アニメ映画『兵馬俑の城』日本語吹き替え版 モンユエン役・福山潤さんインタビュー|中国のアニメ、エンタメ分野の技術力や熱を感じて、楽しんでほしい
中国で大ヒットを記録したフルCG劇場用アニメ『兵馬俑の城』の日本語吹き替え版が2023年6月16日(金)より全国公開!
『兵馬俑の城』は、2021年7月に中国で公開され、同年の第24回上海国際映画祭最優秀アニメーション作品賞にノミネートされました。
兵士をかたどった兵俑で、心を宿すモンユエンは雑用係を務めているがいつか武勲を立てて、鋭士と呼ばれる精鋭部隊に所属することを夢見る少年。将軍から鋭士になる条件として出された課題の霊獣退治のため、霊獣を探しているとシーユイという少女と遭遇し、2人は一緒に旅に出ることに。冒険の中で繰り広げられるバトル、明らかになっていく謎、そしてモンユエンとシーユイのラブストーリーなどが詰まったハイクオリティかつエンターテインメント性あふれるファンタジーフルCGアニメーション作品です。
日本語吹き替え版公開を祝して、モンユエン役を演じる福山潤さんに、本作の印象や見どころ、オーディション秘話、収録での思い出などをたっぷりと語っていただきました。
ハイクオリティな映像美で、ラストまであっという間に感じられる作品
――『兵馬俑の城』についての印象をお聞かせください。
モンユエン役・福山潤さん(以下、福山):中国発のCGアニメや2Dアニメが、日本でも放送や配信されたり、自分も仕事として関わることもあったので、今の中国のアニメのレベルがかなり高いことは知っていました。なので、今回の吹き替えのお話をいただいて、「きっとクオリティが高いんだろうな」と想像していましたが、実際に見てみたら映像美が素晴らしくて。
例えばお祭りのシーンの光の表現や、獅子舞や龍、山車なども複雑なのに動きは活き活きしているし、霊獣のデザインもおもしろいですし。アクションシーンもカメラアングルがグリグリ動きっぱなしで、画面が止まっている瞬間がほとんどないんですよね。映画を見た方はあっという間に感じられるのではないでしょうか?
純粋にエンタメ作品としておもしろかったし、わかりにくさがない、王道のストーリーとして作られていました。声優としてもハイクオリティな作品に、声をあてられることが楽しかったです。
――「兵馬俑」が埋葬されているはずの地中に都市があり、兵馬俑も神から命が与えられているという設定もファンタジックですよね。
福山:中国らしい設定ですね。こういうファンタジー作品は日本でもたくさんあって、例えば陰陽師系ならば式神や陰陽道があったり、戦国ものと怪奇ものを合わせてみたり。結局、それぞれの国が持っている歴史や文化を取り入れたファンタジーやエンターテインメントは、その国で作ることで、根付いているものとファンタジーとして描けるものを理解した上で制作できると思うんです。「地下に兵馬俑の世界がある」という題材や設定は自国の文化だから得られる着想なのだろうなと思いました。
――中国の声優のお芝居や、原音を聞かれた印象は?
福山:既に原音で完成されているし、「日本ならこういう感じなのにな」みたいなものはいっさい感じませんでした。アテレコする技術については、日本の声優は長い間研鑽してきたという実績はあると思いますが、役者さんが1つの作品に全精力を注ぎ込んでいるという意味では違いも遜色もなく、素晴らしいものになっていると思います。
モンユエンは福山さんにとって久々のど真ん中な少年主人公。経験を積んだからこその苦労や楽しみも
――演じるモンユエンの印象と共感できる点、魅力を感じた点などお聞かせください。
福山:モンユエンは兵俑の中でも下っぱの雑用係で、命の形が兵俑と人間とで違うくらいかなと思っていました。霊獣という外敵からみんなを守るために戦って、功績を挙げて出世したいという少年で、自分の世界がまだ狭い時の状態の目標と、世界の広さを知ってしまった後の自分という成長物語として親しみやすい人物像だなと思っています。
――モンユエンは雑用係から城や街を守るために戦う鋭士になりたいという願望が強いキャラクターですが、登場当初は少年っぽさや幼さを感じました。
福山:人間ではない兵俑が月日を重ねていく中で年をとったり、成長していくものなのかはわかりませんが、それぞれ作られたデザインや役割に縛られているのかもしれないし、縛られているからこそ、その状況から抜け出したいという想いが強いのかもしれません。そういう部分も含めて、キャラクター性を考えていきました。
――演じる上で難しさを感じた点はありますか?
