春アニメ『怪獣8号』福西勝也さん(日比野カフカ/怪獣8号役)×瀬戸麻沙美さん(亜白ミナ役)インタビュー 現場で起きた化学反応|「麻沙美さんのお芝居が本当に素晴らしくて、その後に続くカフカのセリフがなめらかに出てくるんです。一方的に影響を受けていました」
自負もできたし、謙虚な気持ちを持ち続けることもできた
――現場に入る前に準備されたことと、演じたことで感じた魅力など、アフレコに入る前・入ったあとで変化したものはありますか?
福西:私はアニメーションではじめて主人公を演じるので、収録に入る前は「座長という立場にどのようなスタンスで臨むべきか」ということをあれやこれやと考えていました。一般的にアニメーションで主役を演じる方の多くは、みんなを引っ張ったり支えたりできる豊富な技術やキャリア、あるいはまだ経験が浅い新人だからこそ出せるフレッシュさ、そのどちらかを持っている人が多いような印象があります。
その点私の場合はすこし特殊で、外画の吹き替えを主戦場にしてきたこともあり、初主役の若手にしてはマイク前の経験自体は多く積めていた方だと思います。とはいえ座長としてアニメーション作品を背負って立つことへの向き合い方にはなかなか結論が出なくて。今まで培ってきた技術にはそれなりの自信があるけれども、精神面ではあまり余裕がない……そんなどっちつかずの状態で現場に入ったので、そこに対する不安や孤独感はありました。ところがいざ現場に入ってみると、共演者やスタッフのみなさんがすごく柔らかい空気を作ってくれて。
特に麻沙美さんはキャリア的には先輩なんですが、先輩・後輩関係なくひとりの役者としていつも接してくれるんです。この現場にはそういう方が多くて。自分の蓄えてきた経験値も、慣れない立場に対する不安も、ありのままを肯定してくれている感じがしました。
――いい現場なのですね。
福西:はい、とっても。アニメーションのメインキャラの経験は少ないけれど、仕事人として、マイク前に立ってきたプライドや自信は持っていて良いんだなということも、現場にいるみなさんの柔らかさに気付かされたというか。自負もできたし、謙虚な気持ちを持ち続けることもできました。(瀬戸さんに向かって)その節はありがとうございました。
瀬戸:いやいやいや、何も! 私はキャラクターの役割的にも、どういう居住まいでいようかなと……そんな考えなくても良いとは思うんですけれども、今回ご一緒する方たちとは、ガッツリご一緒するのは初めての方で。みんなキャリアはそれぞれあれど、年齢が近い人が多かったんですよね。だから……なんて言うんだろうな。あまりお節介はしないでおこうと思っていて。
福西:ああ!
瀬戸:これまで、自分の先輩たちにしてもらったことというのがあって。自分がしてもらって助かったことを返していきたいと思わせてくれる人に出会うと、声をかけたり、何かきっけがあったら言ってみたりとかってことがあるんですけども、それって人によってはお節介というか、プレッシャーになる方もいると思うんです。その人のタイミングや感覚によって違うから。
かつて先輩に「受け入れてくれる人にしか(アドバイスは)言わないよ」と、伝えられたことがあったんですね。だから先輩たちも、誰彼構わず言っているわけではなくて、人と場所を選んでお話しされているんだなと。
福西:素敵。
瀬戸:そう考えると……私は1話のこども時代からアフレコがスタートしたので、最初からガッツリというより、途中からじわじわ出てきたからこそ「お邪魔します」といった空気感で現場に入っていたんですね。どのようなものか、感じてからにしようって。役どころ的に隊長ということもあって、防衛隊にこれから入るという立ち位置とは違ったところにいるので、自分から話しかけて積極的にコミュニケーションをしようと意識しすぎるよりかは、空気を見て、そこにふわっと乗っかって、混ざっていこうかなという感覚でいました。
まずは自分の役をしっかりできればそれで良いというところがあるので。そこをちゃんとやろうと。どんなディレクションがくるのかな、(役者の)皆さんはどんな感じでくるのかな、とか探りながら現場に入っていきました。その中で、本当にみんなスタイルでやっているんだなと思いましたね。
福西:そうですね。本当にみんな、良い意味でリラックスしていて、マイペースで、自分でいられたというか。
瀬戸:確かに、マイペースな人が多いかも。
福西:個人的には……麻沙美さんがさっきおっしゃってましたが、「そこにふわっと乗っかって、混ざっていこうかなという感覚」で現場に入ってくださったことが、私の落ち着く要因にもなっていたんです。自然体でいてくださったことが私の助けになりました。
瀬戸:その人たちがそうなのか、コロナ禍を挟んだからなのか、昨今のアフレコ現場では「個」が立つような感覚があって。人によるとはおもうけれども、自分のことをやれば良いじゃないですけども……でもそれって基本的にすごく大事なものなんですけども、その感覚は今ってどうなんだろう?と不安なところもあって。あまり塊になろうとしすぎるのを嫌がるじゃないですけども、そういう人もいるのかなって思っていましたね。
福西:人数制限の緩和があって、ちょうどアフレコの人数が増えた時期でしたもんね。振り返ると、手探りな時期だったかも……。
瀬戸:自分のセリフが終わったら帰るというのがほとんどで、意図してなくても協調性がなくなっていった時期だったから。自分もそうだと思うし。1話の時は、まわりとコミュニケーションを取ってアフレコをしていく距離感というのを、はじまりだからこそ感じられましたね。
福西:でもあの(コロナ禍の)時期って、本当はもっとみんな話したかったような気がするな……。
――こうしたお話からも、さきほどおっしゃってた瀬戸さんの柔らかい部分をキャッチできるところがあるなって思いながらうかがっていました。
福西:それは本当に! 距離感のバランスを取るのがすごくうまくて。本当に尊敬している先輩のひとりです。とはいえ(カフカの)幼少期は別の方が演じられていることもあって、意外と掛け合いのシーンは少ないんです。でも私は一方的に影響を受けていました。
例えば、ミナは隊長なので、要所要所、スピーチをする機会があるんですね。その時の麻沙美さんのスピーチが本当にすばらしくて!
