愛情を通り越して情念が詰まった台本。非現実と共感が両立する世界観ーー『劇場版モノノ怪 唐傘』アサ役・黒沢ともよさん×カメ役・悠木碧さんインタビュー
マイナスが魅力に転じるキャラクターたち
ーーお互いが演じるキャラクターの印象を教えてください。
黒沢:カメちゃんは元気ハツラツですよね。あと物語を動かしてくれる存在だなって。
悠木:ずっと元気が有り余っているよね(笑)。
黒沢:たしかに(笑)。
悠木:そんなカメの尻拭いをアサがしてくれるんですけど、私がオーディションでアサを受けたときは形式的になっていた自覚があるんです。でも以前、ともよちゃんが「わざと違和感を作っている」とお話していて。その作られた違和感によって、「この人はこの形になりたくてなったわけじゃないけど、この形じゃないとどこにも受け入れてもらえないからこうなった」という弱さみたいなものが窺えましたし、そのバランス感覚が正解だったんだと納得しました。
対するカメは非常にわかりやすいキャラクターです(笑)。だからこそアサの違和感に動揺せず、そんな一面も素敵だなという気持ちでいる必要があるなと。
黒沢:アフレコをしていて、カメとは目が合わないなと思いました。アサ目線だと、私はカメのことを見ているのに、カメはこっちを見てくれていないような不安がずっとあって。でもそれも魅力といえば魅力なんですよね。灰汁がそのまま旨味になるみたいな(笑)。
一同:(笑)
悠木:飼い犬が家に来たお客さんの膝に乗ったときのようなモヤモヤ感というか……(笑)。アサとしてはカメというワンちゃんを飼っているようなものですから、余計に複雑な気持ちを抱いたのかもしれない(笑)。
黒沢:あお様のカメを見ていると、愛されようと強張っている笑顔をしているんですよね。カメと同世代の女の子が見たら胸がギュッとなるんじゃないかなって。
悠木:不器用ながら頑張っているけど、その頑張りを媚びていると捉えてしまう人がいて。難しいですよね。実力だけで認められていくアサとは真逆です。
黒沢:アサはカメみたいな頑張り方ができないだけなんじゃないかなと。甘えることができないと言いますか。カメは甘え上手だから大奥まで来られたけど、そこは甘えられない環境で。「どうしよう……」と悩んでいるカメを見て、自分もどうすれば良いのか、分からなくなっているんですよね。
悠木:でも、本当にアサが全部の尻拭いをしてくれるから。
黒沢:メロディとベースみたいですね。カメがメロディを奏でる中、アサは休符になっても音を出し続けているようなバランスになっていて。本当に、あお様が作ってくれているなと思います。
悠木:いやいや、お互いにね。
ーーどちらのキャラクターもかなり演じがいがありそうですね。
悠木:カメはド直球で、頭より体を使うことが多いんですよね。リアクションが大きかったり、よく走っていたり、モノローグが口に出ちゃう場面があったり。台本の重たさも相まって、物理的な大変さはありました。
でも、悩まない性格なので、どんなに酷いことをされても次の日にはケロッとしているんです。だからこそあまり考えずに演じられましたし、ジェットコースターみたいな子で面白いなと思いました(笑)。
黒沢:終わったときの達成感がすごかったですよね。
悠木:そうそう。私は一息ついて、「アサ、後は頼んだぞ」って(笑)。
一同:(笑)
黒沢:気になったんですけど、あお様が大変な収録ってあるんですか?
悠木:もしも、アサ役だったら大変だと思ったよ。ともよちゃんがさっき話していた例えで言うと、主人公なのにベースを奏でているキャラクターだから。
通常、主人公がメロディーを担当すると思うんですけど、この作品はカメが勝手にメロディを奏でるからそれに合わせてベースを弾かないといけないんですよね。見ていて大変だなと思いました。
黒沢:なるほど。感情の起伏が大きい役といっぱい喋る役だったら、どっちが大変なんですか?
悠木:それぞれ大変さが違うかな。いっぱい喋る役は選択肢が多くなるから大変で、喋らないキャラクターは選択肢がないから1発で決めなきゃいけなくて。それこそ薬売りさんがそうだよね。
黒沢:たしかに! ゆっくり喋っているから気づきにくいけど、セリフ数は少ないですよね。
悠木:そうそう。加えて、そもそも他人とあまり会話をしないから遊ばせづらいキャラクターだろうなと。その分、面白そうなキャラクターでもあるんですけどね。
黒沢:薬売りさんの会話シーンがどんな出来上がりなのか気になりますよね。
悠木:そうだね。実は、我々は薬売りさんの収録を見れていないんです。
ーー別録りだったんですね。
黒沢:今回の収録、全体的にコンパクトでしたよね。私は、カメのOKテイクがある状態で録れたので、今回に限っては一緒に録るよりも良かったかもしれないです。やはり、あお様がしっかりと組み立ててくださっていたので。
悠木:カメの場合、超大枠でしか組み立てられないよ?(笑)
黒沢:そうですか? 私は感謝しながら演じていましたけど(笑)。