『君たちはどう生きるか』とは何だったのか? 物語のテーマから夏子の行動、石の謎など物語に点在する謎を大考察!【ネタバレあり】
物語の考察や、見る人によって様々な感想が語られ話題となっているスタジオジブリの宮﨑駿監督最新作『君たちはどう生きるか』。
本作は、不思議な世界観と、目まぐるしく変化する展開、後半にかけて抽象度が上がっていくストーリーが話題を呼び、様々な考察や感想が日々投稿されています。
観た後には必ず誰かと語りたくなってしまう本作。筆者も例に漏れずガッツリお話する機会が欲しかったので、アニメイトタイムズ編集部のオタク編集者・ライターさんを集めて感想会を強行しちゃいました!
本稿ではその会の様子をまとめてお届けします。生まれも育ちも(オタクとして)違う3人で本作を語ってみると、三者三様の楽しみ方や物語の読み取り方があらわになり、より作品の複雑な構造や宮﨑監督の思いが明らかに!?
本作のテーマや見どころから、みんなが気になる物語の謎まで考察しちゃいます!
※本稿には『君たちはどう生きるか』の重要なネタバレが含まれます。また、個人の感想に基づく見解のため、様々な憶測や予想が含まれています。後に公開されていく情報によって、間違った見解であると証明される場合もあります。あくまでも作品を楽しむひとつのエッセンスとしてご覧ください。
目次
- 本稿に登場するオタクたち
- 宮﨑駿監督の伝えたいことは初期作品から変わっていない
- 青サギの目的は? 宮﨑監督の人生を描いた作品なのか?
- 物語の重要な鍵を握る「石」の存在
- 夏子さんはなぜあの世界で出産しようとしたのか
- 最後に個人的に好きなシーンを言い合うオタクたち
- 『君たちはどう生きるか』は、永く語り続けられる大傑作?
- 作品情報
本稿に登場するオタクたち
ライター・タイラ
2020年に行われた「ジブリ劇場再上映」を受け、作品の面白さを改めて感じ、宮﨑駿、高畑勲、スタジオジブリ作品や周辺知識、作家の人生や思想などを勉強中。
『君たちはどう生きるか』は感想会当時で2回観賞。一番好きな作品は『もののけ姫』。
ライター・小川いなり
映画全般、アニメ全般、特撮全般、漫画全般、サウナ全般など、広大な守備範囲と確かな知識量を持つ筋金入りのオタクライター。
『君たちはどう生きるか』は2回観賞。一番好きな作品は『天空の城ラピュタ』。
編集者・石橋
アニメイトタイムズ編集者。自称王国民。オタク歴が長く、ゲームや音楽にも精通している。
『君たちはどう生きるか』は1回観賞。一番好きな作品は『風の谷のナウシカ』。
宮﨑駿監督の伝えたいことは初期作品から変わっていない
タイラ:今日はよろしくお願いします! 今回みなさんに集まってもらいましたけど、実際のところみなさんも『君たちはどう生きるか』についていろんな感想があるんじゃないかなと思っています。
石橋:話してみてようやく腑に落ちるところもあるだろうね。理解できてない部分も多いだろうから。
タイラ:そうなんです。早速、ざっくりと感想のコーナーに行きたいのですが、僕は1回目に見たときに「夢を見たみたいだ……」とポカンとしてしまいました。
これまでのどの作品よりもずっと不思議で抽象的。心が踊るような展開というよりは、終始じっとりとドキドキが継続しているような感覚で、頭がふわふわしたまま終わってしまいましたね。
石橋:わかる。
タイラ:2回目に冷静になって見ると、色々気づいたことがあったり、これまでの宮﨑監督の書籍や言葉を思い出して、主人公の眞人が現実世界に帰ってくるシーンで涙してしまいました。
小川:僕も最初はわからないことだらけだったのですが、ひとつ言えるのは“これまでの宮﨑作品は同じテーマや主張”なのでは? ということです。
『千と千尋の神隠し』や『天空の城ラピュタ』といったその他多くの作品たちと同じく「異世界や冒険から主人公が帰ってくる」という物語構造が一貫しています。
千尋が油屋から現実に、パズーとシータがラピュタ(空)から地上に帰るように、眞人は塔の向こう側の世界から現実に帰ってきた。
キャラクターたちはどんなに素敵な場所に行ったとしても、最後には地に足がついた現実世界へと戻ってくるわけですね!
新海誠監督のような時代の流れを読んで、その時に重要なことを作品に込める作風とは対象的に、宮﨑監督は当初から同じ作り方をしていた。普遍的なことを語ってきた方なのかもしれないなと思いました。
現実よりも良い世界があるとしても、そこでは生きられない、生きることを選ばないというか。ただ帰ってくるだけでなくて、複雑な儀式や、感情を経て現実を生きるような感覚ですかね。
石橋:なるほど。生きられないっていうのは初期からそうだったのかもね。『風の谷のナウシカ』なんてまさにそんな話だった。確かに宮﨑監督はそういう作風の監督さんだよね。
俺は1回しか見れてないんだけど、最初は手放しに面白かった〜! って言って良い作品なのか? と思ってしまった。というのもやっぱり謎が多い作品だったから、理解しなければいけないという思いが強くなってしまっていたのかも。一緒に見に行った人と頑張って考察してみたんだけど、完全に理解できなくて。
でも、数日経った時に、こんなに分からないことが多いのに、楽しかったという印象がずっと続いていてすごいなと思ったね。逆にふわっとしたまま、不思議な体験としてこのまま保存しておくのも良いなと。それこそ主人公の眞人みたいにぼんやりと忘れていくけど、大切な作品になったと思う。
小川:わかります。良いですね。
石橋:インターネットの反応を見ると、かなり考察をしている視聴者がいて面白いよね。宮﨑監督が本気を出したというか、やりたいことを沢山詰め込んだ意味のありすぎる作品だからこその反応じゃないかな。宣伝活動も一切なかったから、いわゆる公式からの答えみたいなものも無さそうだよね。一生語ることがあるすごい作品だと思う。
タイラ:そうですね。味わい甲斐のある作品なので、消費的な見方をすると少しもったいないかなと思います。せっかく2000円近く払うので、しゃぶり尽くしたいです(笑)。楽しみ方が色々ある作品ですね。
青サギの目的は? 宮﨑監督の人生を描いた作品なのか?
