音楽
男装アイドルユニット『xxLeCœur』ショート小説連載第2回

主×執事×男装の異色アイドルユニット『xxLeCœur(ルクール)』のキャラクター像に迫るショート小説連載【第2回:リアム】

~トラウマと解放~

主×執事×男装という異色の6人組アイドルユニット『xxLeCœur』が11月20日(水)、満を持して配信デビュー。Love it out loud(“好き”を恐れるな)をコンセプトに、現代社会で抑圧されがちな“本音”を音楽とパフォーマンスで体現する。

本連載で展開されるのは、それぞれのキャラクターが背負うトラウマを小説として綴った6つのオリジナルストーリー。第2回目の今回は、[執事]である“リアム”の物語をお届けする。

――――xxLeCœur。“真の心”の仰せのままに。

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~トラウマと解放~主×執事×男装という異色の6人組アイドルユニット『xxLeCœur』が11月20日(水)、満を持して配信デビュー。Loveitoutloud(“好き”を恐れるな)をコンセプトに、現代社会で抑圧されがちな“本音”を音楽とパフォーマンスで体現する。本連載で展開されるのは、それぞれのキャラクターが背負うトラウマを小説として綴った6つのオリジナルストーリー。第1回目の今回は本ユニットのキーパーソン、[主]である“ルカ”の物語をお届けする。――――xxLeCœur。“真の心”の仰せのままに。『xxLeCœur(ルクール)』コンセプトストーリーはこちら第1回 [主]ルカ ~悪魔の子~燃え盛る炎が漆黒の夜空に舞い上がり、目前の屋敷をみるみるうちに焼け崩してゆく。飛び散る火の粉が白い肌を針のように刺すのを気にも留めず、ルカは呆然と立ち尽くしていた。「ここはどこだ? なぜ、僕はこんなところに――」我に返り立ち去ろうとしたところで、消え入るような声がルカの背中を呼び止めた。“助けて”「誰かいるのか?」振り返ってもそこには人影一つない。ただ紅蓮の炎がごうごうと吠えているばかりだ。それなのに主のない声だけが少しずつこちらに近づき、大きくなってゆく。“助けて……助けて”その不気味さ...

第2回 [執事]リアム ~母さんだけの、いい子でいるよ~

鈍い衝撃が右の脇腹を突いて、リアムは地面に倒れ込んだ。
馬鹿にしたような笑い声が追い打ちをかけて耳元に届く。長い前髪のおかげで彼らの表情までは見えない。この時ばかりはこの忌まわしい髪にも感謝した。
「おまえなんかとボール蹴りなんかやるかよ。気色わりぃ」
「帰ってままごとでもしてろよ」
「リーアちゃーん」
甲高い声が、バタバタと地面を駆ける音とともに過ぎ去っていく。
起き上がると髪を結っていたゴムが切れて、腰ほどまでに伸びた髪がはらりとリアムの肩に落ちた。手のひらには血が滲んでいる。口紅みたいな赤だな、とリアムは自嘲気味に笑って、一点を睨みつけながら呟いた。
「僕は男だ」

家に帰ると母親が、捨て犬のように薄汚れた姿で戻ってきた息子を大げさに出迎えた。
「どうしたの、またそんなに泥まみれになって! それに怪我してるんじゃない?」
「大丈夫だよ、ちょっと友達とふざけてただけだって」
「お友達って?」
自分を嘲笑う顔をいくつか思い出し、リアムはきつく口を結んだ。
「母さんの知らない人だよ」
「とにかく手当しなくちゃ。こっちいらっしゃい」
「自分でできるって」
「そんなこと言わないの! ママの言うこと聞いてちょうだい」
反論しかけて、リアムは諦めたように肩を落とした。
「ママの言うことをちゃんと聞いていれば、間違うことはないわ。これまでもそうだったじゃない。ね?」
「……そうだね」
丁寧な手当のあと、彼女は息子を鏡の前に座らせて、うっとりとその髪をとかす。いつもの子守唄を口ずさみながら。
「リア、リアちゃん。いい子。私だけの可愛い子」

数年後、リアムは同じ鏡の前に立っていた。
いまだ顔の半分を覆っている長い前髪を切ろうとハサミを持つ手は、今日も強く震えだす。
「リアちゃん。いい子。いい子ね」
脳内にこだまする母親の声を振り切るように、ハサミを床に叩きつけた。
仕事に出かける時、彼女はリアムのつま先から頭の上までさっと見て、寂しそうな笑みを浮かべた。
「あまりにも殺風景な服ね。それに後ろの短い髪も、首がまる見えであなたには合わないわ。前みたいに伸ばしたらいいのに」
リアムは曖昧に返事をして家を出た。

