『ヒプノシスマイク -Division Rap Battle-』『.Fling Posse』レビュー|雨降って地固まるーー秘密をさらけ出した3人に恐れるものは何も無い【7連続リリースCD連動企画】
夢野 幻太郎の「うそ」はほんとの「うそ」になる
夢野 幻太郎の「うそ」は、今回の『.Fling Posse』収録曲の中で、個人的には一番の衝撃かもしれません。なにせ、明らかになった事柄が多すぎます。
まず、ドラマトラックの衝撃がとんでもない。
今回ばかりは何を書いてもネタバレになってしまうので、以下からは十分にお気をつけを。
夢野 幻太郎は兄の名前だったし、意識不明だった兄が目を覚ますし(しかもCV.神谷浩史さん!!!)、そんな兄は夢野 幻太郎のことを覚えていないし、Fling Posseのみんなに嘘をついていたことを告白するし、告白した上でみんなが夢野 幻太郎のことをそのまま受け止めてくれるし、その話だけで1クール作れるよ!?な情報量でした。
しかも「うそ」の歌詞は、詩人の谷川俊太郎の代表的な詩のひとつである「うそ」が原詩として使用されています。レジェンドすぎる……! このあたりは後ほどご紹介しましょう。
また、曲に関しても情報がかなり多いんです。そもそもの歌詞が谷川俊太郎の「うそ」のコラージュでできているような歌詞で、「うそ」という本当に存在する作品を使って嘘を言っているけれど本当の気持ちを表している、というとてつもなく頭がこんがらがってしまう構図。
噛み砕いて言えば、「夢野 幻太郎は嘘をつくことでしか本当のことを言えなかった」のではないでしょうか。
これまで彼が発していた嘘の端々には本当の気持ちが隠されていて、今回の「うそ」こそが本当の彼の気持ちなのでした。
彼の感情の変化を表すようにゆっくりとした曲調だった音楽が、徐々に荒々しくノイズが入っていき、そしてまた落ち着きを見せていきます。
そんな嘘に塗り固められた夢野 幻太郎さえも、「そのままの姿でいい」と認めてくれたFling Posseのメンバーたち。彼らに出会ったことで、夢野 幻太郎は夢野 幻太郎として生きていくと決めたのでした。
Fling Posseの友情が熱すぎる……!
日本人なら一度は触れたことがある谷川俊太郎
今年で92歳という人生の大先輩について書かせていただくのは誠に恐れ多いのですが、ありがたい機会と思って挑戦させていただきます。
谷川俊太郎はこれまでに、数えきれないほどの詩集、絵本や童話などの作品を手掛けています。おそらく、これを読んでくださっているあなたも、どこかで谷川俊太郎の作品に触れたことがあるはず。
筆者は小学生のころに国語の授業で習った、谷川俊太郎が翻訳したレオ・レオニの『スイミー』が印象に残っています。赤い魚の群れの中でいじめられていた黒い魚のお話ですね。
翻訳家としても素晴らしい作品の数々を手掛けていますが、彼の本領が発揮されるのは詩だと思っています。とにかく彼から発せられる言葉のひとつひとつの重みが違うんです。
彼は長年、平和と戦争についても言葉を紡いでおり、特に近年では世界情勢も影響して「生きる」の詩が話題に。
「生きているということ」の状態を語っていく中で突如現れる、生きるとは「かくされた悪を注意深くこばむこと」というメッセージ。
この「かくされた悪」とは、相手に対するものなのか、自分に対するものなのか。「かくれた」ではなく「かくされた」というところもポイントですよね。
夢野 幻太郎をきっかけに谷川俊太郎に改めて触れてみるのもおすすめです。
そのチョイス、ニクいね〜!な作曲&編曲陣
谷川俊太郎のパワーがやはり全面に出てしまう本楽曲ですが、作曲&編曲陣のチョイスもめちゃめちゃセンスがいいんです。
Nujabesの「reflection eternal」にサンプリングされ、一躍有名となったピアニスト・巨勢典子。
ラッパー、作詞家、作曲家など幅広い肩書があるAFRO PARKERの弥之助。
そして、個人的に10年以上前から激推しのHIMURO Yoshiteru。HIMURO Yoshiteruはソロ活動も盛んながら、CM楽曲なども手掛けています。
音楽好きなら「そこチョイスするか〜!」っていう感じのおしゃれ作曲&編曲陣なのです!