佐倉綾音さんが挑戦を続ける理由。見たことのない景色が自分の感受性を研ぎ澄ませる指標になる――映画『死霊館のシスター 呪いの秘密』吹き替え声優インタビュー
全世界興行収入3000億円超えの大ヒットを記録した『死霊館』シリーズの最新作『死霊館のシスター 呪いの秘密』。舞台は1950年代のフランス。新婦の殺人事件をきっかけに、全ての悪の元凶である”シスター・ヴァラク”の謎を解き明かす珠玉のホラーエンターテインメントが幕を開けます。
ホラーファンのみならず、多くの方々に楽しんでいただける内容が満載です。本稿では、今作の吹替版でソフィの声を担当した佐倉綾音さんのインタビューをお届けします。
ソフィの役柄についてはもちろん、佐倉さんなりのホラーの楽しみ方や吹き替えの仕事に感じる難しさ、役者として挑戦を続ける理由など、様々な角度からお話を伺いました。
繊細な音で組み立てたソフィの役作り
ーー昨年から実写映画やドラマに顔出しで出演するなど、挑戦的な日々を過ごされていますよね。新しい経験を積む中で、声の演技にフィードバックされた知見はありましたか?
ソフィ役・佐倉綾音さん(以下、佐倉):私の人生では、声優という仕事が絶対の軸になっていて、フィードバックをするために、色々な経験をさせていただいています。マイク前でのお芝居に良い影響をもたらす人生経験として、納得のいく形での旅を積極的にしても良いのかな、という心境の変化がありました。
ーーその変化には、何かきっかけが?
佐倉:1つは事務所が変わったことですね。この先どういう役者になって、どういうお仕事をしていくのかを事務所の方々と一緒に見つめ直す時間があったんです。そのときに改めて、自分に必要なこと、事務所の人が喜ぶこと、ファンの方々が嫌がることを総合的に判断して。「ここまではやってみよう」や「ここには踏み込まないようにしよう」と指標を改めて考えるきっかけになりました。
一方で客観視も大事にしているので、「こういう役をやってみたい」、「こういう仕事をしてみたい」といった目標は立てずに、信頼できる第三者のオファーに対して、自分のありなしで判断していくやり方でお仕事をしています。
ーー今回の『死霊館』シリーズへの出演も佐倉さんにとっての挑戦だったのではないでしょうか。以前からホラーが苦手とお話されていたので、出演すると聞いたときは驚きました。
佐倉::実はスタッフさんに勧められて、『死霊館』シリーズの1作目を観ていたんです。海外のホラー作品には、わかりやすく大きな音とアクションがあるため、「和製ホラー特有の静かな怖さより楽しめるかも」と思いました。
自分の身に起こり得ると感じることが一番の恐怖なので、「こんなことは起こらないだろう」と思える、現実と乖離した作品の方が自分は得意なんだと気が付きました。やはり、実際に怖い作品を観たあとで自分の平和を阻害するものは、自分自身の想像力だと思います。
ーーそんな中で、今作の出演が決まったというわけですね。
佐倉:タイトルを聞いたときにピンときて、せっかくのご縁なので「ぜひやらせてください」とお返事しました。
ーー作品を観た率直な感想を教えていただけますか。
佐倉:私自身はまだチェック用の映像しか観ていませんが、基本的に暗い画作りで進行するので、映画館なら臨場感がありそうだと思いました。
個人的に怖かったのは日常が徐々に崩れていく序盤のシーンです。敵が判明した後なら、脅威の全体像も把握できますが、日常を感じながら、現実と非現実の間に立たされる感覚が一番怖かったですね。怖い仕掛けを楽しむための作品もあると思いますが、今作はしっかりと説得力のある物語が展開されています。
ーー佐倉さん演じるソフィは、本作のドラマを担う重要なキャラクターです。演じる際に心がけたことをお聞かせください。
佐倉:キャラクターをわかりやすく伝える方法もあれば、想像の余地を残すやり方もありますが、今回はどちらかと言うと後者のお芝居を目指しました。ソフィは学校でもあまり目立たないタイプの子なので、声を潜めるところはかなり意識しながら、繊細な音作りを心がけています。
ーーソフィの役作りについて、手応えを感じた瞬間はありましたか。
佐倉:かなり自然体に近い組み立て方をしたのですが、「むしろこれ以外のアプローチはないだろう」というくらいの自信はしっかりと持っていました。実は私が最初の収録だったので、後から続く方々を困らせないために想像力をフル回転させて、ソフィの軸がぶれないように気をつけて演じています。
ーー軸が決まってからは、全体的にスムーズな収録だったのですね。
佐倉:ただ、逃げ惑うシーンや感情を解放するシーンなどは、個人的に苦戦しました。彼女の中では数時間経っていても、私は直ぐに気持ちを切り替えないといけないので。ちなみに、先ほどみなさんの声が入った完成版を観せていただいたのですが、自分の想像を超えた素敵なお芝居が入っていたので嬉しかったです。
ーー後半はソフィに様々な困難が降りかかるので、演じる側としてもカロリーを使ったのではないでしょうか。
佐倉:そうですね。初歩的なことですが、収録ではマイクから顔を外さないようにして、彼女たちが置かれている状況の臨場感を表現しました。不測の事態が起きる中で、登場人物たちは精神的にも肉体的にもダメージを負っています。
実際に彼女と同じ動きができたら違う音になるかもしれませんが、それをマイク前で表現するのはやはり難しくて。特にアクションシーンの身体的なプレッシャーをどのように表現するのかは、声優としての永遠の課題だと思います。
ーー逆に、ソフィを演じてみて楽しいと感じた点は?
佐倉:ホラー作品以外で思いきり叫んだり、逃げ惑ったりするお芝居は、なかなか体験できないと思います。ソフィは声を出して怖さを発散しているはずなので、手加減せずに叫びたいなと。そういったことも考えつつ、楽しみながら演じています。個人的には、感情を解放するお芝居は好きですし、今回の作品でもソフィと並走して一緒に生きた感覚を得ることができました。
ーーソフィの性格や作中での変化については、どのように捉えていましたか。
佐倉:ソフィがどのくらい自立しているのかは、少し気になっていましたが、物語の中で彼女は見違えるほど成長するんです。ソフィが終盤でモリースに投げかける言葉が、とても大人だなと思っていて。だからこそ、ラストシーンのお芝居は一番難しかったです。それまでにソフィが至った感情や経験の流れを深く考えさせられました。「許すってどういうことなんだろう」と。