『16bitセンセーション ANOTHER LAYER』第8話放送後インタビュー:若木民喜さん(原作)×佐久間貴史さん(監督)×中山信宏さん(プロデューサー)|守がまさかのタイプスリップ! 異質な雰囲気となった第8話はぜひ考察してほしい【連載第9回】
若木民喜さん、みつみ美里さん(アクアプラス)、甘露樹さん(アクアプラス)が原作の同人誌『16bitセンセーション』をベースにオリジナル要素を加え、新たな物語にしたTVアニメ『16bitセンセーション ANOTHER LAYER』。アニメイトタイムズでは、現代と過去が入り交じるSF要素が加わり、生まれ変わった本作について語るインタビュー連載を実施中!
前半の大きな山場となる第8話と第9話の放送にあたり、原作の若木民喜先生、TVアニメの佐久間貴史監督、そしてプロデューサーの中山信宏さんの座談会を前後編でお届けします。前編では、本作のストーリーがどのようにできあがっていったのか、ここまでで印象的だったシーン、衝撃的な内容となった第8話の裏話などを語ってもらいました。
若木先生のアイデアを受け「最前線で活躍する漫画家はすごい!」としみじみと実感
――まず、企画段階での紆余曲折については、以前掲載した若木先生と髙橋龍也さんの対談でお話しいただいたのですが、プロデューサー側から、なぜこの作品をアニプレックスでプロデュースすることになったのかをお話しいただければと思います。
中山信宏さん(以下、中山):st.シルバーさんから「こういう原作があって、アニメ化をしたいと思っているんですけどいかがでしょうか」という話を頂いたことがきっかけでした。僕も以前読んだことはあったんですが、改めて読み直してみても面白かったし、お仕事ものというジャンルではありつつ、ドキュメンタリーの感じもあるし、ストーリーの展開もあるので「やってみる方法はあるのかな」と思ったんです。
――たとえば『冴えない彼女の育てかた』など、美少女ゲームの流れや土壌があるのかな?とも思ったのですが。
中山:というより、僕は前の会社で『少女たちは荒野を目指す』という作品を担当させて頂いて、それも高校生たちが美少女ゲームを作るような作品でしたし、個人的にも美少女ゲーム世代で、その系譜を通ってきた人間だったので、題材として興味があったんです。
それと、ANIPLEX.EXEというノベルゲームを作っている部門がありまして、その担当が美少女ゲームが大好きで、(美少女ゲーム業界が)下火になっている今、盛り上げるような作品をやってみたいというのもあって。その部署では、コンシューマー=一般向けではあるんですが、いわゆる美少女ゲームのような作品を作って評価も得ていたということもあったので、アニプレックスとしても、こういった作品への理解はあるのかなと思っています。
――ありがとうございます。次に佐久間監督に、作品のどういった部分に惹かれて、監督を受けることになったのかという経緯を教えていただければと思います。
佐久間貴史監督(以下、佐久間):自分が監督を受けた時点では、オリジナル要素を入れることは知らなかったんです。原作を読んで、僕は『神のみぞ知るセカイ』の視聴者世代なので、若木先生の描く女の子はかわいいな、魅力的だなって思いました。原作の第2巻までを読んで、メイ子を主人公とした物語が動き出したし、これは面白い!と思っていたところで企画概要を見たら、まったく違うものになっていて「ええ!!」って驚いて(笑)。でも、よくよく話を聞くと、若木さん発信でオリジナル要素を入れていったということが分かったんですね。
――さぞや驚かれたと思うのですが。
佐久間:でもプロットを見ていくと、それはそれでめちゃくちゃ面白いんですよ。確かに原作漫画のままでもお話は面白くできますが、「それって昔の話ですよね?」って視聴者に思われてしまうかもしれない。視聴者がアニメを観て、いい方向に動くきっかけになるのかというと、それは少し薄いかもなと感じたんです。
当時のプロットは今の物語とは少し違っているんですが、それを読ませていただいた段階で、これは面白くなりそうだと思えたので、監督を受けさせてくださいとお話しさせていただきました。
――確かに、原作だと美少女ゲームファンが懐かしむ要素が多く、ゲームファンが特に盛り上がりそうなイメージがありましたよね。今のアニメファンが観ても、知らないことと捉えられてしまう可能性もあったというか。
佐久間:アニメというメディアでやる以上、当時を知っている人、美少女ゲームファンに見ていただく前提は当然ですが、当時を知らなくても面白いと感じる要素はほしい。それがプロットにはあったので、これはいけるかもしれないと思ったのは正直なところです。
――若木先生から見た、お二人の印象についてお聞かせください。
若木民喜さん(以下、若木):あとからみつみ美里さん(原作)に言われたんですが、打ち合わせのとき、(僕が)すごく怖かったみたいなんですよ。アニメの現場ってあまり知らないので、そこへ原作者として切り込んでいくみたいな感じで、ちょっとメンヘラチックになっていたところがあるんですね(笑)。みんなが遠巻きに見ている雰囲気を感じてしまって、これはどこへ向かっているのかなって感じていたんですが、そこに髙橋龍也さん(アナザーレイヤー・メインストーリー)が入ってきてくれて、僕も距離感が掴めてきたというか。高橋さんに訴えていく感じになっていったんですよね。
それに、同人誌をそのままやるのではなく、何でオリジナルをやるんだよっていう意見もあると思ったので「誰が味方なのかな?」って思っていたんです。中山さんは責任者だから味方だろう、監督も率先して面白いと言ってくれていたから味方だろう、みたいな(笑)。なので打ち合わせも、最後のほうは一体感が出ていたのかなと思います。
