テーマは“儚くも美しい”。重厚な“静”をまとったロックバラードを『デート・ア・ライブV』OPとして〈あなた〉に届ける――富田美憂さん 5thシングル『Paradoxes』インタビュー
「これまで」を逆説的に振り返る
──「Paradoxes」は逆説という意味で、paradoxの複数形に当たるんですよね。最初は“パラドックス”と読むのかなと思っていて。
富田:私もです(笑)。最初「パラドックスですか?」と聞いたんです。そしたら「“パラドキシーズ”です」と。現時点ではXでしか言っていないので、お客さんもびっくりするかも(笑)。
──(笑)。で、改めて言葉にすると、11月15日に25歳を迎える富田さんが、アーティストデビュー5周年イヤーに、5thシングルとして『デート・ア・ライブⅤ』オープニングテーマをリリースするわけですが……。
富田:あはははは、めちゃくちゃ5が多い(笑)。
──まさにその“5”と“逆説”にかけつつ、次のお話を伺えればと思いまして。表題曲の『Paradoxes』は、「逆説」「一見正しく見える矛盾した言葉」「相いれない側面」といった意味合いがあります。ここまでの人生を5年区切りで振り返って、「これをやっておけば良かった」と思うことと、そこで後悔したからこそ、今の富田さんの力になっているものをお聞かせください。
富田:なるほど……。
──それこそ、先程地面を向くことが多かったというお話がありましたけれども、その時期があるからこそ、人に寄り添う歌を届けることができるのでしょうし。そういうお話をまずは0歳〜5歳まで伺えたら。
富田:この間、実家に帰ったときに昔のホームビデオを見たんですよ。それが幼稚園の年少さんのおゆうぎ会の映像で、多分それが富田美憂にとって初めてのダンスなんですけれども。当時から人見知りでシャイだったのか、他の子よりも動きが小さくて(苦笑)。控えめでしたね。「もっと胸を張って踊りなさいよ」なんて思っていました。
父と母以外と目が合うとギャン泣きだったそうで、親戚にも「美憂とは目を合わせるな! 泣くぞ!」って言われていたらしいんです(笑)。逆に弟は誰にでもなつくタイプでした。私と末っ子は人見知りで、末っ子に関しては上2人を見ているから達観したところもあって、「このラインを踏み越えたらパパは怒る」みたいなことを理解しているから(笑)、すごく要領がいいです。そこはもう少し、私も丸ければ良かったなと思うところはありますね。
ただ、当時男の子の友だちと鬼ごっこで遊んでいた記憶はあるんです。だからアクティブな側面もあったと思うんですけれども、人前で何かをやるということは苦手だったのかなという気がします。
──6歳から10歳、人見知りだった少女・富田美憂はどう変貌していくんです?
富田:6歳で空手を始めたんですよね。小学生時代は空手・空手・空手!という感じで、とにかく習い事の毎日でした。
──「この習い事やっておけばよかったな」というものはありますか。
富田:えっと、ピアノ、ダンス……ダンスも欲を言うなら、ヒップホップ、ジャズ、バレエ、それぞれやりたかったです。
──マルチに。
富田:というのも、ダンスに触れたのが仕事でユニット活動を始めてからだったんですよね。声優さんは「小さい頃からダンスをやっていて得意です!」という子が多くて、そういう子と肩を並べて同じユニットで活動しなければならないとなった時に「ああ、やっておけばよかった!」って。最初は本当に振り覚えも遅かったんです。
事務所に入って間もない頃、俳優さんやモデルさんたちといった、異なる分野の方々と混合で集中レッスンしていた時期があったんです。その中にダンスレッスンもあったんですけど「なんで1回で覚えられるの?」ってくらい、周囲がどんどんマスターしていく様子に圧倒されて、ひとりだけポツーンとなって。それがすごく恥ずかしかったんです。
だんだんと「私は声優なのになんでダンスをしなきゃいけないんだ!」なんて思ってしまうくらい、ダンスレッスンが苦痛になってしまって。そういうスタートでした。ピアノに関しても同じように思いますね。譜面をスラスラと読めるようになりたいなって。
──今は苦手意識はなくなりました?
富田:ダンスはむしろ好きです! 昨年9月、事務所の先輩である牧野由依さんと「THE IDOLM@STER CINDERELLA GIRLS Shout out Live!!! 」でご一緒したんですけれども、ある楽曲を練習していたところ牧野さんから「美憂ちゃん、本当にダンスが得意なんだね! ダンスをやっていた人なんだろうなって思った!」と言っていただけて。そう言ってもらえるくらい成長できたんだなと思うととても嬉しいなと。未だに振り覚えは遅いんですけれども(笑)。でも2回目の振り入れまでは完璧に仕上げていかないと気がすまないところもあって。
──当時、「恥ずかしかった」という気持ちがあったからこそ、2回目はちゃんと持っていこう的な気持ちが強いのでしょうか。
富田:そうですね。周りが出来ていて自分が出来ていないことが、とにかく恥ずかしかったんですよね。昔は事務所でお芝居のレッスンもあって、いわゆる声優養成所のレッスンの内容というより、俳優さんや舞台役者さんに向けたようなものでした。ペライチの台本を渡されて「10分後にスタートするのでそれまでに覚えてくださいね」と。
でも俳優さんたちは当たり前にそこでセリフを覚えるんです。私は「台本がないと覚えられません!」という状態で、恥ずかしい!って。そこからですね。幼少期って「できなくて恥ずかしい」という気持ちはなかったような気がするんですが……「もうちょっと気楽に」って場面でも、ひとつ間違えただけで嫌なんですね。自分のこういう人間性は、事務所に入ってから培われました(笑)。
──いろいろな経験があった上で。
富田:よく「偉いね」と言ってくれる人がいるんですけれども、偉いと言うよりかは、羞恥心と罪悪感を覚えないようにするためでもあります(苦笑)。
──事務所に入った時の出来事ということは、14歳、15歳あたりですか?
富田:14歳ですね。確実にここで人間性が出来上がりました(笑)。10歳から15歳までという区切りになると、いちばん思い出すのはそういう話かも。