出会い 別れ それでも生きていく、歌い続ける。逃げて逢えた日。日本武道館という約束の場所での“一対一”を振り返って今ReoNaが想うこと。アルバム『HUMAN』のこと――ツアーを間近に控えたReoNaに話を聞く
出会い 別れ それでも生きていく
――そして、2ndフルアルバム『HUMAN』が3月8日にリリースされました。3月は本当に盛りだくさんでしたね。
ReoNa:2023年3月という場所にいろいろな約束を持ってこれました。
――オープニングでありタイトル曲でもある「HUMAN」はサウンドプロデューサー・島田昌典さんによるプロデュース・アレンジ楽曲で、作詞・作曲はお馴染みのハヤシケイ(LIVE LAB.)さん。<人は一人きりじゃ生まれてこれないのに 人は一人きりじゃ生きてはいけないのに>という幕開けは、ReoNaさんのアルバムならではだなと。
ReoNa:ケイさんをはじめとして、ReoNaという存在に関わってくださるクリエイターさん一人ひとりに感じているのが、言語化能力のすごさというか……。私が鬱屈として、音楽やアニメに救いを求めていた時期って、自分の中に言語化能力、語彙力がなかったんです。その時々で感じている苦しさや辛さに対して、「死にたい」「消えたい」という言葉しか出てこなくて。他の言葉を持っていたら自分の中のモヤモヤに折り合いをつけて飲み込むことができたのかもしれないのですが、感情の名前を知らないから、知ってる言葉を当てはめていく。だからそういう……大きな言葉で自分の気持ちを表現していたんです。
言葉を知らなければ「死にたい」「消えたい」につながってしまうものに、「あなたの気持ちってこういう言葉なんじゃないの?」という答えをくれるクリエイターさんたちだなと。それを『HUMAN』で改めて感じました。大きな出会いの果てで、ReoNaの音楽を一緒に作ることができているんだなと感じています。
――ハヤシケイさん、毛蟹さん、傘村トータさん、堀江晶太(PENGUIN RESEARCH)さん、島田昌典さん、ruiさん、cAnON.さん、澤野弘之さん……すごいメンバーが揃っていますよね。
ReoNa:そうですね。<出会い 別れ それでも生きていく>を歌っていく中で、新たな出会いもあった1枚です。デビューしてから5年間の歩み、出会いがあったからこそ、今歌えているお歌だなと「HUMAN」に感じています。
――ポップで温かな絶望系ソング「HUMAN」から、壮大な「Weaker」。「Weaker」はまるでファンファーレのようだなと。
ReoNa:はじまりのお歌という感じがありますよね。1曲目「HUMAN」には、『HUMAN』というアルバムがはじまるよ、という合図があって。2曲目の「Weaker」でファンファーレが鳴るっていう。『ソードアート・オンライン』という作品の世界を感じていただけるお歌としても、無理難題のクエストに立ち向かっているプレイヤーの一人ひとりにも寄り添うお歌にもなっています。
――「Weaker」は新宿ダンジョン攻略体験施設 THE TOKYO MATRIX「ソードアート・オンライン -アノマリークエスト-」主題歌)。 THE TOKYO MATRIXにも行かれたのでしょうか?
ReoNa:先日先駆けて体験させていただいたんです。事前に資料をいただいていたのですが、当日に味わいたいと思ってなるべく見ないようにして、わくわくしながらお邪魔させてもらいました。
この空間に「Weaker」がかかるんだなぁと思うと改めて感慨深いものがありました。『ソードアート・オンライン』シリーズの世界を体感できる空間で。アトラクションとしても楽しい場所でした。『ソードアート・オンライン』を深く知らない方も、知っている方も楽しめる場所だと思います。アルバムではもちろんですが、あの場所でもお歌を受け取っていただきたいです。
ボカロP・傘村トータさんとの邂逅
――TVアニメ『シャドーハウス』主題歌「ないない」、「シャル・ウィ・ダンス?」に続き、傘村トータさんが作詞・作曲を手がけられた「さよナラ」が。さよとナラの物語が本当に切なくて……。
ReoNa:傘村トータさんの大きなおおきな魅力のひとつに、生み出す物語があると思っています。「unknown」でご一緒させていただく前に傘村トータさんの「明けない夜のリリィ」を聴きました。
自分とは違う「誰か」が主人公ではあるんですけども、その状況になったことがなくても、感情移入して涙が流せる。どんな引力で、どんな魔力なんだろう、と思ってしまうほどでした。「さよナラ」は、その傘村トータさんの引力、魔力が詰まっているお歌だと思っています。
――傘村トータさんも日本武道館にいらしてたんですよね。
ReoNa:いらっしゃってました。終演後に顔を合わせるタイミングがあったんです。
傘村トータさんとは、今まで歩んできた時間以上に一緒にいる感じがしています。長い間、一緒に歩んできた感覚がありますね。
なにごとにも「慣れたくない」
――「さよナラ」は荒幡亮平さんのピアノからはじまります。その直前にReoNaさんと荒幡亮平さんが目を合わせているんだろうな、という雰囲気すら伝わってきて。
