一目惚れから始まったタッグ結成秘話。制作現場では“健全”な殴り合いも!?　『杖と剣のウィストリア』原作・大森藤ノ先生×漫画・青井 聖先生インタビュー

主人公・ウィル誕生までの紆余曲折

ーー青井先生は、大森先生から『ウィストリア』の設定やプロットの説明を受けた時はどんな感想を持たれましたか？

青井：最初は、主人公のキャラクターが若干違いましたよね？

大森：そうですね。当時は、新しいこと、変わったことをしなければいけないと思っていて、そうでないと原作をやる意味がないと考えていました。でも、『ウィストリア』では1周回ってそのことを忘れようと、担当さんと打ち合わせしながら思考転換していきました。

ウィルを演じる天﨑（滉平）さんが「ウィルは“ピュアの怪物”」とおっしゃっていたんですが、昔を思い出してはっとしました。私自身は主人公が“ピュアの怪物”でいいんだろうかという迷いもあったので。ただ青井先生や編集さんが背中を押してくれて、今のウィルが出来上がりました。

青井：連載の第1話目の段階でも、かなり試行錯誤していた気がします。

ーーキャラクターの構築の際、大森先生から青井先生にお願いしたことはありますか？

大森：キャラクターデザインに関しては、メガネとゴーグル、髪の色などを指定させていただきましたが、あとは青井先生にお任せでした。上がってきたものは、ほぼ一発OKだったと思います。

ーーウィルは普段は穏やかで優しいのに、バトルではむしろ勇猛果敢な雰囲気になるので、そのバランスやギャップを絵にするのは難しかったのでは？

青井：それでいうと、自分はバトルシーンだけでこの業界に足を踏み入れましたし、初めていただいた大きな賞も画力賞だったので、アクションシーンには自信がありました。なので、新連載でどうすればいいか、右も左も分からない中でしがみつけるものは、アクションだけだったんです。

まだまだ実力が足りていない中で、大森先生がキャラの魅力を引き出してくれて、何とか日常の可愛らしいシーンなどを描いていたと思います。正直に言うと、第1話は描き直せるものなら描き直したいんですけど……（笑）。

大森：多分、作家さんはみんな同じことを思ってますね、きっと（笑）。

着地点から逆算して執筆

ーー幼なじみのエルファリアやクラスメイトのコレットなど、女性キャラクターも可愛いですよね。

青井：この作品に関しては、女の子だけがヒロインじゃないんですよ。どのキャラクターも可愛いんです。「可愛い」って、最強だと思うんです。どのキャラにも可愛いところがあるし、おじいさんおばあさんキャラにも可愛いところがあると思います。

ーー先日の天﨑さんとエルファリア役の関根明良さんとコレット役の天野聡美さんへのインタビューでは、ウィル＝ヒロイン説も浮上していました。

大森：そう思っていただけたなら、原作者冥利に尽きるかもですね。ウィルを主人公として立てたくなってしまうので、彼の中に可愛さを見つけてもらえたなら光栄です。

ーー主人公の目的が「塔の頂で待つエルファリアの元にたどり着くこと」というのも珍しいと思いました。

大森：私は着地点から考えて、逆算して作るタイプなんですけど、『ウィストリア』を作るにあたって、最初に思い浮かんだのは「とあるヒロインと主人公が共闘するシーン」でした。それを描くためには「主人公が見上げる先にヒロインがいる」という関係性がしっくりきて。

ーーウィルは味方が少なく、魔法も使えないという逆境にいるので、大森先生はウィルをどこまでいじめたいのかなと（笑）。

大森：そういうつもりはないんですけど（笑）。異物感を出したかったんだと思います。たぶん私は、主人公の周りにいる友達の数が人間性に直結すると思っていないのかなって。「量より質」みたいな、深い絆を描く方が好きかもしれません。あとは周りの人に認められて、関係性が広がっていく感じとか。

ーーウィルのどんな困難に遭ってもあきらめずに道を切り開いていく姿は少年マンガの主人公の王道だなと感じました。

大森：ありがとうございます。でも裏を返せば「ベタ」でもあって、だからこそ、「ベタにしすぎたかな……？」という懸念もあったので、そう言っていただけて嬉しいです。

ーー青井先生が描いていく中で、難しかったキャラを教えてください。

青井：エドワルドとワークナーですかね。作品的に威厳のある先生キャラクターが欲しいのかなと思い最初はもっとおじさんを描いていたんです。でも、大森先生からもう少し若くとディレクションを頂きエドワルドやワークナーも葛藤や悩みを抱えているので、あまり完成した人間にしてしまうのはよくないなと僕も共感し、何度かやり取りを経て、見た目の年齢感を下げました。何度かやり取りをし経て、見た目の年齢感を下げました。

ーー大森先生は、『ウィストリア』のストーリーや構成でこだわったことはありますか？

青井：月刊で1話読み切りの構成を作るのは、難しいですよね。

大森：各話の最後の引きというか、もっと言えばコミックス単位での引きには相当拘りました。尺をカットしてでも、しっかり収めようという意識が先行してしまって、序盤では反省することもよくありましたね。