「ポールダンス」×「歌」×「頑張る少女たち」 をテーマに、YouTubeで発信中の『ポールプリンセス!!』 監督・江副仁美さん×企画プロデューサー兼CGディレクター・乙部善弘さんインタビュー
夢と憧れを描く最強のメンバーが集結
――少し話が戻るのですが、江副監督が待田さんを推薦された理由についても教えて下さい。
江副:私が単純に待田さんのファンなんですよ(笑)。待田さんはタツノコさんともお仕事をされたことがありますし、企画にも合うんじゃないかなと思いました。そしたら「ぜひ」というお返事をいただいて。結果的にすごく良かったですよね。
乙部:ええ、そう思います。
江副:待田さんも私と同じように、ポールダンスは映画で見たことがある程度という感じだったので、一緒に見学に行ったんです。生徒さんのお話を聞き、それをストーリーに盛り込んでくださったので、より共感してもらえるストーリーになったんじゃないかなと思っています。
――「ポールダンス」×「歌」×「頑張る少女たち」 をテーマにした理由についてもおうかがいしたいなと思ったのですが、実際にポールダンスを見て感じた皆さんの思いが自然とそのテーマに結びついたのですね。
乙部:そうですね。ポールダンスの世界を知っていくと自然とそうなっていく、という感じでした。それがいちばん良いのかなと思っています。
土屋李央さんは「ヒナノのイメージにピッタリ」
――キャスト陣についてもおうかがいさせてください。土屋李央さん、鈴木杏奈さん、小倉唯さん、日向未南さん、 南條愛乃さん、⽇⾼⾥菜さん、早⾒沙織さん、釘宮理恵さんと豪華声優が集結していますが、乙部さんもオーディションには参加されたのでしょうか?
乙部:はい。僕は声優オーディションに参加するのは初めてだったので、どうしたら良いか分からなかったんです。だから最初は全部お任せしようかなと思っていたのですが、オーディション(テープ)を聞いているうちに「このひとが合うかもしれないな」と思うことがあり、僕も意見をさせてもらいました。その後、制作スタッフ全員で話し合い、お願いする声優さんを決めていきました。
主人公のヒナノ役は特に人気があり、たくさんのご応募をいただきました。その中でも土屋さんは、キャラクターのイメージに合っている印象がありました。ヒナノは引っ込み思案なところはあるんですけども、強い意思を持った女の子で。それを土屋さんの声のサンプルや歌声から感じて「あ、なんか良いな」と思っていました。
スタジオオーディションのとき、「なぜこのオーディションを受けたのか」といった質問を全員にさせていただいています。土屋さんに同様の質問をしたところ、情報を開示していなかったヒナノの裏設定であるバレエ経験者ということが分かり、ポールダンスもクラシックバレエのように表の美しさを維持するのに裏の努力があるのではないかというお話が出て、キャラへの理解や作品の方向性を共感してくれそうと感じました。また、ポールダンスもTik Tokで見ていたそうで、最新のものと捉えてくれているのかなと思いました。僕の中ではそういう部分も後押しとなりました。その後、全員で相談して土屋さんにお願いすることに決めました。
主人公チームはこれからポールダンスをはじめる女の子たちなので、なるべくフレッシュな方々を揃えたいなというイメージがありましたが、一方で、ライバルチーム「エルダンジュ」は、すでにポールダンス界のエリートチームとして立ち位置ができているので、実力派の方々を選ばせていただきました。エルダンジュのメンバーはすぐに決まった印象があります。
――御子白ユカリを南條愛乃さん、紫藤サナを日高里菜さん、蒼唯ノアを早見沙織さんと、まさに実力派が顔を揃えています。
乙部:なんでこんなにすごい人たちが来てくれたんだろう?と思うくらいです(笑)。さらに歌も歌っていただいて。皆さん「こういう作品はなかなかないので、とても興味があります」と語ってくれたことが嬉しかったです。
江副:実はオーディション前に、みんなでドリームチームのようなものを考えていたんです。その時に南條さんや早見さんのお名前が上がっていました。だからオーディションに来ていただいたとき、本当にうれしかったです。リストに名前が合ったときに「よし!」と思っていました(笑)。もちろん他の方のお声を聞かせていただいた中で決めてはいるのですが、いちばんイメージに合うなという印象がありました。
