お酒やバーの雰囲気はもちろん、人間ドラマも楽しめるアニメ――『バーテンダー 神のグラス』寺島拓篤さん×南條愛乃さんインタビュー|主人公・佐々倉溜はまさにカクテルのような“味わい深い”キャラクター
キャラクターの視線や本格的なカクテル作りの描写など、細部までこだわりが詰まった映像
――キャラクターデザインや表情、仕草などから感じた点はありますか?
寺島:端々から“手”にこだわりを感じます。例えば、第1話で来島さんが髪についた桜の花びらを取るシーンで、空と手だけが映って「きれいだな」と思いました。そういう部分からもこだわりが自然と出ているなと感じられた印象的なシーンでした。
南條:絵があるから私たちも乗っかれるんですよね。声ですべて状況を説明しなくてもいいのがいいなと。台本や絵コンテで割と気にしながら注目していたのが、佐々倉さんから「お待たせしました」とすっとお酒を出された時、お客様はみんなお酒を見ているけど、美和だけは佐々倉さんを見ているシーンが結構あって。
寺島:(驚いた様子で)本当に?
南條:そうなの。美和は意識して佐々倉さんを見ているわけではないと思うけど、佐々倉 溜という人物についての興味……すごいと思っていたり、尊敬しているので、自然と佐々倉さんを目で追っているのかなと。そういう細かいところでも読み取れる部分があっておもしろいなと思いました。ト書きに「佐々倉を見ている美和」と書かれていることも結構ありました。
寺島:全然気づかなかった! そうなんだ!
南條:そういうものですよ(笑)。そういう描写を見るたびに「美和ちゃん、かわいいな」とひっそりと思っていました。あと2話連続で、「〇〇って、〇〇で使う??」って疑問を問いかけるシーンがあって素直に尋ねる美和ちゃんもかわいかった。
寺島:いいリアクションしてくれるし、いいトス上げるなあ。
南條:たぶん言っている私しか気づいていないと思うんですが、「この質問実は毎回の定番になっていったらどうしよう?」となったりしていました(笑)。
寺島:「今日は何を尋ねるのかな?」って(笑)。溜は意外な素材を使っているからね。
南條:他のキャラクターも演じている方だけが気づいていることがありそう。
寺島:それはあるね。自然にキャラクターが人として生きている感じがする。僕らだけではなく、原作ファンの方もアニメを見ることで気づくことがあるかもしれません。
――アニメの映像をご覧になった感想をお聞かせください。
寺島:よくこんなにカクテルの液体をちゃんと描けたなと(笑)。アニメで液体に注視してこだわることはあまり多くないと思いますが、「お酒をグラスに注いだり、混ぜるところをどう表現するのかな? 描いている方もきっと新鮮だろうな」と。
南條:バーにいる時の描写、第1話のアバンで、シェイカーからグラスに注ぐところからの一連の動作は、まるで実際にリアルで見ているような錯覚を覚えるほどで、アニメなのかリアルなのか混乱するくらい、表現が丁寧でビックリしました。
――バーテンダーの方が監修されているくらい、溜がお酒を作る時の仕草にはこだわりを感じました。
寺島:一番こだわらないといけないところですからね。あとバーの照明も、店それぞれに明るさも違うと思うし、その中でカクテルをどう鮮やかに見せるかも作品のポイントだと思います。我々が実際に足を運ぶことができるものがテーマになっているので、バーにより興味を持ってもらえるきっかけにもなるかなと思います。
――アニメの画面があれほど暗いのは、あとは(ファンタジーものの)ダンジョンくらいでしょうね(笑)。
南條:薄暗いといえば薄暗いですよね(笑)。
寺島:僕らは普段ファンタジーの世界に生きることが多いので、「これはバーだよな」と現実に引き戻してくれました(笑)。
さまざまな想いを抱えるゲストキャラクターたちにも注目。ある回の収録では“友達と同じバーに居合わせてしまった”感覚に!?
