『劇場版モノノ怪唐傘』神谷浩史さんが紐解く、劇場版・薬売りの真（まこと）と情念渦巻く大奥の理（ことわり）【インタビュー】

映像によって引き出される役者のポテンシャル

ーー今作を通して映像美だけではなく、声優・役者のすごさというものをまざまざと感じさせてもらいました。そう思わせてくれる作品に出会えることは稀有だなと。

神谷：それは嬉しいですね。「足し算」と「引き算」を考えて、自分の役割を果たしている方ばかりだった印象です。それをうまく調整しているスタッフィングも素晴らしいですし、ちゃんと適材適所にキャスティングしてくださっているんじゃないかなと。それぞれが得意なところにちゃんと収まっている気がします。

ーー観終わった後で、「あの役をこの声優さんがやっていたのか！」という驚きもありました。

神谷：もしそういう感想を持たれたのであれば、フィルムが優れていたのだと思います。映像に引き出された結果、「こんな声や芝居を聞いたことないな」と感じ取ってもらえるのは、役者にとってありがたいんですよね。得意な引き出しで勝負するのはよくあるし、当たり前のことです。でも「こういう引き出しも開けてもらっていいですか？」と言われて、「やったことないけどなあ」と思いつつ、観た方に評価してもらえたのなら、新しい境地に行けたわけです。だから、もしそういう評価をいただけるのであれば、役者冥利に尽きると思います。

ーーそれぞれの役と声にまったく違和感を抱かず、映像と調和しているのがすごいですね。

神谷：TVアニメ『怪〜ayakashi〜』の「化猫」を初めて見た時、僕も同じ感想を抱いたんです。役者さんがみんな、本当に良い芝居をされていたんですよね。僕は声優なので、「役者の芝居が良いと思える作品って良いな」と思ったんです。坂井家の隠し部屋に住まわされていた珠生を演じた、事務所の後輩の鎌田梢の「猫？　猫？」と呼ぶ声には痺れました。そういう芝居が映像に引き出されているのだとしたら、本当に力があるフィルムなんだろうなと。もちろん役者側にもポテンシャルはあったと思いますが、それを自然と引き出してくれるような映像だったんじゃないでしょうか。

ーー今作を演じ終えて、薬売りという役がフィットした感覚はありましたか？

神谷：それは作品を観ていただく方に委ねるしかないですね。こちらの主張を押し付けるわけにはいかないし、それはエゴになってしまうと思います。出来上がった作品をどう受け止めてくださるのかはみなさん次第ですから。ただ、知識の有無は、作品の受け取り方を大きく左右する要素だと思います。エンタメを楽しむうえでは、ある程度の下調べをする工夫も大切ですが、この作品ではそういうものは必要なく、既にTVシリーズをご覧になっている方も、今回初めて触れる方にも楽しんでいただける内容になっています。ただ、ぼくがひとつだけ言いたいのは、中村監督いわく「退魔の剣は64本あり、時の脅威に応じて薬売りは最大で剣と同じ数だけ同時に存在できます」と。そういう設定が17年前から監督の中ではあったそうです。その中のひとりを僕が演じさせていただいていて、僕が演じている薬売りは仮面ライダー2号だと。そこを頭の片隅にでも入れておいてもらえたら、ちょっとだけ作品を楽しむ手助けになるかもしれません。

ーー最後に、今作の公開を楽しみにしているみなさんへメッセージをお願いします。

神谷：予告を見て、「すごいな」と思った方も多いと思いますが、あのクオリティが90分続くので、劇場に行った方は恐らく面食らうと思います。そして、ちょっとアニメの知識がある人が見たら、きっとパンクするはずです。あるスタッフさんも特報を見て驚いていました。「あのクオリティで最後まで動きますよ」と言ったら「マジか!?」と（笑）。何も考えず、ただ目の前で行われている展開を受け流す気持ちで観てもいいかもしれません。劇場版のスタッフさんも言っていたそうですが、一種のトリップムービーというか。他に例を見ないというか、作ろうと思っても作れないと思うんです。劇場の大きなスクリーンと迫力のある音響で観るのにふさわしい作品なので、ぜひ劇場に足を運んで、『モノノ怪』に酔いしれていただければと思います。

[インタビュー／永井和幸　撮影／MoA]

『劇場版モノノ怪唐傘』作品情報

2024年7月26日（金）全国公開！

あらすじ

大奥とは、男子禁制の“女の園”であり、重要な官僚機構でもある特別な場所。

この地に、新人女中のアサ（黒沢ともよ）とカメ（悠木碧）が足を踏み入れる。

キャリアアップを図る才色兼備のアサ、憧れの大奥に居場所を求めるカメ。

正反対の二人は初日から、集団に染まるための“儀式”に参加させられる。

御年寄の歌山（小山茉美）は、大奥の繁栄と永続を第一に考え女中たちをまとめあげるが、

無表情な顔の裏に何かを隠している。そんな中、少しずつ、彼女たちを覆っていく“何か”。

ついに決定的な悲劇が起こり、薬売り（神谷浩史）はモノノ怪を追って大奥の中心まで進むが、モノノ怪を斬り祓うことができる退魔の剣は「形」「真」「理」の三様が揃わなければ、封印を解き抜くことが叶わない。

薬売りが大奥に隠された恐ろしくも切ない真実に触れるとき、退魔と救済の儀が始まる──。

キャスト

薬売り：神谷浩史
アサ：黒沢ともよ
カメ：悠木碧
北川：花澤香菜
歌山：小山茉美
大友ボタン：戸松遥
時田フキ：日笠陽子
淡島：甲斐田裕子
麦谷：ゆかな
三郎丸：梶裕貴
平基：福山潤
坂下：細見大輔
天子：入野自由
溝呂木北斗：津田健次郎

スタッフ

監督：中村健治
キャラクターデザイン：永田狐子
アニメーションキャラデザイン・総作画監督：高橋裕一
美術設定：上遠野洋一
美術監督：倉本章　斎藤陽子
色彩設計：辻口田邦夫
ビジュアルディレクター：泉津井陽一
3D監督：白井賢一
編集：西山茂
音響監督：長崎行男
音楽：岩﨑琢
プロデューサー：佐藤公章　須藤雄樹
企画プロデュース：山本幸治
配給：ツインエンジン　ギグリーボックス
制作：ツインエンジンEOTA
主題歌：「Love Sick」アイナ・ジ・エンド

『劇場版モノノ怪唐傘』公式サイト
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