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『TRIGUN STAMPEDE』今だからこそ明かせる制作の舞台裏|武藤監督×和氣P対談

TVアニメ『TRIGUN STAMPEDE』武藤健司監督×和氣澄賢プロデューサー超ロングインタビューで“スタンピード”を振り返る|「普通はそこまで作り込まないよね」というところまで手が込んでいるのが『TRIGUN STAMPEDE』という作品なんです――

内藤泰弘氏による大人気ガンアクションコミック『トライガン』。伝説の原作が、他とは一線を画すハイクオリティなCGアニメを手掛けてきた「オレンジ」の制作により、『TRIGUN STAMPEDE』として新生。そして3月25日に最終話を迎え、シリーズ完結編の製作が発表となった。

最終回放送直前の3月下旬、武藤健司監督、和氣澄賢プロデューサー(オレンジ)に話をうかがうため、都内某スタジオで行われていたオーディオコメンタリーの収録現場を訪ねた。そこには、制作が終わったとは言え、緊張感が抜けていないだろうふたりの姿が。『TRIGUN STAMPEDE』に、いかに力を注いできたかは、アニメーションからも分かる通りだが、それは想像以上に過酷な日々だったそうだ。

インタビューで武藤監督は『TRIGUN STAMPEDE』に向き合った期間を「血を流し続けた5年間だった」と語る。そして、ふたりの会話から浮かび上がってきた内藤泰弘氏へのただならぬ尊敬の念。その舞台裏。制作を終えた今だからこそ明かせるエピソードを語ってもらった。

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TRIGUN STAMPEDE
砂嵐吹き荒れる大地。そこは地球よりはるか遠く、5つの月が輝く、灼熱の星・ノーマンズランド。人類の生き残りは、あらゆる物質をゼロから生み出す生態動力炉“プラント”を頼りに異形の生物蠢く不毛の地で、血肉を削り暮らしていた。その過酷な世界に一人、懸賞金600万$$を懸けられた、“関われば必ず災厄に見舞われる”人間台風(ヒューマノイドタイフーン)と呼ばれるトラブルメーカーがいた。名を、“ヴァッシュ・ザ・スタンピード”という####──。新人記者のメリル・ストライフは、飲んだくれのベテラン記者・ロベルト・デニーロと共に人間台風という一大スクープを求め、1人の深紅のコートに包まれたガンマンにたどり着くが、出会ったのは「決して人を殺さない」、誰よりもお人よしの風来坊だった!?無頼の葬儀屋ニコラス・D・ウルフウッドを道連れに、悪に染まったヴァッシュの双子の兄ミリオンズ・ナイヴズを追う旅が始まる。立ちはだかる無数の刺客たちと、ナイヴズの恐るべき計画とは。全ての謎が明らかになる時、世界を賭けた戦いが始まる!作品名TRIGUNSTAMPEDE放送形態TVアニメシリーズTRIGUNスケジュール2023年1月7日(土)〜2023年3月25日(土)テレビ東京ほか話数全12話キャストヴァッシ...

武藤監督×和氣プロデューサー 数奇な運命

――アニメイトタイムズではおふたりにインタビューするのは初めてなので、まずはおふたりの関係性について教えて下さい。いつぐらいからのお付き合いになるのでしょうか。

和氣澄賢プロデューサー(以下、和氣):武藤さんと初めて仕事をしたのが2013年。僕は当時「スタジオ地図」にいたんですけど、当時「MAPPA」社長の丸山さんから「ミュージックビデオ作るから。和氣、手伝え。明日来い」と誘われたことがあって。何も聞かされないままで行った現場にいたのが、武藤さんだったんですよ。

当時はまだ、武藤さんは商業アニメとかはやったことがなかったんでしたっけ?

武藤健司監督(以下、武藤):なんていったらいいのかなぁ。テレビCM、Eテレの教育番組をいくつか担当していたくらいでしたね。それに付随する形で、商業アニメ的手法で作画を使ったこともあったと思いますけど、ほぼ演出経験はゼロの状態でした。

和氣:ミュージックビデオとはいえ、商業アニメの業界に来たばかりという感じで、そのタイミングで一緒になったことが武藤さんを知るきっかけだったと思います。

――その後も一緒になる機会はあったんですか?

