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『TRIGUN STAMPEDE』今だからこそ明かせる制作の舞台裏|武藤監督×和氣P対談

TVアニメ『TRIGUN STAMPEDE』武藤健司監督×和氣澄賢プロデューサー超ロングインタビューで“スタンピード”を振り返る|「普通はそこまで作り込まないよね」というところまで手が込んでいるのが『TRIGUN STAMPEDE』という作品なんです――

想像以上に高いハードルだった

――それだけ真摯に本作に向き合われてきたことを感じます。制作が終わった直後の率直なお気持ちというのはどのようなものだったんでしょうか。

武藤:「地獄から生きて帰りました」って感じですかね……(笑)。

和氣:(笑)。

武藤:血を流し続けましたね。

和氣:終わってみて思うのが「振り返りたくないくらい大変だった」ってことですね……(笑)。でもわかります。やってる最中に何かがあっても気にならなかったんです。終わってみて振り返ってみようとすると、思い出したくないことがあまりにも多くて。本当に、いろいろ大変でした。

――最近まではまったく意識してなかったんですか?

和氣:振り返るようになったのは、ここ数週間くらいですね。終わった直後は「終わったな、良かったな」というくらいで。宣伝絡みで取材を受けることが増えたので、これまでの設定やらを見返さなければいけなくなって、振り返らざるをえなくなったと言いますか。設定を見返してみるとね、辛くなるんですよ……(笑)。

――そんな中、追い打ちをかけるようで恐縮なのですが……。

武藤:いやいや、全然大丈夫ですよ(笑)。

――ぜひその地獄の内容を知りたいです。

和氣:プロデューサーとして僕がやりたいこと。監督として武藤さんにやってもらいたいこと。そして、会社としてやりたいこと。そういうのを、どうやったら実現できるのか。どういう手順を踏むのがいいのか。それが明確じゃない状態で始めなきゃいけなかったのがまず大変でした。

――他の作品では、そう感じることはなかったのでしょうか?

和氣:う〜ん……今回やりたかったのが『トライガン』だったというのもあると思います。「マッドハウス」さんのアニメがあった上で、原作をリスペクトしつつ違うものを作りましょう、というのが監督に求めていたものだったんですけど、その方向性がまだ定まってなかった。

――当初武藤さんも「新たなエンターテイメントを作りたい」と仰っていましたよね。

和氣:そこが最初の無茶でした。会社としては「今までやってなかった技術を使ってアニメを作ろう」という気持ちだったんですけど。プロデューサーとしては、それをどう現実的にまとめて人を集めていくか……ということが完全に見えていない状態でのスタートだったんです。

武藤:でも理想だけはあったんですけどね。東宝の武井(克弘)さんも入れて、和氣さんと3人でよく話していたことは、ひとつのユニバースを作りたいってことだったんです。

要するに、「マーベル・スタジオ」のMCU(マーベル・シネマティック・ユニバース)のようにひとつの世界観、宇宙のようなものとか。クリストファー・ノーランとティム・バートンで別々の『バットマン』の世界があるようなものとか。そういう、いろいろな解釈で成り立っている世界観を『トライガン』でもやりたい、という。

言ってることはわかったので、僕は否定的なつもりは一切なく「うん、分かった」と。これがね、尋常じゃない労力が必要なんだと、やりはじめてからようやく気がついちゃって……(笑)。

和氣:(笑)

武藤:一本の映画でやる、ということであれば、まだ難しくなかったかもしれないんですけど。僕たちの場合は、それをTVシリーズに落とし込もうとしていたわけで。それでさらに難易度が上がってしまったんですよね。

新しい世界観を作って、それを12話にわけて作るわけですから。それは想像以上に高いハードルでした。

――今でこそお二人の雰囲気は和やかという印象なんですけど、制作時というのは……?

