーン(突き落とされる場面)は、めちゃくちゃリテイクしていた印象があります。
増井:ああ、そうだった。ああいう場面を演じるのは難しいでしょうね。セリフは叫んでいるだけなんですけど。
黒沢:私のセクションは手こずると思ったんですけど、意外とサクッと終わりましたね。
増井:うん、なにか頼んだ記憶がない。
──しぃぽんが大活躍する回でしたね。
高垣:しぃぽんのおかげで、みんな(気持ちが)戻ってこられたからね。しぃぽんなりに「取り戻そう」って思ったときから、とんとことんを取り戻す過程で「しぃぽんってこういう人だったんだ」と分かった回でした。
増井:店長はね、凍死しそうになっていたんですけどね。
──御徒町さんと抱き合って、穏やかな顔になって「なんだかとても眠いんだ」という……。
高垣:某作品のオマージュがありましたね(笑)。
増井:あの場面は「知ってる人だけ分かればいい」と思ってたんですけど、みんな分かってくれていました。
高垣:そりゃわかりましたよ!(笑) 某作品の、あのシーンに近い形にしたいなと思っていました。
黒沢:そういう意味でも、今回は遊び心が多いですよね。
──「テメェら―!!いい加減にしろ―!!この店はアタシの店だー!!」と叫ぶ店長も、「ブタ共、戻って来いヤァあああああああああ!!!」とバズーカ砲を木彫りに向かって撃つしぃぽんもかっこよかったです。
黒沢:「病んだ豚の出番だよ!」ってね(笑)。
増井:店長って最終的に自分の店が取られそうになるとブチ切れるんですよね。
高垣:「アタシの店」ってところに重きを置いているんだろうなと思います。担保に入れてしまったこともありましたが(笑)、守りたい居場所なんだろうなと。
増井:そうですね。店長にとって、自分の店が繁盛してるかはあまり関係なくて。流行ってないから借金が多いんだと思うんですけど、それはそれで居心地がいいんだろうなと思います。無理に頑張らないというか。頑張るときは頑張る。それが心地良いから、しぃぽんも頑張ったんだと思います。
高垣:メイドが楽しいというのもあるし、とんとことんのメイドだから楽しいっていう面が出たのかなと思っています。他のグループやメイドカフェは組織っぽい感じな気がするんです。トップがいて、お付きのメイドがいて。体制がしっかりしているお店が多いですよね。
また、他のメイドカフェは、店長もメイドを兼ねている店が多いですよね。店長は元メイドではありますけど、黒服的な立場になっていて。店長になにがあったのかは気になりますが、掘り下げないほうがいいのかなと思って、あえて彼女の過去は聞いていないです。店長は店長なりに、今を楽しんでいるんだろうなと。
増井:固いのが嫌な連中が集まってるとも言える。
高垣:確かに(笑)。でもそういう意味で言うと、いちばん可哀想なのは佐野さんだと思いますけどね(笑)。あのひとは大きな組織の一員なので。
──佐野さん(笑)。その佐野さんに染まったとんとことんから脱走しようとする中で、しぃぽんがメイドの楽しさを再確認する一幕もありました。
高垣:この回は「なんのためにメイドをやっているのか」「なんでここにいるのか」ということにもフォーカスが当たっていて。となると、ここからいろいろなことが始まるんじゃないかなと。なごみもしぃぽんに向かって「メイドって楽しいですね!」って言ってますし。
店長も長いものに巻かれるだけじゃなく体制に歯向かっていく。後半につながっていくような一面も大きく見えた回だったのかなと思います。
増井:しぃぽんが途中で脱出しようとするときに、しぃぽんの過去が少しだけ描かれます。なんとなくはじめたメイドだけど「なんで自分はメイドをやっていたんだろう?」と考え、「楽しいからだった」と気づく。あれに尽きるなと思っています。
「戦いありき」の架空の世界・時代なので、メイドたちは、言ってしまえば「殺らなきゃ殺られる」関係性なんですよね。やり返さなければ殺されてしまう。そのフィールドから出たら生きていけないという設定にしているんです。働き口がなくなるのか、消されてしまうのかは分からないんですけども。つまり『アキバ冥途戦争』は、そこでしのぎを削ってやっていかないと生きていけないという、1999年の架空のフィールドが舞台です。
「それでも求めたいところはどこですか?」という。ハチャメチャな世界ではあるんですけど、光を求めて突き進んでいくところを描いていきたいなと思っています。
黒沢:なるほど……!