究極の即興劇『AD-LIVE(アドリブ)』の15周年公演『AD-LIVE 2023』が開演! 今年のテーマに込められた想いやキャスティングのポイントとは──総合プロデューサーの鈴村健一さんにインタビュー!!
『AD-LIVE 2023』のテーマは「運命のやりなおし」
――今回の『AD-LIVE 2023』のテーマを「運命のやりなおし」にした理由とどんな内容なのかご紹介お願いします。
鈴村:『AD-LIVE』は毎回やることを変えているので、「今回はこんな企画をやってみよう」とか「こんな世界観はどうだろう?」と常に考えていて、その年の公演が終わった途端に次の公演のテーマを決めるんです。
『AD-LIVE』は全公演を終えてから年末くらいまでの間に次回公演に向けての会議を開いて。その後テーマが決定するので、約1年かけて準備していきます。
今回のテーマが「運命のやりなおし」なんですが、過去に一度「人生の分岐」という今回のテーマに近いものに挑戦しようとしたことがあって。でも検証してみたら難しそうだったので、違う企画に変えたということがあったんです。
だけど僕の中では「人生の分岐」は即興劇に向いているし、いつかやるべきじゃないかという想いがずっと残っていて、「何とか形にしたい」と思っていました。それが今回の「運命のやりなおし」につながっています。
「人生の分岐」では未来に向けて分岐していく仕組みを考えましたが、その結果、膨大な分岐が生まれて、自分たちの手には負えなくなってしまって。
今回は起きた出来事に対して、過去を振り返っていき、その原因を探るという分岐であれば、逆に集約されていく仕組みになるんじゃないかと気付いたんです。また、ループものをやってみたいなとも思っていたので、「1回やったことを修正してみたらどうなるのか」というのも即興劇にとても向いていると感じました。
そんな構造から今回の企画は始まって、要素を絞り込んでいきました。試行錯誤の末に、より運命に翻弄されるような仕組みにしようと、「運命の玉」という運要素を入れ、いろいろなことがランダムで起きるようにしたんです。
また、『AD-LIVE 2016』では、2人の出演者のうちAさんは記憶が一切なくて、もう一方のBさんが全部の設定を握っているという仕組みを作りました。僕的にもおもしろい公演だったので、そのリバイバルもできないかと思い浮かべていたんです。
人生をやりなおすループものであり、分岐ものであり、『AD-LIVE 2016』の一方はすべての情報を知っているけど、もう一方は何も知らないという構図。それらを全部組み合わせて、ガッチャンコしました(笑)。
今年の『AD-LIVE』は突然相手から突きつけられるセリフや設定を否定せず、乗っかるしかない!?
――『AD-LIVE』を作っていく過程で、共演者の方とは打ち合わせや認識の共有化などはどこまでされるのでしょうか?
鈴村:一応、リハーサルはするので、そこでこういう動きになりますということは伝えますが、出演者全員で認識を共有するのは仕組みの部分だけですね。
「ここで過去に戻ります。そのためにここでこんな演出があります」みたいなギミック系の確認だけで、キャラクターについてお互いにすり合わせるということは一切ありません。開演してメインキャストが舞台上で出会って、そこで話しながら物語を進めていくんです。
進んでいく中で、「実は親子だった」ということもありえます。即興劇では相手から発せられた設定や起きた事象に対して否定よりも肯定したほうがおもしろいので、「あなたはお父さん!?」と言われたら「そう、私はお前の父だ」と、乗り合いしていくわけです。
今年もお互いのことを探りながら物語を構築していくので、めちゃめちゃ即興劇っぽい、原点に近い『AD-LIVE』になると思います。
お客さんも介入できる「アドリブワード」は『AD-LIVE』に欠かせない要素
――『AD-LIVE』といえば、お客さんから事前に募集した「アドリブワード」を思い思いのタイミングで引くことで、偶発的なハプニングや方向転換が起きる事がおもしろいシステムだと思います。
鈴村:「アドリブワード」には本当にいろいろな想いがあります(笑)。インプロ(即興劇)の競技スタイルの1つに「ペーパーズ」というものがあります。ランダムに言葉が書かれた紙を地面にばらまいて、それを拾って設定にしてもいいし、セリフにしてもいいんです。
昔インプロで「ペーパーズ」を観た時、すごく感銘を受けました。引いた紙をすべて演技に変えないといけないので、役者の瞬発力が求められます。なにより誰も先が読めない展開が刺激的で面白く『AD-LIVE』にも「ペーパーズ」を取り入れて、より使いやすくするためにバッグに入れておく仕組みを加えました。
あと、「AD-LIVE」に参加してくれる役者さんはみんな上手すぎるので、引っかかりがないと物語がするっと終わってしまうんですよね。そこで強制的にアクシデントが起きる仕組みとして、時にはその場をスムーズに動かす潤滑油にもなりえる装置として取り入れているんです。
でも一番大切にしているのは、お客さんが介入できるということです。僕は自分のコンテンツはできるだけお客さんに参加してもらえるように演出を考えるんです。例えば、ライブなら一緒に歌えるゾーンを多めに作っていますし、『AD-LIVE』の原点となった「鈴村健一の超人タイツ ジャイアント」でもたくさんイベントをやってきましたが、どれもお客さん介入型でした。
お客さんから生の声をもらって、それをセリフにして朗読劇にするとか、お客さんが撮影してきた写真を使って大喜利をやるとか。お客さんがこちらに向けて放った何かが、舞台上にも影響を与えるということがエンタメにとっても大事だと思っています。
ただ見るだけではなく、インタラクティブなものにしたいと考えているので、そのために「アドリブワード」は必須アイテムでした。自分が書いた言葉がセリフになるって、すごく素敵なことだと思うし、採用された方はめちゃめちゃ嬉しいと思うんです。
僕はラジオが好きで、たまに番組へおたよりを投稿することもあるんですけど、読まれるとすごく嬉しくて。あの喜びが何度も訪れるチャンスがあるのが「アドリブワード」。舞台の構造的にも必要な力ですし、そこにお客さんが介入してきてくれるので、『AD-LIVE』に欠かせない根幹になっている。一番大きな要素になっているかもしれません。