モブを通して追体験するルフィのかっこよさに心震える…! アニメ25周年記念『ONE PIECE FAN LETTER』が全ワンピファンに刺さる神作品だった
『ONE PIECE』といえば、海賊王ゴール・D・ロジャーの死により幕を開けた大海賊時代を舞台に、主人公モンキー・D・ルフィをはじめとした海賊たちが群雄割拠し、ひとつなぎの大秘宝「ワンピース」を目指す強者たちの戦いの物語。……ですが、大海賊時代が繰り広げられるあの世界には、海賊の道を選ばずに日々を送る一般市民も無数に存在しています。
アニメ放送開始からちょうど25周年を迎えた2024年10月20日(日)、そんな“ONE PIECEを「追い求めない」人々”にスポットを当て、彼らの視点から麦わらの一味の再集結を描いた『ONE PIECE FAN LETTER』(原案・『ONE PIECE novel 麦わらストーリーズ』/大崎知仁著)が放送されました。
「何もかもが良すぎた」「ひと晩経っても心から離れない」と放送終了後よりファンの間ではすでに話題沸騰中の本エピソード。『ONE PIECE』という作品に心を奪われて約15年の筆者も例に漏れず、5回観て5回とも、あふれる感情を抑えられずしっかり大号泣してしまいました。
麦わらの一味に人生を変えられた名もなきモブキャラと、『ONE PIECE』という作品を愛する私たちの想いが重なるこの作品は、アニメ25周年という記念すべき日に届けられたファンへの贈り物と言っても過言ではない。そのくらいに心に響き、ワードチョイスも少々大袈裟になってしまうほど素晴らしかったこの『ONE PIECE FAN LETTER』。一度でも『ONE PIECE』という作品に魅せられたことがある人にはぜひ観てみてほしい。きっと琴線に触れるはず……!
そんな想いをこめて、『ONE PIECE FAN LETTER』の感想と魅力を語っていきたいと思います。
思わず唸る……!あの日の麦わらの一味と、名もなきモブファンが交錯する神脚本
『ONE PIECE FAN LETTER』の舞台となっているのは、『ONE PIECE』で2年後の麦わらの一味が再集結し、ついに魚人島へ向け出航したあの日のとても騒がしかったシャボンディ諸島。
この物語は、ナミのことが大好きな少女や、頂上戦争で見たルフィに心を動かされた海兵をはじめ、麦わらの一味メンバーに心酔する名もなきモブキャラ数名が中心となって展開していきます。
“名もなきモブキャラ”と前述した通り、彼らには名前がありません。この脚本のすごいところは、いつだって事件の中心にいる麦わらの一味と確かに同じ時間・同じ場所に人知れず存在していた何者でもないモブたちを同軸で描き出し、うまく交錯させているところ。
本作に登場するモブは、人生を変えられるほどの強烈な体験をして麦わらの一味に特別な感情を抱くようになった者もいれば、“推し活”をするように麦わらの一味の活躍を応援する者も、芸能人のゴシップ感覚でカジュアルに麦わらの一味を語る者もいます。それぞれ好きの度合いは違えど、ネームドキャラクターですらないモブの日常の中にも当たり前のように麦わらの一味が存在している、という事実に胸が熱くなります。これまで何度でも感じてきたはずのルフィたちのカリスマ性が、モブ視点を通すことによってさらに際立つ構図になっているのです。
そうはいっても、本来は麦わらの一味と直接交わる機会などないモブたち。強者ひしめくあの世界では名前すら与えられなかった、何者でもない彼らの何でもない日常が、麦わらの一味の再集結騒動に巻き込まれる形で一瞬にして特別なものになってゆく。その瞬間が、麦わらの一味にもらった希望を胸に秘めて確かにここまで生きてきたのだと証明するかのように、ドラマチックに描かれている点にもグッときます。
