主人公・ドランが守ろうとする“人々が息づく生活”の描写を大事にした──秋アニメ『さようなら竜生、こんにちは人生』西田健一監督【連載インタビュー第2回】
第1話と見たときと最終回を見たときとで、作品に対する印象がらりと変わる物語
――ドラン役の武内駿輔さんのお芝居についてはいかがですか?
西田:ドランの声は「普通の人ではあるけれど、存在感のある声」をイメージしていました。落ち着いていて余裕があり、かといってヒーロー然とした声ではないというイメージですね。役者さんにしてみれば難しい役どころだったと思いますが、武内さんは絶妙なニュアンスをしっかり表現してくださって、オーディションをしてすぐに現場は武内さんだなという雰囲気になっていました。
――PVを拝見したときに、武内さんがこれまで演じてきた役の印象よりもずいぶん声が高めですよね。
西田:音響監督の阿部(信行)さんの解釈ですね。演技のディレクションをされる際に、武内さんの地声よりもあえて高めの声をオーダーされたのですが、とてもハマったなと感じました。ほかにも、今後武内さんの仕事の幅が広がっていったらいいよねという思いもあったそうです(笑)。
――では、セリナについてもうかがえますでしょうか。
西田:セリナはかわいらしさが一番の魅力ですし、どこか天然なところがあってコメディエンヌとしても活躍するので、セリナ役はこの辺りをうまく表現できる役者さんを考えていました。関根さんがぴったりだったのと、関根さんにやっていただいたことで、セリナらしさプラス彼女の真摯な一面が加わったのがよかったですね。
――セリナの真摯さというのは?
西田:セリナは仲間であったり、村であったりと自分の大切なもののために頑張れる女の子です。関根さんのお芝居によって、そういった一途な面もかわいらしさの一つとして浮かび上がったなと感じましたね。
――先日の先行上映会では、セリナの尻尾の動きがかわいいというお客さんの反応がありました。クリスティーナ役の大橋彩香さんも同じようなことをおっしゃっていましたが、映像面ではどんなこだわりがあったのでしょうか?
西田:性格はかわいいけれど下半身が蛇なので、私自身も最初はそれが視聴者にどう受け止められるか、画がついて音がつくまではわからなかったんです。でも、実際に映像になってみると、こんなにかわいらしいのかと。これはキャラクターデザインの川重さんの力によるところが大きかったですね。蛇の部分がどんなふうに動くのかというガイドとなる設定を作ってくださって、アニメーターさんに共有してくださったんです。おかげさまでセリナのかわいらしい尻尾の動きに統一感が出せました。
――では、クリスティーナについてはいかがでしょうか。
西田:大橋さんが先行上映会で「脳筋なところがある」とおっしゃっていましたが(笑)、いわゆる“脳筋”というのは「仲間のためであれば考えるより先に行動する」ということでもあると思うんです。そういった仲間を大事に思う気持ちを大橋さんが見事に演じてくださっています。
またクリスティーナはドランとちょっとした因縁のあるキャラクターで、その因縁を表す挿入歌が登場します。こちらも大橋さんに歌っていただいたことで、とてもいいシーンになりましたので、ぜひ楽しみにしていただきたいですね。
――ほかにも魅力的なキャラクターが多数登場します。特に注目してほしいキャラクターを教えていただけますか?
西田:途中から登場するディアドラですね。テープオーディションで何人かの声を聞かせていただいたのですが、私はもう佐々木(未来)さんの声を聞いた瞬間、「あ、ディアドラだ」と確信しました(笑)。
私の意見が通り、佐々木さんにお願いすることになってよかったなというところと、小倉(唯)さん演じるラフラシアとディアドラの戦闘シーンがとても素晴らしかったんです。そのシーンはお二人に早めに来ていただいて、お二人だけでのアフレコをさせていただきました。阿部さんも名シーンになったとおっしゃっていたので、ぜひ二人の熱演を聞いていただけたら嬉しいです。
――キャラクターデザインを拝見すると、大人っぽいディアドラと子供のようなラフラシアはいい対比になっている印象です。
西田:まさに大人と子供の戦いになるだろうと思ったので、佐々木さんには大人っぽく、小倉さんには小学生のようなイメージでとお願いしました。
――では、いよいよ放送がスタートする『さようなら竜生、こんにちは人生』の見どころを改めて教えてください。
西田:この作品は第1話と見たときと最終回を見たときとで、作品に対する印象がらりと変わる物語だと思っています。この物語はどこへ向かっていくんだろう、最終的にどこへ連れていかれるんだろうという、いい意味での意外性が魅力なので、わくわくしながら楽しんでいただけたら幸いです。
(文:岩倉大輔)
西田健一 Profile
演出、監督。日本アニメーション出身。
代表作に『PAPUWA』『ぽかぽか森のラスカル』ほか、絵コンテ・演出多数。
作品概要
あらすじ
悠久の時を生き、神々すらひれ伏す絶大な力を持つその竜は、孤独と共に己の死を受け入れた。
しかし、次に気がついた時、竜は辺境の村人ドランとして第二の生を受けていた。人間として竜よりずっと短い生を生きることになった彼は、畑仕事に精を出し、食を得るために動物を狩る……。
質素ながらも温かい村での生活に、ドランの心は竜生では味わえなかったささやかな喜びで満たされていく。しかしそんなある日、沼地の調査に出かけたドランの前に、セリナと名乗る半身半蛇のラミアが現れる。
伴侶を探して旅をしている彼女は、ラミアなのに人間を誘惑するのが苦手だという。人と魔物、相容れぬ存在ながらも次第に心を通わせていく二人。
だが、二人の前には様々な外敵が現れて――!?
辺境から始まる、元最強最古の竜の“生き直し”ファンタジー!
キャスト
(C)永島ひろあき・アルファポリス/「さようなら竜生、こんにちは人生」製作委員会