『東京卍リベンジャーズ』孤独と愛――天竺総長・黒川イザナの魅力に迫る!ストーリーと合わせてご紹介!
天竺が東京卍會を潰す理由――孤独だったイザナ
東卍と天竺の抗争の合い間に、イザナの回想シーンが度々描かれています。その生い立ちから、イザナの狂気の理由が垣間見えてきます。
イザナの孤独
黒川イザナは母に捨てられ“施設”で育ちました。母親が迎えに来ることは無く、大きくなってから街で偶然母親を見つけます。昼間からパチンコを打つ母に「なんでオレの事捨てたの?こんな事するため?」と問いかけます。それに対し「あんたは他所(よそ)の子。血がつながってないんだよ」と冷たく突き放されてしまいます。
また鶴蝶は、他人に興味のないイザナは“これ以上やったら殺してしまう”というリミッターがない。“孤独がイザナの強さ、人を殺す拳だ”と稀咲に話しています。
佐野真一郎との出会い
マイキーの兄でもある佐野真一郎が、ある日突然施設へ面会に現れる。イザナは兄だと名乗る彼に次第に心を開き始めバイク・ケンカ・不良の遊び方・服・髪型も笑い方も全部真一郎に教わった“俺だけのお兄ちゃん”と、真一郎を慕います。真一郎はイザナの孤独を癒し、面会や頻繁に文通もしていました。
佐野万次郎(マイキー)の存在
成長したイザナは、真一郎が創設したチーム黒龍(ブラックドラゴン)の次の代を継がせてほしいと話します。それに対し「兄弟で繋いでいくのが夢だった。お前…そして万次郎に継がせたいから」と真一郎は打ち明けます。この言葉にイザナは“俺だけのお兄ちゃん”だったはずの真一郎が、実はもう一人の弟・マイキーも自分と同じく愛していたと知り混乱します。
嫉妬と絶望に浸食されるイザナ
イザナは真一郎が“俺だけのお兄ちゃん”ではなかった事を知り、マイキーに異常なほどの嫉妬心を持ちます。真一郎との文通に「最近ずっと頭が痛い、苦しい、きっとアイツのせいだ。万次郎の話はもうしないで」(『東京卍リベンジャーズ』コミックス16巻引用)と書いています。また、母親に血の繋がりが無い事を知らされた際も、はじめから孤独なら耐えられたのに何故自分の前に現れたのか。あると思っていた幸せがある日突然奪われた地獄がオマエにわかるか、と泣きながら真一郎に殴り掛かります。
その後、佐野真一郎の突然の死を知り、落ち込み灰のようになっていたイザナに、稀咲がチームを作ろうと持ち掛けます。そこから「天竺」を創り上げ、今度はマイキーから大事な物(亡き佐野真一郎と妹・佐野エマ)を奪い心を空にさせ自分の兄にする…といった異常な思考をイザナは持ち始めます。
手を差し伸べたかった真一郎・マイキー
母親に会い“血の繋がりが無い事”を知らされ、真一郎に怒りをぶつけに来るイザナ。それに対し、血の繋がりが無くても俺たちの関係は変わらないだろ、と諭す真一郎。マイキーも抗争中に、お前は孤独なんかじゃない、お前のために戦った仲間もいる。オマエさえ心を開けばエマも俺も快く受け入れた、お前を救いたいんだ、と訴えた。
親からの愛を得られず施設で育ったイザナ。彼が真一郎やマイキーのそんな愛情深い気持ちを理解できなかった事は想像に難くなく、愛を知らない孤独・生き方、悲痛な心の叫びに胸が締め付けられます。
鶴蝶を守ったイザナ――最後に気付く“家族”
鶴蝶との出会い
孤独だったイザナは、鶴蝶と施設で出会いました。イザナに「今日からオレが王でオマエは下僕。オレの下僕として生きろ」と言います。それは事故で両親を亡くし、この日死のうとしていた鶴蝶に、イザナが生きる意味を与えたのです。生きる目的を見出した鶴蝶は「命を預けた男の行き先がたとえ地獄であろうとついて行く」と、誰よりも強い忠誠心を誓います。
