音楽
山下大輝が「シークエル」を通して描くファンタジーの世界|インタビュー

幼少期に憧れた、本の中の魔法の世界と現実の間を描きたい。表現者・山下大輝の第二章に新たなページが加わる――配信シングル「シークエル」に閉じ込められた魔法の力

共感しやすいファンタジーを作りたかった

──「シークエル」に関してはどのように制作を進められたんですか?

山下:実は個人的な物語の考案があって。主人公が最終的に自分の世界を見つけて、前向きに歩き出す、という方向性にしたいと伝えていました。今お話したのは、かなりざっくりした内容ですけども。

──では、実際にはプロットのようなものがあったんです?

山下:そうですね。プロットとまで言えるかは分かりませんが、近いものはあったと思います。かなり明確にイメージを固めていました。そして「それを曲に落とし込んでください!」とお願いして、コンペ形式で曲を集めていただいたんです。どう皆さんがこの物語を捉えて、曲を作ってくれるんだろうとワクワクしていました。

その中で、真ん中にいてもおかしくないメロディー、Aメロ・Bメロからサビへのギャップや盛り上がり方、セピア色が見えるような世界観を感じたのが、常楽寺 澪さん、石黑剛さんのもので。その時はまだ1コーラスのデモだったんですけど、僕が見せたいものも入っているし、お二人がやりたいことも明確に見えてきました。

お互いのやりたいことを広げる方ってすごいなと思うんです。僕だったら、一方的に自分のやりたいことだけをやってしまいそうだから。自分にないものを持っていて。だから、一緒にやったらどうなるんだろう?と思い、お願いした次第です。

──ところで、プロットのようなものがあったというお話でしたが、「ヒトコキュウノ」のときにもあったんですか?

山下:「ヒトコキュウノ」はeddaさんが主軸となって世界観を作ってくれているんです。僕は本当にざっくりしたことしか伝えていないんですよ。“声の魔法”とか、本当にざっくりした話を伝えたくらい。だから「ヒトコキュウノ」が上がってきたときは「あれからこれになる!?」という驚きしかなかったです(笑)。

──それはすごいですね。映画のようなスケールの大きな物語が、その言葉から生まれていたとは。

山下:もうビビりました。SFかと思うような壮大な世界観。「そっちに行くんだ、すげえ!」って鳥肌が立ちました。だから「ヒトコキュウノ」は、出来上がった世界観の中に自分のフレーバーを入れていく作業、という感じでした。MVを作る時に後から僕が設定を考えていって……というか、細かいところを埋めていったと言いますか。この子たちのシステムは、こういうものにしていきたいと。

──では「ヒトコキュウノ」と比べると、「シークエル」は山下さんからの発信が大きいんですね。

山下:そうですね。「ヒトコキュウノ」はeddaさんらしさがすごく表れたものになっていて、その反面、ファンタジーにバリバリに振っているから。少し「行き過ぎたかな?」とも思ったんです。僕はあの世界観が大好きなんです。たまらなく、たまらないくらい、大好きです。……ん? たまらなく、たまらない……?

──それくらい好きということですね(笑)。

山下:はい(笑)、大好物な世界観です。「ヒトコキュウノ」は(ライブの)サプライズのイメージも込めて作っていたので、ガッツリとファンタジーに寄ったんですけど、あまりにファンタジーの世界観に、お客さんの中には戸惑っている方もいるかもしれないなと。お客さんを置いてきぼりにしたくなかったんです。

だから今回の曲は、ファンタジーとリアルの間のお話にしたいなと。誰しもがきっと経験したであろう、幼少期に憧れた本の中の魔法の世界と現実の間の子をうまいこと青春の1ページに落としこみたいなと思っていました。

──リアルとファンタジーの間だからこそ、より共感しやすいものになっているんですね。

山下:そう、共感しやすいファンタジーを作りたかったんです。「誰しもが持っているものってなんだろう?」「小さいころの夢かな?」って。小さい頃って、本の中の世界にみんな飛び込むじゃないですか。本の中では、誰しも自分が主人公になる。誰よりも無敵だし、愛されてるし、魅力的になる。それを持ってきたら共感しやすいのかなと。

──アートワークや歌詞からは、登場人物は中学生の女の子を想像させます。中学生にした理由とは?

山下:僕自身が中学生のときに『ハリー・ポッター』シリーズの本が流行っていたんですよね。かぶりつくようにみんなが読んでいた印象がありました。その中で僕は『ダレン・シャン』を読んでいました。吸血鬼のお話なんですが、僕の中で強く印象付けられていて、『ダレン・シャン』好きの友だちが欲しかったんですよ(笑)。

──『ハリー・ポッター』は今も根強い人気を誇る作品ですが、当時は本当に大ブームでしたものね。『ダレン・シャン』好きの友だちは見つかったのでしょうか……?

