テーマは“儚くも美しい”。重厚な“静”をまとったロックバラードを『デート・ア・ライブV』OPとして〈あなた〉に届ける――富田美憂さん 5thシングル『Paradoxes』インタビュー
2023年11月よりアーティストデビュー5周年イヤーに突入している富田美憂さんが、約5か月ぶり、パッケージとしては2022年11月のコンセプトアルバム『Fizzy Night』以来、約1年半ぶりとなるシングルをリリースします。
表題曲「Paradoxes」は、2024年4月より放送中のTVアニメ『デート・ア・ライブⅤ』のオープニングテーマ。4期『デート・ア・ライブIV』に引き続きオープニングを彩っていますが、“動”を交えたシンフォニックなロックナンバー「OveR」から一転、“静”をまとった壮大なバラードとなっています。
本稿では、どのような心持ちで本作に挑んだのかを伺いつつ、「Paradoxes」(逆説的な)に掛けて、富田さんの“これまで”を一風変わった趣旨で振り返りました。声優、アーティスト、そして人間・富田美憂のこれからにさらに期待が高まるはずです。
大切にしたのは〈あなた〉
──『デート・ア・ライブIV』オープニングを飾った「OveR」に引き続き『デート・ア・ライブV』のオープニングを飾ることに。主題歌が決まったときのお気持ちを教えて下さい。
富田美憂さん(以下、富田):実は「OveR」の収録後、比較的すぐのタイミングで「5期もお願いします」というお話をいただいていたんです。その段階から「次はどんな曲になるんだろう!」というワクワクがありました。「OveR」の取材でもお話させていただいたと思いますが、『デート・ア・ライブ』は私が学生の頃から親しまれている作品なので、その作品に4期、5期と関わらせていただけることが光栄でした。
──長く愛されている作品ですものね。
富田:中高の図書室に原作が置いてあったんです。そこで手に取っていましたし、同世代のアニメ好きな男の子たちが作品の話をしていましたね。みんな好きだったので。
──その作品の主題歌を同級生が歌っているというのは嬉しいでしょうね。
富田:(笑)。地元の仲良し5人組がいるんですが、みんなオタクなので私の出るイベントにもチケットを買って来てくれるんですよ。それこそリリイベの時も客席を見たら「い、いる!?」ってことがあります。本当にびっくりしますよ(笑)。
去年の年末年始にゲームをすることになって。そのうちの一人の部屋にみんなで集まったときも、私の「OveR」のアクスタが置いてあって(笑)。新しい作品が決まると「おめでとう」と言ってくれる地元の友だちがいますね。「Paradoxes」が発表になった時もグループLINEで連絡をくれました。
──「Paradoxes」は「OveR」とはまた違った毛色の壮大なロックバラード。曲を聴かれたときはどのような感触が?
富田:ロックバラードということもあって、すごく印象的なイントロだなと思っていました。「OveR」のだんだん上がってきて力強く始まるオープニングとは逆で、ピアノから始まって、語るように歌って……という。曲だけ聴いた時は「エンディングなのかな」って思うくらいで。アニメの1期のオープニングであればびっくりさせてしまうかもしれませんが、5期まで続いてきたからこそできるタイプの曲なのかなと思いました。
──しかもロックバラードというところが富田さんらしくもあり。
富田:さらに作品の世界観にも合っていますからね。ただ、この楽曲は歌うのがとにかく難しくて!(笑) 特にAメロ、落ちサビ前の曲が静かになるところは、歌というより語りのようなイメージで、その直後のサビでスケールの大きさを表したいなという気持ちもあって。緩急をつけてテクニカル的なところを使いながら歌いたいなと考えていました。
──『デート・ア・ライブV』を踏まえた上で、渡部紫緒さんが手掛けられた作詞についてはどのような印象がありましたか?
富田:私はとにかく、〈あなた〉というワードを大切にしていました。主人公の士道に向けた、ヒロインたちの気持ちでもあるだろうなとも思いますし、聴き手の皆さんが「自分に歌ってくれているんだ」と思ってくださるように、一言一言大事に、丁寧に歌いたいなって。
──ライブだと、一人ひとりの顔を見ながら歌うことになりそうですね。
富田:はい、そんな気がしています。
──すごくしなやかな印象があって、この表現力は今の富田さんならではの印象がありました。強く歌うというよりかは、凛とした雰囲気。
富田:ありがとうございます。“儚くも美しい”をテーマにしていたんです(笑)。だからレコーディングの時も、皆さんと「今回は“儚くも美しい”でいきましょう!」と。
──(笑)。現場の雰囲気もとても良いんですね。
富田:そうなんです! 現場の雰囲気がすごく良くって、回を重ねるごとに、どんどんと温かみを増していて。心地よい雰囲気の中でやらせていただいています。そういう現場だからこそ、私から「こういうことをやってみたい」と提案をさせていただく機会も増えてきました。歌の最後は「(デモでもらっている)仮歌さんのものよりも伸ばしてみたほうが気持ちが良い気がするんですけど、やってみても良いですか?」ということを伝えてチャレンジさせていただいたり。
──レコーディングにあたって準備したところはありましたか?
富田:丁寧な音作りをしたくて、普段とは違ったアプローチを試みたんです。今までの楽曲であれば……例えば、1stアルバムに収録された「Run Alone!」は、荒削り感が良い味を出してくる楽曲なんですけれども、今回は違うなって。歌詞に関しても、繊細で女性らしい部分があったので、普段であればしゃくっている語尾をあえて抑える箇所も作って。どこか上品な感じにしたいなという気持ちがありました。だからいつもよりお淑やかな雰囲気を意識していました。
──ライブでは新鮮な立ち位置の曲になりそうですね。重厚で、それでいて静謐で。
富田:まさに重厚さはありながらも、静のイメージなんです。「OveR」は動だったんですけれども、その真反対をいく曲で、でも控えめすぎるわけでもない。特にラスサビはスケールが大きいので、いろいろな表情を出せる楽曲だなという印象です。今までいろいろな楽曲を歌わせてもらってきましたが、初めてのタイプの楽曲になるんじゃないかなと……(取材時点では)まだ1回もお客さんの前で歌っていないので、ライブでこの楽曲がどう育っていくのか、私もすごく楽しみです。
──育てがいのある曲ですね。きっと演出面においても。
富田:そう思います! バンドでやっても映えそうですし、アコースティックでも成立しそうですし。
──アーティスト写真は花を持った富田さんの表情が印象的です。MVも含めたアートワークに関してお話できることがあったら教えて下さい。
富田:先ほども話していた“儚くも美しい”がしっくりくるような内容になっているんじゃないかなと。髪も金髪で、服も頭から爪先まで真っ白で。MVは夢の世界がテーマになっているので、ビジュアル・音楽・世界観を含めて、非現実的で幻想的な雰囲気になったら良いなと思っていました。いつもよりスモークが多めな感じで(笑)。洋館のような場所での撮影だったのですが、監督が「窓だけど鳥かごのような感じで」とおっしゃっていたことも印象的でした。
──あえて顔に光が当たらず、ナチュラルかつ、上品な雰囲気ですね。
富田:メイクさんいわく、髪もガチガチに固めすぎず、ナチュラルな感じで作ったと。「OveR」のときは表情もキメキメで、強い、鋭いみたいな言葉がしっくりきたんですけども(笑)、今回は表情づくりに関しても、切なく儚げで、触ったら消えてしまいそうな感じを意識しました。
──「OveR」は翼がバチバチに羽ばたく感じでしたが。
富田:こっちは片翼しかないっていう(笑)。