音楽
Cing3rdシングル『beyond the world』リリース記念・照井順政連続インタビュー第1回

アニメ音楽のルーツは『魔神英雄伝ワタル』から──|Cing3rdシングル『beyond the world』リリース記念・照井順政さん連続インタビュー第1回

※この記事はCingスタッフと大正大学 表現学部 表現文化学科 中島ゼミのゼミ生による寄稿です

アニメ『呪術廻戦』の劇伴をはじめ、最近では上田麗奈さんのアルバム「Nebula」や東山奈央さんのアルバム「Welcome to MY WONDERLAND」への楽曲提供など活躍の幅を広げる照井順政さん。今回、照井順政さんが楽曲制作を手がけるCingの3rdシングル『beyond the world』のリリースを記念して、音楽に目覚めた頃の話から未来の展望までを語る1.5時間のインタビューを実施。
Cingスタッフが大正大学表現学部表現文化学科 中島ゼミ アート&エンターテインメントワークコースのゼミ生と共に、約20,000字のインタビューで照井順政さんの新たな一面を掘り下げます。

第1回は意外なアニメ主題歌での音楽への目覚めから、作曲のルーティンなど作曲家・”照井順政”としてのお話を伺います。
(全3回の1回目)

好きなアニソンは『魔神英雄伝ワタル』や『攻殻機動隊』

――早速ですが、アニメイトタイムズでのインタビューということで、照井さんが子供の頃に好きだったアニソンがあればお聞きしたいです。

照井順政さん(以下、照井):はい、子供の頃に好きだったアニソンは『魔神英雄伝ワタル』というアニメの曲ですね。ご存知ですか?

――わかります!

照井:ちょっと古いアニメなんですけど、最近リメイクもしていて。それが幼稚園か小学校入ったか入ってないかくらいだったんですけど、家のカセットテープでキャラソンとかを繰り返し聞く子供でした。

――『魔神英雄伝ワタル』の曲のどういった部分がお好きだったのですか?

照井:歌詞とかは全然理解できていなかったと思うので、曲調ってことになるんですかね。なぜか繰り返し聞いてしまうという感じでした。

――今好きなアニソンもぜひ教えて頂きたいです。

照井:『攻殻機動隊』関連の楽曲には好きなものが多いです。最近だと、『うる星やつら』のリメイク版の主題歌とかは耳に残る、良くできた曲だなって思ったりしていますね。

――ちなみに照井さん自身は、好きな曲が見つかる時は、歌詞ではなく曲調が引っ掛かることが多いのでしょうか?

照井:総合力ってことになるとは思うんですけど、どっちかというとサウンド重視かなとは思っています。

――作詞・作曲をする上で、好きな歌などから創作のインスピレーションを得ることはありますか?

照井:それはもう常々いただいておりますね、はい。

――曲調などからインスピレーションを得るなどでしょうか?

照井:そうですね。ただ、若い頃から何かにインスパイアされるなら音楽以外のものがいい、もし音楽にインスパイアされるなら、音楽の内容としては全然関係無いものにしなきゃいけない、みたいに思っている部分があるんです。今はずいぶん考えも柔軟にはなっていると思いますが、そのくらいやらないと自分の曲と思えないみたいに感じるところはあります。
だから、例えば曲を聴いて感情の変化を感じたら、曲の構造ではなくてその気持ちの方をどうにか自分の音楽で再現できないかみたいなことは結構やっていましたね。

「自分が一番かっこいいと思う楽曲を作る」

――インスピレーションに関するお話を伺ったので、2004年にハイスイノナサを結成して音楽家としての人生を歩み始めた照井さんの「音楽を始めたきっかけ」についてもお聞きしたいです。

照井:きっかけは小学6年生ぐらいの頃に、親にクラシックギターを買い与えてもらったことですかね。結構厳しい家庭で、遊ぶものとかあまり買い与えてくれないような親だったんですけれども、僕がおねだりした形で。
父親が昔クラシックギターを弾いていたらしいのですが、それで僕もギターにすごく憧れたとか音楽で食っていくぞとか、その頃から思ってたわけでは全然なくて。
普通にゲームやスポーツとか周りの友達と一緒にやっていた少年だったんですけど、ちょっと趣味みたいなものを持つことに憧れたようなんですよね。何か大人な感じがする、普段遊んでることとはちょっと違うことをやりたくて。そんな時、親が買い与えてくれたのがクラシックギターでした。

――なるほど。そのクラシックギターを手にして、趣味になって、その趣味が実際に仕事になっていったということですね。

照井:そうですね。思った以上にのめり込んで、楽しくなっていったみたいな感じでしたね。

――のめり込むきっかけになったことはありますか?