和氣:全然。そのミュージックビデオが「T-ARA」というアイドルグループの「TARGET」という曲のもので、その後が『はじめの一歩』の3期(Rising)のOPとEDだったかな。それもまた単発もの。一緒に仕事をしたといっても、ほぼそれだけだったんです。

――和氣さんと武藤さんのタッグというとやはり『宝石の国』が印象的ですね。

和氣:『はじめの一歩』からまた間が空いて、僕が「スタジオ地図」から今の「オレンジ」に移ったタイミングで、「『宝石の国』という作品を作るので手伝ってもらえませんか?」と武藤さんを誘ったんです。それからは「オレンジ」に来てもらったこともあって、いくつか一緒に担当しています。

――『宝石の国』で武藤さんに声をかけたのは、それまでの仕事で信頼関係のようなものが出来上がっていたからだったんですか?

武藤:要は珍しい変わり種だったんだよね、僕が。

和氣:そうですね(笑)。信頼関係というか、武藤さんの一番最初を知っていたからというのが大きいかなと。

「T-ARA」のミュージックビデオをやっていたときって──こんな言い方はあれなんですけど、武藤さんってアニメのいろはを何も知らなかったんですよね。

本当に何もわからないんですよ。タイムシート(指示や工程を共有するための用紙)も読めないし、レイアウトチェク(演出、意図、構図などの確認)が何をする時間なのかもわかってないしで、作画監督から怒られちゃってて。そんな状態からのスタートだったんですよ(笑)。

武藤:はい(苦笑)。

和氣:最初がそんなだったんだけど、「MAPPA」で相当揉まれたんでしょうね。次に会った現場では信じられないくらい成長してたんですよ。作品も別物かってくらいレベルが上がっていった。その成長の幅を信じたこともあって「『宝石の国』をやりませんか?」となったわけです。期待通り、『宝石の国』をやってる間にも面白いくらいどんどん成長してくれましたから。その幅が面白くて、「仕事させてください」とお願いしていました。

武藤:『宝石の国』以前は、それこそろくに絵コンテも任せてもらえなかった時期だったんですよ。商業アニメの絵コンテのノウハウを勉強、分析している段階でした。

ようやく絵コンテを書かせてもらえるようになった頃、「MAPPA」の丸山正雄氏が社長を退くことになって。そのタイミングで僕も会社を出ることを決意したんです。『宝石の国』の現場で学べたことは大きかったなと思います。

まあ、学んだというか、京極(尚彦)さんの基礎的な論法を真似たというほうが正確かもしれないですね(笑)。京極さんの演出は教科書的で、感覚で作るタイプの人ではなかったですから。

和氣:『宝石の国』のときって、武藤さんは編集作業がすごく苦手だったんですよ。その場にいても「何をやってるのかわかってないんだろうな」ってレベルで。編集さんと京極監督がやり取りしている間も、ずっとポカンとしていたくらい。

当時の編集さんとは『TRIGUN STAMPEDE』で一緒になったんですけど、あの頃はまったく理解できていなかった言葉をちゃんと聞き取っていて、かつ編集さんともしっかりやり取りが出来てるんです。監督の立場でちゃんと理解してくれているから、それで作品がよくなった部分も多分にあります。成長しているのがわかるのは、プロデューサーという立場からクリエイターを見る楽しい瞬間のひとつなんです。

武藤:育成ゲームみたいなね(笑)。

和氣:じゃあ、次はこの餌あげよう、みたいな(笑)。

――今のお話を踏まえて考えると、武藤さんにとって『TRIGUN STAMPEDE』という作品は、これまでのキャリアの集大成のひとつとなっているんでしょうか?

