さまざまな表現、アイデアを取り入れ『モルカー』の世界がまた一歩広がった――『PUI PUI モルカー ザ・ムービー MOLMAX』まんきゅう監督インタビュー|この映画の制作は、20年近い監督人生の中で「一番ヤバかった」!?
モルモットが車になった「モルカー」がいる世界で巻き起こるできごとを愛らしく、時にシュールに描いて人気を博したストップモーションアニメ『PUI PUI モルカー』。
2弾に渡るTV放送を経て、待望の長編アニメ『PUI PUI モルカー ザ・ムービー MOLMAX』が2024年11月29日(金)より全国公開されます。
大量の野菜が必要だったり、移り気なことが課題に挙げられていたモルカー。そんな中、メニメニアイズカンパニーCEO(CV:相葉雅紀)が「AI(あい)モルカー」を発表。野菜もいらず、最適なルートを自動で走るAIモルカーは瞬く間に普及し、乗り換える人が急増します。
時を同じくして、謎の集団に追われているモルカーの“カノン”と“ポテト”を助けた凄腕ドライバー(CV:大塚明夫)は、自らが家族のように慕っていたモルカーのドッジがさらわれて、行方を捜しているという。話を聞いたポテトたちはドッジ捜しを手伝うことに……果たして、モルカーの世界で一体何が起きているのでしょうか……?
映画の公開を記念し、本作の監督を務めるまんきゅうさんにインタビューを実施! 20年近い監督人生の中で「一番ヤバかった」と断言するほどの制作エピソードや、作品の見どころなどをたっぷりと語っていただきました。
見里朝希さんの才能に衝撃を受けた『PUI PUI モルカー』
──『PUI PUI モルカー』シリーズをご覧になった印象や、魅力を感じた点をお聞かせください。
まんきゅう監督(以下、まんきゅう):放送が始まった頃、僕の周りでもめちゃめちゃ話題になっていました。僕も見てみたら、モルカーたちがすごくかわいいし、おもしろいし、世界観も作り込まれていて。自分も映像制作に携わる立場として、見里さん(※)という新たな才能に驚かされましたし、衝撃を受けたことを覚えています。
※:見里朝希さん。TV放送第一弾で原案・監督・脚本を担当、今作では原案・総監修を担当
──『PUI PUI モルカー』シリーズで取り入れられているストップモーションアニメ(静止している物体を1コマ毎に少しずつ動かして撮影し、連続で動いているように見せる手法のアニメーション)には、どのような印象をお持ちでしたか?
まんきゅう:普通はあまり使いたくないというか(笑)。すごく時間もかかりますし、セットを作るのも大変ですし。
でもある時に見里さんが「人形で作ると時間がかかるけど、羊毛フェルトだったらもう少し時間も予算も短縮できるのではないか」みたいなことを言っているインタビュー記事を見つけて、そういう発想力の柔軟さは才能の一つだと思うし、そのおかげで僕ら視聴者も新しい作品を観ることができたわけで。ストップモーションという昔からある手法を、彼の才能で新しくアレンジされているのかなと思いました。
──監督のオファーが来た時の感想をお聞かせください。
まんきゅう:見里さんが監督をやればいいのになと思いました(笑)。ただ元々モルカーも好きでしたし、見里さん自身にもすごく興味があったので「ぜひやらせてください」と。
──見里さんからは何かオーダーはあったのでしょうか?
まんきゅう:見里さんが手掛けたTV放送第一弾(2021年1月から全12話放送)くらい「ちょっとハチャメチャな感じで」と。あと「モルカーは車なんです」とおっしゃっていて。カーアクションをふんだんに用いた作品にしてほしいと言われました。言われた時は「なるほど」と思ったものの、参加したての頃はまだ“モルカー(という概念)”が体に入っていなかったので、「モルカーでカーアクションってどういうことだろう?」とか「?」がたくさんありました。それをひとつひとつ、チームのみんなと相談しながら解消していって、モルカーになっていった感じです。
監督たちのてんこ盛りのアイデアが、脚本・柿原優子さんの手腕で一つの物語に
──今回の映画のストーリーは、脚本の柿原優子さんとどのように作っていかれたのでしょうか?
まんきゅう:柿原さんはまとめるのがすごく上手なライターさんで。今回は僕と制作プロデューサーのモンスターズエッグの奈良岡(智哉)さんはじめスタッフ陣がやいのやいのと意見をいっぱい出して、それをストーリーとして破綻しないように、アイデアを出してきれいにまとめてくれたのが柿原さんです。
僕らのチームで一旦、プロットを作ったものを見里さんに投げて、見里さんから「ここはもうちょっとこうしたいです」というフィードバックをもらって。それを受けて僕らがまたブラッシュアップしたものを柿原さんが一生懸命整えてくださる、という繰り返しでお話を作っていきました。
──この映画にはいろいろな要素が入っているので、きっとまとめるのは大変だったと思います。
まんきゅう:大変だったと思います。みんなでいろいろ言って盛り上がるけど、「柿原さん、どうですか?」と尋ねると「それだと無理ですね」って(笑)。そう言いながらも「ココとココが気になっていて、ココを解消すればお話としてまとまるんじゃないでしょうか」と、ちょっと俯瞰(ふかん)で冷静に見て、ギリギリ破綻がないようにしてくださって。でもおとなしすぎると、モルカーのハチャメチャさが薄れてしまうので、そこはギリギリを攻めていきました。
──元々、モルカーの持つかわいらしさや愛らしさに加えて、冒険的なところはお子さんもワクワクすると思いますし、ちょっと昔の映画のオマージュがあったり、懐かしいギャグがあったりして。その上に社会風刺的な目線も入っていたりと、お子さんから大人まで楽しめるような映画になっていますね。
まんきゅう:それらの要素は見里さんが作った『モルカー』の中で、社会風刺やいろいろな映画のオマージュのネタがあったので、今回の映画の中でも全面的にやりたいよねと。劇場で公開するんだから映画のオマージュネタがたくさんあっても、みんなそんなに怒らないでしょって(笑)。「みんなのアイデアがめちゃめちゃ詰まっているな」と完成した映画を見て改めて思いました。
──親子で見ても楽しめるし、「どうせ子供向けでしょ?」と思っている大人の方も見てみるとその深さに驚き、思わず楽しんでしまうと思います。
まんきゅう:僕自身も子供向けの作品を演出する時は、「子供だましにならないようにしよう」と心がけていて。でもやりすぎてしまうと子供が見てくれないんですよね。子供って自分に向けられている作品をすごく敏感に感じ取っていて、TVが流れている時もEテレがパッと映ると興味津々で見るけど、大人向けのドラマになった途端にすっと見なくなるじゃないですか。自分たちに向けられているものかどうかを子供たちは瞬時に見分けるんですよね。
なので演出で気を付けないといけないのは、あまり攻めすぎると子供は見てくれないということです。音楽でも大人はカッコいい音楽のほうがしっくりくるけど、カッコよすぎると、子供は聴かなくなってしまう。だから今回も音色でかわいい音源を使ったり、色味やストーリー展開のテンポの良さなどは、「これは僕らのための作品だ」と(子供に)思ってもらえるように、バランス感を調整しながら、注意して演出しました。