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アニメ映画『BLUE GIANT』の持つ圧倒的なパワーに「ジャズ」を

これが、ジャズだべ。ーーアニメ映画『BLUE GIANT』の持つ圧倒的なパワーに「ジャズ」、「創作物」の本質を"わからせ"られた!【レビュー・原作比較】

魅力的なキャラクターと、そのドラマ

今回の映画では大がジャズと出会い、打ち込んでいく姿を描いた「仙台編」の後がメインとなっているため、雪祈と玉田がドラマの中心にいます。

主人公である大は「真っ直ぐに突き進む」事ができる人間で、それゆえに恐怖さえ感じる部分がありますが、雪祈と玉田は葛藤や不安、戸惑いに負けてしまいそうになることも。

それが共感と人間らしいドラマを生み出し、観客を虜にしてしまうのです。

 

玉田の名シーン

後発でジャズを始め「追いつく」という一点のみを目標に突き進む玉田。最も感情移入しやすいキャラクターですよね。

見どころは、ドラムをやらされてるのではなく、「俺が2人と演りたい」と覚悟するシーン。大学生になったものの、なぜか充実感を得られなかった彼が本気でドラムと向き合った瞬間です。

その結果、大学を留年してしまった彼が母親に、「今しかできないからドラムをやらせてくれ」と電話で頼む場面も合わせて、いいシーンですよね。眩しくて羨ましさも感じます。

先述のドラムソロももちろん欠かせません。原作には玉田の細かなセリフやエピソードが詰まっていて、映画でカットされいる部分もありますが、よりエモーショナルな物語になるようにセリフが追加・変更されていたりします。

映画でしか出会うことができない玉田が確かに存在します。

 

雪祈の名シーン。

彼は、キャリアが長く、才能と技術に溢れたピアニスト。クールで余裕がありますが、田舎出身で負けん気が強く、音楽を続けるということの難しさ、厳しさを誰よりも理解しています。それゆえに勝ちにこだわりすぎて、囚われてしまっている一面も。

 
彼の人柄が良く伝わるのは、『SO BLUE』支配人の平さんにこてんぱんに言われた後のリアクション。

散々プライドを傷つけられた後に「そこまでいってくれるのか……」としっかりと反省し感謝するんです。どんだけ良いやつなんだ雪祈……と彼のことを一気に好きになります。

そして、その後彼の住むボロアパートに玉田と大を招くシーン。2人は普段のクールさと部屋のギャップに驚きつつ、音楽に溢れた部屋を見て「お前らしい部屋だ」と認めるのがまた良いですよね。

原作では、いきなり大が部屋を訪ねてくる展開になっていますが、「自分から家に招く」ことで雪祈が真に、2人に心を開き、向き合っている事が表現されていて熱い。

ここまで、玉田と雪祈を深掘りしましたが、今度は原作を引用しつつ物語に欠かせない大のパーソナリティと、「仙台での活動」を振り返ります。

 

主人公・大というキャラクター

伝えたいのは、大は決して独りで鬼のように強くなったわけではないということです。

彼は生まれ育った仙台で、自身の努力と人柄をきちんと認めて、そばにいてくれる誰かのおかげで、天性の愚直さに磨きが掛かって行きました。

亡くなってしまった母、サックスを買ってくれた兄、働いて支えてくれた父、生活を共にしてくれた妹。

受験しない大をからかいながらも、本気で世界一になれると信じてくれた玉田たちのような友人、ジャズと人生の基礎を教えた師匠、仙台で初めてライブをさせてくれた店、飛び入りさせてもらったバンド、「お前の音は不愉快だ!」と壁を与えてくれたおじさん、演奏を聞いてくれたお客さん。

大と関わった人すべてが最終的には彼の味方に、パワーになり彼の不安や迷いを消し去る。大は誰かのおかげで強い人間で居続けることができるのです。仙台編を読めばそれがひしひしと伝わります。
 

 
そしてなぜ皆、大を好きになるのか。

それは大が皆を愛しているからです。彼の優しさや強い気持ち、言葉を聞いた人たちは全員が前を向く。

どんなに転んだって絶対に大が手を差し伸べてくれて、共に前を向いてくれる。だから彼は愛される、愛された大はもっともっと強くなるのです。

大というキャラクター、そして『BLUE GIANT』という作品はそういう物語です。誰もひとりぼっちにはしない。そして読者に大きな優しさと強さを与えます。だから作品の虜になってしまいます。