武藤:そりゃあピリピリしてましたよ(苦笑)。それは僕らだけじゃなくみんな。毎日のように何か問題が起こるんです。しかも、お互いの知り得ないところで起こっていることなので、問題をなかなか共有できなくて。なんかね、毎日のように、延々とボディブローを浴び続ける5年間でしたね。今考えると疲労の蓄積もとんでもなかったと思います。内藤先生も(連載当時)毎月結果を求められていて、相当辛かったという話をしていました。その気持ちが今になって分かるなと。

――武藤さん自身も連載漫画家を目指していた時期があるんですよね。だからこそ分かるものもあるのかなと。

武藤:内藤先生へのリスペクトは相当なものを感じていますね。僕の場合、10代のとき「週刊少年ジャンプ」の新人賞を獲って、掲載を2回くらいして新人デビューしたんです。

その当時大学生だったのですが、この先の自分について少し冷静にいろいろと考えた結果、漫画家ではなくショートフィルムの映像のほうに進んでみようかなと。そもそも大学は映像専攻だったし、思い切って進路の舵を映像の方向にきってみたんです。

でも当時目指していたことは、現在の僕にもかなりつながっているんですよ。物語の作り方とか、キャラクターの作り方とか、ずっと担当編集さんや作家先生から教わるんですよね。僕は当時、『アイシールド21』の村田雄介先生についていて。あの頃に身につけた考え方は今の僕の考え方の基盤になっていて、助けられていることも多いと思っています。

「考え続けてほしい」というメッセージを込めた

――先程最終回を観させてもらいましたが……かなり感情が昂ぶっています。

武藤&和氣:(笑)

――お二人はいかがでしたか、実際に完成した最終回をごらんになって。

武藤:こんなことを言うのは申し訳ないんですが、自分の立場から見ると、修正したいところしかないんです。

――そういうものなのですね。

武藤:立場的にスケジュールというのがあって。そこまでに出来ることをすべてやった上で、いざ完成したものを観るというのは、審判が下されるような気持ちになるので僕としては、プロデューサーだった和氣さんの気持ちが気になります。

和氣:終わったときは「終わってよかった」という気持ちなんですけど。直したい、というかは、「次はこう出来るな……」というのを見つけるような目で観ちゃうという感じですね。

武藤:完成品を観ても、ラッシュチェックみたいな気持ちになるんですよね。ついさっきもオーディオコメンタリーを録るために観ていたんですけど、あまり直視は出来なかったですね。役者さんのほうを向きながら喋って誤魔化してました……(笑)。

和氣:監督という立場からしたら、そう感じちゃうのは仕方ないですよね。

――最終回までの流れは武藤監督の中では最初から決めていたんですか?

武藤:ざっくりとですが決まってはいました。

和氣:最初のころ、ストーリー原案のオキシ(タケヒコ)さんに原作で描かれているところと、そうではないところを大まかな流れで書いてもらったんです。

その時はまだどこまでやるか決まっていなかったんです。どこをやるかを決める段階になって、武藤さんに一度持ち帰ってもらって。結果、「ロスト・ジュライまでをやろう」ということになりました。

武藤:もっと言うと、本当はヴァッシュとナイヴズの少年時代をやりたかったんですよ。ふたりが墜落したあとの物語。

和氣:ああ、言ってましたね。

――その思いがある中で、武藤さんとしてはどのようにヴァッシュたちを描こうと考えられたのでしょうか。

武藤:僕としては、どのキャラクターも原作漫画を軸にして組み立てたつもりです。ヴァッシュだけじゃなくて、ニコラスも。

原作のヴァッシュは、初期のクリント・イーストウッド的というか、完成されたスーパーヒーローなんですよね。葛藤をすることもあるけど、ある程度暴力を使ってねじ伏せることもいとわない。彼なりに気持ちの整理がついた上で、ひょうきんに振る舞っているのがヴァッシュという男だと思うんですよ。内藤先生が天然で描いてる部分も多く、とても複雑なキャラクター。

それって、そのまま引き写しで描くにはやりにくいというか。リブートとしてTVアニメにするとなると、かなり難しいことだと思っていました。単発映画とかなら、またいくらかやりようはあるんですけどね。

TVアニメだと、大体12話で描かないといけない。ワンカットの時間の流れかたも漫画とは大きく異なる。そうなると、誰が観ても理解できる分かりやすさと、ある程度の成長というか、キャラクターに学びを与えないと面白味が伝わらないんですよ。そうなったときに、ロスト・ジュライ以前のヴァッシュであれば、きっとまだメンタリティは完成されていないんじゃないだろうかと思いまして……そこに向かってスタートしてみることにしたんです。

