
自分を見失わないために、みんなと対話する。キャスト陣も憧れる賢者の強さとは|『魔法使いの約束』田丸篤志さん・仲村水希さん・花守ゆみりさん最終回直前インタビュー
賢者は“考え続ける人”。キャストも憧れる彼女の強さとは
――賢者というキャラクターに対して、どんな印象がありますか?
仲村:やっぱり、晶(賢者)って素直な子なんですよ。演じていてすごく思ったんですけど、第1話でドラモンドたちがいろいろ話しかけてくるシーンや、ヒースクリフたちが真剣に語りかけてくれるシーンがありますよね。あの時、晶は「どっちが本音で私に話しているんだろう?」って冷静に見極めてるんです。最終的に魔法使いたちと一緒に行くことを選びますが、あれがあったからこそ、魔法使い側も少しずつ心を開いて、晶と友達になっていく流れが生まれたんだと思います。
もし、なんとなく流される形で魔法使いたちについて行っていたら、もっと関係性を築くのに時間がかかったんじゃないかなと思います。晶の素直さがあったからこそ、彼らとの距離が縮まっていったんじゃないかなと。
花守:もし晶が何も考えない人だったら、多分ドラモンドたちのほうについて行ったと思うんです。でも、ムルも言っていたように、晶は“考え続ける人”なんですよね。ドラモンドたちは、晶にとって都合のいいことしか言わない。でも魔法使いたちは、彼女にとって都合が悪いこともちゃんと伝えてくれる。どちらも情報を提示してくれるということは、魔法使いたちは嘘をつかずに本当のことを言ってくれるかもしれない。そう考えて、彼らについて行くことを選んだんだと思います。
仲村:あの素直さって、実はなかなか持てるものじゃないと思うんです。第9話のラストで、晶がオーエンに対して謝るシーンがありますよね。あれって、現実で同じようなシチュエーションになったら、なかなか素直に「ごめん」って言えないと思うんですよ。なんとなく言葉を濁してしまったり、気まずくなって距離ができちゃったりすることもあると思うんですけど、晶はそういう時でも真正面から「ごめんなさい」って言うんですよね。感動しちゃいました。
花守:ああやって、自分の心を限りなく相手にさらけ出して、ちゃんと本音で心を交わそうとするのが賢者様なんだなって思いました。
仲村:あのシーンを見た時、「あ、僕も心を開かないとな…」って思わされましたね。
花守:晶を演じていて、私も憧れました。彼女って、一番現実に近いキャラクターかと思いきや、実は絵本の主人公みたいな、理想も詰まっている存在なんですよね。「こういう人になれたらいいな」って、小さい頃に憧れるような。だからこそ、彼女の心が揺れるシーンには共感しつつも、時折見せる透明で強い部分に「壊れずにいてほしいな」って思うんです。そういうところが、プレイヤーの皆さんが彼女に惹かれる理由なのかなって。
仲村:彼女が迫られている選択って、「ゲームだから」とか「異世界だから」っていう特別なものではなくて、僕たちが生きている中で実際に起こり得る問題なんですよね。「ここは素直に謝ったほうがいいよな」とか、「今はちゃんと本音を伝えて、相手に助けを求めるべきだよな」とか。そういう選択を、美しいストーリーの中で提示してくれるんですよ。この作品、本当に道徳の教科書にしていいんじゃないかって思うくらいです(笑)。
田丸:何人か怖い人もいるからなあ(笑)。でも、改めて声がついたことで、賢者様のキャラクターの不思議さがより際立ったなって思います。彼女って、前に出て強く振る舞うわけでもなく、ずっと後ろで弱気になっているわけでもなく、すごくニュートラルな立ち位置にいるんですよね。
――絶妙な立ち位置です。
田丸:そうなんです。魔法使いたちは賢者様を頼りたくなるけど、彼女自身は時折、不安そうな姿も見せる。だからといって、決して押し付けがましく強く言葉をぶつけてくるわけではない。そこが本当に絶妙で、「印象が強すぎないけど、芯がある」という不思議なバランスのキャラクターになっているんですよね。
花守:主人公というより、「隣人」みたいな存在ですよね。
田丸:珍しいタイプの主人公ですよね。でも、賢者様には決断を下せる強さがあるんです。例えば、人間と魔法使いのどちらに付いていくかドラモンドに迫られた時だって、「分からないから決められない」って言う選択肢もあったはずなんですよ。でも、彼女はちゃんと考えて、自分で選ぶ。どんなに状況が分からなくても、最終的には自分で決める。その強さが、彼女の魅力なんだと思います。
賢者としての一歩を踏み出せたのは、アーサーやムルの言葉がきっかけ
――賢者を演じる花守さんにとって、アーサーやムルはどんなキャラクターでしたか?