瀬戸:本当ですか?
福西:もちろん本当に。ずっどーんときました。グッと感動して、カフカとしても、そのあとのセリフがなめらかに出てくるんです。片思い的な化学反応がすごくありました。
瀬戸:それは感じてくれる心があるから。
福西:ああ……。
瀬戸:当たり前だけど、当たり前じゃない。聞いて感情が出る、受けて喋るって。みんなリハーサルしてきて(役をつくってくるから)、それって実は難しいことなんです。
――確かに当たり前ではないというか、舞台のような生身のやり取りのお芝居というのは難しいのかもしれないですね。でもそれができたというのは役者冥利とも言えるのかもしれません。
瀬戸:それはすごくうれしいことです。福西さんは、聞いて、感じて、声に出してくれていることが伝わります。
福西:嬉しい。
――瀬戸さんから見た福西さんのお芝居の印象というのは、そういう生身の、スタンプ的ではないお芝居と言いますか。
瀬戸:そうですね。ただ、カフカ役でなければ、またアプローチは違うのかなと思っています。カフカ役で見た福西さんは、初めて見るタイプの福西さんで。
福西:あはははは、バレてる。恥ずかしい(笑)。クールな役の時は静かになっちゃったり、逆に明るい役の時は騒がしくなっちゃったりすることが多いです。
瀬戸:でもキャラクターに引っ張られるところはあると思うから。あと、ディレクターとのやり取りも、なかなか見ないタイプだなぁって。
――へえ!
瀬戸:主人公だからこそ「自分はこうやって演じたい」というプランがしっかりあって、それを提示できるってすごいことだなと思っていました。さっき話にあった通り、音響監督の郷さんって、受け取り体制がすごいというか。懐が深いんです。役者の想いを受け取って、噛み砕いて、その上で演出的にやらなければいけないことを役者に伝えるのがものすごく上手な方。だから福西さんが燃え上がっているところはしっかり受け入れながらも、うまくまとめていくっていう。
福西:本当にその通りなんです。自分のアプローチが面白いなと思ってもらえれば肯定してもらえるし、演出的にそれは違うなとなったら肯定するのと同じテンション感で「でもここはこうしようか」と軌道修正してくださる。その取捨選択がすごいんです。本当に理知的で、それでいて圧がまったくない。だから提案もしやすかったんです。
それに加えてこの『怪獣8号』の現場には松本直也先生、担当編集者の方もいらっしゃるので、主人公を演じる身として、作品全体のバランスを考慮しながら、どのようにキャラクターを表現するか、物語をどう生き生きとさせるかの相談をめちゃくちゃしていました。現場ではなかなか珍しいやり取りだったのかなと思います。
瀬戸:先生がほぼ毎週いらっしゃっていて、それ自体、とてもめずらしいことだと思うんです。
福西:先生があの場にいらっしゃらなかったら、私もあそこまで踏み入った提案はできなかったと思うんです。でもスタッフのみなさんの体制もバッチリでしたし、それによって麻沙美さんをはじめ共演者の方々にも新しい面を見ていただけたのかなという気がしています。
お互いの意外な共通点を発見?
――福西さんのお話をうかがっていると、福西さん自身がとても柔らかい方なんだなって思いました。それでいて、燃えるような意思を持っているっていう。
福西:あっ、本当ですか? (瀬戸さんに向かって)どうです?
