いろいろな〈キミ〉を思い出しながら歌っていました――『“えがおのおくりもの”』発売記念 吉武千颯さん×馬瀬みさきさんスペシャル対談公開 新曲レコーディング後、思いの丈を語り合う
いちアーティスト・吉武千颯としての新曲になるように
──いつものレコーディングとは違う形にしたのは、何か意図があったのでしょうか?
井上:特に深い意図があったわけではないんですが、吉武さんのアーティストとしての一面をしっかり引き出すために、少しアーティスト寄りのレコーディングにしたんです。今回の新曲に関しては『プリキュア』の楽曲でありながらも、吉武さん自身のアーティストとしての曲でもあります。吉武さんの個性を最大限に生かせるように進めた感じですね。
実は、『プリキュアボーカルベストBOX 2018-2023』に収録の「DANZEN!ふたりはプリキュア ~20th Anniversary~ Precure Singers Edition」も、こういった形で歌手一人ひとりのカバーを録っていたんですね。
──へえ!
井上:その人それぞれのカラーを出すには、僕のディレクションを事前に伝えるよりかは、本人から出てくるものをまずは受け止めたいなと思っていたんです。それで今回は、フルサイズで歌ってもらって、吉武さん自身の感情や表現を最大限に引き出すことを優先しました。
──井上さんからは「感情の流れを大切に」というディレクションが多かったように感じました。いつも感情面にフィーチャーしたディレクションをされているのでしょうか?
井上:今回に関しては、という感じですね。普段から感情の流れは意識していますが、今回は吉武さんがご自身で作詞をされたということで、一つひとつの言葉に対する思い入れにより強いものを感じていたんです。そのため、曲全体の感情が自然につながるように、あえて感情の流れを重視したディレクションを行いました。吉武さんの思いが言葉に宿っているからこそ、それを曲全体にどう広げるかが重要だったと思います。
──私が到着したタイミングで、吉武さんが途中で歌えなくなってしまった場面だったようなのですが……ブースの中で何が起こっていたのでしょうか。
吉武:えっと……話が制作時期に遡るのですが、今回、新曲「ユメ♡pallet」「“えがおのおくりもの”」の歌詞を書かせていただいていて、馬瀬さんがどちらの曲も作曲・編曲をしてくださっていて、どちらの曲も先にメロディーをいただき、そこから歌詞を書いていくという流れでした。
まずは「“えがおのおくりもの”」から作詞に入ったんです。井上さんからのメモ書きもいただき、それを見つつ、想いを綴っていったんですけども……そもそも最初にいただいたメロディーを聞いた瞬間にも感情があふれてしまっていて、1回泣いてしまったんです。
馬瀬:(笑)
吉武:それほど心にじ〜んと響く、馬瀬さんならではのメロディーでした。そのメロディーを受け、プリキュアのみんな、プリキュアシンガーの仲間たちとスタッフの皆さん、小さなお友だちも大きなお友だちも……プリキュアたちに関わっているみんなへの想いを具体的に書いていきました。
『プリキュア』に出逢えて見つけたことってたくさんあるんですよね。楽曲を通して、自分の知らなかった扉をたくさん開けてもらったような感覚がいつもあります。特に〈キミと出逢えたから 見つけた夢 紡ぐ想い〉ってところは自分の中で涙腺がゆるみやすいところで。今日もこれまでのことを考えながら歌っていたので、自分の中で涙腺が崩壊してしまい、涙が止まらなくなり……歌えなくなっちゃいました(笑)。
馬瀬:吉武さんが歌っている時に涙してしまうのは、周りの皆さんのことを思い浮かべているからなんだろうなって。それと、これまでいろいろなことを乗り越えてきた中で、自分だけにしか分からない、言葉にはしない苦労もあったと思うんです。それがすべてあふれ出た瞬間だったんじゃないかなと。その姿を見て、そして歌声を聴いて、私自身もあふれるものがありました。
私はアーティストではなく、作家の身ですけども、吉武さんと同じように感じているところがあるんです。『プリキュア』に携わらせていただく中で、自分の中で葛藤や成長があって。私は作家としてそれを噛み締めてきたので、吉武さんの歌声にグッときましたね。
──馬瀬さん自身の『プリキュア』との歩みも振り返りながら。
馬瀬:そうですね。お互いに成長させてもらってきたというか。まだ途中ではあるんですけども、今たどり着いた場所で、新しい楽曲を一緒に作ることができたことが本当に嬉しいです。それも相まって……私自身も感極まってしまいましたね。
──そのお話を聞きながら、私自身もうるっとくるものがあります。
馬瀬:終始、みんな声が震えてるという(笑)。
吉武:(笑)
出会ってきた皆さんたちへ、ありったけのありがとうを
──ここからは曲について、具体的にお話をうかがえたらと思います。今回は先に曲があったとのこと。まず馬瀬さんはどのようなイメージで曲を書かれていったのでしょうか。
馬瀬:井上さんからオーダーをいただいて書き出したんです。「ユメ♡pallet」に関しては、「幕開けの曲となるように」というくらいで、基本的にはお任せっていう感じでした。一方の「“えがおのおくりもの”」に関してはリファレンス的なものをいただいていて。また、「バラードでいきたいです」とうかがっていたので「吉武さんならこういうメロディーが良いかな……」と思いながら書いていきました。
──「ユメ♡pallet」に関してはお任せだったんですね。
馬瀬:はい。私の中で想像していたのは、吉武さんが大草原の中で両手を広げている姿で。
吉武:(笑)
馬瀬:その光景を遠くから引きで捉えているような、そういうイメージが思い浮かびました。吉武さんらしいポップな要素はもちろん大切にしつつ、吉武さん自身が誰も置いていかず、絶対にみんなで一緒に進もうとする温かさを曲に出したいなと思っていました。そういった部分を意識して……意識してっていうより、想像したら自然とメロディーが浮かんできたので、それを形にしていきました。
吉武:嬉しい……初めて聞いた!(笑)
──おふたりの間で曲に関するやりとりというのはなかったんですか?
