この記事をかいた人
- わたなべみきこ
- 出産を機にライターになる。『シャーマンキング』『鋼の錬金術師』『アイドリッシュセブン』と好きなジャンルは様々。
突然ですが、私はアニメや漫画の食事シーンにどうしても惹かれてしまいます。たとえその作品が、食や料理を題材にしたものでなかったとしても、キャラクターたちがおいしそうに料理を頬張る場面が強く印象に残ることが多いのです。
単に私が食いしん坊なだけと言ってしまえばそれまでですし、それも全く否定はできないのですが、「ジブリ飯」という言葉があるように、食事シーンにこだわっているアニメーション監督や漫画家も少なくはなく、そんな食事シーンを私と同じように魅力的だと感じているアニメ・漫画ファンもきっと多いはず。
そこで本稿では、アニメや漫画において“食事”がどんな意味を持つのか、何がそんなに我々を惹きつけるのか考えていきたいと思います。最後には特に好きな『3月のライオン』の中から実際やってみておいしかったレシピをご紹介していますので、ぜひ最後までチェックしてみてくださいね。
まず“食事”とは何かを考えていきたいと思います。大前提としてここでいう“食事”は、飲食店で出されるものよりも、主に家庭料理をはじめとするプライベートな食事を指します。つまり、個人が誰かのために作った料理のことです。それらが持つ意味について考えていきます。
“食事”は愛情が具現化されたものだと感じています。そのことを感じるもっとも有名なシーンは、ジブリ映画『千と千尋の神隠し』でハクが千尋におにぎりを食べさせるシーンではないでしょうか。
あのおにぎりはハクが千尋のために作ったもので、千尋が元気になるよう「まじないをかけた」とも言っています。両親が豚になって訳が分からないまま異世界で働くことになった千尋。不安と緊張で泣くことも忘れていた彼女は、おにぎりを食べて大粒の涙を流します。それは単に空腹だっただけでなく、おにぎりを介してハクの愛情を感じ、張りつめていた心がほどけたのだと私は感じてます。
1月20日(金)よる9時から「千と千尋の神隠し」🎬千尋さんが大粒の涙をこぼしながらおにぎりを食べるシーン…僕も一緒に泣いちゃいますぅー😭今週末はみんなで一緒に楽しみましょうーーー✨#kinro #千と千尋の神隠し #おにぎり pic.twitter.com/ZwojNsbZUy
— アンク@金曜ロードショー公式 (@kinro_ntv) January 17, 2017
また、『SPY×FAMILY』シーズン1「ヨル’sキッチン」も“食事”を愛だと感じるエピソードです。本話は、料理が苦手な妻・ヨルが家族に内緒で料理を習うというストーリー。殺人級にまずい料理を作ってしまう彼女が最終的に習得したのは、今は亡き母が幼い頃に作ってくれていたシチューでした。
初めは暗殺の仕事を続けるための偽装夫婦生活に支障が出るからと特訓を始めたヨルでしたが、自分の作ったシチューを食べて笑顔を見せる夫と娘の姿があまりにも嬉しく涙を流します。彼女が昔食べた母の味を覚えていたのは、紛れもなく母からの愛情を受け取っていたからであり、自分がもらった愛情を今度は母として家族に“食事”として渡しているのです。
個人が特定の誰かに向けて作る“食事”は、相手の好みや時には体調まで考えて時間と手間をかけて用意されたもの。“食事”の姿をした愛がキャラクターの心を動かす瞬間に、多くのファンが同じように心を動かされているのではないでしょうか。
2024年秋に放送されたアニメ『ダンダダン』。本作にもたくさんの食事シーンが描かれています。それを見て感じるのが、“食事”は居場所の象徴であるということ。主人公・モモの自宅には、人間や妖怪、宇宙人が来訪するのですが、モモの祖母・星子は来訪者に必ず食事を出してもてなすのです。
大人数でパーティのように食卓を囲むこともあれば、突然来た相手にハンバーグや焼きそばを振る舞うこともあり、そのメニューやボリュームは様々ですが、それらは全て同様にこの家に「貴方の居場所を用意した」ということだと私は考えています。初めて来た人でも出されたものを食べているうちに、食べながらモモや星子と話しているうちに、だんだん場に馴染んでいくからです。
