『ボボボーボ・ボーボボ』って名作? 珍作? 超神作? 20年前の収録現場や共演者との思い出を振り返りながら、子安武人さんが語る“ボーボボの楽しみ方”|集英社「春マン!!」CM公開記念インタビュー
『ボーボボ』はアドリブNG一切ナシ!?
ーーブースの中で、ディレクションの話を聞いていたのですが、「強めの首領パッチ」というワードが出てきたり、皆さん真剣ながらもワードが『ボーボボ』らしくてクスッとしてしまいました。先ほど、「僕が喋ればボーボボになる」と仰っていましたが、当時からその感覚をお持ちだったんですか?
子安:ボーボボも首領パッチも、漫画の中で千変万化、いろんなものになりきって遊んでいるじゃないですか。低くて、太い声を設定して演じたとして、それだけでボーボボを演じきれるのかっていう問題が出てきちゃうかなと。
だからこそ、声質は決めない。ベーシックな声のイメージはありますが、例えば女の子のようになった時に、そこでガラッとキャラクターが変わったようになってしまうと違和感が出るじゃないですか。
たとえ口調や声が変わっても、違和感なくギャグ漫画として面白く成立させなければいけないというのは、非常に難しいことです。
ーーなるほど。
子安:ボーボボはそういうめちゃくちゃなキャラクターだよ、と提示したいと思っていました。当たり前のように高い声を出したり、ちょっとかわいらしい声をだしたりするのが許されるキャラクターに早い段階でならなくてはいけない。なので、率先して違う声を出していこうみたいな意識はありましたね。
ーーその凄まじい変化の中で、子安さんが自由に裁量を持って演じていったのでしょうか。
子安:厳密に言われたことではないので、あくまで予想なんですが、きっと誰も正解を知らないんですよ。
ーー(笑)。
子安:作ってらっしゃるスタッフの方も、「そもそもこの作品に正解あるのかな?」っていう(笑)。だから僕たちが「こうじゃないの?」って思ってやる。それが、スタッフの方の想定と違ったら、話し合いが始まる。
ここまでは許されて、これは許されない、みたいな線引を会議して決めて、みんなが納得してからまたチャレンジする流れだったと思います。前もって、「このシーンはこうしてください」と言われたことは一度もないんです。
ーーそうだったんですね。
子安:必ず、やってみてからスタートする。例えば、やり過ぎたおふざけとか、やり過ぎたアドリブとか(笑)、そういうものをスタッフの皆さんが選定してくれました。僕たちがやってみて、向こうがジャッジをしていく形で毎回収録していましたね。ただ、あまりNGはなかったですよ。
ただ、固有名詞だけは気をつけてくれと。特に僕は固有名詞をバンバン使っていたので、「それはやめてくれ」と(笑)。
ーー確かに(笑)。大人の問題ですね。
子安:よく言われていました(笑)。
ーー『ボーボボ』の収録は、アドリブにNGがないという噂を聞いたことがあるんですが、本当だったとは……。
子安:僕の記憶ではなかったです。あんなにガチャガチャして、カオスだったのにね。例えば、Aパートを撮り始めると、終わるまで一切止まらなかったりとか。
ーーえー!?
子安:みんなが台本にあるギャグ、自分で思いついたアドリブをどんどん散りばめていくのに、NGがなかったですもん。たまに、ちょっとそのワードは使わないで、とか言われてやり直すことはありましたけど。だから、その耳にしたという噂は僕がどこかのラジオで言ったものだと思います。
ーーご本人の発言がソースだったんですね。
子安:ええ、当時は天才だと思ってましたから自分のこと(笑)。アドリブやってもNGが出ないって豪語してたと思いますよ。今でもそう思ってますけどね。「俺達天才だね〜」って小野坂さんと。
ーーNGなしで、アドリブの応酬をしているなら天才ですよ! みなさん、アドリブはどうやって考えるんですか?
子安:基本的には台本上に書かれているセリフを踏襲して、セリフとセリフの間の余白に入れ込んでいく感じですかね。アニメーションだと、セリフだけじゃなくて、キャラクターが動いているだけの瞬間があるじゃないですか。そういうところですね。
例えば、キャラクターがジャンプして「とう!」とか「うっ!」とか言うじゃないですか、そこにセリフを入れてみるとかね。
ーーなるほど。
子安:元々書いてあるセリフを改変するとかではなくて、行間にプラスしていく。膨らませるようなことをみんなしていたんじゃないかな。そういうのが許される時代だったというか。『北斗の拳』のやられる時の叫び声みたいなね。
それらが面白いと言われたり、許される時代だったのかも。何と言っても、『ボーボボ』はギャグ漫画ですからね。シリアスドラマではないので、ある程度面白ければ許容してくれていたのかもしれません。
「一瞬一瞬が面白ければ良い、という作品なんですよ」
ーー当時の作品の人気はどのように感じていたのでしょうか?