馬瀬:ほとんどなかったんです。直接「どんな曲が良いですか?」とは聞かずに、自分が感じる吉武さんらしさを元に曲作りを進めていきました。歌詞を見たとき、どちらの曲も感動したのですが、特に「“えがおのおくりもの”」はあまりにも良くて感動してしまい、さすがに吉武さんに連絡してしましました。「歌詞を読みました、素晴らしすぎました」と。
──さきほど「“えがおのおくりもの”」の作詞についてお話していただきましたが、具体的にどのように進められていったんでしょうか。
吉武:実はめちゃくちゃ前から「作詞をするよ」と井上さんに言われていたんです。でも私自身もいつかはしたいと思っていて。馬瀬さんは「星座のチカラ」の作詞をしてくださっているので、会ったときに「どうやって作詞しているんですか?」とうかがったことがありました。
馬瀬:なんて言ったっけ? たぶん大したことは答えてないよね?(笑)
吉武:そんなことないです(笑)。
──それまでに言葉を書き留めていたんでしょうか。
吉武:書いていたものはあったのですが、メロディーをいただいた時点で「やっぱりイチから考えよう」という気持ちになって、新たに思い浮かんだものを綴っていったんです。
──初めての作詞経験ということで、緊張はありましたか?
吉武:めちゃくちゃ緊張しました。ほんっとに、分からなすぎて(苦笑)。直接言いにくい言葉も、歌を通してだと言えるなってずっと思っていたんです。でも自分の言葉で書くのはまったく違う感覚で、すごく難しかったです。
書いた歌詞はマネージャー経由で井上さんに送って、その後調整していったのですが……そもそも誰かに自分の言葉を見せるのが初めてで、それだけで躊躇してしまいました。未知の世界。改めて作家さんたちのすごさを実感しました。いつもいただいた言葉、音を大切にして歌唱していますけども、もっともっと大切に歌おうと思いましたね。
──調整というのは、書いた歌詞について井上さんがアドバイスをされていったのでしょうか。
井上:はい。ただ、アドバイスと言っても……吉武さんの好きな言葉がたくさん散りばめられていたので「ここはこうした方が、この言葉がもっと伝わりやすくなるかもしれない」といったアドバイスです。僕が少し俯瞰して見る立場として、全体を引き算しながらまとめるような形で進めたような感じですね。
そもそも今回の制作者のふたり(吉武さんと馬瀬さん)はとても仲が良く、年も近いので、ふたりだけでも十分素晴らしい作品が作れるとは思っていました。ただ、そこに僕が関わることで少し引いた視点を加えられたのではないかと考えています。
吉武:特に「“えがおのおくりもの”」はバラードだったこともあって、最初は重すぎるくらいに愛を綴ってしまったんです。途中で「これじゃ重すぎるかな?」と気づいて(笑)。『プリキュア』への愛と感謝を歌詞に込めていくうちに、激重な歌詞になってしまいました。
馬瀬:うんうん。でも仕方ない。
吉武:そこを引き算してもらって……。完成したものも、もちろん重みはあるかもしれませんが。
──「“えがおのおくりもの”」は日記やお手紙のような温かさを感じました。
吉武:そう言っていただけると嬉しいです。これまで歩んできた道のりや、その中で感じてきたことが少しでも聴いてくださる方に届けばいいなと思っています。そして、少しでも誰かの支えになれるような楽曲であればいいなって。
──「“えがおのおくりもの”」には「キミ」という言葉が散りばめられていますが、それぞれ違う意味合いが込められているように感じたんです。
吉武:そうなんです! 『プリキュア』シンガーの仲間たち、スタッフの皆さん、応援してくれる方々、それぞれの〈キミ〉があって。これまで出会った人たちにスポットを当てたいなと思って、いろいろな〈キミ〉を思い出しながら歌っていました。聴いてくださる方にもいろいろな受け取り方をしていただけたら嬉しいです。
──その〈キミ〉の中には、馬瀬さんが入っているんだろうなと思っていました。
吉武:はい、もちろんです。
馬瀬:本当ですか?
吉武:もう当然のように入っています(笑)。みんなへのありがとう、がたくさん入っていて。プリキュアシンガーに仲間入りをさせてもらって6年目になりますが、こうやって『プリキュア』の歌を歌わせていただいているって奇跡のようなものだと感じています。それは本当に馬瀬さんや井上さん、そして出会ってきた皆さんたちのおかげです。だからこそ、感謝の気持ちをたくさん込めた楽曲にしたいなと思っていました。