第1期・第2期でできなかったことを、この第3期でやりましょう――『シンカリオン チェンジ ザ ワールド』チーフプロデューサー・ジェイアール東日本企画 鈴木寿広さん×株式会社シグナル・エムディ 代表取締役社長 千野孝敏さんインタビュー
『シンカリオン』シリーズのロケハン事情
――第10話の五稜郭タワーなどの函館の様子もそうですが、『シンカリオンCW』は現実に存在する風景が出てきます。現実の風景をアニメでリアルを再現すると、やり過ぎると実写みたいになってしまうし、デフォルメしすぎると分かりづらくなってしまうと思いますが、このリアリティのラインやルールはどのように設けているのでしょうか?
鈴木:ルールみたいなものは特にないです。ただ、新幹線を描く以上、一定のリアリティは必要になってきます。
千野:昔の写真を資料でもらっても「いや、これは今は存在しないよね」と言われた時に困るじゃないですか。例えば新函館北斗駅であれば、開業時にずーしーほっきーのオブジェはないけど、今はあるみたいな。
※編集部注:ずーしーほっきーは北海道北斗市の公式キャラクター。北海道新幹線開業に向けて同市のアピールのためのご当地キャラクターとして2015年に誕生。新函館北斗駅のオブジェは2021年12月1日に駅前に設置された。『シンカリオンCW』には第10話に登場。
東京駅を描くとしても「ここに通路あるよね」とか、ロケハンの時もちょっとしたことでも良いので“今”をちゃんと見てきなさいと話しています。
例えば敦賀であれば北陸新幹線が延伸する前に写真を撮りに行ったりしたので、敦賀だけでも4回か5回くらいロケハンに行っていますね。
鈴木:やはり新幹線という現実のものを扱っているので、嘘はつけないです。そこはこの作品の必然性かもしれません。
――そうすると全国が舞台の作品だけに、ロケハンも大変ですね。
千野:作画班だけで別に行くこともあります。例えば名古屋の跳上橋(名古屋港跳上橋)であれば、跳上橋だけを撮るのではなく、周りはどうなってるかも知るために碁盤の目になっている道を延々と歩きました。
※編集部注:名古屋港跳上橋は『シンカリオンCW』第7話、第8話に登場。ERDA 東海本部所属の魚虎テンに関係のある重要なスポット。
鈴木:僕は一泊二日くらいだったんですけど、山野井さん(CGアニメーションプロデューサー・山野井 創)とかは前乗りしてずっといましたから。
千野:シナリオを書くために必要なもの、CGを描くために必要なもの、コンテが上がってから作画するために必要なもの、この3パターンで必要な資料があると思うので、毎回こんな風にロケハンをしています。
鈴木:本当にカロリーがかかりますよね。
千野:そういう意味では、他のタイトルではできないなという思いがあります。
――ロケハンではないですけど、タイセイが新幹線に乗って食べていたお弁当(東京駅丸の内駅舎三階建て弁当)もちゃんと描かれていたのが印象に残っています。
鈴木:そうですね。ああいうのはちゃんと出してあげたいなと思っています。
タイセイが新幹線で食べていた「東京駅丸の内駅舎三階建て弁当」、現在はリニューアルして発売中です!
— 『シンカリオン』シリーズ(公式) (@shinkalion) May 19, 2024
タイセイ気分でぜひ、味わってみてください🚅✨https://t.co/jiAFXyNIU2#シンカリオンCW pic.twitter.com/8QXikKcOzE
背景の加工を割とCGっぽくしましょうとしています
――アニメとCGを組み合わせるシーンもありますが、その境目を違和感なく見せるのはどうしているのでしょうか? 例えば「新幹線E5系はやぶさ」とかの格納庫のシーンやエルダ輸送機の浮上シーンの場合、どこまでがアニメでどこからがCGですか?