武藤:そうかもしれないですね。音響とか、あまり経験してこなかったことの無茶振りとかもあったりしましたし……。

――無茶振りですか。

和氣:はい(笑)。プロデューサーという立場としては、武藤さんに求めているものというか、やって欲しいことがいっぱいあるんですよ。

そのひとつが音響周りのお願いでして。今回、ダビングの仕切りも武藤さん自身にお願いしていて、その流れで音楽の仕切りや、発注もやってもらっているんです。

監督の仕事っていろいろあるんですけど、その中でも武藤さんがまったく触れてこなかったのがおそらくポストプロダクション。特に音響関係だったんです。

演出を担当してもらってたときに、力技でやろうとしてダメだったということはあったんですけど。だから監督という立場になったからこそ、「折角なら無茶してみましょうよ」とお願いしてみることにしました。

そういう意味でも、『TRIGUN STAMPEDE』に関しては作画の部分よりも、音響のほうで武藤さんの色が付いてるんじゃないかなと。

武藤:やってみてわかったことなんですけど、音響と絵コンテって、思った以上に両輪の関係なんですよ。音楽、効果音(SE)が絵コンテと噛み合うことで、作画のテクニック以上に躍動感やスピード感が生まれることがあって。それまでの作品では表現できていなかったことでもあったんで、大きな学びだったなと思います。

――武藤監督は音響まわりのお仕事はどこまでやられていたんでしょうか。

和氣:特にやっていた部分でいうと、音楽の発注ですね。「この作品にはこういう音楽がほしいんです」というのを、武藤さんから音楽プロデューサーと劇伴作家さんに説明してもらう。そして実際に用意してもらったものが、イメージに合っているかを判断していく。

それ以外だと、声優さんのアフレコ、効果音もチェックもしてもらいます。アフレコ演出は別の方に立っていただきました。効果音に関しては上がってきたものを監督に精査してもらっています。

通常は音響監督を別に立ててお願いすることのほうが多いんですけど、作品のことを一番に理解しているのはやはりメインの監督なわけじゃないですか。音楽や効果音のチェックをするにしても、完成した画のことをわかっている監督がディレクションするほうが作品にとって精度が上がりますから。今回、そういう立場である武藤さんに音響も任せたいと思ったのは、そういう理由からだったんです。

武藤:珍しい作り方をしたとは思うんですけど、こういう作り方って実写映画では普通のことだったりするんですよね。

和氣:そうなんですよね。アニメが特殊なんですよ。だからずっと監督がやったほうがいいなとは思っていて。

武藤:ただ実際にやってみたら、これがメチャクチャ大変で……。和氣さんの言うように、僕にしか出来ないディレクションがかなり多かったんです。例えば『TRIGUN STAMPEDE』の場合はマカロニ・ウエスタンやSF的な音楽から、使いたい楽器、サンプルになりそうな音楽を探すところからはじまって。例えば、「ナイヴズが弾くピアノの音はこういうイメージで」「この楽器は絶対に使ってください」とか、細かくオーダーをさせてもらいました。

ちなみに、別のインタビューでもお話させてもらっていますが僕は当時プリプロ段階では、以前のマッドハウスさん版『TRIGUN』はまったく観ていないんです。今回アニメ化するにあたっては全体の画の雰囲気から音楽の方向性まで、ゼロから構築していきました。

和氣:他の作品にも言えることなのですが、監督という立場の場合は影響されすぎてしまうので「影響されたい作品」以外は観ないほうが良いんですよね。プロデューサーとしては当然観ておいたほうがいいんですけど。確か武藤さん、作ってる間はずっと映画も観てなかったんですよね?

武藤:観てない。一切観てなかったです。最近になってようやく、溜まりに溜まった映画を消化できるようになりまして。クリント・イーストウッドの『クライ・マッチョ』とか、新海誠さんの『天気の子』とか、いろいろ観ています。

和氣:『天気の子』の公開はだいぶ前な気もするかもしれませんけど(2019年公開)、シナリオやってる最中でしたもんね。

武藤:5年くらい……いや、4年半くらいになるのかな。なんにしても年単位でインプットが出来てなかったので「何にも食べてなかった」に近い感覚です。個人的にはUPLINK CINEMAが好きで、よく行ってたんですけどね。

(C)2023 内藤泰弘・少年画報社/「TRIGUN STAMPEDE」製作委員会
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