四季の移ろいを感じる情緒的な演技。童心に帰る大切さを想い起こさせてくれる温かさ――安野モヨコさん原作、スタジオカラー制作のアニメ『オチビサン』塙 真奈美さん×岡本信彦さん×井澤詩織さんインタビュー
塙さんがオチビサンを演じる時は感じたままそのままで。悲しさプラス情緒的なものを伝えられるように
――演じる時に意識した点や収録前や収録中のディレクションで印象的だったものをお聞かせください。
塙:その時に思った感情をストレートに出すことはすごく意識しました。大人の今の自分では違うものが入ってしまうんじゃないかと思いつつ、「子供の頃の自分だったら、こんなシチュエーションの時、どう思ったかな?」と記憶をさかのぼってみたり。
井澤:今は子供のテンションで「わ~っ!」なんて言わないよね。
塙:言いませんね(笑)。子供の時の感情や目にしたものを何とか思い出しながら演じました。オーディションを受けた時は「そのままで」と言っていただいたので、ただ全力で演じていて。あとオチビサンは天真爛漫で好奇心旺盛で元気な子ですが、心が豊かな子でもあるので、四季の移ろう中で変わっていってしまうものや消えていってしまうものに対して、せつなさを感じるシーンが多くて。そういう時は「ただ悲しいな」だけでなく、何かもう一つ情緒的なところを伝えられたらと思って演じました。
――子供であればあるほど本来、感情は単純なもののはずなのに、オチビサンには複雑さも感じられて。
井澤:でもオチビサンは年齢が子供とは明示されていないんですよね。一人暮らししてるし(笑)。
塙:性別もはっきりしてないですし。不思議な子ですね(笑)。
――ナゼニを演じるにあたってはいかがでしたか?
岡本:絵本を読むように、真心を込めて一言一句セリフを言おうと心がけましたが、テンポが良いところもあるので、ナゼニのテンションが上がったり、心の機微みたいなものが見せられたらいいなと思いながら演じていました。そんな中でも一番多くいただいたディレクションは「ラスト5秒あたりはいい感じに」と。
(全員爆笑)
岡本:山田さん(山田陽音響監督)がいつもそう言うけど、「いい感じって何だ?」って(笑)。でも、キャラクターたちが感性を重ねたり、体験したものを積み上げていくようなものが出ればいいなとか、視聴者の方と一緒に一つひとつに発見があって、心の中にしまえるような体験ができたらいいな、という想いを込めてみました。
――ナゼニは唯一のツッコミ役みたいな部分もありますね。
岡本:オチビサンとパンくいがボケだとしたら、ちゃんと突っ込んで正してあげるみたいなところもありますが、あまり強いツッコミにならないよう、怒らないようにというバランスは考えました。この作品では憎悪などマイナスな感情は必要ないので、すべてプラスのエネルギーでいこうと思っていました。
――パンくいを演じるにあたってはいかがでしたか?
井澤:パンくいはオーディション原稿をいただいた時、一番に「何だ!? この子は?」と思ったキャラクターです。「~だよ」というしゃべり方も正解がありすぎるので、どうしようかなと。実はオーディションで、パンくいの他に、オチビサンとナゼニも受けていたんです。
さらに、オーディション用にテープを録る時、オチビサンとナゼニを先にして、パンくいは出たとこ勝負にしたのでパンくい役に決まった時は驚きました。その後、現場に行った時に「テープのままでお願いします」と言われて。正解を探すよりは自分が思ったままのほうが意外に演じやすかったです。
――キャラクターを作った感じではなく?
井澤:岡本さんがおっしゃられたように、オチビサンをどついたりしてても強い怒りや憎しみは感じなくて、明るいままの「オイ!」という感じなのでその加減は調節しました。
塙:結構しっかり「何だよ~!」というケンカはしてますけど、険悪な感じはまったくないですよね。
井澤:その場限りで処理できるくらいの感情というか、抱えられるくらいの規模感でやりました。
塙さんによるナゼニは優しく包み込む感じ、パンくいは井澤さんの第一声を聞いた時からイメージとピッタリ!
