音楽
楠木ともり 5th EP『吐露』インタビュー

楠木ともり 5th EP『吐露』インタビュー|ファンとの信頼感がある今だからこそ作り上げることができたEP

 

亀田誠治とハルカトミユキ、素晴らしいアレンジャーが名を連ねるカップリング

――そして「DOLL」ですが、皮肉たっぷりの曲になりました。かなり尖っていますけど、この曲は、何と言っても編曲が亀田誠治さんです。衝撃でした。

楠木:私も驚きました(笑)。この曲はアレンジをジャズっぽくしたくて、リファレンスを東京事変さんの曲にしていたんです。そうしたらレーベルの方が、お願いしてみますか?と言ってくださったんです。1stEPの頃から、いつかお願いしたい方として常にお名前はあがっていたんですけど、無理だと思っていたら、まさか直接お願いすることになって、本当に驚きました。

アレンジも、私の良さを引き出していただけるものでしたし、歌い方の方向性も提案してくださったんです。皆さんも御存知の通り、ものすごい方なので、こちらからは意見なんてできないと思っていたんです。というか、絶対に良いものになるけど、どんな良いものになるかはわからない、みたいなイメージですかね。でも、亀田さんは私のデモを聴いたあとに、どういう思いで書いたの?とか、どんな楽器を使いたい? 逆に使いたくない楽器は?とか、今までどんな風に作ってきていたのかまで聞いてくださって、すごく寄り添ってくださったんです。

 

 

――それは心強いですね。

楠木:しかも亀田さんの「こうしたほうがいいんじゃない」って、結構尖っているんですよ(笑)。もともとバンドサウンドジャキジャキでいくイメージだったから、私も声を張って歌うつもりだったけど、家で録ったデモがウィスパー気味だったんです。それはただ家で大声を出せなかったからなんですけど、それを気に入ってくださって、このままの歌い方でいくのはどう?と言ってくださったり。最初は、いやいやいやって思ったんですけど、実際プリプロで試すと、ウィスパーのほうが良いんですよね。

ミックスでも、リバーブがかなり効いていて、最初はかかり過ぎなのでは?と思って、リバーブを減らしたものも聴かせていただいたら、元のほうが良かったんですね。だから、こちらの要望を聞いてくださるんだけど、結果的には亀田さんの言う通りだったんです。これが先を見通す力なのかと思ったし、力を引き出す力がものすごいと思いました。受け止めてもくださるし、提案して導いてもくださる……しかもすごく優しいので、亀田さんの偉大さを感じるばかりでした。

――ちなみに、なぜジャズっぽい感じがいいなと思ったのですか?

楠木:皮肉っぽい歌詞で、「DOLL」というタイトルだから、人形が踊っているようなシーンがまず浮かんだんです。そうなるとワルツっぽいパートがあったらいいよなとか、ダークなカッコ良さがあって、人形によく合うのはジャズかなぁとか。そうなると、東京事変さんのような、変拍子もあってジャズっぽいところがあるサウンド感がいいなと思っていたら、亀田さんに頼むことになったので、それを亀田さんのスタジオに行って伝える感じでした。

――スタジオに! それは緊張しますね(笑)。

楠木:それはもう、面接で緊張している人みたいになっていました(笑)。でも、先程話したとおり、いろいろ聞いてくださったので、ドキドキはしたけど、すごく素敵な方という印象になりました。

 

 

――続く「NoTE」は、歌詞の内容的にもヘヴィなものでしたね。

楠木:いちばん救いのない曲なのかなと思います。この曲は、幼馴染と話していたあとにできた曲なんですけど、過去への引っ掛かりが大きなテーマなのかなと思っています。過去は過去だと割り切っているはずなのに、切り離すことができないことに対しての失望、過去に囚われてしまっているやるせない気持ち……、それによって未来への不安が漠然とある、みたいな感じというか。

――それが最後の〈生きる僕は死んでいく〉という歌詞にも表れているんですね。

楠木:私たちって、この気持ちを一生抱えていくんだろうなと思ったんです。うまいこと折り合いをつけたり、落とし込んでいったりすることはできても、なくなることがないこの気持ちを抱えながら、それとうまく付き合ったり、ぶつかりながら一生生きていくんだなと感じました。

でもこの曲でその気持ちを解決させたくなかった。変に希望を持った感じにしたくなかったんです。それは友達や自分に失礼な感じがして。解決することもなく軽くなることもない気持ちが、これからもずっと続いていく感じが出せたらいいなと思って、この言葉にしました。

 

 

――そういう曲のアレンジをお願いするならば、ハルカトミユキさんしかいないと?