一方で、これだけ麦わらの一味が人生に影響を及ぼしていながら、モブ少女がウソップに、酒場の男たちがサンジに出会っても気づかない、というのも脚本の妙。当時の手配書はそれぞれそげキング・デュバル似の似顔絵。モブは素顔は知る由もないので、対面したとしても気づけないのが正しいんですよね。
同じように、ソウルキングファンの書店員も、チョッパー・ロビン・フランキーの姿を見ても反応なし。なぜなら、歌手のソウルキングが好きな彼女はその正体がブルックとはつゆ知らず、海賊に興味などないから。
そんな「麦わらの一味と直接関わりを持つことのないファン」のリアリティを演出しつつ、実は両者を出会わせ、会話までさせているというのも痺れる演出です。
え、自分か?モブたちのオタクムーブに共感の嵐
麦わらの一味にキャッキャと盛り上がるモブたちを眺めていると、まるで『ONE PIECE』に夢中になる自分を見ているかのような気持ちにさせられるところも、この作品の面白いポイント。
モブ少女を例に挙げると、彼女はナミが好きすぎるがゆえに麦わらの一味の研究を重ね「3D2Y」の意味にまでたどり着きます。が、深読みに深読みを重ねた結果、思考があらぬ方向へ着地。その様子は、まるで最新話の考察に熱を上げすぎていわゆる“トンデモ”考察をしてしまう『ONE PIECE』読者のよう……。でも、それだけ深く考えを巡らせられるのはやはり愛があってこそ。
また、まわりの海兵に恐れられるほど威厳のある海軍将校でありながら、実は引き出しにチョッパーの写真を隠し持っているモブの様子は完全なる『ONE PIECE』オタクのそれ。仕事の合間に推しの姿を見て目をハートにする流れには親近感すら湧いてきます。
共感が止まらないモブから麦わらの一味への愛の形を目の当たりした後に、さらに畳み掛けてくるのはモブ少女からナミへの「人生を変えてくれた」「あなたは私の希望です」「どうか、これからも素敵な冒険を続けてください」という切実な想いが募る言葉。『ONE PIECE』という作品にどれだけ人生を彩ってもらっているのか、胸が苦しくなるほどに実感するシーンでした。
『ONE PIECE』ファンだからこそできる追体験。改めて感じるルフィたちの圧倒的な輝きとパワーに心が震える
そんな『ONE PIECE』ファンの代弁者のようなモブ視点を通して見る麦わらの一味は、いつも以上にかっこいい……! それをこれでもかというほど感じられるのがラストシーン。
ルフィの号令が海に響き渡った時、モブ少女の目に映ったのは、きらめく波しぶきの間に覗く弾ける笑顔のナミたちでした。
モブ視点から見る、新たな冒険へ漕ぎ出す瞬間の麦わらの一味は心の底から楽しそうで、あまりにもキラキラと輝いていて、パワフルで……。思わず涙があふれてしまうような、きっとあれを目の当たりにしたなら間違いなく走馬灯のワンシーンになると確信するような、とてつもなく美しい描写でした。
いつか会いたいと憧れ続けた人。ようやく一目見れたけれど、気持ちを直接伝えることは叶わない。それでも手の届かない場所から、いつでも麦わらの一味の活躍と最高の航海を願い続けている……。
そんな熱い想いをモブを通して追体験しているような気持ちにさせられる優しい物語の締めくくりが、モブどころか画面外の私たちをも包み込んでくれるよう。そして一番最後の「出航だ〜!」というルフィの声に思わず応えてしまうモブ少女の拳もまた、ルフィの一声に何度も心を躍らせてきた私たち『ONE PIECE』ファンの姿と重なるのです。
ちなみに、本作ではエンディング主題歌として麦わらの一味がカバーする「ウィーゴー!」が聴けるのも見どころ。麦わらの一味による主題歌カバーは「ウィーアー!」以来となります。25年目の麦わらの一味の、これまでより洗練された歌声は必聴ですよ。
これから先もルフィたちの冒険を、夢の果てへたどり着くまでの航海を、あのモブたちのようにこっそりと見守らせてほしい。そんなファン心をそっと肯定してくれる濃密な25分を『ONE PIECE FAN LETTER』でぜひ体感してくださいね。
[文/まりも]
作品概要