花守:お二人がいてくれたからこそ、賢者としての成長ができたというか……。ホップ・ステップまで来て、あとはジャンプするだけ、みたいな状態になっているのが、今のアニメの段階だなって思います。
――なるほど。最初は突然異世界に放り込まれた状況でした。
花守:そうなんですよ。まったく知らない世界に突然やってきて、「あなたが救世主です」って言われて……。でも、アーサーやムルがいてくれたからこそ、賢者としての道を進んでいけるようになったんだなって、すごく実感しています。
目の前にいる相手の態度や言葉を頼りに判断しなければならない状況って、どちらを選んだとしても絶対的な自信は持てないし、不安がつきまとうと思うんです。だから、賢者様も「この人たちを信じよう」と決断した後も、不安は消えなかったと思うんですよ。でも、そんな中で「飛び込んだからこそ、もう一歩信じてみよう」と気持ちを一段上げたのが、やっぱりムルの「人生は旅さ!二度と出会えない素敵なものにあふれてる!」(第1話)っていう言葉だったと思います。
それでもやっぱり「お家に帰りたい」という気持ちは絶対にあったと思うんです。そんな中で、「あなたの力を貸してほしい」と言ってくれる人たちのために、一歩踏み出そうと決意した。そのきっかけになったのが、アーサーの「帰す方法を見つけ出したいと思っています。それまで、どうか……。私たちに力を貸していただけませんか」(第4話)という言葉だったんですよね。
――目線を合わせて伝えるアーサーの姿勢が印象的でした。
花守:はい。今は帰る手段がない。でも、彼らは自分の力を必要としてくれている。だったら、こんなに真摯に向き合ってくれる人たちのために、できることをしたい。そこが、賢者様の“使命”としての気持ちの芽生えだったんじゃないかなって思います。
――確かに、アーサーやムルがいなかったら、賢者様はもっと“ゲスト”のような立ち位置になっていたかもしれません。
花守:そう思います。でも、彼らの言葉によって「覚悟を決める」きっかけをもらった。それだけじゃなく、21人の個性豊かな魔法使いたちと関わっていく中で、彼女自身もどんどん彼らを愛おしく思うようになっていく。愛おしくなればなるほど、「彼らのために自分ができることは何だろう?」って考えるようになるんです。
でも、そうやって役割に固執しすぎたときに、オズから「名前を忘れるな」と言われる。この言葉が本当に大切なんですよね。賢者様はずっと“中間”にいる存在なんです。状況的にも、立場的にも。でも、大切な人たちが増えていくからこそ、「自分は何者なのか」という問いに向き合わざるを得なくなる。
――「自分を見失わない」というのは、賢者にとって大きなテーマのひとつです。
花守:自分を知るためには「誰かと話すこと」がすごく大切なんだと思います。だからこそ、彼女はずっと誰かと向き合っているんじゃないかなって。自分を忘れないために、皆と向き合う。皆を大切にすることで、自分も大切にできる。それが、彼女の存在の根幹なのかなって思っています。
仲村:深いなあ。
花守:彼女を演じている間、ずっと「自分を忘れない」って何だろう? って考えていました。でも、その答えは、誰かと対話することなんじゃないかって。『魔法使いの約束』のテーマのひとつとして“対話”があるんですが、それが彼女の軸にもなっているんですよね。考えれば考えるほど、この作品に心を掴まれて離れなくなるんです(笑)。