どこで間違ったのだろう。いつも思う。
リアムが幼い頃、恋人ができて家を出ていった父親と離婚したあと、彼女は何かを失ってしまった。いや、逆に、もともと持っていたものが露わになっただけなのかもしれない。かねてより女児が欲しかった母は、リアムが自分だけのものになってから、女の子として扱うことに異様な執着を見せるようになった。
女の子らしい習い事。女の子らしい立ち居振る舞い。よく手入れされた腰までの髪。フリルやリボンの洋服たち。母の好きな、真っ赤な口紅。
キリウスでも有数の商社勤めだった父親からは潤沢な養育費をもらっているはずなのに、リアムが彼女の意に反する物事をねだると、「お金がない」を言い訳に受け入れようとはしなかった。
「ママはすべてを犠牲にして、一人であなたの世話をしてきたのよ。もう私にはあなたしかいないんだから、言うことくらい聞いてちょうだい」
“私にはあなたしかいない”
この呪いの言葉はいとも簡単にリアムを縛り付けた。
尖ったナイフも研がなければその刃先は鈍くなってゆく。いつしかリアムは母親の人形になることに慣れきってしまっていた。自分の意志を殺し、自分の選択は誤りだと思い込み、母親に自分のすべてを献上すべきだと言い聞かせた。
それでも時々腹の底からふつふつと沸いてくる黒い衝動は、母親に向ける前に自分自身に突きつけた。いくつもの傷痕が、リアムの心と体に歪な穴を穿っていった。
やがて、さすがに年頃の青年を女児扱いするわけにもいかず、母の物理的な執着は少しずつ緩やかになっていった。その流れで職場のカフェの規定だからとようやく後ろ髪は切れたものの、母親から娘を見る眼差しを向けられるのが嫌で、今でも前髪は伸ばしたままだ。馬鹿みたいだ、と思いながら、毎夜ハサミを持つ右手は震えて止まない。
母から離れたい。母を手放したい。でも母を失う自分はあまりにも未知数で、もしかしたら手放せないでいるのは自分のほうなのか、と思うこともある。それに答えてくれる者は、この先現れないかもしれない。このままこうして、生きていくしかないのかもしれない。

仕事から家に帰ると、彼女は当時リアムが着ていたドレスやバレーシューズ、髪飾りなどを取り出して、鼻歌を口ずさみながら恍惚と眺めていた。
「何してるの」
「あら。リアちゃんおかえりなさい。見てこれ、懐かしいでしょう。あの頃のリアちゃんは本当に可愛くて、ママの理想だったわ」
「もういい加減にしろよ……」
母の自分を見る目には、今のリアム自身はまるで映っていないようだった。
「今じゃ随分大きくなっちゃったけど。あらやだ、もちろんそれは嬉しいのよ。だけどママにとってはずっと変わらないわ。ねえ、久しぶりにおそろいの口紅、塗ってみない?」
「いい加減にしろって!」
思わず声を荒げると、彼女はびくりと肩を震わせて、愕然とリアムの顔を凝視した。みるみる表情が歪んでいく。
「どうしたの、そんな言い方……。乱暴な男の子みたいに」
「僕は……!」
顔を覆って泣き崩れる彼女の姿に我に返り、リアムは口を噤んだ。
“僕は……”
「ごめん、母さん」
リアムは彼女の細い肩を抱きすくめ、昔よりだいぶ小さくなったその背中をさすった。
「僕が悪かった、間違ってたよ。許して、母さん」
リアムの両腕にくるまれながら、安心した彼女はやがて少女のように眠りに落ちてゆく。
「リアちゃんはいい子。ずっと私のいい子でいて」
そう、呪文のように繰り返しながら。
「うん、ずっと母さんだけの、いい子でいるよ」

キリウス国、クリウ市。
ランプの明かりが照らすテーブルの上に、紫色の造花が無造作に散らばっている。
棘のある声が、その静かな空間を突いて刺した。
「だから今日みたいな時は思いっきり言ってやんねーと駄目なんだよ。結局無駄に値切られたじゃねえか。こんな余ったしさあ」
頼りない声がそのあとを追いかける。
「い、いや、でもあれは仕方なかったよ……。変に強気に出て仕事なくなっちゃったら、ど、どうするのさ。君の悪い癖だよ」
「うっせーな。あちっ!いきなり熱い茶飲むんじゃねえよ!」
「ご、ごめんね。気を付けるよ……」
古びた床に映る人影は、一つしかない。

<続>

リリース情報

xxLeCœur(ルクール)
デビュー・デジタルシングル「ボナペティ」

主×執事×男装という異色の6人組アイドルユニット『xxLeCœur(ルクール)』が11月20日(水)、満を持して配信デビュー。

楽曲は、起承転結のある日本らしい歌メロにどこか浮遊感、サイコ、ミステリアスなアプローチを織り交ぜ、北欧エレクトロをベースとしつつも今までにないダンスミュージック“Dark Dreamy”というジャンルを提唱していく。

圧倒的ビジュアルと男装の神秘性、そしてダークで耽美な唯一無二の世界観に、リスナーもきっと魅了されるはずだ。

★2024年11月20日(水)より各種配信サイトにて配信開始!
作詞:矢作綾加
作曲:高慶"CO-K"卓史/イワツボコーダイ/細見遼太郎
編曲:高慶"CO-K"卓史/細見遼太郎

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(C)K Dash Stage Co., Ltd
(P) 2024 Frontier Works Inc.・K Dash Stage Co., Ltd
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