夏吉ゆうこさん&大和さんによるユニット・Arikaのオリジナルアルバム『nemo』インタビュー|夏吉さんが手掛けるダークな歌詞の誕生秘話。アルバムに込められたギミックとは?
2022年8月から始動した、ボーカリスト・夏吉ゆうこと、コンポーザー&ギタリスト・大和による2人組ユニットArika。
夏吉ゆうこは、声優としても活躍中だが、ボーカリストとしても、さまざまなジャンルを表現できる歌唱力があり、作詞でも独特な世界観を生み出している。そして大和は、コンポーザーとして、その歌唱力を最大限引き出す多彩な楽曲を創り出し続けている。
2024年5月29日にリリースされた待望のオリジナルアルバム『nemo』は、TVアニメ『Unnamed Memory』ED主題歌「blan_(ブランク)」のほか、ポップス、ロック、アンビエントなど、さまざまなジャンルの楽曲を収録。Arikaの魅力をじっくり堪能できる1枚になっている。
1stフルアルバム『nemo』までのArikaの歩み
ーーこれまで『1440-EP』と『LENS-EP』をリリースし、ライブも経験してきましたが、待望の1stアルバムをリリースすることになりました。
大和:この2枚のEPまでは、まず僕が曲を作り、夏吉さんが歌詞を書くというスタイルでやっていたんですけど、今回のアルバム用に書き下ろした新規楽曲から、制作のゼロイチの部分を夏吉さんにやってもらうことにしたんです。それによって、よりArikaらしくなったと手応えを感じましたし、いま自分たちにしかできないことができているなと感じています。
ーー1stEPの『1440-EP』の頃は、夏吉さんも作詞が初めてでしたよね?
大和:そうなんです。でも書いてもらったら、かなり世界観がしっかりしていたので、それを活かそうと思い、今回は詞先でやってみたら、それがすごく良かったという。
夏吉:まだ詞先になって数曲なので実験段階ではあるんですけど、やりたいヴィジョンのようなものは見えてきた感じがします。これまで、あまり夏吉ゆうこという名前を出さず、Arikaの音楽として打ち出していくことを考えていたんですけど、やはり声優として言葉を考えたり、タイアップの作詞で物語に寄り添っていったりすると、ちょっと演劇的な部分というか。歌う中に演じることを取り入れられたらいいなと思うようになったんです。
ーー夏吉さんの歌詞の世界観は独特で、考察がはかどる感じがします。
夏吉:特に『1440-EP』は気合を入れて書いていたので、表現もこねてこねてという感じだったんですけど、アルバムでは、わりと思ったままに書いていると思うんです。ただ、本当に思ったままの文言で書くのは恥ずかしいから、そこでこねてしまう気持ちは捨てきれませんでした(笑)。ただ、だんだん素直になってきている感じはします。
ーー歌詞がダーク寄りになるのはなぜですか?
夏吉:私も、嬉しいことをちゃんと嬉しいと感じられる人間ではあるんですよ(笑)。ただ、感情の発露として、悲しいとか怒りとかの表現が前に出てくるし、それが得意でもあるんです。楽しくてかわいい曲は、キャラソンでも歌えたりするから、自分で何かを表現してくださいと言われると、「そういえばあれ、イラついたなぁ」とかになっちゃうんですよね。ただ、イラついたことをそのまま書いても仕方がないので、そこを何とかきれいに書けないかなと思いながら歌詞を書いています(笑)。
ーーアルバムでは、『1440-EP』と『LENS-EP』の曲がすべて収録されていますが、この2枚はどんな作品だったのでしょうか?
大和:『1440-EP』はかなり実験的な作品です。最初に一緒に作った曲が「暁光」で、そこからEPを作ってみたら、一貫したテーマができていきました。
夏吉:作詞が初めてだったので、「こういうテーマで書いたらどうですか?」とか「曲に希望を入れてほしい」など、アドバイスをいただきましたが、書き出したらスラっと書けて、それが寝起きのときみたいな、しんどい歌詞になったんです。そこからは几帳面なんですけど、1曲目が朝の曲だから、1日の流れにしようと思って、朝から夜までの歌詞を書いて出来上がったのが『1440-EP』です。
ーーそこで夏吉さんのゼロイチの能力に気がついたのですか?
大和:そうですね。最初は初めてだからとテーマをざっくり伝えてみたけど、「暁光」の歌詞を見て、そんなのいらないなと思って(笑)。
ーー夏吉さんのボーカル力については、いかがですか?
大和:歌唱力の高さは組む前から知っていたのですが、いざレコーディングをしてみて、もっとこうしてほしいと伝えたときの対応力がすごかったんです。柔らかい感じで歌ってほしいと言ったら、予想の2つくらい上をいく感じで歌ってくれるし、同じ音符でもまったく表現が違うことができるんです。それで、『1440-EP』をさらに拡張しようと思って作っていったのが『LENS-EP』になります。だから曲調もより激しかったり、よりバラードチックなものができていきました。
ーーライブに向けてという要素もあったんですよね?
夏吉:ライブで盛り上がる曲、入れようや!っていう狙いはありました(笑)。
大和:単純に曲数が足りないから作ったところもあります(笑)。
ーー今回のフルアルバムでは、ここまでのArikaの歩みも全部収めたものになりますが、アルバムに入ったことで変化があった曲などはありましたか?
大和:アルバムでやってみたかったこととして、『1440-EP』の1曲目の「暁光」と最後の「からたち」は朝と夜で、EPをループして聴くと繋がるようなギミックを仕掛けていたんです。それをアルバムでは「からたち」「暁光」の流れにすることで、シームレスに繋がるようにしました。
夏吉:そういうのが憧れだったんです(笑)。CDで聴くとシームレスに次の曲にいくことがあるじゃないですか。そういうのをやりたいです!と言ったら再現してくれて。だからシャッフル再生はしないでくれ!って思っています(笑)。