楠木:自分のネガティブな気持ちとか暗い思い出に、人生で寄り添ってくれていたのがハルカトミユキさんの楽曲で、中学の頃、落ち込んだときはずっとハルカトミユキさんの曲を聴いていたので、お願いしたいと思いました。これだけ暗い歌詞を書いたら、ハルミユさんのサウンドが欲しくなってしまう感じだったんです。

今回直接お話しすることはできなかったんですけど、どういう曲なのか、どういうEPなのか、どんなサウンド感にしたいのかはお伝えして、何度かやり取りをしながら完成させていきました。

――届いたアレンジを聴いてみていかがでしたか?

楠木:想像を超えていました。ハルカトミユキさんは、映画っぽいキャッチーな曲も多いので、そういう感じになるのかなと思っていたんですけど、希望した以上のサウンドで。どう表現したらいいのかはわからないんですけど、平成初期の粗削り感、吐き出すようなロック……洗練されたものではない、気持ちをぶわ――っと出すロックサウンドだったんですよね。しかもそこにアコギが入ることで、私の好きなハルミユさんの温度感になっていて、アレンジからめっちゃ好きだなと思いました。

――アコギがいい味を出しているんですよね。

楠木:孤独感とか、そういうものを感じられて良いですよね。しかもそのあとの「最低だ、僕は。」に繋がる感じになっているのも良いところだと思っています。

 

 

バンドメンバーと弾き語りした「最低だ、僕は。」で見せた表現力

――EPのラストは「最低だ、僕は。」ですけど、最低だと思うところを羅列するような歌詞で、それをアコギに乗せて歌っているのがとても印象的でした。この曲は、一番最初にできた曲なんですよね?

楠木:EPを作るときにあった曲で、この曲があったから『吐露』のコンセプトになっていったんですけど、何がきっかけで書き始めたのかはまったく覚えていないんですよ。気づいたらデモになっていたんです。でも、きっと何かがあったんでしょうね(笑)。でなければこんな歌詞は書かないでしょうから。書き出して落ち着きたかったのかもしれないです。

――歌の中で、いちばん感情的になっていたのは、〈自分らしさを誰かに決めてもらって、最低だ撲は〉というところでしたけど、ここが大きかったのですか?

楠木:それも全然考えてはいなくて無意識で感情的に歌っていました。曲を作っている段階で、どこをピークに持ってくるのかは考えるんですけど、この曲は考えていなくて、歌っていたら、たまたまここになったという感じだったと思います。自分の知らない深層心理を見ている感じがして、ちょっと気持ち悪かったです(笑)。

ほかのインタビューで、アーティスト業において自分らしさをあえて決めないようにしていると話したことがあって、本当にそう思ってはいるんです。そのほうが曲も広がるし。でもそう思っている裏で、そこに納得がいっていない自分もいるんだなって歌詞を見て思いました。ただ、書いたときの記憶はないんですけどね(笑)。

 

 

――ギター1本で歌うアイデアは、どこからきたのですか?

楠木:弾き語りにする予定ではなかったんですけど、インディーズの頃の気持ちに立ち返るのであれば、インディーズで『Acoustic CD [bottled-up]』も出しているし、他の曲と被らないエッセンスを入れることもできるので、ギター1本が良いかもしれないと思いました。で、ギター1本でやるのであれば、ライブのバンドメンバーで、息もぴったりの菊池真義さんしかいないでしょう!となりました。なのでこの曲は、ふたりで同時に録っているんです。

――スタジオで一緒に録ったのですね。

楠木:違う部屋なんですけど、ガラス越しで見えるようにはなっていて、そこで「せーの」で録りました。最初にどちらもクリックを聞くパターンと、どちらも聞かないパターンを試したんですけど、聞くと臨場感が出ないし、聞かないと走るんですよ。やっぱり感情を込めれば込めるほど、前へ前へ行ってしまうんですね。悩んだ結果、菊池さんだけクリックを聞くというやり方に落ち着きました。しかも、どこか一部を差し替えたりもしていないんです。1曲まるまるいじらずに入れているので、すごくピリピリするというか、臨場感がある曲に仕上がったと思っています。

――ボーカルがエモーショナルになるところで、ちゃんとギターも寄り添う演奏になっていましたよね。感情面って、歌うときにはある程度コントロールしているのですか?

