初めてのノベライズは新しい経験の連続──そらるさんのボーカロイド曲から広がる物語『小説 嘘つき魔女と灰色の虹』発売記念インタビュー
そらるさんの世界が広がったきっかけ
──主人公の男の子・ルーマとヒロインの女の子・イリアがメインとなって物語が描かれますが、キャラクターを小説の中で動かす際、苦労した点はありましたか?
そらる:今回の小説はすべてにこだわりましたが、ファンタジーの中でも内容や言葉に現実味があるようにと思って書きました。
ヒロインのイリアのほうが感情豊かで、主人公のルーマのほうが少し引っ込み思案で大人しめな男の子なんですけど、そういう自分から前に出ないキャラクターに存在感を出すのがすごく難しかったです。
ルーマに関しては、オリジナル楽曲として公開したときのルーマの印象から始まりました。実は、ルーマはもっと大人しい男の子のはずだったんですけど、徐々に変わっていったんです。イリアはデザインが最初と変わっていますが、ルーマが大人しい男の子なので元気で引っ張ってくれるような女の子になりました。
あと、1番最後に出てくるキャラクターがいるんですけど、物語が進むたびに最初の設定がだんだん変わっていっちゃったところがあったので、フラグを立てておいたり前提をもっとしっかり書いたりしておけば良かったなと思った部分はありました。そこは単行本にするときに、少し追加できたので良かったです。
──主人公のルーマはヒロインのイリアと出会うことで世界が広がりますが、そらるさん自身の世界や視野が広くなった印象的な出来事を教えてください。
そらる:インターネットで活動を始めて15年ぐらいになりますが、活動を始める前、高校生の頃に初めて携帯電話を持つまでインターネットに触れたことがありませんでした。
当時のインターネットは今よりももっとアングラなもので、現実に居場所がない人が集まったり、自分とはかけ離れた境遇にいる同年代の子など普段出会うことのない友達がインターネット上でできたりして、インターネットに触れて良くも悪くも自分にない世界が一気に広がりました。
今のインターネットは、誰でも等しく使えて身近なものになっているので、当時の感覚にはならないんだろうなと思います。
当時はインターネット=危ないもの・未知の世界という認識があった時代なので、いけない世界を知ってしまったような感覚と、普段出会わないような人と話す機会が一気に増えて世界が広がった感じがありました。
──確かに、まだインターネットが広がっていない頃は、アングラ感がとても強かったですよね。
そらる:当時、携帯でできるネットゲームをやっていたんですけど、そこの掲示板で知り合いが増えていったのが懐かしいです。
さすがに、今となっては交流はほとんどありませんが、大きなライブがあった際には何人か数年ぶりにメールをくれたりして、そこで少し連絡を取ることもありました。
──インターネットの世界は変化し続けていますが、そらるさんの中での変化はありますか?
そらる:自分は趣味がそのまま仕事になったというか、インターネットが自分の活動場所だったので、インターネット上で遊んでいたらいつの間にかそれが仕事になっていました。この世界は大きく変わりましたけど、“好きだからやっている”という気持ちは変わらないままやれていると思います。
──インターネットが広がり、そらるさんの活動もどんどん広がっています。小説の連載中、ファンの方の反響はいかがでしたか?
そらる:ファンの方や曲を聴いてくれている方など、すごく応援してくださいました。あと、連載を毎回追うのが難しいから早く単行本として出して欲しいという方も多かったです(笑)。
音楽だと歌詞、音、歌などいろいろな感想をいただくことが多いのですが、小説だと文字のみになるので、世界観や表現の仕方に対する感想が多かったような気がします。
また書きたい気持ちになったら挑戦したい
──随分前になりますが、2022年1月に開催された朗読劇『嘘つき魔女と灰色の虹 前日譚』を拝見させていただきました。島﨑信長さん、佐倉綾音さん、佐藤拓也さん、伊藤美紀さんたち声優陣のお芝居で世界観が構築された、すごく素敵な朗読劇でしたね。
そらる:本当にさすがだなと思いました。朗読劇を観るのも声優さんの演技を生で感じるのも初めてで、どういう形になるんだろうと不安な部分もありましたが、朗読劇として観たときにはすごく満足感の高いものになっていて。キャラクターとしても命が吹き込まれたような感覚がありましたし、最初に公演を観たときはお客さんと一緒に聴き入っていました。
──そのときに行われたアフタートークでは、ルーマ役の島﨑信長さんが“諦めない気持ちがそらるさんの根っこにあるからこそ、この物語も生まれた”とおっしゃっていました。
そらる:たぶん、諦めない気持ちというものは1人だったらなかったものだと思います。ルーマとしてはイリアと出会ったことで想像もしていなかった経験や、見ることができなかった“イロ”のある新しい世界に触れることができました。
一緒にだったら何でもできるんじゃないかという想いがあって、それがその“諦めない気持ち”に繋がっているんじゃないかなと思います。
──この小説はどういうときに、どのような人に読んでほしいでしょうか?
そらる:暗い気持ちにはならないと思うので、寄り添う一冊になってくれたら良いかなと。歌詞を書くときもそうですが、あまり難しい言葉や表現になり過ぎないようにしたい気持ちがありました。
僕、絵本が好きなんですけど、子どもはもちろん、時間が経って大人になってから読んでも面白く感じられるのがすごいなと思っていて。この『小説 嘘つき魔女と灰色の虹』も、子どもが読んでも伝わるぐらいの内容になっているんじゃないかなと思っています。
なので、大人向けに書いたというよりは、子どもも大人も楽しめるようなものになってほしいなという気持ちで書いたので、ぜひ家族で読んでもらいたいです。
──そらるさん自身、今も本は読まれたりしますか?
そらる:最近は全然本を読まなくなってしまいましたが、小学生の頃に読んでいた小説だったり、ファンタジー作品だったり、今でも心に残っている本をまた読んでみたいと思うことはあります。大人になった今、その本を読んでみたら自分はどう受け取るんだろうって。
──大人になってから改めて読むと、また違った感覚になることがありますからね。音楽はもちろん、本からもインスピレーションを得ていらっしゃるのですね。
そらる:最近は映画に触れることが多いかもしれません。
──お! どんなジャンルを観られるのか気になります。
そらる:本当にいろいろなジャンルを観ていますけど、洋画や日本のアニメ映画が多いです。『おおかみこどもの雨と雪』がすごく好きなので、細田守監督の作品はよく観ています。
──最後になりますが、小説家デビューを経た今、また新たに挑戦してみたいことがあればぜひ教えてください。
そらる:そもそも小説を書くとは思っていませんでしたし、そのとき何かチャンスをいただけたら来るもの拒まずのスタンスでやっているので、何でもやってみたい気持ちがあります。曲や歌に加えて小説も書かせていただけて……あともうできることはあるのかな?と(笑)。
今回が本当に大変だったのでそのときの気分で変わるかもしれませんが、得た経験や学んだことがすごく多かったので、もしかしたらまたいつか挑戦してみたいと思うかもしれません。また新しいものを書きたいと思ったときには、自分なりに頑張ろうと思います。
──ありがとうございました!
[取材・文・撮影/福室美綺]
『小説 嘘つき魔女と灰色の虹』(著者:そらる) 作品情報
あらすじ
全てが灰色に染まった"イロ"のない世界。鮮やかな世界に憧れを抱く少年・ルーマは、ある日 "イロ"が見える魔女・イリアと出会う──。
作品PV
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