原作のアレンジと90年代アニメのオマージュを融合した劇場版「美少女戦士セーラームーンCosmos」監督&プロデューサーが約3年の制作秘話を語る|「美少女戦士セーラームーン」を愛するスタッフ陣が同じ方向へと突き進んでーー
大人になって感じる月野うさぎの偉大さ
ーーインタビュー全体を通して、本作は「うさぎになれなかった子」というのがかなり物語の鍵を握っているなと思いました。
髙橋:うさぎちゃんは悲しみに囚われた人に前へと進むきっかけを与えてくれる子なんですよね。大人になってから分かるうさぎちゃんの魅力はたくさんありますよね。
ーー子どもの頃、うさぎは泣き虫でかわいいお姉さんなイメージでしたが、大人になってから、うさぎの偉大さに気が付いた方は多いと思います。
髙橋:そうなんです! 僕も「うさぎちゃんならどうしてるかな?」と考えながら制作しています。嫌なことがあると「今ギャラクシアになってるわ」みたいな(笑)。
五味:闇堕ちする時はありますよね(笑)。
髙橋:それでも最良の選択をする時には、うさぎちゃんのことを思い浮かべます。
ーーうさぎに憧れつつ、うさぎのように前へ進めない時は誰にでもあると思います。
髙橋:“うさぎになれなかった人”を一切表現せずに、「美少女戦士セーラームーン」を描くのは無理だと思っています。敵側も丁寧に描くと、よりうさぎちゃんの魅力が伝わりますし。
武内先生の伝えたい思いを引き継ぐように、セーラーティンにゃんことセーラーレッドクロウ、セーラーレテ、セーラームネモシュネは特に丁寧に描きました。
みなさんその時々で好きな戦士がいると思いますが、「やっぱりうさぎちゃんが主人公だ」とやっぱり最後みなさんその魅力を感じていると思います。うさぎちゃんの魅力をどれだけ表現するかが僕の課題でしたし、今でもうさぎちゃんに勇気づけられています。
ーーそんなうさぎですが、今回は特に仲間がいなくなってしまってかなり心が折れかけてしまいます。
髙橋:前世で同じくらい辛い思いをした結果、セレニティが選んだのは“自害”なんですよね。なので、今回の転生でいかにうさぎちゃんが成長しているかもテーマだと思いました。前世では選ばなかった未来を「Cosmos」最後では選びます。
真っ直ぐに生きることの大切さは言葉にしなくとも皆さんに感じていただけると思います。それが武内先生からのメッセージですし、それを伝えるのが僕の使命でした。
ーー改めて「美少女戦士セーラームーン」は人生を歩む上で大切なことを教えてくれる作品だなと思います。携わっていた皆さんだからこそ感じる「美少女戦士セーラームーン」の魅力について教えてください。
五味:連載開始時から編集部にいてずっと見てきましたが、キャラクターが魅力的で本当の意味での悪役がいないです。漫画やアニメは完全な悪役がいた方が物語を作りやすいのですが、「美少女戦士セーラームーン」は一貫して敵役の事情や背景が詰め込まれています。
敵サイドが描かれているのが最大の魅力だと感じています。「世界線が変わっていたら仲良くなれていたのに」と思いますよね。
ーー敵にも感情移入してしまいます。「美少女戦士セーラームーン」世代の髙野さんは、どのようなところが魅力だと思われますか?
高野:子どもの頃は、背が高くて男の子のような子でした。背が高くて男勝りなのに女性らしさがあるセーラージュピターを見て、子どもながらに肯定された気がして。
「美少女戦士セーラームーン」は“女性らしく”を除外視して、個性を認めてくれています。その人らしさを肯定して良いと伝えてくれた作品です。複数のセーラー戦士を好きなファンは多いですが、それは個人の良さを認め合えているからだと思います。
ーーうさぎは、その人が気にしている部分も含めて愛してくれますよね。
髙橋:確かに、だから肯定し合える関係性になりますし。
髙野:狙って好きになろう、親切にしようとしていないのがうさぎちゃんの良さです。自然と受け取りやすい優しさと愛なんですよね。
ーー同じく「美少女戦士セーラームーン」を見て育ってきた髙橋監督はいかがですか?
