マンガ・ラノベ
「マンガ大賞2026」等、数々を受賞した漫画『本なら売るほど』の作品紹介

受賞続々! 話題沸騰中の児島 青(こじま あお)さんの漫画『本なら売るほど』の「ココがおもしろい!」を大いに語ります

「マンガ大賞2026」、「手塚治虫文化賞」マンガ大賞を受賞するなど、今大注目を集めている漫画『本なら売るほど』。本作は、漫画誌『ハルタ』に掲載されている児島 青(こじま あお)さんによる作品です。

このほかにも、「このマンガがすごい!2026」オトコ編や「『ダ・ヴィンチ』 BOOK OF THE YEAR 2025」コミックランキングなどで1位を獲得するなど、現在話題沸騰中の本作は、古本屋「十月堂」を舞台に、人と人、人と本との出会いや交流が丁寧に温かく描かれています。

2026年4月15日には第3巻が発売されたほか、ボイスコミック化もされた本作。まだ作品に触れたことのない方々にとっても気軽に本作を楽しめる機会となっていて、ますます注目度がアップしています!

読後は思わず自分も古本屋の扉を開けてみたくなる……! 

本稿では、自然にそんな気持ちにさせられてしまう『本なら売るほど』の魅力について、ご紹介していきます。

 

『本なら売るほど』ってどんな作品? 

まずは『本なら売るほど』の概要について紐解いていきましょう。

舞台は1軒の古本屋「十月堂」

タイトル通り、「本」にまつわるエピソードが描かれている本作の舞台は、個人経営の古本屋「十月堂」です。

個人が経営する古本屋といえば、なんとなく老舗なイメージを持つ方も多くいるかと思いますが、「十月堂」はまだまだ開店したばかりの新しいお店。若い世代が気軽に入店し、思わず写真に収めたくなるような、洗練された雰囲気もまとっているようです。

主人公となる店主は若い男性

個人経営の古本屋と言えば、気難しそうな老店主が店の奥でどっかりと座って老眼鏡で読書をしながら店番をしている……そんなイメージをついつい持ってしまいがちですが、「十月堂」の店主はまだまだ年若い男性。

自身もサラリーマン時代に古本屋通いをしていて、「行きつけだった古本屋のオヤジを見て呑気そうでいいな」と思ったのが開業のきっかけという、なんとも軽いノリで物語は始まります。

長髪を後ろでひとつに結うという、いかにも「脱サラ」ないでたちには、「気難しそう」な雰囲気は一切ありません。むしろ接客は「気さく」そのもの。そんな気軽なタッチも、本作の「親しみやすさ」につながっているように思えます。

 

物語はオムニバス形式

本作は1話1話が「読み切り」のような、いわゆる「オムニバス形式」で綴られていくのが特徴で、長い物語を読むのが苦手な方にも手に取りやすい作風です。

それぞれのエピソードでスポットが当たる人物は、「十月堂」を訪れた人だったり、本を売った人だったり。

「十月堂」を起点として、本に関わった人たちのそれぞれの人生や日常の一部分が鮮やかに切り取られ丁寧に描かれていくエピソードは、派手さはないけれどどこかほっこりと心が温かくなったり、共感を覚えるものばかりです。

 

「ココがおもしろい!」『本なら売るほど』の魅力を大解剖

概要を踏まえた上で、本作の魅力についてさらに深掘りをしていきたいと思います。

客は「本好き」だけじゃない、来店理由も十人十色

「本」を題材とした作品ということで、書籍に深い知識を持った人々が次々に登場する……かと思いきや! 「古本屋」という業態ゆえ、本に興味すら持っていない、ただの「買い取り希望」の客までも描かれる”正直さ”も本作のおもしろさのひとつです。

さすがに店主は「本好き」が高じて「十月堂」を開店した人物ですが、それでも店で扱う本の内容すべてを把握しているわけではない、という「未完成」さもあわせ持っています。

また客の中には、無類の本好きなのにいわゆる「積ん読(つんどく)」という未読の蔵書を多く抱える人まで登場するという、振り幅の広さ。

全員が完全無欠な「本好き」ではないという余白の大きさも、多くの人に共感されるゆえんであり、本作の魅力につながっていると思われます。

 

本の知識は無用!

本作では1つのエピソードに1作以上、実在する本が登場し紹介されていきます。それは「十月堂」に売られて来るものだったり、買われていくものだったり、はたまた来店客の要望に応じて店主が紹介したものだったり……。

ストーリーの中で取り上げられるそれらの「本」がどういったものなのかを実際に知らないと、本当の意味で本作を楽しめないのでは……!? そう思う方もいらっしゃるかもしれませんが、そんな心配は無用です。

筆者もそこそこ読書好きではありますが、年に何十冊何百冊も読むタイプではありません。当然作中で紹介される作品も、「知ってる!」と言える作品はわずかでした。

でも、知らなくても本作の解釈にはまったく問題はありませんでした。なぜなら取り扱われる作品やその背景については、登場人物たちがさらっと要点を教えてくれるから。読者に本の知識は必要とされていません。

とはいえ、知る人ぞ知る「青木まり子」現象のエピソードは、ある一定の世代以上の人にとっては思わずにやりとさせられるもの。そんなところもまたおもしろいのです。

 

