音楽
男装アイドルユニット『xxLeCœur』ショート小説連載第3回

主×執事×男装の異色アイドルユニット『xxLeCœur(ルクール)』のキャラクター像に迫るショート小説連載【第3回:アメ】

~トラウマと解放~

主×執事×男装という異色の6人組アイドルユニット『xxLeCœur』が11月20日(水)、満を持して配信デビュー。Love it out loud(“好き”を恐れるな)をコンセプトに、現代社会で抑圧されがちな“本音”を音楽とパフォーマンスで体現する。

本連載で展開されるのは、それぞれのキャラクターが背負うトラウマを小説として綴った6つのオリジナルストーリー。第3回目の今回は、[執事]である“アメ”の物語をお届けする。

――――xxLeCœur。"真の心"の仰せのままに。

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第3回 [執事]アメ ~正しく咲けない花~

むせかえる花の香り。止まり木で羽根を休める鳥たち。揺れる木陰に遊ぶ陽だまり。少年少女たちの朗らかな歌声が響き渡る、平和の象徴のような庭。
その場にあまりにも見合わない日々を、今でも昨日のことのように思い出す。

「なぜ同じようにできないのですか!」
捨て猫が首根っこをつかまれるように、アメは庭に放り出された。シスターの鋭い視線に刺されないように反射的に目を逸らす。
「ご、ごめんなさい」
先ほどまでの天使のような歌声はぴたりと止み、代わりにクスクスと蔑みの笑いが室内から漏れてくる。
「この孤児院はキルイスで最も由緒正しく、侯爵家の方々からも多大な寄付を受けております。それに見合う人間を育成することが我々の務めであり、しっかりと応えるのがあなたがたの責務なのですよ。おわかりですか」
わかっている。痛いほどに。
アメはうなだれて、こちらとあちらで線を引かれるように閉まっていくドアの軋む音を聞いていた。

物心ついた時から人と同じように行動することが苦手だった。
注意力も散漫で、一つのことに徹しようとしてもどうしても意識が他に向いてしまう。孤児院での規則正しい生活や統制された動きに自身を当てはめるにも思うようにいかず、みんな当然のことのようにできているのになぜ、とアメ自身も苦心していた。
自分よりはるかに年下の子たちが何事においても自分より優秀で、シスターに愛でられ、引き取り手が見つかり去っていく。気づけば最年長になっていたアメだけがいつまでも出来損ないのままだった。
「その名前どおり、皆から愛される人にならなくてはね」
何度となく言われた嫌味も、今となってはひと吹きの風だ。
自分だってこんな大それた名前に釣り合うような人間とは思わない。誰が名づけたのかもわからない。自分を捨てた親のはずはまずないだろう、とアメはため息交じりに笑う。

叱られれば処罰としていつも外に締め出された。
吐息が白く舞う夜だろうと、陽も昇りきらない朝だろうと、雪だろうと雨だろうと炎天下だろうと。
そのたびにこの“平和の象徴のような庭”で息を殺し、群生しているアメジストセージの陰に隠れじっとしていた。
けれどその実、アメにとっては全く苦痛ではなかった。快適な部屋の中でみんなと同じことを粛々とこなしているより、この庭で一人、ヘンテコな動きをする虫や美しい鳥、四季折々の植物たちを観察しているほうがずっと楽しかったのだ。
アメは生まれつき器用な指先を使って、色とりどりの草花を摘んできては大人顔負けの細工の施された花かんむりを作った。そのときばかりは没頭でき、時間はいくらでも過ぎてくれた。

ある日、罰を受けたアメがいつものように庭で過ごしていると、最近入ってきたばかりの幼い少女がいじめっ子たちにからかわれて泣いていた。彼らはシスターの前では優等生として振る舞うので、今まで咎められたことがない。ちょっとした用事でシスターに呼ばれた彼らがそそくさと立ち去ったあと、泣き続けている彼女にアメは自作の花かんむりを手渡した。
「これ、くれるの?」
少女の顔がぱっと明るくなったかと思うと、次の瞬間、背後には険しい顔のシスターが立ちはだかっていた。その気配に怯えた少女が、桃色の美しい輪っかをぽとりと落とす。
「またあなたですか!」
あまりの剣幕に再び泣きじゃくる少女を脇へ押しやり、シスターは落ちた花かんむりを踏みつけて鼻を鳴らした。
「この場所で正しく咲けない花などいらないのです」

気づくといつものアメジストセージの群生の中でアメはうずくまっていた。
その小さな肩に何層もの紫がしなだれかかる。
“この場所で正しく咲けない花などいらないのです”
「ねえ、おまえは、この場所で正しく咲けてるの?」
そよそよと風が吹き、葉先が触れあい、そう問いかけているみたいだ。
「僕はね、間違いみたい」
「僕だって、そんなことずっとわかってる。どこか違う場所に行けるなら、僕だってそうしたい」
「それとも僕が正しく咲ける場所なんて、どこにもないのかな」
「捨てられたら、生きていちゃいけないのかな」
「ごちゃごちゃうるせーよ」
不意に誰かが言った。
紫の花穂から聞こえた気がした。
「え?」
「黙って聞いてれば女々しいんだよ」
アメは目を丸くして身を乗り出した。
「え、え」
「馬鹿みたいな顔してないで今決めろよ。生きてちゃいけないって言われたら死ぬのか? だったらすぐ死ねよ。俺もせいせいするし、あの婆だって願ったり叶ったりだろ」
「ぼ、僕……」
「僕はね、僕だって、僕、僕、僕、僕ってこじらせた駄々っ子か」
「そ、そんな言い方ないじゃん」
花穂の先端を恐る恐るつまる。
「間違ったまま咲いてみたら駄目なのかよ」
「え」
「このままだとおまえ、ああなるよ」
頭をつかまれるように首を向けると、踏みつけにされた先ほどの花かんむりが、泥にまみれて潰れていた。そこへ風が吹き抜け、一枚の薄汚れた花びらを弔うように運んでゆく。
「おまえはどうしたいの」
「え……?」
僕は。
僕は、ここで、このまま。
このまま……?
「このまま?」
「僕は……」

「あなた、一人で何をしているのですか」
振り向くと、顔を強張らせたシスターが、怯えるようにアメを凝視していた。

キルイス国、スラム。
白銀の月明かりの下で踊る少女の姿を、一人の少年が静かに眺めている。
しなやかに舞う彼女の足元に血溜まりができはじめ、つま先からゆっくりと染みこんでゆくように紅く染め上げてゆく。やがて彼女は動きを止め、にこりと微笑んだ。
「あなたなんて助けなければよかった」

<続>

リリース情報

xxLeCœur(ルクール)
デビュー・デジタルシングル「ボナペティ」

主×執事×男装という異色の6人組アイドルユニット『xxLeCœur(ルクール)』が11月20日(水)、満を持して配信デビュー。

楽曲は、起承転結のある日本らしい歌メロにどこか浮遊感、サイコ、ミステリアスなアプローチを織り交ぜ、北欧エレクトロをベースとしつつも今までにないダンスミュージック"Dark Dreamy"というジャンルを提唱していく。

圧倒的ビジュアルと男装の神秘性、そしてダークで耽美な唯一無二の世界観に、リスナーもきっと魅了されるはずだ。

★2024年11月20日(水)より各種配信サイトにて配信開始!
作詞:矢作綾加
作曲:高慶"CO-K"卓史/イワツボコーダイ/細見遼太郎
編曲:高慶"CO-K"卓史 /細見遼太郎

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(P) 2024 Frontier Works Inc.・K Dash Stage Co., Ltd
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