――以前の対談でも、監督はオリジナル要素に賛成してくれていたという話がありましたね。
若木:でも考えてみたら、そりゃあ心配にはなりますよね。プロットも最後までなかったし、ハコ書きみたいなものがあるだけだったので(苦笑)。それでも最後はみんな意見が出てくるようになったので、これで行こう!という雰囲気になっていたと思います。
中山:対談記事を読んだときに、漫画って担当編集と一緒に作り上げていくから、(今回のアニメでは)自分が出したものに意見が出てこないのが不安だったと話していて、逆に「そうだったんだ!」と思ったんです。
若木:僕のいる現場がそうなのかもしれないんですが、多めに(アイデアを)出して刈り取っていくようなことが多いんですよ。
中山:僕なんかは原作モノをアニメでやらせていただくことが多いので、今回もオリジナルとはいえ、アニメ用の原作が若木さんから出てくるという認識だったので、それを正解のひとつの形として、アニメでどうブラッシュアップしていくか、どう取捨選択をするかということを考えていたんです。しかも、若木さんから出てくるアイデアが毎回すごく面白かったんですよね。結果的に物語の結末まで面白いものができたという、こちら側の認識があったので、本当に「面白いです」と言っていたんです。
――意見がないというよりは、本当に面白かったんですね。そしてそれに対して若木先生が不安に思っているとは思わなかったという。
中山:そうなんですよ。別におべっかを使っているとかではなく、「最前線で戦っている漫画家さんって、やっぱりすごいな〜」って思いながら聞いていました(笑)。
――90年代当時の秋葉原の写真素材が意外と少なかったというお話が先行上映会では出ていましたが、制作段階で大変だったことなどはありますか?
佐久間:どの作品もアニメを作るのは大変なのですが、この作品で大変だったのは、脚本から絵コンテにしていくところで、セリフ量がすごく多かったことなんです。しかもセリフを下手に切ってしまうと、話の辻褄が合わなくなってしまったりする。TVアニメは尺が決まっているので、その尺の中にどう落とし込んでいくかというのは、ものすごく大変でした。若木さんの独特の言い回しもちらほら見受けられたので、そこも残したいなって考えたり。実際、コンテの担当者から「この言い回しは合っているんですか?」という質問があったりしたんですが、「そこは若木さんの書いてくれたニュアンスを活かしたいから、そのままでお願いします」という話をしていましたね。
あとはやはり、許諾周りですね。「これって許諾を取っていたっけ?」と確認するのが大変でした。
中山:ゲーム関係の許諾は、st.シルバーさんにかなり助けられたところが大きいです。美少女ゲームの権利って、前のメーカーさんがなくなっていて、(別のメーカーに)継承されていたりするんですね。そこを調べて確認を取るようなことをst.シルバーさん仕切りでやっていただいたんです。それだけでも大変なことは多かったと思います。弊社のほうは、ラジオ会館さんやNECさんといったところとやり取りさせていただくことが多かったです。でも思っていたよりみなさん協力的だった印象がありますね。
あとは設定考証の森瀬 繚さんに、古いゲームの権利を持っている方に繋いでもらったりと、本当にいろんな方のご協力で許諾を取っていて。エンドクレジットに載せたら、それもネタになったので、スタッフのみんなが頑張ってくれたおかげで、作品の評価ポイントの一つになってありがたいなと思いました。
若木:設定の玉井康喜さんもですね。実際に僕も放送までどうなっているかは分からないんですが、ゲームも「こんなに出さなくていいだろう」っていうくらい出ていたし、背景とかも、国会図書館で調べたり,区役所へ行って調べたり、僕が想像していたよりだいぶ細かくやっていらっしゃったので、すごいなと思いました。
だってシンボリックな建物ならまだしも、町中の写真があったとしても、それが何年のものかとかは分からないですから大変ですよ。
中山:でも視聴者から「間違っているよ」ってツッコミとかも入るんですよ。
若木:まぁそれもポジティブに捉えたいですよね。より正確になっていくという意味で。
中山:皆さん、本当に凄まじいです。でも、2000年までの資料は本当に少ない……。
佐久間:どうやって雰囲気を作ろうかっていうところで、若木さんが「企画側はおじさん、監督はやや若い、クリエイターは若い」とどこかで書いていた気がするんですが、この現場もクリエイターは僕より若い世代なんです。今の世代って、基本的にマウスは無線じゃないですか。なので画面に出てくるマウスやキーボードが無線になってしまっているところを見逃しちゃったりして。結構毎話数、「これを有線にしてください」って直したりしていました。
若木:僕らが常識だと思っていることが、若い人には全然分からないってことはよくあるんです。
佐久間:若木さんがおっしゃっている意味がそこで分かりました(笑)。
――昔の小ネタ的なところは若木先生が入れているのでしょうか?
若木:みんなで出し合っている感じじゃないかな。僕が出すか、その話数の脚本家が出すのかって感じですが、感触的には僕が6割以上出していると思います。
――「うぐぅ」は結構いじられていると、メイ子役の堀江由衣さんも仰っていました。
若木:そこは完全に僕ですね。あれは僕にとってすごく衝撃的だったというだけなんですけど(笑)。でも書いているときは、堀江さんがキャストになるとは知らなかったので、出ると分かっていたらもう少し減らしたかもしれない。