“食事”と居場所の関係がわかりやすい作品として私は『3月のライオン』を挙げたいと思います。将棋漫画として有名な本作ですが、幼くして両親と妹を失った主人公・桐山零が近所に住む三姉妹との交流を通して居場所を作っていく物語でもあります。
引き取られた義父の家でも居場所がなかった零は高校生ながら家を出て一人暮らし。物語スタート時は無機質な部屋でカップ麵や菓子パンばかり食べていました。いくら食べても彼の心も胃袋も温かくなることはなく、心が冷え切っている零はまるで将棋のロボットのよう。
しかし、川本家の三姉妹と出会い、温かい料理が並ぶ食卓に招かれるようになってから、凍り付いていた彼の心は少しずつ溶けていきます。遠慮がちで人と関わることに苦手意識を感じていた零が川本家に行くことができたのは、いつも自分の分の“食事”が用意されていたからではないでしょうか。それは空腹だったからではなく、“食事”があることで自分の居場所を作ってくれていると感じたから。
三姉妹や祖父と何度もいっしょに食卓を囲むにつれて、固く無機質だった表情も柔らかいものとなり人間らしさを取り戻す零。温かい食卓で穏やかな笑顔を浮かべる姿は、彼がようやく安心できる居場所を見つけた証拠なのです。
“食事”は愛であり、居場所である──それらを感じたり手にしたりしたキャラクターの多くは、笑顔を浮かべていたり時には嬉しさのあまり涙を流していることさえあります。私が“食事”シーンに惹かれるのは、キャラクターたちの幸せな姿が見たいからなのだと思います。
寂しく冷え切った心と胃袋に温かい食事が入り、強張った表情がふっとほどける瞬間はどんな作品でも何度見てもいいものです。それはついこちらまで微笑みを浮かべてしまうほどに。きっと同じように感じている方もいらっしゃるはずです。
ここからは私が好きな“食事”シーンを3つご紹介していきます。様々な状況の下、おいしい食事で顔がほころぶキャラクターたちをぜひ見ていただきたいです。
川本家の次女・ひなたの高校受験に向けて勉強を見てあげることになった零。夜遅くまで必死に勉強に取り組むひなたの元に差し入れられたのは、姉・あかり特製の「甘やかしうどん」。お揚げと天ぷらが両方とも乗った鍋焼きうどんです。
亡き母が、あかりが受験勉強を頑張っているときに作ってくれたもので、あかりは自分が作ってもらって嬉しかったメニューを妹が受験の時に絶対作ろうと思っていたのだと言います。
数学の難問を前に眉間にしわを寄せていたひなたでしたが、温かくおいしいうどんで瞬く間に幸せな顔に。いっしょに食べた零もそのおいしさに驚いている様子です。リフレッシュしたひなたは、また真剣な顔付きで勉強を再開します。
そうして家族の応援を受けて臨んだ受験は見事第一志望合格! それをお祝いするシーンが描かれた88話(アニメ43話)も筆者お気に入りの食事シーンのひとつです。ぜひ併せてご覧ください。
敵との戦闘の後に仲間たちの楽しげな食事風景が描かれる『ダンダダン』。本作の中で一番私が好きな食事シーンは第119話の、地球の侵略を目論む宇宙人集団との激しいバトルを終えたモモたちが、モモの自宅の庭で賑やかに焼肉を囲んでいるところです。
私がこのシーンを好きな理由はそれぞれの個性が伝わってくるため。焼肉パーティの様子が見開きで描かれているのですが、この一枚の絵でそれぞれの人となりが感じられるのです。ずっと不在だった祖母に甘えるモモ、共に戦ってくれた宇宙人・シャコと楽しそうに話をしているオカルン、シャコの子供を可愛がるアイラ、何やらじゃれ合っている様子のジジと金太、黙々と肉を食べ続けるバモラ……
前話までが手に汗握る展開だったからこそ、各々が思い思いに食事を楽しむ姿にホッと胸を撫でおろしたファンも多いはず。特に、いつもは口が悪く悪態をつくことの多いアイラが、子供を可愛がっている姿にはとても癒されました。
アニメの第2期が2025年7月より放送予定の本作。こちらのシーンはアニメで描かれるのでしょうか。楽しみに待ちましょう!