古本屋や本との出会いを起点とした物語

そういった実在の本が登場する本作では、その本を手に取った人たちの「日常」が丁寧に描かれています。

たとえば、着物を自分流に着こなすのが大好きな女性が「十月堂」で手に取ったのは『半七捕物帳』。江戸時代に活躍した岡っ引き半七を主人公とした時代小説ですが、話の主軸として描かれているのは、その本を買った女性が病院で出会った、粋でいなせな和服のご婦人とのやりとりです。(第1巻収録「第5話 当世着倒気質」)

スポットの当たった本や「十月堂」と巡り会った人たちの、それぞれの日常の一部が切り取られ展開していく……それが『本なら売るほど』の大きな特徴なのです。

特段大きな事件が起こるわけではなく、あくまでも人と人、本と人との出会いがもたらす温かさが描かれていて、それこそが本作が多くの人に愛されるゆえんに思われます。

 

小説だけじゃない! 幅広いジャンルの本が登場

先ほどもご紹介したとおり、本作では実在の本が登場します。古本屋だからこそ、取り扱われる作品たちは小説が多いのかな、という印象を受ける方もいるでしょう。

もちろん小説も取り上げられていますが、それだけにとどまらず、マンガや雑誌などからエッセイ、さらには辞典まで! そのジャンルの幅広さまでもがとても楽しいポイントなのです。

たとえば、『大漢和辞典』をめぐるエピソード(第2巻に収録「第9話 本の海の漂流者」)。学生時代に言葉や漢字の成り立ちに興味を持っていた筆者は、ここに登場する青年が今の「雨」の古字について「ずっと絵画的でめっちゃ雨」と愛を語る表現にとても興味をそそられました。

「辞典」も当たり前に「本」の一種であり、そこに魅力を感じる人がいる──自分の中にはなかった「本」の楽しみ方を知ることができたのも、本作で描かれている「本」の多様さゆえなのです。

作中に登場する本は、どれもとても魅力的に紹介されていくので「おもしろそうだな」「気になるな」と思うものばかり。もしそれらの本を「読んでみたいな」と思えたのなら、あなたもすでに「十月堂」の顧客なのかもしれません。

 

店と本がつないで広がる多生の縁

先にご紹介したとおり、本作は本来1話1話が独立したオムニバス形式。・・・ではありますが、実は読み進めて行くうちに点と点がつながり線となり、人と人のご縁、本と人との出会いがどんどん広がりを見せてくるのも、本作の見どころになっています。

自己流に着物を楽しむ女性に「正しい着方」を勝手に押しつける女性が、のちに登場する本好き男性の妻であったり、「十月堂」を訪れたことのあるスランプ中の漫画家が思いつきで泊まったホテルで知り合うのがその夫婦だったり……

第3巻では、作者の児島さんが「第6話で読者の方から非常に嫌われ」たとインタビューで語っていたあの人物も再登場します。

「あ、この人また出て来た!」

そんな小さな数珠つながりを見つけるのも楽しい、それが本作なのです。

注目してほしい! 店主の○○

本作の内容とは少しはずれますが、筆者個人としてみなさんにぜひ注目していただきたいポイントがあります。それは「十月堂」の店主が着ている、ゆるい絵柄のTシャツ。

作品の世界観になんとなく溶け込んではいるものの、そこはかとないユニークさを感じる店主の服装。そこには「INU」や「KAREI」などの文字と絵柄とのミスマッチ(?)が存在しているのです。

そんなTシャツの柄はなんだかクセになる味わいがあり、ついついチェックしてしまいたくなること請け合いなのです!

元はリフォーム会社の営業マンだった店主、その営業で磨いたスキルと思われる気さくな接客と、長髪をひっつめに結っている「脱サラ」感もあって、一見チャラ男風にも思えますが、本好きならではな古本屋「あるある」に悩む一面も──

人とのつながりの温かさを感じる本作。「こんな古本屋があったら行ってみたいなぁ」と思わせてくれるのも、この店主ありきなのかもしれません。

 

最後に

ここまで『本なら売るほど』の内容についてご紹介して来ましたが、最後に作者の児島 青さんや本作の始まりについても触れてみましょう。

時期はコロナ禍、SNSにあげていた作品を見た編集者にスカウトされた児島さんは、2022年9月に漫画誌『ハルタ』に掲載された読み切り作品「キッサコ」でデビューしました。

この『本なら売るほど』の第1話にもなった「本を葬送(おく)る」も、実は当初は読み切り作品だったとのこと。この「本を葬送(おく)る」をきっかけに短期連載が始まり、ついに長期連載へと発展していきました。

第1巻の「あとがき」には、デビューし連載をすることになった児島さんの素直な本音が正直に綴られていて、そんなお人柄こそが「人の温かみ」あふれる本作を生み出した源であると感じました。

なお、本作の第2話「コーヒーにこんぺいとう」は、声優の石川界人さんと島本須美さんによるボイスコミック化もされています。この『本なら売るほど』がどういった作品なのか、気軽に触れられる機会になっているので、興味のある方はぜひご覧ください。

[文/おかもとみか]

2021夏から駆け出した新人ライター。大人になってから乙女ゲームに触れたことがきっかけで、男性声優さんに興味を持ち、本格的にアニメを見始めた文学部出身のオトナ女子。初めての乙女ゲームは『ときめきメモリアルGirl's Side(1st)』。作品などの聖地巡礼やコラボカフェも好き。ミドル層の男性声優さんやKiramuneレーベルについての記事を書くことが多いです。

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おかもとみか
2021夏デビューのオトナ女子新人ライター。ミドル層の男性声優さん関連記事を書くことが多いです。

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