――お互いに掛け合いされた感想や、相手のキャラの印象やお芝居についての感想をお聞かせください。
塙:ナゼニにはいつも見守られているような気がしています。オチビサンが遊んでいて行き過ぎた時には優しく止めてくれたり、疑問を口にした時に優しく教えてくれたり。だから安心してオチビサンはやりたいことができるんです。岡本さんの声色もすごくやわらかく、全部を包み込んでくれて。収録でも優しいナゼニがずっと隣りにいてくれる感覚でした。
岡本:それなら良かったです。
塙:岡本さんは収録中も気にかけてくださって。
岡本:最初の頃はすごく緊張されていた気がしたので。
塙:あの時はすごく緊張していましたが、気を遣って声をかけてくださったので、そういう意味でもナゼニが大好きです。パンくいについては、井澤さんのセリフを聞いた瞬間、「あっ! パンくいだ!」と思って感動しました。
井澤:嬉しい!
塙:あとマイペースなパンくいと元気なオチビサンが「どう知り合ったんだろう?」とか「何で仲がいいんだろう?」とか興味が湧いてきて。でもマイペースでこだわりが強いけど不思議ちゃんなパンくいだからこそオチビサンも仲良くなれたのかもしれないなと。
井澤:距離感がちょうどいいのかもしれないね。
塙:親友でもなく、3番目くらいのちょうどいい距離感を出せる井澤さんはすごいと思うし、楽しくお芝居させていただきました。すごくかわいかったです!
――岡本さんはお二人との掛け合いはいかがでしたか?
岡本:オチビサンはピュアピュアなイメージがあって。ナゼニをやっているからかもしれませんが、ツッコミというよりは教えてあげている感覚で、どちらかといえば突っ込んでいるのはパンくいにしている気がします。第1話でパンくいが鍋にパンを入れようとしたのを止めたりして。
井澤:あのシーンはかわいかったですね。
岡本:オチビサンよりもパンくいのほうが子供っぽい気がするし、オチビサンには大人っぽい部分もある感じがします。だからナゼニ的にはオチビサンとのほうが会話している印象があります。パンくいには子供に対して叱るような感じで、愛情みたいなものも感じてもらえたらいいなと。
オチビサンはピュアでエネルギーにあふれていて、ついていきたくなる王道感もあって、僕目線ではど真ん中キャラクターはこういう子のほうがいいなと思いました。子供の時には誰でも持ち合わせているであろう冒険したい欲にも通じているし、子供らしさを感じる声、それが塙さんの声質にもある気がします。
塙:ありがとうございます。
岡本:パンくいは、塙さんも言っていたようにめっちゃかわいくて。
井澤:やった!
岡本:天真爛漫だし、パンが好きだからパンくいというそのままのネーミングもかわいいし。もう、ずっと動いていてほしい。またパンくいは持論を持ち合わせていて……僕には理解できないんですけど(笑)、結果的にかわいくなるんですよね。井澤さんの声質や雰囲気は、まさにパンくいにピッタリだなと思いました。後ろから見るとナゼニとパンくいは色違いみたいなフォルムですが、性格から何から何まで違いますが、パンくいの動きに井澤さんの声がとてもマッチしているんですよね。
井澤:嬉しいです。アフレコ全体を通して、1話5分の短いアニメだけど、めちゃめちゃ丁寧に録っていただいて。カットごとに「こうしてほしい」というオーダーがあったので、スタッフさんの愛がすごい作品だなと思いながらアフレコしていました。
オチビサンは自分でオーディションテープを録っている時から「難しい! どうやったら成立するんだ?」と思っていましたが、塙ちゃんが正解を出してくれて。嫌味がなくて、素直にかわいくて、すべての子供はこうあってほしいという性格の良さも出ていて、魅力的なキャラクターになっているなと思いました。
あとオチビサンとナゼニには情緒的なセリフがあるんですけど、パンくいにはまったくないので、アフレコで「あのエモさを出すのは大変だろうな」とか、「すごいな」とか思いながら見てました。そしてナゼニは、岡本さんの「めちゃめちゃ限界優しいボイス」が……。
塙:優しいボイスでした。
井澤:ナゼニだったらずっと怒られていてもいいなと感じちゃうくらい素敵なボイスで。
(横で大きくうなずく塙さん)
井澤:私は勝手に、パンくいは最初ナゼニの友達で、その後にオチビサンの友達になったと思っているので、ナゼニとの距離感のほうが近いつもりでキャラクター作りをしています。岡本さんがパンくいは叱るくらいの距離感とおっしゃっていましたが、まさにそんな感じで演じていました。