ReoNa:荒幡さんとしか作れない空間、音色が明確にあって。想像していただいた通り、荒幡さんとブース越しに向き合う形でレコーディングしたんです。楽曲によってなんですが、部屋を暗くすることがあって。「トウシンダイ」がきっかけだったんですけど。
――覚えています。「トウシンダイ」のときに暗くしたことで「気持ちのまま、そのままの私で歌えた」と。その後もそうやってレコーディングする可能性があるかも……と当時おっしゃっていました。
ReoNa:今では真っ暗にしてもらったのに「これ以上、暗くならないんですか?」と言って笑われてしまうくらい。それで「さよナラ」の時に、顔が見えるくらいの薄暗さにしようかなと思ったら、荒幡亮平さんが「良いねぇ、同じ暗さにしてください」と。お互いの動きはなんとなく見えるくらいの中でのレコーディングになりました。視覚の情報が薄くなると、目に頼らない分、耳をそばだてられるような感覚があって。
――まさに一対一の空間ですものね。
ReoNa:まさにですね。自分自身とも一対一ですし、荒幡亮平さんとも一対一。そんな空間で歌わせていただいたからこそ、呼吸ひとつが合図になって、荒幡亮平さんの音色が伸びていくのを身体で感じて。そうした生々しさや息遣いも入っていると思います。
――レコーディングは別々に録られる方も多いですけど、ReoNaさんはバンド形式で一緒に録音されていくことが多いですよね。
ReoNa:そうですね。でも楽器をレコーディングしてあとでボーカルRECということもありますし、絶対に「こうやって作らなきゃいけない」というものはなくて。例えば「Someday」の時に楽器のレコーディングを見に行ったんです。
楽器のレコーディングにはいつもお邪魔していて。それでReoNaの声が入った状態でレコーディングした時、プレイが変わったことがあって。それでその場で急遽「ReoNaがブースに入って歌ってみるか」というお話になって、実際に皆さんと一緒にお歌を紡いでいったら、そのテイクが良かったから「これで行こう」となりました。
だから本当に決まりはなくて。お歌の数だけ、いろいろなやり方があります。
――良い音楽を作るためになんでも挑戦させてくれる、その柔軟さがReoNaチームならではですね。
ReoNa:よくするためにはどうすれば良いんだろう、というのを考えてくれています。ルーティーン化したほうが楽なところもあるとは思うんですが……最近は「慣れないためにどうしたら良いんだろう」ということも考えています。
――きっとライブもそうですよね。
ReoNa:そうですね。“こなすもの”にしちゃいけないなと思っていて。私の中では、一年の中で何度も立たせてもらうステージ。だけど、その日はじめてReoNaを見に来てくださった方も絶対にいるし、その日を境に会えなくなってしまう人もいるかもしれない。
そう思ったときに、その人に「来てよかったな」と思っていただけるように、記憶にちゃんと残るようなライブにするためにはどうしたら良いんだろうって……これはきっと一生考えるべき問題なんだと思います。
――その考えを現時点で持たれているReoNaさんがすごいと思います。環境の変化があってライブに来られなくなってしまう人もいるかもしれないですもんね。
「FRIENDS」に新しい出会いが
――「さよナラ」と「FRIENDS」はどちらもともだちの曲で、さらに“オオカミ”という言葉でもつながるものがあります。
ReoNa:「さよナラ」と「FRIENDS」もそうなのですが、『HUMAN』という作品はお歌同士が対になっている側面があるといいますか、、、絶望に対していろいろな方向から寄り添っています。そんな中でも、“ともだち”に対する思いを「さよナラ」と「FRIENDS」から感じていただければと思います。
――「FRIENDS」には<嫌われたくなくて 本⾳で話せなくて、ごめんね ずっと⼀緒だとか 果たせない約束しちゃって、ごめんね>と“ありがとう”ではなく、ごめんねという思いを込めた歌の先に<Eternal friends>という言葉があって、ReoNaさんらしい歌詞だなと思いました。
ReoNa:ありがとうございます。自分の思い出の中から選んできた言葉たちです。私は日本語部分を書いて、英語の部分はruiさんが書いています。例えば永遠の言葉ひとつにしてもforeverじゃなくて、eternalなんだ、とハッとさせられることもありました。英語を第一言語とされているruiさんだからこそ選べるニュアンスがたくさん入っています。
――「FRIENDS」は洋楽風のはじまりではありますが、なんだかノスタルジックで、新鮮な印象がありました。
ReoNa:実は「FRIENDS」の中にも出会いがあって。ruiさんが普段ご一緒されている方による演奏だったんです。ギターはcoldrain のSugiさんが弾いてくださって。ベースの葛城京太郎(RED ORCA)さん、ドラムの岡Pさんも“はじめまして”でした。
――新しい出会いがこの作品でもあったのですね。