『BASTARD!! -暗黒の破壊神-地獄の鎮魂歌編』&『ゴブリンスレイヤー』スタッフ座談会──尾崎隆晴監督&黒田洋介さん&倉田英之さんが考える二作品の共通点は……?
累計発行部数3000万部を突破する萩原一至先生によるファンタジー作品『BASTARD‼-暗黒の破壊神-』のアニメ第2期が、いよいよテレビ放送開始!
「ダークファンタジー漫画の始祖であり金字塔」と言われる『BASTARD‼-暗黒の破壊神-』は、「週刊少年ジャンプ」にて1988年から連載が開始。400年以上転生し続けた伝説の魔法使いであるダーク・シュナイダーを描く物語です。
アニメ第1期『BASTARD‼-暗黒の破壊神-』は、2022年にNetflixにて配信が開始され、2023年1月からはTV放送が行われました。
アニメ第2期『BASTARD!! -暗黒の破壊神-地獄の鎮魂歌編』は、原作でも人気の高いストーリー。2023年7月からNetflixにて配信開始され、ついに2024年1月2日よりTV放送開始されます。
本稿では、本作の監督を務める尾崎隆晴さん、シリーズ構成の黒田洋介さん、倉田英之さんによるスタッフ座談会をお届け。ダークファンタジー作品『ゴブリンスレイヤー』でも監督・シリーズ構成として一緒に仕事をされている三人。
『ゴブリンスレイヤー』は、蝸牛くも先生にライトノベル作品で、ゴブリンだけを執拗に狙う冒険者“ゴブリンスレイヤー”となり銀等級(序列三位)まで上り詰めた主人公が、仲間たちと出会い、冒険を繰り広げる物語です。
2018年に第1期がアニメ化され、2020年には劇場版OVAが公開。そして昨年2023年10月は、ファン待望のTVアニメ第2期『ゴブリンスレイヤーⅡ』が放送されました。
多くのファンに愛される『BASTARD‼』と『ゴブリンスレイヤー』のアニメ化を通して感じることやファンタジー作品に関するお話など、両作品で監督・シリーズ構成を務めるお三方にいろいろお伺いしました!
世代の共通感覚を大切に
――みなさんは『BASTARD!! -暗黒の破壊神-』(以下、『BASTARD!!』)『ゴブリンスレイヤー』で監督、シリーズ構成としてお仕事をご一緒されています。きっかけはなんだったんですか?
尾崎隆晴さん(以下、尾崎):最初に『ゴブリンスレイヤー』の監督を引き受けたとき、シリーズ構成を倉田さんにお願いしたいと考えたのがそもそもの始まりですね。
そこからの流れで、当時は倉田さんと同じ会社(スタジオオルフェ)に所属されていた黒田さんにも各話の脚本として入っていただくことになった。そうやって人間関係が広がって、『BASTARD!!』の監督の話が来たとき、今度は黒田さんにシリーズ構成、倉田さんに各話の脚本をお願いしようと考えたんです。
──倉田さんとは『ゴブリンスレイヤー』以前から面識が?
尾崎:撮影の仕事をしていたころに、倉田さんが脚本を書かれた作品にいちスタッフとして関わらせていただいたことはありましたが、直接やりとりさせていただくのは『ゴブリンスレイヤー』が初めてでした。黒田さんもそうです。
ただ、お会いしたことはなくても、おふたりのお名前はもちろん、素晴らしい仕事ぶりも当然お聞きしていたので、この強力なふたりにお願いできれば、大変な原作だけどどうにかなるだろう……と、最初から考えていました。
黒田洋介さん(以下、黒田):いやいや、そんな。
尾崎:あと、おふたりにお願いしたかった理由は、実力もですが、自分との世代の近さも意識したからですね。「昭和」のニュアンスがわかる人がいいかなと感じたんです。
『BASTARD!!』はまさに「昭和」の終わり頃から始まった作品ですし、『ゴブリンスレイヤー』が書かれたのは比較的最近ですけど、原作者の蝸牛くもさんのご家族は、サブカルチャーによく触れていたそうなんです。だから「昭和」の文化にやられた人が書いている感触があるんですね。
──なるほど、「昭和」感ですか。
尾崎:それで実際に倉田さん、黒田さんと会って話してみたら、まさに狙い通りだったなと。打ち合わせのとき、言葉が少なくて済むんですよね。「あの時代の、あの感覚の、あれで」と、簡単に説明したら、もうニュアンスが通じる(笑)。
──共通感覚があるわけですね。
尾崎:そうなんです。今の時代ならではのまったく新しいアプローチでアニメ化するよりも、どちらの作品もこの世代ならではのオタク話で攻めたらいいんじゃないか、と考えた結果のスタッフィングでした。
倉田英之さん(以下、倉田):2作品ともオタクの好きなものが山盛りですからね。っていうか、『BASTARD!!』なんて、日本のアニメにおける「ファンタジー」というジャンルの、原点にかなり近い作品だと思うわけです。
黒田:そうですね。僕、『ダーククリスタル』って映画が好きで。
尾崎:ああ、はいはい。名作ですよね。
黒田:あれで今でいうダーク・ファンタジーみたいなジャンルを意識したんだけど、『BASTARD!!』が始まったのって、あの作品がオタクのあいだで流行ったちょっと後でしょう?
