テーマは“儚くも美しい”。重厚な“静”をまとったロックバラードを『デート・ア・ライブV』OPとして〈あなた〉に届ける――富田美憂さん 5thシングル『Paradoxes』インタビュー
16歳から20歳「仕事がスタート」順風満帆と思いきや紆余曲折
──では16歳から20歳は、振り返ってみるといかがですか?
富田:高校に通いながらお仕事をしている時期ですね。芸能科のない、地元の高校に通っていたんですけれども、ありがたいことに高校1年生からお仕事をいただいていたので、周りの人からは「芸能系の仕事をしている人だ」という印象があったようです。そのせいなのか、あまり友だちはできず……(苦笑)。
というのも、今の時代は声優さんの立ち位置的にキラキラした職業として世間一般に認識されているような気がするんです。でも私が高校生の時は、クラスに数人いるアニメ好きだけが認識しているという感じで、それ以外の人たちからすると「よく学校を早退する人」「行事にあまり来ない子」。体育祭などがある土日はイベントに出席していたこともあって、行事にも積極的に出られなかったんですよね。学校では、行事を通して仲が深まることが多いと思うんです。高校の友だちは一生の友だちとよく耳にしますが、私は高校であまり友人はできず、それこそ冒頭で話していた小学校・中学校の友だちと仲良くしていました。
そういう意味では、友人関係は狭かったですね。今振り返ると「もうちょっと周りに話しかけておきなよ」とは思います。その一方、人生でいちばん忙しい時期だったと思います。
──お仕事が加速的に増えつつも、さらに学業との両立という。
富田:そうですね。そもそも学生ってすごく忙しいじゃないですか。それにプラス仕事があるという状況だったので、その高校時代の経験があったからこそ、今忙しくても「あの頃に比べたら全然大丈夫です!」と応えられるくらいにはメンタルが培われました(笑)。
──限界突破したんですね(笑)。
富田:そういう感じだったので、学生の頃はすごく1年が長く感じていました。逆に高校卒業してからはとにかく早かったんです。20歳から今までで言えば、めちゃくちゃ早かったです。ただ……。
──ただ?
富田:話が前後してしまいますが、高校卒業後、私は大学に進学はせずに、仕事に専念しようと考えていました。それで「これから仕事に本腰を入れるぞ!」ってタイミングで、レギュラー番組が終わって……そこからあまり仕事がなかった時期があったんですね。
──へえ!
富田:まったくオーディションに受からなくなってしまった時期が1年間ありました。私がデビューした時期って今ほど若い声優さんが少ない時期で、現役高校生の声優というのは希少で「じゃあ使ってみよう」と思っていただけたところがあったと思うんです。伸びしろを評価してくださっているというか。でも自分より下の世代が出てきて、「お芝居だけで勝負していかなければならない」というタイミングで、パタリとお仕事がなくなってしまって。焦りの1年が17、18歳くらいにありましたね。
──オーディションを受けてから作品が世に出るタイミングってタイムラグがありますからね。世間的にはわかりにくいかもしれませんが、そういう時期があったと。
富田:確かに皆さんからはそうは見えていなかったかもしれません。当時はまだ実家に住んでいたこともあって、アルバイトすることはなかったんですけれども、これが一人暮らししたタイミングだったら……と想像すると冷や汗が出ます。『京都寺町三条のホームズ』(真城葵役)まではまったくでしたね。
──その焦燥感や苦悩に対して救いになっていたものは? どのように自身の中で解消していったのでしょうか。
富田:逆説的になってしまうかもしれませんが、“オーディションに受かること”自体が救いだったんですよね。今はありがたいことに、オファーをいただくこともあるのですが、デビューして3年目で、芝居もこれからという声優に指名をいただける機会はなかなかないですから。作品に携わる窓口がオーディションのみだったので、受からないと沈んでしまうし、受かることでしか満たせない何かがあったんだと思います。
今振り返ると「なにをそんなに調子乗ってるんだ」って話なんですけど(苦笑)、『おしえて! ギャル子ちゃん』(オタ子役)、『アイカツスターズ!』(虹野ゆめ役)、『メイドインアビス』(リコ役)など、立て続けに大きな役をいただいていたので、どこか安心していたところもあるんです。本当に、今だから言えることなんですけど。
──気持ちはすごく分かります。でもそれが今言えるって、良いお話じゃないですか。
富田:別に天狗になっていたわけではないんですけども、なんか安心してしまっていたんですよね。高校生活は友人関係は狭かったもののなんだかんだと充実していましたし、仕事もいただけて、実家のサポートもありましたし。だからこそ、空白の1年はちょっとつらかったですね。
──ナンセンスな質問ですけども「大学に行っておけばよかった」って後悔することもあったんでしょうか?
富田:とても思いました(苦笑)。でもそれは、未だに思っていることなんです。大学に行ったらもっと人間関係の幅が広がっていたのかなと考えると、行きたかったなと。でも、その空白の1年を過ぎてから今までは、本当にあっという間で、忙しく過ごさせてもらっていて。その中で、毎年ターニングポイントが訪れています。今年25歳になるわけですけど、ここ数年で気の持ちようが変わりました。それこそ10代の時の焦りの気持ちは正直ありません。