和氣:終わり方にはずっと悩んでましたよね。ロスト・ジュライを最後に描くってことは、都市をひとつ崩壊させるという……ある意味、失敗で終わってしまうようにも見える。元々がそういうエピソードではあるんだけど「見続けてくれたお客さんにも何かお土産を渡して終われるほうがいいよね」ということは、ずっと話し合っていたんです。

武藤:ヴァッシュだけのせいになっちゃうと気持ち悪いよねという話をしていて。それで、ああいう形で終わることにしてみたんです。どう受け取ってもらえるかは、不安でもあり、楽しみでもある、といったところです。

――何というか……感想を一言にするのは難しいのですが「愛って何なんだろうな……」と。

一同:(笑)

――特に11話ではそういうメッセージを多く受け取ったような気がしました。

武藤:その手の問いは、どの話数でも常に用意してあるんです。あえて結論を出さないことで、「考え続けてほしい」というメッセージを込めたつもりです。画面の作りが映画っぽいと言われることは多かったのですが、きっとそれだけじゃなく、映画的な問いがあったからだろうなと。

最近のTVアニメの流行りとか売れ線とかからは、かなり外れてる路線を攻めていた自覚はありますから。間の作り方も映画を意識したような部分があって。そういうのって、あまりTVアニメでは流行らないのかもしれないんですけど、僕にはそういう作り方しか出来ないっていうのもありましたから。

――結果的に、ものすごい大反響がありましたよね。

武藤:作品のファンがどんどん増えていってくれているというのは、肌で感じています。ありがたい限りですよ。

――発表時は原作との違いに戸惑われている方も少なからずいた印象でしたが、作品が進むごとに変わっていって。

武藤:それも映画的というか。海外では当たり前なアナザーバースという考え方のひとつなんですよ。日本ではあまり定着してないし、馴染みのない考え方ではあるので、最初は批判されてしまうことは覚悟の上で「(放送がはじまったら)大丈夫だろう」とも思っていたんです。そういう点を気にしていた、というか怖がってたのはどちらかというとプロデューサーたちのほうですよね?

和氣:怖がっていた、といわれるとそうなのかもしれない。海外の作品の凄いところって、『スパイダーマン』しかり、『バットマン』しかり、原作コミックをそのままやってないし、時代によって同じ原作から違う作品が作られてるけど、ちゃんと受け入れられてるんですよ。そういうのって海外のほうでは普通のことなんです。「原作のままやりました」ということにお客さんはそこまで拘っていないというか。必要な要素をちゃんと抜き出せていれば、作品として面白いかどうかで判断してもらえるんですよ。

武藤:そういう作品の場合、映画だからっていうのもあるとは思いますね。『TRIGUN STAMPEDE』の場合、相手にするのは映画のお客さんじゃなくて、TVアニメのお客さんでしたから。TVアニメを普段から観ている人に伝わるように、作品の要素を抜き出して落とし込み方も考えないといけない。その点もハードルが上がっていた理由のひとつですね。

和氣:正直なところ、原作のままやらなくちゃいけないという、ある種の縛りはもったいないと思ってるんですよ。日本にも面白い原作がたくさんあるわけですから。「面白い作品をより面白くするためには、こういう提案も出来るんじゃないか」という考え方は、プロデューサーとしてはもっと広まってほしいなと。

漫画とか小説とかだけじゃなくて、昔の作品に対してでもいいんですけど。何十年前の作品でも、面白いものをもっと面白く描くことは出来るはずですから。「俺だったらこうします!」というリブートのような作品が、日本でも増えていったらいいなと思っています。

――もしかしたら、この作品をきっかけに受け入れられていくかもしれませんね。

和氣:そうなってくれたら嬉しいですね。「『TRIGUN STAMPEDE』が出来たんだから、俺たちもこういう作品を出していこう」という感じで広まっていったら、面白い作品がどんどん生まれてくるんじゃないかな。

(C)2023 内藤泰弘・少年画報社/「TRIGUN STAMPEDE」製作委員会
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