髙橋:子どもの頃、アニメ業界を目指す前から好きで関わってきました。うさぎちゃんと共に人生を歩んでいますが、業界内に入ってから90年代アニメがいかに凄いかがわかりまして。
第2次「美少女戦士セーラームーン」ブームがあり、原作を読み返して、やっぱり行き着く先はうさぎちゃんの真っ直ぐな生き方です。
今回、制作チームもセーラー戦士たちのように同じ方向を向いて、目指した作品が作れました。僕もギャラクシア側の人間ですが、いかに作品の完成度を高めるかをうさぎちゃんに教わっています。うさぎちゃんのような純粋な心や行動力などは学校では教えてくれないことです。
本作を通してうさぎちゃんと旅ができて、とても嬉しく思います。うさぎちゃんと出会えて良かったです。
作品の見どころはエンドロール前は原作1巻のオマージュ!
ーー読者の方に後編の見どころをお伝えください。
五味:原作ファンも90年代アニメファンも「美少女戦士セーラームーン」が好きな方でしたら、皆さん楽しめる作品です。ラストシーンはアニメと原作を比較しても構わないので、とにかくしっかりと見ていただきたいなと思います。
髙野:過去最大級に仲間がいなくなってしまい、うさぎちゃんは精神的に疲れてしまいます。それでも、立ち上がるんです。誰しも落ちる時はありますが、そんな時はうさぎちゃんからの勇気を感じていただけたらと思います。
あと、エンディングの最後の最後まで座ってご覧ください! 最後まで全てが見どころです。
髙橋:本編が終わっても見どころです。でも僕はやっぱり、うさぎちゃんが選ぶ最後の選択ですね。僕自身が励まされてきましたし、やさぐれそうな時に思い出してもらえる内容だと思います。
ぜひ、うさぎちゃんの選択を見守ってください。観るたびに発見があって、遠い未来にでも気が付くことがあるかと思います。
あと、実はエンドロール前のシーンは、原作1巻のルナと出会った後をオマージュしています。脚本の筆安(一幸)さんから、うさぎちゃんが「ただいま」と帰ってくる演出を提案されました。もしかしたら気がついていない方もいるかもしれないので……。
ーー原作1巻のオマージュなのは素敵な演出です。気がついていない方にはぜひ見返してほしいなと思います。本日はありがとうございました。
[取材・文/杉村美奈]
劇場版「美少女戦士セーラームーンCosmos」作品情報
あらすじ
その矢先、うさぎの恋人である地場衛がアメリカへ留学することに。衛の見送りの空港で、うさぎは衛から婚約指輪を渡される。ふたりが未来を誓った直後、衛は何者かの手によってうさぎの目の前で消滅させられてしまう。
衛が消えた現実を受け止めきれないうさぎは、その記憶を心の奥底にしまい込んでしまった。
そんな中、うさぎたちの前に、突如セーラーギャラクシア率いるシャドウ・ギャラクティカ、そしてセーラースターライツが現れる。セーラースターライツが敵か味方かわからないまま、セーラー戦士たちは圧倒的な強さを持つセーラーギャラクシアに、力の源である“セーラー・クリスタル”を奪われ、次々と消されていく。
ふたたび自分の愛する人たちに出会えることを信じて――。
キャスト
水野亜美/スーパーセーラーマーキュリー:金元寿子
火野レイ/スーパーセーラーマーズ:佐藤利奈
木野まこと/スーパーセーラージュピター:小清水亜美
愛野美奈子/スーパーセーラーヴィーナス:伊藤静
ちびうさ/スーパーセーラーちびムーン:福圓美里
天王はるか/スーパーセーラーウラヌス:皆川純子
海王みちる/スーパーネプチューン:大原さやか
冥王せつな/スーパーセーラープルート:前田愛
土萠ほたる/スーパーセーラーサターン:藤井ゆきよ
地場衛/タキシード仮面:野島健児
星野光/セーラースターファイター:井上麻里奈
大気光/セーラースターメイカー:早見沙織
夜天光/セーラースターヒーラー:佐倉綾音
セーラーギャラクシア:林原めぐみ
火球皇女:水樹奈々
ちびちび:三石琴乃
セーラーアイアンマウス:小泉瀬奈
セーラーアルーミナムセイレーン:村瀬歩
セーラーレッドクロウ:日笠陽子
セーラーティンにゃんこ:伊瀬茉莉也
セーラーヘヴィメタルパピヨン:工藤晴香
セーラーレテ:三上枝織
セーラームネモシュネ:伊藤かな恵
セーラーφ(ファイ):水沢史絵
セーラーχ(カイ):小松由佳
セーラーコスモス:北川景子
(C)武内直子・PNP/劇場版「美少女戦士セーラームーンCosmos」製作委員会