瀬戸:尖った部分?は持っているんだけれども、削り落とされたかも?(笑)
福西:あはははははは! (恥ずかしそうに)いやあ、麻沙美さんと最初に会った頃は尖ってたかも……?
瀬戸:でも分からない、私には棘を向けてはないから(笑)。
福西:役者をはじめる前から、大好きな役者さんだったので。多分麻沙美さんには「おはようございます!へへ」って感じだったんじゃないかなと。
瀬戸:あははは。でも私も性格的に熱くなるタイプだからすっごく分かる。その一方で、大人になってくると、コントロールできるところもあって。だから熱いものは秘めつつも、言葉選びは柔らかくなるというか……。大人ですからね(笑)。
福西:そういう意味で言うと、今、私は成長過程というか。麻沙美さんのたどってきた道を今たどってきているような気がします。
瀬戸:やめてよ〜! 2歳くらいしか変わらないんだから(笑)。
福西:キャリア的には大先輩ですから。でも熱いものがある、っていうのは似通ったところがあるのかもしれないと思いました。『ちはやふる』でご一緒した時に、本当に熱くて。
瀬戸:あの時は自分のことしか見えてなくて(笑)。『ちはやふる』三期の時に、福西さんとご一緒してたんです。作品的にも部活モノということもあって、戦って挑んでいかなければいけないところがあって。
ちょっと話が戻ってしまうんですけれども、今回の座組はとても印象的でした。防衛隊の中には、同世代(の役者)がいつつも、キャリアが上の先輩が混ざっていて、敵側には大御所の方もいて。先輩との関わり方もまた違うというか。
福西:私も珍しい座組だなと思っていました。他の現場では見ない独特の空気感というか……。「個」を尊重しあっている感じがしましたよね。
瀬戸:そうですね。同世代が集まると、締めていくところは締めていかないと緩くなってしまうところもあると思うんです。でもそうならないという。みんな真面目な人たちばかりで。
福西:良いバランス感覚で進んでいきましたね。
――あっという間にお時間になってしまったのですが、濃密な現場だったんだなと、お話を聞きながら感じていました。
福西:あ、もう!? 本当にあっという間でしたね(笑)。個人的には、麻沙美さんから聞いたことのないエピソードをたくさん聞くことができて、とてもうれしい時間でした。ありがとうございました! 放送もぜひ楽しみにしてもらえたらと思っています。
インタビュー・逆井マリ / 写真・MoA
アニメ『怪獣8号』作品情報
放送/配信
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テレ東系列 4月13日(土)より 毎週土曜 23:00~
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AT-X:4月14日(日)より 毎週日曜 22:00~
アニマックス:4月27日(土)より 毎週土曜 21:00~
長崎放送:4月27日(土)より 毎週土曜 24:28~
奈良テレビ:4月29日(月)より 毎週月曜 25:00~
中国放送:4月30日(火)より 毎週火曜 24:26~
■配信:
X(Twitter)4月13日(土)より 毎週土曜23:00~ 全世界リアルタイム配信
各種配信プラットフォームでも、放送終了後23:30より順次配信開始。
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イントロダクション
日常的に怪獣が人々をおびやかす世界。
怪獣を討伐する「日本防衛隊」への入隊を志していた日比野カフカは、いつしかその夢を諦め、怪獣専門清掃業者で人知れず働いていた。
「二人で怪獣を全滅させよう」
かつてそう誓い合った幼馴染の亜白ミナが第3部隊隊長として脚光を浴びるなか、
彼女と共に戦えない不甲斐なさを抱えるカフカ。
しかし、防衛隊を目指す後輩・市川レノとの出会いをきっかけに、止まっていた時が動き出す。
ミナの隣に立つために。怪獣から人々を守るために。カフカは再びかつての夢を追い始める。
――だが彼は知らなかった。
怪獣の脅威が、思いもかけない形で近付いていたことを。
スタッフ
原作:松本直也(集英社「少年ジャンプ+」連載)
監督:宮繁之 神谷友美
シリーズ構成・脚本:大河内一楼
キャラクターデザイン・総作画監督:西尾鉄也
怪獣デザイン:前田真宏
美術監督: 木村真二
色彩設計:広瀬いづみ
3D監督:松本勝
撮影監督:荒井栄児
編集:肥田文
音響監督:郷文裕貴
音楽:坂東祐大
怪獣デザイン&ワークス:スタジオカラー
アニメーション制作:Production I.G
オープニングテーマ:YUNGBLUD「Abyss」
エンディングテーマ:OneRepublic「Nobody」
キャスト
日比野カフカ/怪獣8号:福西勝也
亜白ミナ:瀬戸麻沙美
市川レノ:加藤 渉
四ノ宮キコル:ファイルーズあい
保科宗四郎:河西健吾
古橋伊春:新 祐樹
出雲ハルイチ:河本啓佑
神楽木葵:武内駿輔
小此木このみ:千本木彩花