『特別編 響け!ユーフォニアム~アンサンブルコンテスト~』石原立也監督×小川太一副監督インタビュー|今まで“森”を見ていた久美子が、“林”も見るようになった――彼女がどこへ着地するのかの指標にもなる作品【スタッフ&声優 短期連載:第1回】
京都アニメーションのハイクオリティな映像でも大人気の『響け!ユーフォニアム』シリーズ、約4年ぶりの新作がついに完成! 作品集『響け!ユーフォニアム 北宇治高校吹奏楽部のホントの話』(著:武田綾乃)の中編を原作とする完全新作『特別編 響け!ユーフォニアム~アンサンブルコンテスト~』が、2023年8月4日(金)から全国74館の劇場で上映されます。
主人公となる、北宇治高校吹奏楽部の黄前久美子は、2年生の秋を迎えて新部長に就任。部長としての最初の大仕事は、12月に開催される、小編成によるコンテスト「アンサンブルコンテスト」です。代表チームを決める校内予選に向けてのチーム編成の時点から、すでに悩みの多い久美子ですが……。
アニメイトタイムズでは、本作の上映開始に合わせてスタッフ&キャストへのインタビュー連載企画を実施。第1弾となる今回は、『響け!ユーフォニアム』の全作品で監督(『劇場版 響け!ユーフォニアム~届けたいメロディ~』では総監督)を務めてきた石原立也監督と、テレビシリーズ第1期から演出や絵コンテを担当し、『劇場版 響け!ユーフォニアム~届けたいメロディ~』では、監督を務めた小川太一副監督の対談。本作の制作裏話だけではなく、すでに制作が決定しているTVシリーズの続編『久美子3年生編』に向けての思いなども語りあってもらいました。
『アンサンブルコンテスト』は、シリーズの中に入っていても良いくらいの話
――先に制作が発表されていたTVシリーズの続編『久美子3年生編』の前に、本作が制作される事になった経緯を教えてください。
小川太一副監督(以下、小川):続編に向けて、すでにかなり時間が空いてしまっていて。我々としても、待って下さっている皆さんをこれ以上お待たせするわけにはいかないという気持ちがまずありました。それに、『久美子三年生編』にむけての助走みたいな意味合いで、何かやりたいよねという話があって。まずはOVA的なものを作ろうという案が出てきたんです。じゃあ、(題材として)原作の短編エピソードである『アンサンブルコンテスト』が良いんじゃないかなという話から、まとまっていきました。
石原立也監督(以下、石原):『アンサンブルコンテスト』が良いとなったのも、理由があったよね。
小川:そうですね。時系列的に、(前作の)『誓いのフィナーレ』(『劇場版 響け!ユーフォニアム~誓いのフィナーレ~』)の続きだというのも大きいですよね。久美子が2年生の時の関西大会で、全国大会には進めずに終わってしまって。『誓いのフィナーレ』のラストに久美子が部長になったことが明かされた、そのすぐ後の話なので、観てくださる皆さんとしても、僕らとしても気になりますし。平たく言ってしまうと、美味しい時期の話なのかなと(笑)。
石原:TVシリーズの中に入っていても、良いくらいの話だよね。
――『アンサンブルコンテスト』は、短編集『響け!ユーフォニアム 北宇治高校吹奏楽部のホントの話』収録作の一つで、最も長い作品です。OVAを1本作るという方針になった時、『アンサンブルコンテスト』以外の短編も候補に挙がってはいたのですか?
小川:わりと早くから、1本やるなら『アンサンブルコンテスト』だろうといった話になっていましたよね?
石原:そうそう。僕は、『アンサンブルコンテスト』の他にどの話にしようみたいな相談をした記憶がなくて。
小川:それよりも前、(2021年に発売された)5周年のドラマCD(「響け!ユーフォニアム」5th Anniversary Disc ~きらめきパッセージ~)の頃から、OVAの話は出ていました。ドラマCDでも、短篇集の話を何本かやらせてもらっているんですが、『アンサンブルコンテスト』は、その中に入れるには大きな話で。久美子新部長にとっては、最初の大仕事でもあるので、これをやるなら、やっぱり映像でやった方が良いよね、みたいな理由もあって、『アンサンブルコンテスト』はドラマCDに入れませんでした。ドラマCDのエピソード選出のときに、まず原作の短編集からアニメ化していないエピソードを一覧にしたんですけど、そのときから考えていましたね。
――本作でのお二人の役職は、監督と副監督ですが、制作作業の役割分担は、どのようになっていたのですか?
石原:私としては、なるべく自分の作業を楽にしていきたいわけです(笑)。
小川:そこは切実ですよね(笑)。
石原:まあ、今のは半分冗談だけど。実際、僕が彼に求めたのはそういうことなので。この作品(『響け!ユーフォニアム』)は、(監督の)やることがとにかく多いんですよ。
小川:それは、僕も今回、副監督になって実感しました。
――どういった作業が多いのですか?
小川:やっぱり、音楽周りが一番大きいかなと思います。
石原:うんうん。
小川:「この合奏では、どんな楽器を使うか」みたいに知っておくべきことが多岐にわたっているので。吹奏楽経験者のスタッフの手を借りたり、話を聞いてもいるんですが、普通のアニメ作品よりも(監督が)管理しないといけない情報が断然多いんです。監督一人では、回せない作業量だし、副監督という役割ではなかったとしても、誰かしらサポートする役は必要な作品だと思います。
石原:この作品の場合、音響監督とは別に、音楽周りの(シーンの)監督みたいな役割も必要なわけです。
――音楽監修としては音楽家の大和田雅洋さんが参加されていますが、演奏シーンなどの画作りに関しても専任スタッフが欲しいわけですね。
小川:1期の時から、吹奏楽のことに関してはかなり探り探りでしたよね。もちろん、経験者のスタッフにチェックしてもらうなど、誠実に描写するようにずっと心がけてきましたし、シリーズを重ねる中で、大和田先生を始め、いろいろな方にふわっとではなく詳細に相談できるようになっていきましたが。
石原:1期の時は、何も知らなかったからできたってところもあるかもしれない(笑)。でも、シリーズが続いて、僕らも吹奏楽についてだんだんと勉強していくと解像度が上がってくるので、「これは、間違っているかもしれないな」とか分かってくるんですよ。そうなると、そのままにはできないから、考え直したりするわけです。
小川:良い意味で、1期はのびのびできたかもしれません(笑)。
石原:今の方がより正確な描写になっていると思います。あと、副監督としての役割で言えば、僕が悩んだりした時に参考意見を言ってもらうとか、いろいろとあるよね。
小川:何かあったら、その都度相談してという感じなので、「僕はこれしかやりません」みたいなかっちりした決め事は無く進めています。