楠木:自分の感情をコントロールすることはできるけど、何度も録り直すと気持ちが慣れていってしまうから、5〜6回通して歌って、その中から選ぶ感じでした。菊池さんからは、思わず泣いちゃうくらいでもいいんじゃないかと言われていたんです。だから収録されているテイクは、涙が出るくらいまで引っ張り上げていたと思います。最初のほうは、感情の流れがある程度見えるようにアウトプットしていたんですけど、OKテイクは、ちょっと感情が見えないところもあるんですよね。うまく隠そうとしている感じがあって、それが生々しくていいなと思いました。すごくいいバランスを菊池さんに引き出していただけたと思っています。ただ、この曲はリリース日まで出さないので、どんな反応があるのか気になっています。「ともりちゃん自身のことじゃないといいな」って言ってくれている方もいたけど、「ごめーん!」って思いました(笑)。

 

 

――今回は『吐露』ですしね(笑)。そして、[初回生産限定盤]には、MVとリリックビデオが収録されています。リリックビデオは、またご自身でイラストレーターを探したのですか?

楠木:自分からリクエストさせていただきました。小物はこういうものがほしいとか、絵はこういう感じがいいとお願いしたんですけど、今回はどの曲も歌詞がメインなところがあるので、ちゃんと歌詞に気が行くようなテイストにしています。あと「最低だ、僕は。」の歌詞は、全部私の手書きです。〈最低だ僕は〉って繰り返し出てきますけど、コピペはしていません!(笑)。

――そして「風前の灯火」のMVと「吐露 Special Movie」が収録されています。Special Movieは、ドキュメンタリーでしたね。

楠木:MVを撮ってくださった市川監督にそのまま録っていただいたんですけど、すごく良いものになったと思います!私が市川監督の考えた質問に答える形式になっているんですけど、質問が難しくて難しくて(笑)。こんなこと考えたこともなかったよ!というようなことまで聞いていただいたので、今までの楠木ともりのインタビューやライナーノーツに触れられていないところまで、聞き出されたような気はしています。

――わりと楠木ともりが、どんな人間なのかがわかる仕上がりになっていましたね。

楠木:だから今となっては恥ずかしいです(笑)。でも「吐露 Special Movie」を見てから楽曲を聴くと、印象も変わるのかなと思います。

部屋のシーンと海のシーンがあるんですけど、部屋のシーンでは監督に「全然目が合わないね」って言われたんです。でも海では頑張って見ようとしているんですね。最後にスーツで話しているところはその中間のような感じで冷静なところもあって。外面と内面、そしてその中間と、それぞれが見たことのある私の顔だな〜と思いつつ、こんなに差があるんだなと思いました。

 

 

――どの表情も結局は楠木さんだなと思いましたし、そのギャップが人としての魅力になるのかなと思いました。あと[フォトブック盤]のフォトブックは、フィルム写真なんですよね。

楠木:そうなんです。今回はフィルムカメラで撮っていただいたんですけど、肉眼で見るよりも発色がすごくて、青のインパクトがありました。こんな風に海って見えるんだ!と思ったし、部屋も温かみがあるんですよね。フィルム写真は、撮られる前後のイメージが浮かんでくるから温度感があるんだなと思いました。増田彩来さんという写真家なんですけど、ジャケット撮影で女性は初めてだったんです。言語化するのは難しいんですけど、これは女性ならではの視点なのかも?っていうカットがいくつもあって、それがすごく新鮮でした。ジャケットもナチュラルな感じで、いつもと何か違う感じだけど、これもいいなぁって思いました。だからフォトブックも見てほしいです。今回もめっちゃいいと思います!