千野:背景の加工を割とCGっぽくしましょうとしていますが、必ずしも全てがそうではなくて、CGで全部作ってしまうこともあります。
例えば格納庫のシーンは全てCGですが、エルダ輸送機の浮上シーンは輸送機と格納口はCGで、背景はアニメで作っていたと思います。その背景の加工の仕方とかは、第1期と第2期を担当されたOLMさんにもアドバイスをいただいています。
鈴木:あと、SMDEさんからは色々とCGの提案をいただきます。だから、格納庫みたいな常に出てくるところはCGで作っていただいたりしています。
――細かい部分だと、シオンが通っているメタバースの学校は、校内はアニメで窓の外のキラキラした風景はCGかなと思っていたのですが。
千野:あれはCGではなく、あれもCG風にアニメを加工したもので、どちらかというと撮影処理です。
鈴木:背景でCGというのは基本的にはないですよね。
千野:ERDAの中だとハンガーラックの部分とかは基本的にCGですけど、外の風景でCGはあまりないですね。でも、このERDA輸送機のところも降って湧いたような話だったよね。「こんなに大きいものがあるの?」みたいな。
鈴木:これもSMDEさんの技術の見せ所です(笑)。
お互いの「カッコイイ人」なところは?
――アニメ本編も新しい展開が始まりますが、お2人から今後の見どころや楽しみにしてほしいところを教えていただけますか?
鈴木:まだまだ話が続いていくアニメですので、当然ですが最後に大きい結末はあります。そこまでに一つ一つの小さな結末を積み上げながら大きな結末を迎えるので、最後まで飽きずに見てもらえる作品だと思います。
多分、今までの『シンカリオン』シリーズにはなかった「えっ⁉ そうなるの?」みたいな展開があると思うので、是非そこを楽しみにしていただきたいです。
千野:キャラクターの年齢が上がったからこそ、できることが多くなったと思いながら作っています。鈴木さんも仰られた一つ一つの小さな結末を積み重ねて物語が繋がっているので、もちろんキャラクターも増えますし、色々と楽しんでもらえると思います。
あと、制作に関わっている人たちが楽しそうに作っている作品だと思います。もちろん苦しいこともあると思いますが、キャラクターデザインの朝香(朝香 栞)と森田(森田 二惟奈)を筆頭に、制作チームも頑張っています。そこが見え隠れしている分、アニメとしても更に1〜2段階クオリティが上がるだろうし、皆さんの期待に応えられると思います。
――イナがタイセイに伝えた「あんたはカッコイイ人になりなさい」は作品のキーワードの一つになっています。最後に「お互いのカッコイイ人と思うところ」を教えていただいてもいいでしょうか?
鈴木:すごいですよね、千野さんの勢い。
千野:現場が大好きなんです。自分が会社の代表になるんだったら現場にも出させろと言ったんです。
鈴木:その熱いところはカッコイイと思います。こういう方は中々いないですよ。
千野:そう言ってもらえるだけでも良かったです(笑)。
――鈴木さんのコメントを受けて、千野さんから見た鈴木さんのカッコイイところを教えてください。
千野:自分とは真逆な感じで生きていらっしゃるなと感じていますが、それは逆に尊敬するところがたくさんあると思っています。立場上、お互い人を使って作品をまとめ上げていますが、多面的な意味で言えば全く違う景色を見ながらやっているとは思うんです。
その中で「第1期・第2期で出来なかったことを、この第3期でやりましょう」と言った時に、ちゃんと応えてくれたのはカッコイイですね。
だから、立場は違えどハートは一緒なんです(笑)。
取材・記事:岩崎航太、編集:石橋悠、写真:胃の上心臓
作品概要
あらすじ
「超進化鉄道開発機構」通称「ERDA(エルダ)」は、対抗手段として新幹線が変形するロボット「シンカリオン」を開発し、脅威に備えていた。
「何かを守れる、カッコイイ人に…僕は…」
中学2年生の大成タイセイは、2年前に失踪した姉の手がかりを求めて、進開学園中等部に転入する。
その矢先、10年ぶりにアンノウンが出現。偶然にもタイセイがシンカリオン運転士として高い適性値を持つことが判明し、闘う決断を迫られることとなる。
アンノウンの正体、そして目的は何なのか…。闘いの末に見えてきた真実とは…。
少年たちの決意と成長の物語が、今、始まる―。
キャスト
(C)プロジェクト シンカリオン・JR-HECWK/ERDA・TX