乙部:オリジナル作品なので、オーディション段階で声優さんに渡せる情報はかなり限られているんです。特にセリフの量は圧倒的に少ないので。皆さんの中でイメージを膨らませてもらい、それを表現してもらうという状況でした。僕らがぼんやりと考えていたイメージをきちんと再現してくれているなと感じたのが、その3人でした。
後から耳にしましたが、声優さんの間で「オーディション受けた?」とざわざわしていたとか(笑)。
江副:新しい題材ということもあって、話題になっていたそうですね。
――ポールダンスのアニメはこれまでになかったですもんね。
乙部:アニメは初めてだと思うのですが、テーマは違えどポールダンスを題材にした小説や漫画はあったので、企画を作ったあとの発表まで3年は「その間に似たような作品が出ないでくれ……!」とずっと祈っていました(笑)。誰かが出してしまうんじゃないかとヒヤヒヤしていたんです。満を持して公開ができて安堵しました(笑)。
気軽に見られるようにYouTubeを発信の場に
――YouTubeを発信の場にした理由についてもおうかがいさせてください。
乙部:若い人たちの入り口がYouTubeなどの動画になっているのは間違いなくて。当然テレビも考えたのですが、探り探り作っていたときに、尺も短いので、ネット媒体のほうがこの作品に合っているんじゃないかなと思いました。
――学生の方も動画だと気軽に見られますもんね。
乙部:そうですね。学校や職場に行く道中に見られる気軽さで見ていただきたいなという思いがありました。特に若い人たちに見てもらいたい、という思いがあったので。
――対象の世代は明確に決められていたんでしょうか?
乙部:老若男女に見てもらいたいなという思いがありつつも、ポールダンスを一生懸命頑張っている人たちが見て、この作品いいなって気持ちになれるものであって欲しいと思ってます
ポールダンスをやっている人から見ると「こういう服を着てこの技は出来ないよ」というものもあると思うのですが、そこはフィクションとして扱っています。必殺技のような形で技を見せる上で服と歌は重要だなと思っていました。KAORIさんに「こういうこともやっていいんですか?」と聞いたところ「全然やってください!」と言ってくれました。
――コスチュームのかわいさも見どころですよね。
乙部:そうですね。トマリさんのデザインが素晴らしかったのでほとんどそのまま使わせていただいています。ポールで動いたときに綺麗に映えるデザインをしてくれるということが、動かしてみたときに分かるんです。「ああ、こういう考えで、こっち側に袖があったんだな」とか。
――ああ、なるほど。愛情深い、最強のメンバーが揃っているということを改めて感じるエピソードです。
乙部:かもしれないですね(笑)。
――海外の方からも反響があることに対してはどのように受け止められていますか?
江副:意外でした。そこはターゲットにしていなかったので、ネット配信だと海外の方々にも見ていただけるんだなと嬉しかったですね。ポールダンスに関しても日本とは印象が違うのかなとも感じています。
乙部:国にもよるのかもしれませんが、海外の方だとより身近にポールダンスがあるんだと思います。例えばマンションの一室にポールを立てている方もいるようです。コロナ禍に家の中でできるフィットネスという形でポールダンスを配信されている方もいました。
――確かにその時期によく見かけたような気がします……!
乙部:動画で見かけましたよね。
――乙部さんは海外からの反応をどのように受け止められていましたか?
乙部:僕の場合は海外も意識はしていたんです。でもまずは日本から、と思っていましたので、字幕もタイトルも日本語で作っていたんです。でも海外の方から「字幕をつけてほしい」「アメリカで話題になっているのに、なんで字幕をつけないんだ」といった意見が寄せられたそうです。それで字幕を入れてからは、海外からのアクセスも増えたとうかがっています。ポーランドの方にも視聴いただいているようです。
――ネット配信ならではの強みですね。
乙部:そうですね。ただ、まだ大人気というわけではなくて。これからじわじわと増えていくものなのかなと思っています。ゆっくりと、確実にフォロワーは増えているので、これからコンテンツをもっと出していけば認知されるんじゃないかなと思っています。まだまだ出せるものはあるので。
――さきほど尺について言及されていましたが、この尺は見やすさを意識されているのですか?