また、“関東事変”の際にも鶴蝶の事を“下僕”と呼んでいますが、鶴蝶をただ部下として下僕と呼んでいるのではなく、幼いころからの信頼関係があるからこその呼び名である事が、この幼少期のエピソードからうかがえます。
雪の日に語ったイザナの夢“オレらの国”
施設で兄弟のように育ってきた2人。ある雪の日、イザナはかまくらを作り「オレらの国の城だ」と自分の夢を鶴蝶に話します。
最強の国を創り「身寄りのない奴らをみんな国民にして居場所を作ってやるんだ」(『東京卍リベンジャーズ』コミックス20巻引用)と話すイザナ。自分のように親のいない人達に居場所を、と考える優しさを持ち合わせるイザナ。まさに生きる意味を与えてもらった1人である鶴蝶は、一緒に「最強の国」を創ろう、と嬉しそうに微笑みます。
イザナが三蔵法師だったら鶴蝶は孫悟空。王国の名前は「天竺」。と、雪の上に寝転んで話していた2人。その時既に西遊記を由来とした「天竺」というチーム名を決めていた2人。きっといい時代を創れる!と無邪気に話す時間が、心温まる2人の大切な思い出でもありました。
体が勝手に動いちまった――最後に気付く“家族”
佐野万次郎の存在を知り、歪み始めたイザナ。孤独であると思い込み、仲間でさえも自分を利用しているだけだとマイキーとの闘いで叫んでいます。ところが抗争中、鶴蝶が稀咲に銃口を向けられた際に、とっさに鶴蝶を庇い、銃撃を受けてしまいます。何か所も打たれ死の淵に立たされたイザナは「体が勝手に動いちまった」と言います。皮肉にもこの時に、自分は孤独ではなかったこと、ずっと自分に寄り添ってくれていた鶴蝶は自分にとっての“家族”だったことに気が付きます。
やっと愛情に気付けたにも関わらず息絶えてしまうイザナ。自身も瀕死状態である鶴蝶がそんな彼の手を取り「寂しいはさせねえよ。オレも…今…そっち逝くから…」と息絶え絶えに優しく話しかけます。更に「オレらは、上手に生きられなかったな」と涙を浮かべながらイザナに微笑む。環境に翻弄された少年たちががむしゃらに生き、短い命となった結果に涙無しでは向き合えません。
“愛”という大きいテーマを扱った『東京リベンジャーズ 天竺編』。身近な人への愛や、手の届く人への愛を今一度考えずにはいられない、漫画・アニメの枠にとどめる事ができない、考えさせられる素晴らしい作品だと思います。
アニメで演じているのは島崎信長さん
声優の島﨑信長(しまざきのぶながさんは1988年12月6日生まれ、宮城県出身。
『東京リベンジャーズ』の黒川イザナ役をはじめ『Free!』の七瀬遙役、『ブルーロック』の凪誠士郎役、『呪術廻戦』の真人役など、人気作品のキャラクターを多く演じています。
この先に待つものは
東卍100名・天竺400名の総勢約500名にも及ぶ史上最大の抗争は、黒川イザナ・稀咲鉄太・佐野エマの3人の犠牲者を出して幕を閉じました。「東京卍會」は「横浜天竺」に勝ったものの、マイキーの妹エマの死はその代償としてはあまりにも大きく、武道達の心に深い傷痕を残すことになりました。
命を取り留めた鶴蝶に「稀咲が死んでから手の震えが止まらないんだ」とういう武道の言葉で幕を閉じた天竺編。この先の行方は…武道は未来を明るいものに変える事が出来るのか…続編のアニメ放送もしっかりと見届けたいですね!
[文/西澤あさこ]