――作中で印象的だったエピソードを教えてください。
寺島:序盤だったのでたくさん練習したこともありますが、来島会長が尋ねてきた回ですね。会長が若かった頃のお話なので「どうやったらこの景色を出せるだろうか?」と。
他のエピソードはその人が直面しているお話なので、共感できるところがあると思いますが、会長のお話だけは遠い時代のお話なので、「この雰囲気を皆さんにいかに感じてもらえるか」、そして「会長に思い出してもらえるか」。色あせてきている想い出を鮮明に伝えるにはどうしたらいいのか考えながらやったので、特に印象に残っています。
南條:それぞれのゲストキャラのお話も気になるし、若いバーテンダーの子たちも登場してくるので、そのキャラクターたちの成長物語も気になりました。
あと美和目線で見ちゃうこともあって、いつもひょうひょうとしつつ、何でも知っていて、何でもできてしまう人だと思っていた佐々倉さんが何かで悩んでいたり、話してくれない過去など、佐々倉さんの心の扉をどう開けてもらうかを考えてしまいます。その先にきっと佐々倉さんの成長もあると思うので、全編通して気になっていました。
寺島:第1話の最後からして、金網の向こうを眺めているからね。隠しているわけではないから、そういう部分もたくさん出てくるよね。
南條:だけど佐々倉さん、話してくれないから。
寺島:はぐらかすし。
南條:でもラストに近づくにつれて、どんどん解像度が上がっていきます。
寺島:美和はずっとついてきてくれるよね。
南條:気付いたら「うちのホテルに来てくださいよ」とか言わずに当たり前のようにいて(笑)。
寺島:それもおもしろいよね。
――収録現場の雰囲気はいかがでしたか?
南條:分割で収録していたので、ご一緒する方も回ごとにバラバラで。でもだいたい会話のとっかかりは「お酒を飲まれますか?」から始まります。
寺島:毎回ゲストが来るたびにお聞きするんですが、飲めない人ばかりで。
南條:神嶋役の山本格さんはカクテルを作るのが大好きらしいんですが、お酒を一滴も飲めないそうで。
寺島:渋くて良い声の下戸のバーテンダー(笑)。
南條:「レシピ通りに作れるんでたぶんおいしいと思います」とおっしゃっていました(笑)。第1話のアフレコ現場で、めちゃめちゃいい声で「作りたいから作るんです」みたいなことをおっしゃっていて。それがおもしろ過ぎて。
寺島:現場エピソードとしては、それに勝るものはないですね。
南條:そんな話で、みんなで盛り上がって。バーというより居酒屋ですよね(笑)。
寺島:インタビューを受けると、どうしても格さんの話になっちゃう(笑)。ゲストでピックアップされる方々とは一緒にお芝居できたので良かったです。お芝居から伝わる、その人物の悩んでいる温度感は会話の上で重要なので、ありがたかったです。
南條:だいたいいつも3~4人くらいずつ一緒に録っていました。ゲストキャラで印象的だったのは、かやのん(茅野愛衣さん)が演じた瑠美ですね。
寺島:ご本人の印象の強さも相まって(笑)。
南條:かやのんは普段から一緒に飲む人でもあるので、友達と同じバーに居合わせてしまった、みたいな。
(全員爆笑)
南條:しかも普段の本人とはまた違った方向性での大人の女性役で。いい女すぎて「かやのん、いい女だな」と見ながら思っていました(笑)。
寺島:あの回と登場人物はドラマドラマしてたよね。アフレコしながらもTVを見ているような感覚でした。
南條:あの二人が再登場した時は「行かなかったんかい!」といち視聴者としてツッコんじゃいました(笑)。毎回ゲストを演じる方がどんなお芝居をするのかも楽しみでした。
寺島:原作と音楽と役者の声が混ざり合うことで、また違った味わいになるのはまさにカクテルみたいですし、ぜひ見ていただきたいですね。