映画
『野生の島のロズ』クリス・サンダース監督インタビュー

ロボットも動物も人間も、プログラムを超えて共に生きるーークリス・サンダース監督が『野生の島のロズ』に込めた想い【インタビュー】

ロズは"女性ロボット”なのか

ーーロズもツルッとしたソリッドなデザインですし、非常にピュアなキャラクターとして描かれています。

クリス:最終的にこのデザインを持ってきてくれたアーティストには本当に感謝をしています。原作である「野生のロボット」は、イラスト付きの書籍です。原作のロズはグラフィックの要素が強く、シンプルでシルエットがはっきりしている。だからこそ、アニメーションにする際にディテールをこだわる余地がありました。

今回のロズは口を描いていないんです。アニメーションとして動く必要があるので、原作そのままの2Dのデザインでは難しいですし、声優さんやアニメーターによる演技のことも考えなければいけない。

クリス:そこで歴代のロボットキャラクターたちについて考えてみました。『スター・ウォーズ』のR2-D2に口がありませんし、C-3POの口は動かない。『ウォーリー』にもないですね。『アイアン・ジャイアント』にはありますが、それは彼のキャラクター性に合ったデザインだから。ロボットのデザインにおいては、顔に無駄なパーツを付けないことが効果的だと分かりました。

口を描かないことによって声優さんへの負担は増えましたが、その分、最後まで飽きずに観られるようなロズの動きを丁寧に描けたと思います。

ーー母親的存在のお話もありましたが、ロズは女性ロボットとして作られているのでしょうか? それとも、ロボットの機能として女性的な声になっているのでしょうか?

クリス:ロズに性別を設定することはしていません。もちろん、ルピタ・ニョンゴさんをキャスティングしているので女性的な声にはなります。単純に「どんな声を出すロボットにしたいのか」と考えた時、落ち着きや安心感のある声にしたいと思いました。

また、サウンドデザイナーと話して、最新のコンピューターやロボットの音声がどのようなものなのかを聞いてみたんです。すると「なるべく人の声に近いものを目指している」と言われまして。人間の声が最先端なら、合成音声ソフトなどは使わずにルピタに演じてもらった方がいいなと。

ロズ自体の性質も物語を追うごとに変わっていきますよね。冒頭はいわゆるコンピューターデバイスらしい「元気を出して!」という妙に明るくてポジティブな雰囲気。お話が進むにつれて、人間に近い、感情がそのまま伝わるような落ち着いた声になっていきます。

誰もが「プログラムを超えること」を願って

ーー本作には、愛や感情の芽生えや疑似家族、そして異なる種族の共生など多くのテーマが込められています。この物語やテーマ性を通して、伝えたかったメッセージはどんなものでしょうか?

クリス:原作の時点で多くのテーマが込められていると思います。中でも映画で中心に添えたいと考えたのが、「プログラムを超える」ということ。プログラムというのは人間も動物も持っているものです。例えば、自分が身につけてきた慣習などはプログラムとして理解できると思います。しかし、何かを達成するためには、それを超えなければいけない。

この考え方が原作でも描かれているんです。ロズがそれを実行することによって、その考え方が動物たちにも広がり、他者に対してこれまでのプログラムとは違った振る舞いをするようになる。

ーーロズが島の生き物たちから刺激を受け、それを返すような展開になっていました。

クリス:ただ、ロズはそういう目的を持って島に乗り込んできた訳じゃないですよね。どうにかみんなを助けようと行動しているうちに、自然に超越が起きただけです。思わぬ形でプログラムを超えたロズをお手本として、動物たちが同じようなことをし始めます。

そもそもこの世界で、生き物たちが争ったり、捕食したりするのは彼らが悪人だからではない。チャッカリが言うように、生きるために利己的にならなければ、明日を生きられない世界なんです。だからこそ、この物語にヴィランはいません。ヴィランの役割に1番近いのはロズを回収しに来るロボットですが、そのロボットもプログラムに乗っ取って行動しているだけですから。

プログラムを超えた先には、きっと新たな可能性が広がっています。個人的にも、本作のそういったストーリーがとても好きです。

ーーロズとチャッカリの成長を見届けた方々が、自身のプログラムを超えることができたら素晴らしいですね。

クリス:島の生き物たちを代表する存在がチャッカリだと思います。彼は様々なダメージを抱えながら生きていて、それをずっと隠している。押しつぶされそうな、本当に辛い状況になった時ですら、チャッカリは「助けて」と言えない。

そんなチャッカリの姿には、多くの方が共感できると思います。私もそのひとりです。誰かに助けを求めるのは勇気がいることですから。ロズやチャッカリのように多くの人が勇気を得て、プログラムを超えられることを心から願っています。

[インタビュー/タイラ]

『野生の島のロズ』作品情報

2月7日(金)TOHOシネマズ 日比谷他全国ロードショー
配給:東宝東和、ギャガ

野生の島のロズ

あらすじ

プログラムを超えて 生きる。
心が芽生えたロボット、ロズと動物たちとの出会いが、壮大な<運命の冒険>へと導くー

無人島に漂着した最新型アシスト・ロボットのロズは、キツネのチャッカリとフクロネズミのピンクシッポの協力のもと、雁のひな鳥キラリを育てるうち、心が芽生えはじめる。ロズの優しさに触れ、怪物として彼女を拒絶していた動物たちも、次第に島の“家族”として受け入れていく。
いつしか島はロズにとっての“家”となっていくのだったー。
渡り鳥として巣立っていくキラリを見送り、動物たちと共に厳しい冬を越えた頃、回収ロボットが彼女を探しにやってくる。

果たして、築いてきた動物たちとの絆から引き裂かれようとするロズの運命は!?
島の存亡をかけたロズと動物たちの戦いが、いま始まろうとしていたー。

キャスト

ロズ:綾瀬はるか
チャッカリ:柄本佑
キラリ:鈴木福
ピンクシッポ:いとうまい子
クビナガ:千葉繁
ヴォントラ:種﨑敦美
パドラー:山本高広
サンダーボルト:滝知史
ソーン:田中美央
赤ちゃんキラリ:濱﨑司

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