原作を知るともっと面白い

原作1〜4巻で描かれる、大がジャズと出会い成長していく仙台の物語。これもかなり熱のはいったストーリーですし、映像化された部分も原作はまた違った味わいになっています。

現在4巻まで無料公開されているので、未読の方はぜひ読んでみてはいかがでしょうか。映画では描かれなかったエピソード、そして映画で新たに語られたエピソードを理解すると凄く面白いんです。

そして、原作者・石塚先生らが用意した「原作とは別のクライマックス」も必見です。筆者は映画が先でしたが、原作のクライマックスを読んだ直後に、2度目の鑑賞チケットを買いました!

原作をしっかり追っておけば……と後悔するほどに映画のクライマックスは感動的でした。

 

ジャズ=熱?

大は妹が熱を出した時に、「お前ジャズっちゃってるじゃん!」という風に言います。超熱いじゃん!って事だと思いますが、このセリフに全く違和感を抱きません。本作に触れることで「ジャズが熱い」事を本能的に理解させられたからです。

他にも、大のセリフに「下手くそでも世界一だと思ってステージに立っている」というものがあります。これは今できる事をすべて出すということです。

音、ジャズ、曲という限られた領域で大暴れする、世界一だと思って全力を出す。

それが大のジャズであり、芸術や創作物の真の姿ではないでしょうか。

10巻にも渡る濃厚な物語を2時間で描ききる。それは非常に難しいことで、本作も批判されている部分があるかもしれません。だけど、それを覚悟した上でこの2時間がベストだ、世界一だ、という気持ちで公開されているのです。

筆者は映画『BLUE GIANT』の映像、音から圧倒的な「全力」を感じました。「ジャズって、映画ってこういうことなんじゃないの?」と全力で主張しているんです。

その主張に見事に影響されて、ずっとジャズを聴いています。劇場を出た後、あなたも必ずジャズが聴きたくなるはずです。自由で熱いジャズの世界を一緒に楽しみましょう!

[文・タイラ]

『BLUE GIANT』作品概要

BLUE GIANT
作品名 BLUE GIANT
スケジュール 2023年2月17日(金)
あらすじ 「オレは世界一のジャズプレーヤーになる。」

ジャズに魅了され、テナーサックスを始めた仙台の高校生・宮本大(ミヤモトダイ)。
雨の日も風の日も、毎日たったひとりで何年も、河原でテナーサックスを吹き続けてきた。

卒業を機にジャズのため、上京。高校の同級生・玉田俊二(タマダシュンジ)のアパートに転がり込んだ大は、ある日訪れたライブハウスで同世代の凄腕ピアニスト・沢辺雪祈(サワベユキノリ)と出会う。

「組もう。」大は雪祈をバンドに誘う。はじめは本気で取り合わない雪祈だったが、聴く者を圧倒する大のサックスに胸を打たれ、二人はバンドを組むことに。そこへ大の熱さに感化されドラムを始めた玉田が加わり、三人は“JASS”を結成する。

楽譜も読めず、ジャズの知識もなかったが、ひたすらに、全力で吹いてきた大。幼い頃からジャズに全てを捧げてきた雪祈。初心者の玉田。

トリオの目標は、日本最高のジャズクラブに出演し、日本のジャズシーンを変えること。

不可能と思われる目標に、必死に真摯に、激しく挑む---。
キャスト 宮本大:山田裕貴/馬場智章(サックス)
沢辺雪祈:間宮祥太朗/上原ひろみ(ピアノ)
玉田俊二:岡山天音/石若駿(ドラム)
スタッフ 原作:石塚真一「BLUE GIANT」(小学館「ビッグコミック」連載)
監督:立川譲
脚本:NUMBER 8
音楽:上原ひろみ
キャラクターデザイン・総作画監督:高橋裕一
メインアニメーター:小丸敏之 牧孝雄
ライブディレクション:シュウ浩嵩 木村智 廣瀬清志 立川譲
プロップデザイン:牧孝雄 横山なつき
美術監督:平栁悟
色彩設計:堀川佳典
撮影監督:東郷香澄
3DCGIディレクター:高橋将人
編集:廣瀬清志
アニメーション制作:NUT
製作:映画「BLUE GIANT」製作委員会
配給:東宝映像事業部

(C)2023 映画「BLUE GIANT」製作委員会
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