最終回は注目シーンの目白押し! オズの言葉の重みを感じてほしい
――最終回に向けて「ここを注目してほしい!」というポイントがあれば教えてください。
田丸:最終回近辺では、オズ様と賢者様の会話に注目してほしいです。オズ様って口数が多いわけじゃない分、一言一言の重みがすごくて。彼の言葉の深さがすごく際立つシーンがあるので、ぜひ見てほしいですね。ちょっと詳しく言うとネタバレになっちゃうので控えますが、あのシーンはとても印象に残っています。
仲村:それで言うと、魔法使いたちの関係性の変化も見どころですね。最初はそれぞれがバラバラで、チームとして機能していなかった部分もあるんですが、最終回に近づくにつれて、どんどん協力体制が整っていく。まさに「共に立ち向かう」姿が描かれているので、そこをぜひ注目してほしいです。
普段はムルって、花火を上げたり、人を驚かせたり、喜ばせたり…そういう“楽しい”魔法をよく使っているんですけど、珍しく戦っているシーンもあります(笑)。ムルが真剣に戦う姿って、あまり見たことがないと思うので、そこもぜひ見てほしいですね。
花守:本当に、お二人がおっしゃる通りで。魔法使いたち21人と賢者様を含めた22人が、同じ場所で一緒に戦うなんて、なかなか見られない光景ですよね。じゃあ、どうやったら皆が同じ方向に向かって歩き出せるのか? というのを考えていく中で、“トビカゲリ”という、魔法使いにとっても人間にとっても世界にとっても脅威となる存在が現れる。普段はバラバラだった彼らが、「この脅威を皆で力を合わせて取り除こう」とひとつの決断をしていく。その流れの中で、賢者様も“名前を忘れずに”一歩を踏み出すことができるんです。
――それが、賢者にとっての大きな成長の瞬間でもあるんですね。
花守:特に第12話には、賢者様が本当に「賢者」として歩み出す大切なシーンがあります。個人的には、さっきもお話に出たオズとの会話のシーンは、オーディションの時から「ここをちゃんと演じたい」と思いながら準備をしてきたシーンでした。今までゲームで物語を読んでくださった賢者様にも、今回アニメで初めて触れてくださった賢者様にも、勇気をもらえるようなシーンになっていたらいいなと思いながら演じました。どうか最後まで魔法使いたちのことを信じて、見守っていただけたら嬉しいです。
――本日は素敵なお話を聞かせてくださって、ありがとうございました!
[インタビュー/石橋悠 文/柴山夕日]
『魔法使いの約束』作品情報

あらすじ
風が強くて、猫が騒ぐ満月の夜。平凡な日常を送っていた真木晶が迷い込んだのは、
魔法使いと人間が共存する世界。
五つの国で形成されたその世界では、〈大いなる厄災〉と呼ばれる巨大な月が、年に一度、襲来する。
その月と戦い、押し返す使命を持つ『賢者の魔法使いたち』——彼らを束ねる『異世界からの賢者』として、晶はこの世界に召喚されたのだ。
月と戦い、世界を救うため。そしてそれ以上に、人間と魔法使いの架け橋となるために。
悠久の時を生き、自分の心に従い魔法を使う魔法使いたちに、寄り添い、心を繋ぐ努力をする晶。
「いつか、あなたと友人になれたなら」。
美しく恐ろしい壊れかけの世界で、魔法使いたちとの忘れがたい不思議な日々が始まる——。
キャスト
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