――そして毎年恒例のバースデーライブ『TOMORI KUSUNOKI BIRTHDAY LIVE 2024 -灯路-』が、12月22日(日)に横浜BUNTAIで開催されます。どんなライブになりそうですか?

楠木:バースデーライブなのに暗い曲ばかりでどうしましょうと思っていたんですけど、ちょうどセットリストが組み終わったんです! セトリにしてみると、暗いというより、吐露というコンセプト通り、気持ちを吐き出して誰かにぶつけたい、伝えたい!という思いが色濃く出たセトリになったのではないかなと思っています。かと言って、バースデーライブの温かい雰囲気はなくなっていないと思うので、今まで応援してくださっている方はもちろん、久々の方も初めての方も、遊びに来てくれたら嬉しいです。

 
[文&写真・塚越淳一]

 

「吐露」CD情報

 
【発売日】2024年11月6日
【価格】
初回生産限定盤:4,400円(税込)
フォトブック盤:2,750円(税込)
通常盤:1,650円(税込)

収録内容

≪CD≫
01. 風前の灯火 (作詞・作曲:楠木ともり 編曲:重永亮介)
02. DOLL (作詞・作曲:楠木ともり 編曲:亀田誠治)
03. NoTE (作詞・作曲:楠木ともり 編曲:ハルカトミユキ)
04. 最低だ、僕は。 (作詞・作曲:楠木ともり 編曲:菊池真義)
05. 風前の灯火-Instrumental-
06. DOLL -Instrumental-
07. NoTE -Instrumental-
08. 最低だ、僕は。-Instrumental-

≪Blu-ray≫※初回生産限定盤のみ
01. 風前の灯火 -Music Video-
02. DOLL -Lyric Video-
03. NoTE -Lyric Video-
04. 最低だ、僕は。-Lyric Video-
05. 吐露 Special Movie

 

特典

■アニメイト特典:ミニフォト
※特典は無くなり次第、終了とさせて頂きます。ご了承下さい。

 
■封入特典:ともりマーク1枚 ※全形態共通
※施策の詳細は公式サイトにてご確認ください。
※メーカー様にてお取り扱い終了次第、封入終了となります。ご了承ください。
※応募ご希望のお客様は、お受取日時にご注意いただきますようお願い致します。
※発売日当日までにお受け取りいただけないご注文の場合、イベントやキャンペーンの応募締め切りに間に合わない場合がございます。予めご了承の上、ご注文をご検討下さい。

■封入特典:『TOMORI KUSUNOKI BIRTHDAY LIVE 2024 -灯路-』のCD封入先行申し込み用のシリアルコード
抽選受付期間:11月5日(火)0:00~11月17日(日)23:59
※施策の詳細は公式サイトにてご確認ください。
※メーカー様にてお取り扱い終了次第、封入終了となります。ご了承ください。
※応募ご希望のお客様は、お受取日時にご注意いただきますようお願い致します。
※発売日当日までにお受け取りいただけないご注文の場合、イベントやキャンペーンの応募締め切りに間に合わない場合がございます。予めご了承の上、ご注文をご検討下さい。

 

ライブBlu-ray「TOMORI KUSUNOKI BIRTHDAY LIVE 2023『back to back』」情報

 
【発売日】2024年11月6日
【価格】
初回仕様限定盤(BD+Photobook+三方背スリーブ):8,800円(税込)
※初回仕様の在庫がなくなり次第、通常仕様に切り替わります。

≪収録内容≫
01. ハミダシモノ
02. 熾火
03. presence
04. StrangeX
05. もうひとくち
06. narrow
07. BONE ASH
08. バニラ
09. back to back
10. 僕の見る世界、君の見る世界
11. タルヒ
EN1. 眠れない/MIMiNARI feat.楠木ともり
EN2. よりみち
EN3. それを僕は強さと呼びたい

特典映像:BACK STAGE DOCUMENTARY

 

楠木ともり information

楠木ともり オフィシャルサイト
https://www.kusunokitomori.com/

楠木ともり オフィシャルX
https://x.com/tomori_kusunoki

楠木ともり オフィシャルTikTok
https://www.tiktok.com/@tomori.kusunoki_official

楠木ともり オフィシャルYouTube
https://www.youtube.com/channel/UCYU-61cZHXE0P48ZCxvs4cQ

 

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