山下:それがいるにはいたんですよ! たまに『ハリー・ポッター』に似た表紙の『ダレン・シャン』をひっそりと持ってる人がいて。そういう光景を見ていたときに、「ああ、本当は好きなものを出しきれないのかもしれない」と。「みんなが好き」というものを「好き」と言っているだけで、本当に好きなものは別にあるのかもしれないな、なんてモヤッとした気持ちになったことを覚えています。

でもそれと同時に、「大好き」という純粋な思いがそこにはあって、物語の中では自分は輝ける気持ちがあるんだろうなと。そういう物語に夢を描くのは女の子が多いんだなと思っていたんですよ。僕自身も話が合うのは女の子が多くて。あの当時の男子は国語力がないので「◯◯の気持ちになって考えてみてください」と言われても「だっせーよ、つまんねえ!」って感じですから(笑)。

「このキャラクターはこういう気持ちだよね」といった話ができるのは女の子が多かった……という経緯から女子を主人公にしました。感受性が豊かな年頃だと思うんです。「他の人たちがああやってるから、ああしなきゃ」と思うような気もするんです。彼女の中で繰り広げられる冒険の中で、輝いている自分。本当は現実でもそんな自分で在りたいという思い。現実とファンタジーの間で揺れる女の子の思いを描きたいなと。

どファンタジー脳とリアリストの化学反応

──「シークエル」の物語は<ある日見つけた小さな本に朝が来るまで夢中になった ここにいれば魔法も使えるひとりきりで読み耽った毎日>という言葉からスタートしますが、この曲を聴きながら、幼少期は「好きなものを好き」とはっきり言えていたのを思い出しました。少しずつ「周りに合わせる」ということを覚えて、臆病になっていくといいますか。

山下:小さい頃はみんなプリンス・プリンセスなんですよね。いつの間にかなくなってしまった自信と、自分が好き、という思いと……。

──そうですよね、たしかに「自分が好き」だった気がします。だんだんと嫌いになってしまうんですよね(苦笑)。

山下:そう、悪いことばかり考えてしまうと思うんです。その中で「人と違う“好き”や“憧れ”は隠さなきゃいけないんだ」って。でも「あの時の輝いていた自分は失われていないんだよ」という思いを伝えたくて。当時の憧れは未来にもつながる。それはひとつの魔法だよね、って思いを描いてもらいたいなと思っていました。

制作をしている時に思ったのが、(常楽寺さんと)すごく良いバランスだなと。僕はファンタジー寄りで、作詞を担当してくださった常楽寺さんはわりとリアリストな方で。僕は脳内がお花畑ですから(笑)、良い感じのバランスでぶつかりあえたんですよ。だからこそ、ファンタジーと現実の間の子の曲を作れたんです。

──なるほど! 化学反応が。

山下:どファンタジー脳とリアリストがぶつかりあうと、こうなるんだ!と思いました(笑)。だから面白かったですよ。「こうしたい、ああしたい」って意見を僕からも言わせてもらっていて、それを良い形にチョイスしていただきました。常楽寺さんには常楽寺さんの考えがあって、「ここまでなら」という一線があったと思うんです。そのおかげできちんと現実もファンタジーも見えるものになって。常楽寺さんの人となりも感じられる、生きている曲に仕上がったなと。息づいていますね。

──主人公の女の子も生き生きとしていますよね。

山下:そう、実は誰も後ろ向きじゃないんですよ。ひとりだけでは見えない世界を見つけたからこそ、前に進めて。そして、ひとりで見るよりふたりで見たほうが輝いて見える、とも捉えられるし。

──この主人公にとっては憧れを本に見い出していたわけですけども、聞き手にとっては、山下さんの音楽が勇気や元気につながっているのではないでしょうか。

山下:ああ……もしそう思ってもらえるなら嬉しいですね。純粋な気持ちを大切にしてもらう、そんな応援歌になってもらえたら、と思っています。

──ライブで披露される時は、どのような表現になるのかが楽しみです。

山下:常楽寺さんが入れてくれた(登場人物2人の言葉による)「」、『』のセリフのやりとりがめちゃくちゃ好きで。掛け合いになっているので、レコーディングのときは両方のセリフが言えないんですよね。その時に「あ、ひとりで歌えないってことは、歌ってもらうとエモいかも……?」と、歌いながら考えていました。

だからこの会話の二場面では、ライブではどちらかのセリフを会場の皆に歌ってもらいたいなと思っています。皆にセリフを覚えてもらうのが必須になってしまうんですけども、ここはもう「覚えてもらおう!」と(笑)。

だからライブが頻繁にできるようになったら「今日は「」のほうを歌うからちょっとエスコートして」とか言いたいですね(笑)。

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