タイラ:先程も話題に上がりましたけど、本作は物語のストーリーや展開に関しても謎が残っていたり、あえて説明を省いている部分が多い印象ですよね。ここからは疑問に感じたポイントや、みんなで話してみたいトピックスを挙げて話したいと思っています。
石橋:ホントたくさんあるから、2人に聞いてみたいと思っていたんだよね。まず気になっているのは、青サギの目的は一体何だったのか。
塔に眞人を誘う役割として登場していたけど、なぜ眞人を呼んでいたのか、果たして彼のやりたいことは達成できたのか分からない。
小川:確かに。
石橋:俺の解釈だと、あの塔から出てくると「記憶を失う」設定になっているから、青サギは出てきたは良いものの眞人を呼ぶ大事な理由を忘れていて、頭の片隅に「眞人を呼ばなきゃ……」という思考だけがあってそれを果たしているのかな? と。
眞人と塔の中に入っても結局よく分からなくて、達成できないまままた戻ってくるけど、眞人という友達ができたから良かったよね! って話かな〜と思っているね(笑)。
サギ(詐欺)って名前的にも悪人感があるので孤独っぽいし。
小川:青サギは良いキャラクターですよね。僕は彼のセリフである「サギの言うことは全部嘘」ということに基づいて作品のことを考えるのが楽しかったんですよ。
「おいでくださいませ」というセリフすら嘘かもしれない。眞人に「母親は生きている」と伝えるシーンもありますが、映画を見終わった後に考えると、確かに塔の中では生きていたけど、眞人が思う眞人の時代の母親はもう死んでいました。青サギはセリフも込みで面白いキャラクターだなと思いました。
また、サギが登場するまではリアル路線の話だったじゃないですか?
石橋:冒頭の火事のシーンもそうだし、眞人の学校のお話もあって、ファンタジー世界になるまで丁寧に眞人の話をしていたよね。
小川:そうなんです。サギが登場してからジブリらしいというか、ファンタジーの路線に寄っていったので、そういう物語を不思議な方向に持っていく役割を持っているのもサギなのかなと思いますね。
おはようございます。 pic.twitter.com/cUx13WBLD6
— スタジオジブリ STUDIO GHIBLI (@JP_GHIBLI) July 26, 2023
タイラ:鈴木敏夫さんのラジオ番組などで、本作を「僕と少年時代の宮﨑さんが旅をする話です」と語っていたことがあるそうで、一部のファンの間では青サギは鈴木プロデューサーなのでは? という考察もあるようです。物語をエンターテイメントとしてコントロールする役割を鈴木さんが担っている部分もあるとは思うので、それも考えられますよね。
僕も近い感想を持っていて、「宮﨑駿監督の人生を描いた作品」という見方もできるかなと思うんです。主人公である眞人は設定が幼少期の宮﨑さんとほとんど一緒なんですね。それに加えて、あの大叔父というキャラクターも宮﨑さんのエッセンスが含まれているかなと。そうなると、あの塔自体がスタジオジブリなんじゃないかな? と僕は妄想しています。
かなりの暴論なのでここでは省略しますけど、そう考えると登場するペリカンやわらわら、インコ、キリコにヒミなどそれぞれに当てはまるポジションが見えてくる。
例えば、あの老いたペリカンはベテランのジブリスタッフなんじゃないか? とか、あの塔で独自の王国を建てたインコは僕のようなジブリファンなんじゃないか? とか。
あと、公開前にはタイトルも相まって、教訓を教えてくれる映画では? という予想がファンの間でされていましたが、「僕はこう生きました、君たちはどう生きる?」というニュアンスもありましたよね。
本当にいろんな見方ができると思いますし、物語の抽象度が高いのでこういったメタ的な考え方をすることで、感想としての折り合いをつけているのかも、という実感もあります。
石橋:それで言うと、あの塔が崩壊するラストはちょっと悲観的な部分も含まれているのかもしれないね。
タイラ:そうかもしれないですね。しかし、青サギが言った「友達」というのは宮﨑監督の言葉でもあると思います。元々、「映画を見るのは一年に一回見るくらいで良い」と彼は書籍などで発言していて、映画を見ている最中に大いに葛藤し、用意されたラストのカタルシスで感動して、モヤモヤもあったけど楽しかったなという気持ちで帰るのが良いと言っているんです。
青サギが眞人に「塔のことは忘れてしまうけどそれでいい」と語るのはまさにそのことだと思います。
また、宮﨑さんは近所の子供達のことを「僕の友人が〜」という呼び方をしていて、青サギの言う「友達」とは、これまでにジブリを見て育ってきた僕たちや、これからジブリに触れる子供たちに向けた言葉なんじゃないかと思うんです。僕はその友達という言葉にグッと来て泣いてしまいましたね。