照井:クラシックギターを買った時に初心者用の教則本みたいなものを一緒に買ったんですけど、当然初心者だからすぐ弾けるわけではなくて。一個一個の課題に対して、弾けないことが悔しくて何とかそれをクリアしたいと思ったんです。ゲーム感覚だったのかわかんないですけど、とにかく出来ないことが悔しいからできるようになりたいと思ってやっていました。

――では、音楽の道一本でいくと決めた時に、何か目標のようなものは立てていましたか?

照井:そうですね……。今でも割とそうなんですけど、例えば「武道館でライブをやるぞ」とか「CD100万枚売るぞ」みたいなことに対して全然こだわりがなくて、単純に「自分が一番かっこいいと思う楽曲を作るぞ」みたいな感じでしたね。

――その「自分が一番かっこいいと思う楽曲を作るぞ」という意志で仕事に取り組む姿勢は今も変わらないのでしょうか?

照井:そうですね。根底には残っていると思います。大人になって当時と比べて視野も比がったと思いますし、色々とビジネスであったりなども絡んでくるので、自分のわがままでやりたいことだけやってもいい、売れなくても良い、というわけにもいかないことには勿論なってくるわけですけど。根底にあるのはそっちかなって思いますね。

作曲のインスピレーションは洗い物中に

――照井さんが2004年頃から音楽活動を続ける上で、楽曲制作時に何かルーティーンなどはありますか?

照井:そうですね。2004年の頃はバンド(ハイスイノナサ)をやっていたので、バンドメンバーで集まってセッションをしたりとか、自分でインスピレーションが湧いた時に曲を作ってという感じだったので、その時はあまりルーティーンを意識せずにその時の気分でやっていました。
作家活動を始めるようになると、締め切りが常にあって、ちゃんと成果を上げていかなきゃいけないということになってくるので、そこに対してのルーティーンというのはあります。

――詳しく教えていただきたいです。

照井:わかりました。まず、起床して普通に顔を洗ったり歯を磨いたりとかをした後に、イヤートレーニングから入ります。その後、最近はピアノの練習をしています。ピアノは下手なんですけど、もっと弾けるようになりたくて。その後、軽い運度をします。
そうするとお昼頃になるので、ご飯食べてから作曲って感じがおおむねの流れですかね。色々細かいところは端折ってますけど。

――ありがとうございます。ちなみに曲を作る上でのインスピレーションや、そのきっかけがあると思いますが、ルーティーンの中で降りてくるという感じでしょうか?

照井:自分はどっちかというと、机の前に座って「さあ作るぞ」ってタイプではあると思うんです。”降りてくる”という言葉はちょっとかっこいいんですけど、色々なイメージの断片がたくさん頭にあって、それが何かのきっかけで急にガチっとハマった時に急に曲が進むみたいなことはあります。それは、今のところ洗い物をしてる時が一番多いです。
他の作曲家の方もお風呂とかトイレとか水周りはなぜかアイディアが出やすいとよく言われていて、その中で自分は洗い物っていう感じですね。

――ちなみに「洗い物」とおっしゃられたのですが家事は得意でしょうか?

照井:多分なんですけど、得意ではないですね。若い頃から音楽や表現活動に全振りだったので、なるべくそれを邪魔しない、それを円滑にするためにすべてがあるって感じです。でも家事をやらなかったらやらなかったで、家の中が段々とやばい状態になって面倒くさいことになるじゃないですか。そうすると円滑に表現活動できないからやるっていう感じで……そのくらいのレベルだと思います。

多大な影響を受けた「SANNA」

――ご自身が音楽活動をされている中で、指針や目標とされている方はいますか?