子安:人気ぶり!? 全然感じませんでしたよ、ゴールデンであの内容をやっていましたから(笑)。色々なお叱りを受けることもあったので、人気の実感はなかったかもしれません。逆に、なんでこんなに面白いのに、世間は認めてくれないんだろうって。割と逆風だった印象かな〜。好きな人は本当に好きなんだけど、好きになれない人の反応のほうが気になってしまって。
よく、「ボーボボは人類には早すぎた」なんて言われますけど、この作品を良いとするか悪いとするか難しいところがあるかもしれないですね。今でも、もしかしたら早いかもしれないし(笑)。永遠に早いかも。
ーー人類には追いつけない……!
子安:要は理解できないものなんですよ。きっと原作者の澤井啓夫先生が、天才すぎるんじゃないですか。僕も自分でやっておきながら、理解できませんし。その一瞬一瞬が面白ければ良い、という刹那的な作品なんですよ。練りに練ってこのあと面白くなる、ということではなくて「今が一番面白いでしょ!」っていう作品。その一瞬のために、僕たちも一生懸命でした。
ーー今見直しても、みなさん全力で。
子安:いや〜、全力でバカやってましたから。でも、スタッフさんは後ろでピクリとも笑わないですからね(笑)。
ーー演じ手としてはリアクションがわからない分、ダメージを受けそうですね(笑)。
子安:本当ですよ。ガックリすることもあったんだから。演じながら「面白いだろ〜!!!」「(スタッフ陣)…………」ですから(笑)。「ええ〜!」 って。こんなに面白いのに真顔で聞いているのかと。ただ、それだけスタッフの皆さんは真面目にジャッジをしてくれていました。結構、凹むんですけどね(笑)。
ーー今日は皆さん笑ってらっしゃいましたよ! また何かしらの形で『ボーボボ』のアニメを見てみたいです。
子安:え〜? 本当に思ってますか〜? そういう意見も結構聞くんですけど、実際にやったらみんな見ないでしょ(笑)。
ーー見ますよ!
子安:ホントかな〜?(笑)
ーー現に、今もいろんなグッズ展開も凄いじゃないですか。
子安:確かに凄いですよね、逆に不思議なんだよな〜。本当に欲しい人がいるのかな、と思っていますよ。
ーー当時、リアルタイムで見ていた子供たちが大人になって、お金を自由に使えるようになったからこその商品展開だと思いますよ。僕も、当時は地方に住んでいて途中で見れなくなってしまったし……。
子安:でも、香水は買わないでしょ?(笑)
ーー香水は普段あまり使わないので……。
子安:ほら!
ーーきっと香水が好きなハジケリストは購入していますから! 追加販売も開始されていましたし。
子安:ホントかなぁ〜? 香水が出た時、僕びっくりしたもんな〜。
ーーそれにしても色んな商品が出ていますし、需要があるってことですよね。
子安:ですね! 当時はそんなにグッズもなかったんじゃないかな?
