BL実写映画『その恋、自販機で買えますか?』主題歌担当・ヒグチアイさんインタビュー|年間500冊のBLを読む愛好家だからこそ「絶対に私が書いたらいい曲書けるから、絶対にやらせてくれ!」と懇願!?
吉井ハルアキ先生の大人気BL漫画『その恋、自販機で買えますか?』が実写映画化! 2023年10月1日よりアニメイトシアターにて公開されます。
真面目なサラリーマン・小岩井 歩と自動販売機の作業員・山下 諒真が自動販売機をきっかけに出会い、恋心を育んでいくハートフルラブストーリーの本作。
主題歌「自販機の恋」はTVアニメ『進撃の巨人 The Final Season Part 2』のエンディングテーマや様々なドラマの主題歌を担当していることでも有名なヒグチアイさんです。
ヒグチさんと言えばその素敵な歌声と作詞作曲ではありますが、実は大のBLファンでもあります! 年間に読むBL漫画の数はなんと500冊以上……! そんな彼女だからこそ生まれた「自販機の恋」について、今回はたっぷりとインタビューしてみました。
もちろんお話は主題歌に留まらず、映画のお話、BLのお話、最近読んだおすすめ作品など、ファンだけでなく必見のお話が飛び出しました。
映画『その恋、自販機で買えますか?』のお供に、インタビューをお楽しみください。
映画が終わった後に楽しい気持ちで帰ってほしい
ーー本日はよろしくお願いします。今回、映画『その恋、自販機で買えますか?』の主題歌を担当されることになりましたが、担当することになった率直な感想をお聞かせください。
ヒグチアイさん(以下、ヒグチ):最初にマネージャーからこのお話があった時に「絶対に私が書いた方がいい」って言いましたね。
一同:(笑)。
ヒグチ:「絶対に私が書いたらいい曲書けるから、絶対にやらせてくれ……」とゴリ押しで決まりました(?)。いや、決めてもらいました(笑)。
ーー以前、ご自身でも「いつかBL漫画が実写化した時に主題歌をやってみたい」とおっしゃっていましたし、念願の機会ですね。
ヒグチ:念願の、だし、すごい大好きな作品だったので嬉しかったですね。BL漫画のアニメや実写化を観ていても、主題歌は男性の方が歌われていることが多かったので、「女性が入り込める場所がない」と感じていました。なので、「曲だけでもいいから書きたい」「男の人が歌うのでいいから、私は曲を書きたい」という気持ちはずっとありました。
ーー好きな作品の曲を書くとなると、自分の中のハードルも高くなりそうな気もします。
ヒグチ:実は、ハードルはあんまりなかったんです。曲を書いている時もただただ楽しいというか。どこを取ってきて何を言いたいのかを自分で解釈するのが楽しくて、あまりプレッシャーは感じてなかったですね。
ーーなるほど。じゃあ楽しく?
ヒグチ:めっちゃ楽しかった。めちゃめちゃ楽しかった!
ーー曲を書く上で気をつけたところは?
ヒグチ:監督さんからの要望でも合ったのですが、すごく悲しいことがあったり、劇的なドラマがあるお話じゃないんですよね。偶然出会って、そこから少しずつ育んでいった関係性みたいなものを描いているお話なんです。
それって、結構身近にあるものだと思っていて、その身近な部分を一番最後に、すごくほわっとした気持ちで終われるような曲にして欲しいという要望をいただいたので、楽しい感じや優しい感じを取り入れました。原作も映画も同じだと思いますが、そのバランス感をすごく大事にして書いています。
そういう出会いをして、少しずつ関係を育んでいくということは、特別じゃなくよくある話だけど、当の本人にとっては特別であって。その部分を教えてくれるようなストーリーが好きだったので、同じようなニュアンスの曲にしたいなって思いました。よくある話だけど、「それがあなたにとっては特別で、私にとっても特別なんだ」っていう気持ちが伝わればいいなと思います。
それから、「あんまり入りすぎないようにしよう」って思っていましたね。だけど、思いっきり食い込んでるなっていう曲になった気はしますけど……。
やっぱり読み手の気持ちになりたいというか。映画を観る方は女性が多いと思うので、「二人がこういうふうに思ってたらいいなぁ」って思う視聴者の目線を入れています。それは男の人が書けないことかもしれない。男性だったらその中に入って気持ちを歌えるけど、「こうだったらいいなぁ」っていう妄想の世界を書いていいのが私なのかなって。そういう書き方をしました。
ーーそのメッセージはなんとなくわかります。歌詞にもそれが出ていて、「ちょっとぐらい 自惚れてもいい?」の歌詞が好きです。
ヒグチ:この作品が「ちょっと好かれている気がするから一歩勇気を出そう」みたいな、「あ、もしかしたら好きなんじゃないか」って実際に言ってはいないんだけど、その勇気が描かれているような気がして。
「もしかしたら自分のことを好きじゃないんじゃないか」「無視されているってことは、そうじゃないか」「連絡がこないってことは……」といった恋愛のワクワクした感じ、ネガティブじゃない方向で恋をしている様子が作品から感じられて、直接的には描かれていない作品から滲んでいるところを曲として書きたかったんです。
ーーお互いに気を遣ってしまって直接相手に言えないところも可愛いですよね。
ヒグチ:そうなんです。周りの人のちょっとした勇気が出るところではあると思うけど、実際に口に出すのは本人の勇気だと思うんです。だからそれぞれに勇気がある2人だなぁとちょっと憧れる面もあったりします。恋をする資格がある人というか。
歌詞の部分は、自分の経験も入れたりしながら自分が思ったことや「なんでこの人と一緒にいられないんだろう」って思う時の寂しさ、それが分かる大人の恋愛……初めての恋に見えるけど、その背後に透けて見える過去の恋愛……みたいな部分を想像して作っています。
ーー対して、曲調はどのように決めていきましたか?
ヒグチ:今回、アレンジはTHE CHARM PARKさんにお願いしたんですけど、曲を作り始めるときから「映画が終わった後に楽しい気持ちで帰ってほしい」という気持ちがあったので、楽しいアレンジでお願いしました。
私は体温が上がる感じを持って帰ってもらいたいと思ったので、想像した体温に合う感じのテンポやリズム感を大事にしました。
この前、X(Twitter)を見ていたら「『その恋、自販機で買えますか?』みたいな曲がリリースされてるなと思ってみたら主題歌だった」っていう投稿をしている人がいて、楽曲から作品につながる曲になっているんだなと思えて嬉しかったです。