夏吉ゆうこさん&大和さんによるユニット・Arikaのオリジナルアルバム『nemo』インタビュー|夏吉さんが手掛けるダークな歌詞の誕生秘話。アルバムに込められたギミックとは?
作品設定が鍵を握る『Unnamed Memory』EDテーマ「blan_」
ーーアルバムに収録された新曲だと、アニメタイアップの「blan_」から作られたのでしょうか?
大和:そうですね。制作は『LENS-EP』よりも前だったかもしれません。
夏吉:『1440-EP』では一人称視点で、視野がまだ開けていなかったのですが、「blan_」で目指したのは第三者の視点で。
『Unnamed Memory』は、ティナーシャ(CV.種﨑敦美)以外にもいろいろなキャラクターが出てくるし、壮大な物語なので、主人公の視点は入れつつ、それを俯瞰で見るような歌詞にしたいと思いました。また、毎話アニメの展開が異なるし、この先が気になる終わり方をすることもあるので、それをすべて包み込めるような、安心できる歌詞になったらいいなと思いました。
ーーアニメサイドからの要望はどんなものだったのですか?
夏吉:ティナーシャに寄り添った世界観で書いてほしいけど、Arikaの世界観を大事に書いてほしいと言ってくださったので、アニメタイアップですけど、あまりプレッシャーは感じず、自分たちの曲を出してみよう!という気持ちでした。
なので、原作を読みつつ、原作に出てきた文言も入れているんですけど、自分が作品を読んで、第三者として感じたことを書いていこうと思いました。
大和:Arikaのサウンドを大事にしてほしいとのことでしたので、アニメにそこまで寄り添い過ぎないように、でも全然違うものにならないように世界観は合わせていきました。まだそのときは4曲しか作っていなかったので、そこまで固まっていたわけではないけど、Arikaっぽさを出そうと思って書いていました。
ーーArikaのアンビエントな世界観と美しい歌声はファンタジー作品に合っていますよね。
大和:「遺愛」という曲が『LENS-EP』の最後に入っているのですが、実はこのEDテーマ用に作っていた曲でもあるんです。ただ、ちょっとバラード過ぎると思って、もう少し楽器だったりリズムが乗っている「blan_」にしたという経緯もあります。
夏吉:そうなんですね! 初めて聞いた!
大和:いわゆるEDテーマっぽくないラインを目指そうと思っていたんですよね。
ーー「blan_」の出だしの〈幾星霜を編む雲雀〉は、まさにティナーシャを思い起こさせるようなフレーズで、表現が美しいなと思いました。
夏吉:まさにティナーシャを意識したフレーズで、大まかに1番はティナーシャ、2番以降は、もうひとりの主人公であるオスカー(CV.中島ヨシキ)など、ティナーシャの取り巻く環境や世界そのものを歌詞で書いていきました。それと最初に出るのがボーカルの音だったので、私の中で、口馴染みのいい音を入れたいと思い、母音で言うと「い」行にしようと思って見つけたのが〈幾星霜〉だったので、いい言葉があったなと(笑)。
大和:出だし、すごく良かった。
ーーバックで鳴っているアコギの音もすごく良いですね。
大和:ちょっと中世っぽい、『Unnamed Memory』の世界観を意識していたので、シンセサウンドというよりは、ガットギターで、アナログっぽいサウンドを目指しました。そこにSFっぽさも必要だと思ったので、そういうギミックも、特に2番以降は入れています。
ーー歌詞でいうと〈再び 呪い祈る 安寧〉というのが印象的で。オスカーにかけられている呪いが、実は祝福であるというところを表しているのかなと思ったのですが。
夏吉:原作サイドから、この作品の大事なところとして、祝福があって、でもそれは呪いでもある、ということを表現してほしいとリクエストをいただきました。それは自分も入れたいと思っていたので、言葉を変えつつ、サビの結びの言葉として使わせていただきました。安寧に関しては、“Unnamed”に聴こえるように、そういう言葉遊びをしたり。ダブルミーニングになればいいなって。
ーーまた、ラスサビ前の、フェイクのようなコーラスもすごく良かったです。
大和:最初はDメロを入れていたんですけど、それをやめようということになり、あの摩訶不思議なフレーズが残ったんです。
夏吉:確かガイドのようなメロディがあって、こんな感じでアドリブというかフェイクをしてくださいという指示をもらって歌いました。音でいうと「ア」と「エ」で構成されていますね。
ーーこの曲のボーカルで意識したところはありますか?
夏吉:意識レベルですけど、優しく柔らかく。第三者視点でもあるので、あまり個人の意思が見えない感じで歌えたらいいなと思いました。かすれた音とかを入れると、個人の感情っぽく聴こえてしまうので、なるべくさーっと、優しく歌えたらいいなと。
ーー夏吉さんはシルヴィア役で出演されていますが、アニメのこの先の見どころを教えてください。
夏吉:私はティナーシャに親しい、友達のような役を演じています。骨太ファンタジーなんですけど、ぽや〜っと見ていると、ティナーシャとオスカーの仲睦まじい雰囲気が描かれているんですよね。2人の親愛度も上がっていくので、ファンタジーを見ているのに少女漫画を見ているような面白さもあるんです。そこは見どころだと思います。
もちろん世界の動乱に巻き込まれて、悲しい出来事もあるんですけど、2人の周りにはシルヴィアをはじめとした明るいキャラクターたちもいるので、落ち込みすぎないところも良いところです。そして、最後は「blan_」で優しく包みこまれていただければ嬉しいなと思っています(笑)。