ーー僕、週刊少年ジャンプの応募者全員サービスで指人形買いましたよ。あとゲームやカードもありましたし。
子安:懐かしいね〜、指人形あったな〜。今、当時よりもいろんなものが出ていますからね。そういうこともあるんだなと感心しています。
「楽しい気持ちで『ボーボボ』を思い出してくれるから、嬉しいんです」
ーー『ボーボボ』は後の漫画やアニメに影響を与えていますよね。
子安:噂によると他の作品や作家さんに影響を与えているとか、いないとか。20年経っているのに、記憶に残っていて、事あるごとにグッズが出たり、タレントの方にいじっていただいたりして、みんなに思い出してもらっているわけじゃないですか。
それが一番嬉しいですよね。みんなの心のなかに『ボーボボ』があった、未だにある、ことを思い出して、口に出してくれるのは幸せですよ。当時は、爆発的な人気を得られていなかったと思うんだけど、見てくださっていた方がいて、その方たちの心のなかで「面白い」っていう記憶が残っていることを確認できたのが何よりも嬉しいです。
ーー忘れることができない作品です。
子安:覚えているとしても、つまらなかったら残念じゃないですか。でも、「面白かったよね」とか「もう一度見たいよね」というような、楽しい気持ちで『ボーボボ』を思い出してくれるから、嬉しいんですよね。
「あんなくだらない作品があったぜ」じゃなくて、バカバカしくて未だに理解できないけど、とっても面白かったねって。前向きな記憶で、思い出してもらえると幸せです。
ーー素敵です。
子安:だから僕も代表作品から消しても、また復活してくるわけですよ。「やっぱボーボボは書かなきゃダメかな〜?」って(笑)。
ーー絶対に忘れられないですよ、『ボーボボ』は(笑)。
子安:どんなカッコいい役をやっても、プロフィール欄に『ボボボーボ・ボーボボ』って書かれるとギャグになっちゃうからな〜。最近は、それも良いかななんて思いますけどね。凄い良い役やっても「代表作:『ボボボーボ・ボーボボ』」って(笑)。ファンの皆さんが「他にあんだろ!」ってツッコんでくれるくらい。存在自体がおもしろいんですよね。
ーー子安さんは『ボーボボ』に出演してみて、変わったことはありましたか? ギャグ作品のオファーが増えた、とか。
子安:やってる当時はあったかもしれないですね。マッチョ系の役が多くなったとか、ギャグものが多くなったとか。でも、そういうのが続くと方向転換したいなって思っていた時期もありました。結局は、幅広くいろんなものをやりたいので、その一環としてボーボボみたいな役もやれるし、やりたい。その姿勢は今も昔も変わっていないんじゃないですかね。
あと、『ボーボボ』のメンバーというか、役者さん達と収録するのが本当に楽しかったですし、それが自分の中でも良い思い出というか。あの小野坂昌也とコンビを組んで、相棒になって、1年以上も同じ作品に出演し続けるのは本当に楽しかったですね。
ーーでは最後に、改めて子安さんが感じる面白さや魅力はどういうところだと思いますか?
子安:うーん、正直に言うと僕はよくわからないです!ちょっと語弊があるかもしれないんですが、僕が面白いと感じたことは、役者さん・スタッフさん達と「おもしろい作品を作る」と結束した経験なんです。
それが一番楽しくて、それが僕の『ボーボボ』の楽しさ。作り手が最高に楽しんでいる作品なんだから、面白くないわけないじゃん、という感覚ですね。みんなが同じ気持ちだからこそ楽しいし、それが伝われば面白いはず。
ーー制作陣の楽しさが滲むことで、我々視聴者も楽しくなると。
子安:ただ、視聴者の方々がどこに面白さを求めるのか、本当に人それぞれだと思う。何も考えずに気楽に見て、馬鹿騒ぎできるのが面白いという人もいるし、細かく見ると伏線や展開のギミックが凝っていて、そこが好きという人もいる。単純に、出てる役者さんやキャラクターが好きとかいろいろあると思うんですけど、その楽しめる幅が広いのも魅力のひとつですよね。
あえて、言うなら『ボーボボ』を生み出した天才・澤井さんが一番魅力的なんじゃないでしょうか。原作者が天才だってことですよ。あの人は自分が天才であることを自覚したほうが良いですね。天才なのに、「自分はもうだめだ……」とか思いすぎる傾向にあるので。
苦しんで、悩んで描いている方だから。それ故に、凄い作品を生み出せると思うので、澤井さん素晴らしいって今でも思います。
春マン!!2024
『超ハジケステージ☆ボボボーボ・ボーボボ』
「ボーボボ・ボーボボ」の舞台化が決定!
舞台「超ハジケステージ☆ボボボーボ・ボーボボ」が10月に東京・シアター1010で上演されます!
脚本・総合演出を務めるのは「モブサイコ100」シリーズや「体内活劇『はたらく細胞』」を手掛けた川尻恵太氏(SUGARBOY)!
続報は舞台公式アカウントにて発信予定!
https://twitter.com/bo_bobo_stage
作品概要
あらすじ
マルガリータ帝国皇帝ツル・ツルリーナ4 世は己の権力の象徴として
全人類をツルツルボーズ頭にすべく全世界で毛狩り隊による“毛狩り”を開始した。
そんな時代に毛の自由と平和を守るためマルガリータ帝国に立ちむかう1人の男がいた。
その男の名はボボボーボ・ボーボボ!
鼻毛真拳の使い手ボーボボはビュティ、首領パッチらとともに毛の平和のため(?)旅にでる!!!
キャスト
(C)澤井啓夫/集英社・東映アニメーション