声優生活30周年記念 自身の出演作関連楽曲からセレクトされたアニソン・カバーアルバム「アニメグ。30th」は、作品・関係者・ファンの皆さんへの愛と感謝を込めた「ラブレター」 緒方恵美さんインタビュー
ミュージシャンたちが愛とパワーを注いでくれました。
──ラストの「微笑みの爆弾」には、angelaさんが参加されていて。
緒方:飲み友達なんですけど(笑)。
──今日お話を聞いていて改めて感じていたのですが、緒方さんの交流関係は本当に幅広いですよね。緒方さんのお人柄だと思います。
緒方:いや、私は……実は声優の友達はそこまで多くなくて。ミュージシャンの友達が多いんです。
事務所を離れて一人でいる期間が長かった上に、ここ15年くらいはどこの現場でも私が最年長で、若手の声優としか仕事をしていなくて……いや若手の声優と友達じゃないと言っているわけではないんですが(笑)。
同年代や先輩が多数参加しているような、長く続いているアニメをやっていないので、長期間続くファミリーになれる機会がないのもあります。
──特に最近はコロナ禍ですものね。
緒方:そう、それもあります。もちろん個人的にご飯を食べに行ったり、遊びに行ったりする声優もいますけど、ミュージシャンやシンガーのみんなのほうが、ご飯を食べに行く機会が多いし、ライブを開催することが大変だったので、同じ悩みを共有する時間が多いからかも。
その仲間のミュージシャンたちが、今回は本当にたくさんの愛とパワーを注いでくれました。その中でも、パワーユニットのangelaは特にパワフルに! おかげでとても洗練された、アバンギャルドな楽曲になりました。
──当時を知っている方も、知らない方も楽しめる曲になっているように感じます。
緒方:はい。でも、最初はKATSUくんがやってくれるなんて夢にも思わなかったんです。でも(ランティスの)プロデューサーYさんが「この曲はKATSUさんに頼んでみたらどうでしょう?」と言ってくれて。
「angelaってアレンジだけとかやってくれるの? やってくれるならもちろんとても嬉しいけど……」と。1年前に私が主催したプレフェス(「Precious Anime & Game Songs Festival」)にangelaが出てくれたんです。そのときにいろいろお話をして、仲良くなり……あっちゃんとはその前から飲んでいたんですけど。
でもアレンジをKATSUくんが引き受けてくれただけじゃなく、まさか、あっちゃん(atsuko)が、仮歌やコーラスまでやってくれるとは思ってなくて。デモが届いた時には、変な声が出ました……(笑)。
完全にツインボーカルのような、すごい楽曲になりました。ありがたい。angelaのパワーによって、さらにパワーアップしました。
──atsukoさんとは同日にレコーディングされたのでしょうか?
緒方:いや、一緒じゃなかったんです。でも、私のボーカル録りの日に見に来てくれたんですよ。「atsukoさんに見られながらボーカル録りをするのはプレッシャーなので、やめてほしいな」って言ったんですけど(笑)。
もちろんKATSUくんは現場にいましたけども、angelaはチームできてくださって。こちらのチームもいるので大賑わいな一日でした(笑)。
平松禎史さんによる描き下ろしイラストが完成するまで
──アニメーター平松禎史さんによる描き下ろしイラストが描かれたジャケットも最高でした。
緒方:もうひっくり返りました。最高でした! 今までは、一度もジャケットをイラストにしたことがなかったんです。元が声優なので、絵にしてしまうと、いかにもな印象が強くなってしまうかなと思って。
でも今回は30周年ですし、業界みんなに対しての「ありがとう」って気持ちで作っていたこともあって、誰かに描いていただきたいなと。もちろん優秀なアニメーターさんはたくさんいるんですが、その中でも、縁が深いおひとりが平松さんでした。平松さんとは、打ち上げ以外ではお目にかかったことはなかったんですけども。
──そうだったのですね。
緒方:はい。人生的にも先輩である平松さんにこういう言い方をするのも恐縮ですけど、平松さんも盟友のおひとりであり、すごいセッションをしてくださった方。なのでダメもとでお願いしてみたい、と。
平松さんは『エヴァンゲリオン』のメインの作画監督のおひとりでもあり、『呪術廻戦』のキャラクターデザインもされていて。
中でも『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:破』で、綾波をシンジが助けにいくシーンを作画されているのですが、打ち上げのときに言われたのが……私も原撮の絵をベースにアフレコしたんですけど、アドリブの多いシーンで。