福山:今の自分はそれなりに年齢や経験を重ねてきたこともあって、セリフを腑に落ちた言葉にしてしまうかもという心配はありました。モンユエンはまだ経験がないし、出会ったシーユイも兵俑なのか、人間なのかもわかっていない状態で。更に序盤で霊獣が現れた時、「自分がやってやるんだ!」という気持ちにどこまで実感があるのか、やりすぎてしまうとモンユエンが経験のある兵士であるように聴こえてしまうし、後のふれ合いや成長していくところと差が出なくなってしまう。なので、経験値をなくした状態で、しっかり演じつつも強くみえないように、というところに落ち着けていく、前半の1時間が一番大変だったかもしれません。特に最初の15分くらいまでの間は、2度3度テストを重ねてから本番に入る形になりました。
――アドリブを入れた部分などはありますか?
福山:基本的にはなかったですね。後ろでシャオバオ(一緒に旅をする青銅のヤギ)とわちゃわちゃしている時、例えば追いかけっこをしていて、つなぎでひと言入っているかもしれませんが、意味がある言葉は入れていません。この作品にはアドリブを入れるすき間がないので。
――収録ではどんなディレクションがあったのでしょうか?
福山:テストをやった後、「まだ視野や了見が狭い中で自分の目標に向けて真っすぐに進んでいくので、少年らしさや未熟さを前面に出すように」というディレクションがありました。感情表現やキャラクターの大枠の部分に関しては、オーディションの時に自分が作っていったものとそれほどかけ離れたものはなかったかなと思います。
実はオーディションでは、モンユエンとシャオバオで受けて、僕の本命はシャオバオでした。なので、モンユエンで二次審査に進んだと聞いた時はビックリしました(笑)。僕は若手の頃は少年役を中心に演じることが多かったんですが、最近はこういう真ん中の少年役を演じる機会はあまりなかったので初心に帰って、「今、作品の中心にいる少年を演じたらどうなるんだろう?」と楽しみつつ、新鮮な気持ちでやれました。頭で考えるよりもまずは自分が感じたまま演じてみて、そこからモンユエンのキャラクターを組み立てていきました。
――ど真ん中の少年役を今回演じられて、新人や若手だった頃に演じた時との違いは感じましたか?
福山:違いはありませんが、若手の頃のように一生懸命やればいいわけでなく、更にここまでクオリティが良い映像でモンユエンの表情を見ながら、音楽やSEを聴きながら演じるられるので、自分が視聴者として感じた気持ちが上がる部分や、いいシーンだなとせつなさを感じたシーンを、どう演技に組み込んでいこうかと考えながら演じなくてはいけないことでしょうか。でも、もし吹き替え作品でなければ、BGMもSEもない状態で収録するので、聴きながら演じられる利点を最大限に活かそうと思いました。
――映像を見たり、原音を聴いたことでアプローチなどの変化はありましたか?
福山:テンポ感や、ぬるぬる動くのか、きびきび動くのかでイメージが変わってきます。今回はきびきび動くほうで、表情の変化やアクションが滑らかだったので、声にしっかり表情をつけていかないと映像に置いていかれてしまうかも、と二次のアテレコ審査で感じました。もし自分が演じることになったら、体力勝負になるだろうなとも思いました。
また今回、既に入っていた中国の言語に助けられた部分も多々ありました。ハイテンポで進んでいきますが、中国の言葉のリズムが、演じる上でも追い風になっていて。言葉がとんとん前に進んでいくので、その言葉に身を委ねていけば、意味のとり違いもなく、言葉を出していけました。ハイスピードのテンポが速いお芝居に声をあてようとすると、気持ちが急いてしまって、音よりも意味が後ろにいっちゃうことが多いんですが、耳に入ってくる言葉にリズムがしっかりあるので、込める言葉の頭にニュアンスを乗せやすいなと感じました。