照井:音楽のきっかけの話もそうなのですが、自分は特定の誰かの大ファンであったり、熱心に尊敬する方がいたりといった感じのタイプではないですね。なので、答えとしては「いない」です。もちろん、好きな音楽家の方とかは大勢いるのですが、特にこの方というのは無いですね。

――音楽活動以外で、人生の憧れの人とかはいますか?

照井:「SANNA(サナア)」という妹島和世(せじま かずよ)さんと西沢立衛(にしじま りゅうえ)さんによる日本人男女の建築ユニットがあるんですけど、そのSANNAさんの建築とかはめちゃめちゃ影響を受けていて、この感じを音楽に出来ないかなみたいに昔は結構やっていましたね。
目指している訳では無いですが、憧れというか、多大な影響を与えてくれた方という感じです。

――そのSANNAさんからはどういった影響を受けているのでしょうか?

照井:表現をミニマルな要素に純化していくということに関して影響を受けていると思います。建築は音楽と違って実用性というか機能性が備わっていないと、いくらかっこよくてもだめな建築になってくると思うんです。
音楽も種類によっては機能性があるものもあると思います。例えば、企業のサウンドロゴだったりとか、軍歌とか、プロパガンダで使うようなものだったりとか。そういった物事の持つ機能であったり、音楽とそれ以外の表現の違いなどをSANAAさんの建築を通して意識するようになった部分はあると思います。若い頃はポップソングの社会における機能とかは特に意識していなかったんですけど、そういった視点から見える良さと醜さみたいなものを意識するきっかけになったのは、SANNAさんなどのミニマリズム建築などの兼ね合いがあったという感じですね。

――そういった影響がありつつ、最近は東山奈央さんなど様々なアーティストに楽曲提供をされてきましたが、あえてアニソン以外でくくった時に注目しているアーティストはいますか? また、どのような点が素晴らしいと感じたのか教えて頂きたいです。

照井:沢山いるのですが、ぱっと思い浮かんだのが浦上想起(うらがみ そうき)さんというアーティストです。浦上さんはとてもアカデミックなポップミュージックを作られてる方で、アーティスティック且つ和音の色彩感覚もとても素晴らしく、とても素敵だなと思います。

―――ちなみに最近ではZ世代向けのアーティストも増えているのですが、そのような方々についてはどうお考えでしょうか。

照井:すごく面白いなと思っていて、自分もTikTokとか見て勉強しています。

―――そこからまたインスピレーションが湧いたりも?

照井:そうですね。ただとにかく瞬間的にバズることが重要だというような考えに対しては、自分はすごく疑問を抱いているタイプの人間ではあります。とはいえ実際それが多くの人々の心を掴んで楽しませていることは間違いなくて、そういう中で自分はどのように音楽を作っていけば良いのか……みたいなことはよく考えます。

「安易な答えとかをすぐ提示せず、聴いた人の考えが宙吊りになるようなものをつくりたいと常に思っています」

―――照井さんは音楽の専門学校に通われていたとの事なのですが、今だから思う「学生のうちにやっておきたかったこと」は何かありますか?

照井:いっぱいありますね(笑)。まず、そもそも音大に行っておけばよかったなと。今の時代だったら将来こうなるためにはこういう大学に行っといた方がいいんだとか、こういう事が学べるんだとかを絶対に調べていると思うので、おそらく音大を目指していたと思います。
2つ目は英語ですね。英語も今後は技術力やAIなどの力によって様々な部分でハードルは低くなってくるとは思いますが、今のところはやはり触れられる情報量が段違いなので、英語を話せていたら良かったなとは思いますね。

―――未来の音楽家を目指す学生に向けて「学生のうちにこれはやっておいた方がいい」というものはありますか?