倉田:そうそう。『ダークリ』が日本で盛り上がったのが83、4年とかで、『BASTARD!!』の元になった読み切りの『WIZARD!!〜爆炎の征服者〜』が「週刊少年ジャンプ」に掲載されたのが87年。
黒田:やっぱそうだよね。そのあたりの体験って、記憶の中で一緒くたになって、「ファンタジーの原点」みたいに意識されている気がする。
くわえて倉田さんと僕は同じ1968年の生まれで、『BASTARD!!』はギリギリ10代の頃から読み始めた作品なんです。それもあって、ファンとして読んだときのパッションも覚えてる。それは多少、作品の中に入れられたんじゃないとか自負していますね。倉田さんも『BASTARD!!』は「書きやすい!」って(笑)。作業中のその一言、すごく印象に残ってて。
倉田:書きやすかったですねえ〜。なんたって、セリフをほとんど暗記してますからね。
特に序盤から中盤にかけての、まだ登場人物が少ない頃のものは記憶が鮮明。でも、それくらいはっきり覚えている作品なのに、20代で読む『BASTARD!!』と50代で読む『BASTARD!!』は全然別物でしたね。
黒田:たしかに、全然違った。
倉田:20代のころはどちからといえばビジュアルに惹かれていたんですけど、50代になるとお話の組み立て方……たとえば、ちゃんと出てくる敵が順を追ってレベルアップしていく感じとか、キャラクターのピンチの陥り方とかが、スタンダードなやり方なんだけど、しっかりと読者を盛り上げられるものになっていることに感心する。
尾崎:わかります。僕も若いころは、ビジュアルのカッコよさに強く惹かれていたんです。昔、「スターログ」って雑誌があったんですけど、それに載っていたファンタジー・アート……フランク・フラゼッタの絵とかがもともと好きだったんですよね。マッチョな男と女性を描いた、ちょっとエロチックな雰囲気の絵で。
でも、そういう絵の魅力を日本のアニメでダイレクトにやってくれる作品は、なかなかなかった。そこに『BASTARD!!』がポンと飛び込んできたんです。そのうれしさったらなかったですよね。
でも、あらためて今、歳を重ねた自分が読み直すと、物語の内容に「なるほど!」と唸らされる。倉田さんのおっしゃるとおり、しっかりと計算されているんですよね。
倉田:これを週刊連載でやっていたのは、本当にスゴいです。……まあ、週刊ペースじゃなかったときもあるけれど(笑)。
黒田:まあまあ(笑)。コミックスで最初の5巻分くらいは、ちゃんと週刊連載ですよ。
尾崎:それに、週刊連載のペースはただでさえ大変なのに、あの作画の物量とディティールですよ。あれを描いていく大変さって、想像を絶します。
時々コマの外に、萩原先生の「つらいよー」みたいなコメントが載ってたのも、納得というか。またそのつらさを原稿に載せてしまう、同人誌的な要素を「ジャンプ」でやっていたのも、独特の感覚なんですよね。
倉田:プロのマンガ家さんって、ずっとストイックなイメージがあったんです。弱音を吐いたり、土下座したりもしない。あんなに作者の先生が弱音を吐いているのを見たのは、『BASTARD!!』が初めてでした。
黒田:わかります。自分の感覚だと、当時の週刊連載しているようなマンガ家さんって、手塚治虫先生みたいなイメージなんですよね。ベレー帽をかぶって、アシスタントさんを従えて、バリバリと描いていく、ある種の職人気質の人。
でも萩原先生の人となりをマンガ越しに見ていると、自分らと感覚的には変わらない人だと思えて、ものすごく親近感が湧きました。
倉田:そういう読者との距離の近さも含めて、大メジャーな「ジャンプ」に載っている作品なのに、すごくオタク向きの内容だったんですよね。とてつもないプロでありつつ、いい意味でのアマチュアリズムがあるというか。
黒田:アニメや映画のパロディも大量に入っていたしね。余談ですけど、『BASTARD!!』の最新刊で自分のやったアニメのパロディが入っていたのを見たときは、すっごい感動しました。「ついにやった! 萩原先生にパロられてる!!」って、光栄でしたね。
倉田:いやぁ〜、わかる!
尾崎:ホン読み(シナリオ打ち合わせ)でも今みたいに、当時の作品がおかれていた状況だとか、世の中全体の動き、流行を交えて話し合いができるから、原作を解釈していく作業がとてもスムーズなんですよね。
倉田:それにしても、連載の始まったころは時代の先を行っていた『BASTARD!!』が、連載形態が変わりつつ長期展開されるに連れて、だんだん時代と同一化していった。今はクラシック(古典)の位置付けというか、マスターピース的な作品になっている。そして、原作の表現を可能な限り尊重しながら、アニメになった。これは現象として、非常におもしろいですね。
(C)蝸牛くも・SBクリエイティブ/ゴブリンスレイヤー2製作委員会