そのアドリブは必死でやっているので、ちょっとずつズレてしまって。平松さんがそれを聞いて「緒方さんの声に合わせて全面的に描き直す」と言ってくださったそうで、私のアドリブ、細かい呼吸まですべて聴きながら、それに合わせてあとから全て描き直してくださったと伺いました。力強く、綾波の手を引き抱きしめる、あのシーンまで。
それを見た庵野(秀明)さんが、もともとBGMを乗せる予定だったんですけど、声の演技と絵のパワーだけでいけると思ったとおっしゃり、なしになったんです。感激しました。それが、強力な、平松さんとのセッションシーンの思い出、その1。
そして平松さんが描いてくださった『劇場版 呪術廻戦 0』のキービジュアル。特に「純愛だよ」という手が印象的な一枚が、強烈に記憶に残っていて……それで、「生命感あふれる手を描いてほしいんです」とお願いしました。キャラクターの顔だと印象が強すぎてしまうから、「手はいいかもしれませんね」と平松さんからもお返事をいただきました。
シンジと綾波なのか、乙骨と里香ちゃんなのか、それ以外のキャラクターなのかも、お客さんに想像してもらえたらと思います。
──本当に愛と生命に溢れた作品ですね。
緒方:はい。曲もそうですけど、ジャケットも合わせて、みんなのすごいセッションが詰まった1枚になりました。
──お話を聞いていると胸がいっぱいになります。自分自身の初心も思い返す気持ちです。
緒方:ありがとうございます。初心。忘れないでいたいですね。音楽が好き、芝居が好き、お客さんが笑ってる顔を見たい、という自分のベーシック……初心を忘れずに積んでいくと、大変なこともあったけど、こういうご褒美みたいな良いことにも繋がっていく。そういうメッセージ? というか想いが作るものに投影されて、伝わると良いなとは思っています。
完全に余談ですけど、最近、そういう「ベーシック」にまつわる同じようなことを、二箇所で言われたんです。ひとつはライブ制作チームなんですけども。年末のライブ(禊2022-NEXT STAGE!)に、制作会社は辞めたけど、手伝いにきてくれたスタッフがいたんですね。今の仕事を休んで、わざわざきてくれて。
打ち上げをしていたときに、そのスタッフが「緒方さんのライブは僕らにとって、原点なんです」と言ってくれて。緒方さんのライブに関わると、自分たちが音楽が好きで、ライブが好きで、この世界に来たっていう最初の気持ちをいつも思い出させてくれるので、あなたのライブを手伝いにきたいんです、と。それを受けてその場にいたスタッフが全員頷いて笑ってくれて。すごくうれしかった。
もう一つは先日の、とある朗読劇で。その朗読劇は、いわゆるプロデュース公演、「お仕事」だったんですが、最終的にとても「演劇的」になったんです。メイン出演者は職業声優ばかりだったんですけど、色々あった中、僭越ながらみんなと少しずつ相談を重ねさせていただいているうち、「ステージを良くするために」と、全員が思って臨んでくれて。
現場スタッフも尽力してくれて、4公演で劇的な進化を遂げたんです。今頑張っている若手はもちろん先輩達までが、毎公演成長ポイントを探して変えていくような、そのあと「ご飯食べに行く人!」となったときに、ほぼ全員の声優が来てくれるような(笑)、そんな「お仕事」。昔自分がいた劇団の打ち上げのような雰囲気で、幸せだった。
そのとき、演出家と演出補の方が言ってくださったんです。「緒方さんとやったこの仕事は僕らの原点のような感じでした。演劇が好きで、こういうステージを作りたいと思ってやってきて、そういうステージが今回作れて本当に良かった」と。
原点を大事にしながら仕事をしていくことは、幸せをうむ。大切なベーシックに重ねていき、経験値にして何かを……できる限りはね、できるっていうのは命が終わる、終わらないも含めてですけど、やっていきたいなと思っています。現場のスタッフが「楽しい」って思ってくれるステージは、お客さんにも伝わるものだと思うので。
──素敵なお話をありがとうございます。30周年は10月まで続きます。現在お話できる範囲で、30周年の活動をおうかがいさせてください。
緒方:はい。本を出します。去年やった「Precious Anime&Game Song Festival(プレフェス)」の出演者の言葉を集めた本。
どこよりもハラスメントも、荒波も多い芸能界を生き延びて、今なお活躍しているアニソンシンガー・ゲーソンシンガーの女性たち。彼女たちが受けた試練と、それを乗り越える方法を語ってくれているのですがーーその珠玉の言葉たちは、胸にグッときます。
その時の言葉に加え、補足インタビュー、オフィシャル写真満載。アフターの私の書き下ろし原稿もあります。すごく良いです。彼女たちのソウルから、生きる勇気、受け取ってください。
[取材・文/逆井マリ]
アニソンカバーミニアルバム「アニメグ。30th」
発売日:2023/02/15
価格:3,080円(税込)