照井:これは難しいですよね……。他の音楽家や作家の方も言っているのですが、今の日本の音楽業界だと業界の先輩に師事したり、音大を出れば音楽家になれるという訳でも無くて、はっきりした正解が無い道だと思うんですよね。バンド活動とかもそうだと思うんですけど、今はレーベルに入ったから売れるわけでもなく、逆にネットにポンと上げたらハネることもあるし。
だから「答えのないものに対して考え続ける力」みたいなものがあると、結構有利なのかなというのがあります。知識をたくさん入れていくというのはもちろん大事です。ただ、そういった所にプラスして、答えのない問題を考える能力や、知識を詰め込むだけではなく、それをどうやって自分なりの知見とか見識まで持っていけるのかというのを考えていると潰しが効くんじゃないかなと思います。

―――先ほど、今の音楽について「瞬間的にバズる」というお話があったのですが、今後の日本の音楽についてどうなっていったら良いなといったご自身の考えや想いなどはありますか?

照井:自分は常にポップシーンの音楽に対して常に「それだけじゃないんじゃないか?」という疑問を持って生きてきたんですよ。音楽に限らないことなのですが、最近は特にパッとすぐ手に入る答えとか、気持ちのいい何かを提示するということがネットやSNSの力によって、よりもてはやされている感じがして。
音楽もキャッチーな言葉とかサビ始まりがもてはやされるというのは必然だし、必要とされている事なので良いとは思います。
ただ、自分は安易な答えのようなものをすぐ提示せず、聴いた人の感情や感性、考えが宙吊りになるようなものを作りたいと常に思っています。
そういうのは基本的には面倒くさいのであまり広くは聴かれづらいわけですよ、普通に考えれば。
ただ、それを聴かせるだけの音楽の力みたいなものを持たせることによって、そういう部分まで深く踏み込んで貰えるようなものを作りたいと思っています。
……っていう感じなんですけど、質問は何でしたっけ(笑)。

―――日本の音楽のこれからについて、照井さんの考えや想いを伺いたいという話です。

照井:あ、日本の! 俺のじゃなくて(笑)。日本の音楽は……どうなっていくんですかね(笑)。ファスト映画とかもそうですけど、エンタメがどんどん短くなっていますね。
でも不思議ですよね。エンタメって豊かな時間を得るために享受するものじゃないですか。ということは楽しんでいる時間が長い方が良いはずなんですよね。それを短くしているということは、楽しんでいる時間が減っているわけで…色々なものの美味しいところを効率的に摂取したいということなんでしょうけども、それによって楽しさが目減りしていたり、逆にしんどい部分も多いと思います。
技術は進歩しても人間が(エンタメを)受容できる肉体はそんなに変わらないから、より効率的に・より短く・より多くということに対しては限界があるとは思います。だから、これからどういう流れになるのか……分からないことばかりですが、分からないなりに考えつつ頑張っていきたいですね。

――最後の質問になりますが、今後、漫画や小説、建築など、自分の音楽をつけてみたいものはありますか?

照井:元からインスタレーション(室内や屋外に音響を設置することでその空間や場所・環境を体験させる表現形態をとる作品)や、美術館や建築などに音楽をつけるというのをやりたかったタイプなので、そういう感じのものは常にあります。
今連載中の漫画で『ブスなんて言わないで』というルッキズムをド正面から描いている漫画があるのですが、それがとっても良い漫画なので音楽をつけてみたいと思ったりはしました。
自分の今までやってきたこととはちょっと違うジャンル・フィールドではあるのですが、そういうことも出来たらやりがいがありそうだなという感じですね。

▼アフタヌーンWeb増刊【アンドソファ】『ブスなんて言わないで』
https://comic-days.com/episode/3269754496533948579

・インタビュー&文字起こし
大正大学表現学部表現文化学科 中島ゼミ アート&エンターテインメントワークコース
梅田茜 遠藤ありさ 三澤帆稀 八木橋花音 涌澤渓

・原稿制作
岩崎航太(ビーイング)

・編集
二城利月

楽曲情報

3rd Digital Single「beyond the world」
作詞・作曲・編曲:照井順政

▼ダウンロード&ストリーミング
https://cing.lnk.to/beyondtheworld

照井さん関連情報

siraph official web site

・siraph One Man Tour Final(sold out)
2023年3月11日(土)
at WALL&WALL 

●DJ出演
・GOTO Festival after party
2023年3月23日
at club asia
https://cultureofasia.zaiko.io/item/354659

Cing公式Twitter:@Cing_official
Cing Official YouTube Channel:@Cing_music
Cingオフィシャルサイト

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