『キングダム』蒙恬（もうてん）とは？　ピンクでひらひら ＋ 戦場では気高い名将 !?　普段と戦場とのギャップが作中No.1の人気キャラクター！

実在の蒙恬

　
　
さて、ここまで『キングダム』の蒙恬を見てきましたが、今度は史実の蒙恬を見ていきましょう。
　

『史記』の蒙恬

中国 戦国時代のことを知ろうと思ったら、頼るべきは『史記』です。
　
『史記』は、前漢 武帝の時代に司馬遷が編纂した約53万字の紀伝体（年代順ではなく人物や国ごとに出来事をまとめた形式）ものです。武帝の時代というのは、前141年から前87年。つまり、秦が滅んでから100年ほどのちに書かれた歴史書ということになります。
　
『史記』で蒙恬は、「蒙恬列伝」という一章を設けられるほどの扱いを受けています。どんなことが書かれているのか、見てみましょう。
　

蒙恬の出世と活躍

〈始皇の七年に蒙驁が死んだ。驁の子を武といい、武の子が恬で、恬の弟を毅といった。恬ははじめ役人となり、訴訟や裁判の文章をつかさどっていた。（中略）
　
始皇の二十六年、蒙恬は家柄によって秦の将軍となり、斉を攻めて大いに破り、内史（京師を治める官）を拝命した。
　
秦が天下を統一したのち、蒙恬は命ぜられて三十万の大兵を率い、北に戎狄を逐うて河南（陝西省北方のオルドスの地方）を手に収め、長城を築き、地形を利用して険阻な城塞をつくった。（中略）
当時、蒙恬の威力は匈奴（北方の遊牧種族）を震駭させた。
　
始皇帝は非常に蒙氏を尊竉し、賢人として信任した〉
　
引用元：司馬遷『史記６　列伝二』筑摩書房、1995
　
ざっくり要約すると、“蒙恬ははじめ文官だったが、将軍に抜擢されて戦果を上げた。対匈奴戦で活躍して、万里の長城建設の嚆矢となった”といったところでしょうか。
　

悲劇的な最期

『史記』には、蒙恬の悲劇的な最期が詳しく描かれています。
以下、『史記』をもとにした概要です。
　
「始皇帝が、巡行の旅の途中で崩御。
　
巡行にお供していた、丞相（じょうしょう、大臣のトップ）の李斯（りし）と、中車府令（ちゅうしゃふれい、馬車を扱う役職、当時は将軍に次ぐほどの位だったという説と低い位だったという説の両方あり）の趙高（ちょうこう）が、次の皇帝を誰にするかを巡って始皇帝の遺体を横に策謀を巡らせます。
　
次の帝位は、始皇帝の長男である扶蘇（ふそ）が順当なのですが、扶蘇はこの時、蒙恬と共に北方の匈奴と向かい合う地にいて、咸陽（かんよう、首都）にはいません。
　
これをいいことに、趙高は自分をひいきにしてくれる始皇帝の末子 胡亥（こがい）を帝位につけることで、自らの出世を画策。李斯をその場の説得で仲間にし、蒙恬及び蒙家を亡き者にしようと謀ります。
　
北方にいる蒙恬と扶蘇は、まだ始皇帝が崩御したことを知りません。
そこで、趙高は、2人の罪をでっちあげた上で自害を命じる内容で、にせの始皇帝の手紙を作って、北方に届けさせます。蒙恬はこの手紙がにせものだと感じ取りますが、扶蘇は蒙恬の言葉をきかず、手紙を本物だと思い内容のとおりに自害。蒙恬は、急いで都に帰ります。
　
蒙恬は都で身の潔白を訴えます。しかし、趙高に操られている若き皇帝 胡亥は命を出すのです。蒙恬には自害を、弟 蒙毅には殺害をと。
　
始皇三十七年（紀元前210年）、蒙恬および蒙毅 死亡。
この後、蒙家の者は皆殺しにされたといいます」
　
『史記』のこの話を、丸ごと信じていいものか迷うところもありますが、蒙恬が始皇帝亡き後に政治的に貶められ死亡、蒙家のほとんどの者が殺されたことは史実と受け止めて問題ないようです。
2000年以上前の方の死ですが、現代の私たちをも悲しくさせる最期ですよね。