『ジョーカー:フォリ・ア・ドゥ』日本語吹替版 ジョーカー役・平田広明さんインタビュー|「とにかく宿題が沢山出た映画でした」――狂気の狭間に立つジョーカーの内面とリーとの関係性
ジョーカーを慕うリーの心情、アーサーとの関係性
ーーアーサーは凄惨な事件を起こしたものの、ただの悪人とも言い難いように感じました。平田さん自身はアーサーという人間についてどう思われますか?
平田: ジョーカーは悪人だと思いますが、アーサーが悪人かどうかは難しいですね。
シングルマザーとエレベーターで目が合っただけで惚れ込んでしまい、彼女を妄想の中で恋人にしてしまう人間だから。そんな精神的に未熟でか弱い男が「あなたが全てよ」なんてレディー・ガガに言われたら、心を奪われ、ジョーカーであろうとする気持ちはすごく理解できます。
ーー演じていて、アーサーに共感する部分も?
平田:共感という意味では、全部共感できますね。もちろん共感=ジョーカーを支持するということではありませんが、「彼の気持ちが分かる」という意味では。前作がヒットした要因もそこにあるんじゃないでしょうか。今作でのアーサーの掘り下げを、皆さんがどう共感するかで映画の印象はそれぞれ変わってくるかもしれないです。
ーー今作から新たに登場した、謎の女性リーの印象はいかがでしょうか?
平田:僕の印象は“悪い奴”ですよ。「貴方はジョーカーでいて」と押し付けていく。彼女はいい家の娘なんですが、だからこそ悪のカリスマであるジョーカーに憧れているんでしょうね。この荒んだ世界にアーサーみたいな弱い男はいらない、必要なのはジョーカーだけだと……、彼女の都合だけなんだと思いました。
ジョーカーは彼女にとってのヒーローだと思います。アーサーじゃない。「君なしじゃ生きていけない」というアーサーの言葉は彼女には響かない。階段での別れのシーンは「他にもっとちゃんとした悪い奴探さなきゃ」てなところかしら……とさえ思いました。
ーーリーと言えば、今作は歌唱シーンも注目ポイントになっていますね。
平田:世界のレディー・ガガと真っ向からぶつかり合って、ホアキン・フェニックスはすごいなと思いました。言うまでもなく彼は演技のプロですけど、歌に関してはガガの方が何枚も上だと思ってしまったとしたら、普通ならすくみ上がると思うのですが。
歌だけじゃなくて、彼女はお芝居も素晴らしかったです。やっぱり一流の人は何をやっても一流なんだなと思いました。歌い始めの掠れた声から徐々にスイッチが入っていくと腹の底に響く歌声に変わっていって、最終的にそのシーンを牛耳ってしまう。会話から歌へも自然に流れていく。こういった部分は、歌唱力というよりやっぱり演技力なんだなと思います。
ーー個人的には斎藤志郎さんが演じている看守のジャッキーも印象的でした。
平田;僕は志郎さんの声を聞くと、どうしても顔が浮かんでしまいます。面白い人なんですよ。「ここでNGを出したら、おどけて笑うんだろうな」とか、そこまで想像できますね。
ーー平田さんの中で、印象に残っているキャラクターはいますか?
平田: 僕は前作からゲイリーが好きでした。今作に出てくるキャラクターの中でも、一番人間臭くて、“普通の人”の心を持っているキャラクターです。散々いじめられてきたであろう彼もアーサーだけには良くしてもらっていたようですし。色々と問題のある登場人物が多い中で、「彼こそが人としての基準だよ」という指標のような存在だと思います。
そういう意味では一番好きなシーンも、裁判でのゲイリーとの絡みシーンかもしれないですね。アーサーにとってのターニングポイントでもありますし、一番、人としての感情が乗った場面じゃないでしょうか。ゲイリー役の越後屋コースケ君も凄かった。元々何でも出来るバイプレーヤー的なイメージはありましたが、裁判のシーンでは「チクショー、ぴったりな芝居してきやがった!」と思いました。
ーーところで、ハービー検事役の山田裕貴さんが「平田さんから『大変責任重大だぞ』というDMをいただきました」とトークイベントでお話されていましたが、あれは本当なのでしょうか?
平田:あれは嘘ですよ!
……(スマホの画面を見せながら)見てください。「音響監督の三好さんに、裕貴君への伝言をお願いしておきました。吹き替えの収録、頑張ってね」としか送ってないでしょ?
ーー本当ですね。ちなみに三好さんにお願いした“伝言”というのは?
平田:「この吹替版は君にかかってるからね」って。
ーー人づてに言っているじゃないですか!?
平田:でも、言ったのは監督だもん。
ーー(笑)。では、最後に読者へのメッセージをお願いします。
平田:個人的な希望としては、字幕と吹替の両方を観ていただきたいですね。収録をしても本編を観ても、まだ捉えきれないところが山ほどある。とにかく宿題が沢山出た映画でした。
吹替版の方が分かりやすい部分もあるでしょうし、それぞれを1回ずつ鑑賞して、それでも答えが出なかったら面白かった方を何回も観て下さい。それが吹替版だったらとても嬉しいですけど。
[インタビュー/失野 撮影・編集/小川いなり]
『ジョーカー:フォリ・ア・ドゥ』作品情報
あらすじ
が伝播していくなか、孤独で心優しかった男の暴走はどこへ行き着くのか? 彼は悪のカリスマなのか、ただの犯罪者か?
ついに「ジョーカー」が完全となる――世紀のXデーの目撃者となれ。
キャスト
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