江副:実は本当に最初の段階ではショーだけを出す予定だったんです。でも「ドラマがないと心に響かないよね」という話になって。それでピクチャードラマのような形にしようかという話になっていたのですが、乙部さんが「3Dで作ります」と言ってくださって(笑)。「ありがとうございます!よろしくお願いします!」と。だから想像以上の、そして想定外のクオリティの3Dアニメを作っていただいているんです。
――現在はポールダンスショームービーとドラマパートと2種類の配信をされていますが、前者のみの予定だったということですね。
乙部:そうですね。もっとコンパクトなものを想定していました。だから最初から狙っていたわけではないんですよね。あと、モーションキャプチャーを使ったら早く作れるかもなという考えもあったので、普通に芝居するというよりは、舞台役者さんにオーバーなアクションをしてもらって、それだとアニメの動きに合うんじゃないかな、と思って。それは別でそういうプランがあったので、それをここで使わせてもらいました。
――モーションキャプチャーで作ろうというのは、最初の想定だったんですか?
乙部:そうです。モーションキャプチャーで撮ろうとなって、コンテもない状態だったのですが、しばらく経ってから「やっぱりコンテが必要だな」と。それで急遽、江副さんにコンテを切ってもらい、キャプチャーの収録にギリギリ間に合わせたっていう。
江副:(笑)
乙部:読みが甘かったですね(苦笑)。
――手探りでの制作だったのですね。でもそれもオリジナルアニメならではというか。
乙部:そうですね。今も四苦八苦しながらドラマパートを作っています。
――そうなると、舞台となるプラネタリウムの設定も後から考えられたのでしょうか?
乙部:プラネタリウムに関しては「例えば、プラネタリウムでポールダンスをやるのはどうですか?」って話をしたら「それいいですね」という話になって、一個の設定になっていって、という感じでした。
――乙部さんは本作のCG制作をされる上で、難しいこと、楽しいことをどんなところで感じていますか?
乙部:ポールダンスのキャプチャー自体は一回やったことがあったので、「いけるだろうな」と勝手に思っていました。でも曲に合わせてダンサーさんに振り付けをつけてもらったときに「思ったより、曲に合わせるのは大変なんだな」と思いました。例えば、実際に回転をしていると慣性がついているので曲の良いところで止められなかったり。振り付けに対しては修正を加えていくことはあまりしなかったんですけど、はじめてのことばかりでしたので、細かいプランを映像に付け足したり、お願いするのはすごく大変でしたね。
最初にダンサーさんがサンプル映像を作ってくれたのですが、それに対してチェックバックで「ここで一度ポールから下りて腕を組んで溜めてください」とか「ここで大技お願いします」などとお伝えしてお願いして。さきほども少しお話しましたが、素人の意見にも関わらず、リクエスト通りに表現してくれるのですごいなと思っていました。
あとは当然服を着てやっているので、ポールに衣装が貫通してしまう部分や、干渉して逃げられない部分があるんです。そこは合成やカメラワークなどで逃げて、1コマ単位で調整しています。
――精緻に描かれているのですね。
乙部:そうですね。でもやはり、オリジナルアニメということで、やりがいもあるし、楽しいです。英語圏の方からも「すごく綺麗だ」「こんなアニメ見たことがない」、「日舞とダンスを合わせるなんて、日本でしかできない」といったコメントがあり、そういったご意見を見ると嬉しいですね。当然、厳しいご意見もあります。「なんで24fps(※動画のフレームプレートのこと)でやってるの? なんで60じゃないの?」とか。ただ、全体的には評判はとても良いです。
――個人的に画面全体の色合いも綺麗で好きです。少し淡くて。
乙部:そうですね。全体的には淡い色彩で。
江副:トマリさんの描くキャラクターがとても綺麗なので、それに合うような色彩設計をお願いしています。