主人公・ドランが守ろうとする“人々が息づく生活”の描写を大事にした──秋アニメ『さようなら竜生、こんにちは人生』西田健一監督【連載インタビュー第2回】
シリーズ累計110万部を突破した永島ひろあき原作の『さようなら竜生、こんにちは人生』(イラスト/市丸きすけ)のTVアニメが、10月10日よりTBSほかにて放送スタート。本作は、最強と名高い古(いにしえ)の竜が辺境の村人・ドランに転生し、人間として第二の生を送っていくという物語。多様な種族からなる魅力的なキャラクターたちと、先の読めない展開がアニメでどう描かれていくのか?
放送に先がけて、監督を務める西田健一さんに作品の魅力や見どころについてうかがいました。
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人間として成長していく話でありながら、完全ではなくなろうとする
――原作をご覧になってどのような印象をお持ちになりましたか?
西田健一監督(以下、西田):最初はいわゆる“異世界転生もの”の一つなのかなと思ったのですが、しっかり原作を読ませていただいて、これはちょっと違うなと感じたんです。人間が異世界に転生するのではなく、生きることに倦んでいた竜が人間に転生して前向きに生き直す。そこが新鮮で、やり方によっては新しくて面白い作品になるのではないかと思いました。
――アニメ化されるにあたって、どのような部分を軸にしようと考えたのでしょうか?
西田:一つ大事だと思ったのが、「守る」という部分ですね。主人公のドランが転生したベルン村であったり、後半に出てくるエルフの集落であったりと、この作品の登場人物は「自分たちが住んでいる場所を守りたい」という思いで行動します。であれば、ドランたちが村を大切に思う姿や守るに値する村の雰囲気というものが大事になってくるので、ちゃんと人々が生きていること、人々が息づく村の生活をしっかり描くようにしました。
――村の生活の描き方にもいろいろあるかと思いますが、特に大事にした見せ方はありますか?
西田:第1話で言えば、ドランの1日の生活を追うシーンがあります。朝は起きて畑に肥料を撒いて……という流れなのですが、実は自宅のトイレから汲み取ったものを肥料として撒いているんです。
――細かいですね!
西田:私が子供の頃にはよくあったんですよ。今の若い方がご覧になるとただ水を撒いているように見えてしまうかもしれませんが(笑)、そういった実生活に根ざした生活の描写を取り入れています。
村に自分のミルクを提供している牛人の設定などもそうですね。牛人のミウというキャラクターがいるのですが、キャラクターデザインの川重(希)さんが「彼女一人で村全員のミルクをまかなえるものなのか?」とおっしゃっていたんです。もしかしたら牛人とは別に牛が飼育されていて、牛のミルクもあるのではないか、と。それでミウの家の前に牧場と牛を追加することにしたんです。
――なるほど、細かい部分までチェックしてみようと思います! では、主人公のドランについて、彼を描くうえで大事にしたことをうかがえますか?
西田:とにかくドランは難しかったですね。前世が竜といっても、どちらかといえば神様に近い存在だったわけで、つまり神様が人間になって暮らすということだと思うんです。当然、神様の気持ちなんてわかりませんから、彼をどう描こうかと(笑)。
一つ手がかりになったのは、ドランの発言ですね。場の空気を読まずにドランが何か物を言ってしまって、周囲が唖然とすることがあります。なぜかを考えたときに、古神竜の頃はあまりにも強い存在だったから、自分の考えたことはすべて現実になっていたのではないかと思ったんです。だから嘘偽りを言う必要がないし、嘘という概念がないのかな、と。
――裏表がない、建前というものを知らないということですね。
西田:そうです。裏を返せば、人間として生きるのであれば「嘘」や「建前」が必要になることもあるので、そういった場面に出くわしたとき、ドランがどんな行動をするのかという部分にも注目していただきたいですね。
――西田監督はドランのどんなところに魅力を感じていますか?
西田:完成された神のような存在だったのに、不完全な人間になろうとしているところですね。それは、万能の力を自らなくしていくことでもあると思うんです。人間として成長していく話でありながら、完全ではなくなろうとする。原作がこれからどうなっていくのかまだわかりませんが、その矛盾した感覚に魅力を感じました。