最後にご紹介する食事シーンは『黒執事』から。本巻では、主人公であるシエル・ファントムハイヴ伯爵家に仕えるメイド・メイリンの経歴が明かされています。英国で孤児となったメイリンは、遠目が効く目と狙撃の腕を活かして仲間たちと盗みを働きながら何とか生き延びる日々を送っていました。
その後、その腕をチャイニーズマフィアに買われ、組織に言われるがままにターゲットの暗殺を淡々と実行するメイリン。非常に有能な人材にもかかわらず、彼女に十分な食事が与えられることはなく、それどころか任務中に与えられたパンにはカビが生えている始末。そんな中、彼女に与えられた次のミッションは「ファントムハイヴ伯爵の暗殺」でした。
しかし、暗殺は失敗に終わり、その身を拘束されてしまいます。殺されると思ったメイリンに持ち掛けられたのは「当家でメイド兼スナイパーとして働かないか」というまさかの提案。
予想外過ぎる展開に混乱するメイリンの前に出されたのは、温野菜と蒸し鶏のサラダとテールシチュー、焼きたてのカンパーニュでした。今まで嗅いだことがないくらいのいい匂いと暗殺のターゲットにもてなされている信じられない状況に呆気にとられるメイリン。促されるままにシチューにパンを浸して一口。すると、その温かさとおいしさから彼女は大粒の涙を零します。冷たいパンを食べるために宝石も命も奪い続けてきた彼女の人生の中で一番おいしい食事だったのです。食事で緊張が解かれたメイリンはファントムハイヴ家の使用人として雇用されることとなったのでした。
ここからは食べることが大好きな筆者が実際に作ってみておいしかったレシピを『3月のライオン』の中から3つご紹介! 年末年始のお休み中にぜひ作ってみてはいかがでしょうか。レシピは筆者の好みの味付けなので、お好みで調整してくださいね。
最初にご紹介するのは半熟卵です。8巻に掲載されているのですが、レシピというより絶対成功マニュアルという方が正しいかもしれません。サラダやカレー、おつまみとして……あらゆる料理に使える万能レシピです。私はよく味玉にしています。
【レシピ】
①冷蔵庫から出したてMサイズの卵を使う
②卵の底に小さい穴を開ける(画鋲などを使ってもOK)
③熱湯したお湯に入れ8分茹でる ※黄身が真ん中に来るよう最初の2分間くらいは箸などでコロコロ転がす
④茹で上がったら水に入れて冷ます ※余熱で固まってしまうのを防ぐため
次にご紹介するのは4巻に掲載されているオクラとブロッコリーのナムル風です。こちらは詳細なレシピが載っているわけではなく、それを食べた零の義姉・香子が「ゆでてゴマ油と塩…ナムル風か」と言っていたものを私なりに再現してみました。一味などをかけて食べるのもおすすめです。
【材料】ブロッコリー:ひと房/オクラ:1ネット(10本くらい)
【レシピ】
①そのままのオクラと一口大にカットしたブロッコリーをお好みの固さに茹でるorレンジにかける(筆者はオクラは2分ほど、ブロッコリーは3分ほど茹でるくらいが好きです)
②よく水けをきって、オクラは一口大にカット
③ごま油大さじ2、塩小さじ1/2、鶏がらスープの素大さじ1、すりごま大さじ1をあえる
最後にご紹介するのは忙しい人におすすめの作り置き「便利炒め」(16巻掲載)です。豚汁や野菜炒めなどを作るときに多めに具材を用意し、炒めるまでしたところで今日食べない分を小分けにしてストックするというもの。洗う、切る、炒めるという作業をショートカットでき、いろんなものにアレンジできるのでお休み中にストックしておいてはいかがでしょうか。
【材料】お好みの野菜や肉など
【レシピ】
①材料を食べやすいサイズにカット
②①を油で炒める(味付けはしないor塩コショウのみ)
③②を保存袋などに小分けにして冷凍する
【おすすめの調理方法】
*袋ラーメンを茹でるときに具材としていっしょに入れる
*お湯に便利炒めを入れて顆粒出汁と味噌を加えて具だくさんみそ汁にする
*そのまま解凍して醤油や焼肉のたれ、ドレッシングなど好きなたれをかけて食べる
おいしいものが人を幸せにするのは二次元でも三次元でもいっしょ。好きなキャラクターの幸せな表情は自分が食べていなくても、見るだけで幸せな気持ちになりますよね。2025年も好きなキャラクターたちの満腹顔がたくさん見られますように!
1990年生まれ、福岡県出身。小学生の頃『シャーマンキング』でオタクになり、以降『鋼の錬金術師』『今日からマ王!』『おおきく振りかぶって』などの作品と共に青春時代を過ごす。結婚・出産を機にライターとなり、現在はアプリゲーム『アイドリッシュセブン』を中心に様々な作品を楽しみつつ、面白い記事とは……?を考える日々。BUMP OF CHICKENとUNISON SQUARE GARDENの熱烈なファン。